♪〜♪〜
青空の下、一人の青年が山の中で音色を奏でていた。額に陽炎のような痣があり、耳には桃色の花と紫の蝶柄の耳飾りを付けた赤羽織の青年────
青年の名は織斑一夏、鬼殺隊・日柱にして、鬼殺隊最強の剣士────
最近出来た趣味は、ハーモニカ演奏である。
「♪~♪~」
隣では、紫の蝶の髪飾りを身につけており、蝶柄の羽織りを来た少女が、その奏でる音色に合わせて歌っていた。
彼女の名は胡蝶しのぶ、鬼殺隊・蟲柱にして一夏の恋人である。
一夏がハーモニカを買った当初は、蝶屋敷で療養している患者の迷惑にならない様に、山中で一人で吹いていた。彼が奏でる音色は信じられないくらいの綺麗なものであった、数日後に興味本位で彼の後をつけてきたしのぶが驚くほどに。
しばらくして、一夏はハーモニカを吹くのを止めると、同時にしのぶも歌うのをやめた。
「……しのぶ、歌うのが上手なんだな。正直驚いた」
「一夏のスマホの曲を聴いて偶に一人で歌うことがあったから、多分、それの影響かしら。それにしても、今奏でた音色は初めて聞いたわ」
しのぶは一夏と二人っきりの時は音楽や曲を一緒に聴く事がしばしばあった。しのぶは偶にその曲を鼻歌などで歌ったり、言葉に出して歌うこともある。
因みに煉獄家一同が気に入っているのは『炎』だ。何しろ炎柱の炎と同じ一文字で、瑠火さんに関しては、初めて聞いた時は涙を流していた。昔と今では歌も技術も上がっているため昔の人では何か込み上がってくるものがあるのだろう。
「今の曲は、ある流れ者の風来坊の人が奏でていた曲なんだ。その人の名前は聞けなかったんだが、何処か変わった人だったからな。印象に残ってる」
「風来坊って、何者なのよその人は?」
「俺にもよくわからない。謎だらけの人だったよ」
◇
『ふぅ、素振りはこんなものかな…』
一夏は現代にいた頃、秘密の特訓場所で、時間を費やすことが多かった。この場を知っているのは束くらいだったことを付け加えておく。
『日の呼吸……』
一夏は木刀を構え舞を始める。その太刀筋は幻視するほどの火を纏い、息を忘れる程綺麗で、その所作はあまりに美しかった。
そして辺りには動物が集まっており一夏の舞を見つめていた。そして無我夢中で舞を繰り広げる一夏に、誰かが近寄ってきた。
『大したもんだな』
『っ⁉︎』
一夏は舞を中断させ、声をした方へと木刀を構える。その場にいたのはハット帽と黒いジャケットを着こなした男性だった。しかも動物と戯れていた。
『(全く気づかなかった。何者だ…この人は)』
一夏は警戒する。一夏の気配察知は束がたとえこっそり近づいても気付くくらい並外れており、ある程度の距離であっても感知することができる。しかし、目の前の男性は一夏の気配察知をどうすり抜けたのか話しかけられるまで全く気づかなかった。
すると、一夏の心情を察してか、男性は懐から変わった形をしたハーモニカを取り出し、吹き始める。
♪〜♪〜♪
『………』
一夏はその奏でるメロディーに、警戒心が薄れ、構えていた木刀をおろした。
『(綺麗な……音色だ)』
一夏はいつの間にか、男性の奏でる音色に聴き入っていた。その音色はどこか物悲しい印象を受ける独特のメロディだった。
男性はしばらく吹いてから、演奏をやめた。
『落ち着いたか?』
『は、はい。すみません、とんだ失礼を』
『気にすんな』
『あの、あなたはどうしてここに?』
『俺は偶然流れ着いただけだ』
『そ、そうですか』
少しぶっきらぼうな対応に言葉が続かなかった。ふいに、男性は口を開く。
『お前は…その力を使って何がしたい?』
『え……?』
『もう一度言う。お前はその力で、何がしたい?』
『……正直、何をしたいかはわかりません……俺は一度、この力で相手を怪我させたことがあります。あの感覚が嫌になって剣道をやめて、独りで鍛えてる。正直、今自分が身につけてる力が…怖く感じます』
一夏は素直な気持ちを男性に伝えると、
『今はそれくらいがちょうどいいんじゃないのか?』
『ちょうど、いい?』
『人は誰しも、闇を抱いている。力を持つことはそれ相応の覚悟が必要だ。力を持つものとして、それが怖く感じるのは普通だろうよ』
男性にそう言われ、モヤモヤしていた何かが晴れた気がした
『そう、ですね。ありがとうございます。なんだか、心にあった靄が晴れた気がします。あの良ければあなたの名前を教えてくれませんか?』
『俺は流れ者の風来坊だ。どうせこの空は繋がってるんだ。またそのうちどっかで会えるだろう……あばよ……』
『えっ?ちょっ……』
すると辺りは強風に覆われ、一夏は目を瞑る。そして、再び目を開くと、男性の姿はなかった。
『い、いない。いったい何者だったんだ…あの人』
男性の謎が残ったまま、一夏はその場で呆然と突っ立ていることしかできなかった。
◇
あの時の人が何者かわからなかった。舞をしている最中、話しかけられるまで全く気づかなかった。只者では無いのは肌で感じてわかった。だけど、力を持つ者として何のために振るうのか考え始めるきっかけをくれた人でもあった。
脱線してしまった。話を戻そう。
「そういえば、偶にカナ姉が鼻歌歌ってるところを見たことがあった」
「カナヲはともかく、みんな鼻歌くらい歌うわよ」
カナエやカナヲ、アオイや三人娘達にも、一夏のスマホにある音楽も聴いている為、個人の気に入った曲もそれぞれある。
「そうか。さて…そろそろ屋敷に戻るよ。カナヲと稽古の約束もしているからな。それより、カナヲの修行は今どこまで進んでる?」
「今は全集中・常中を教えたところよ。カナヲは最初…一夏から日の呼吸を教えてもらっていたわね」
「そうだな。カナヲ自ら俺に指導して欲しいなんて言った時は驚いた」
竈門兄妹と出会う前、カナヲは自分の意思で「一夏兄さん…私に、剣を教えて!」と言ってきて俺は驚いた。あのカナヲが銅貨も使わず自分からせがんできたんだ。カナヲの目には覚悟が宿っていた。だから、俺はしのぶとカナ姉に報告した後、カナヲの指導を始めた。
指導しているうちにわかった事がある。カナヲは卓越した静止/動体視力を持っている。驚く事に、カナヲは全集中の呼吸を教えた途端、教えてもいない日の呼吸 壱ノ型・円舞を使った。
一夏は基礎的な事をカナヲに指導していたが、日の呼吸を本格的に教えると咳込みが酷く、熱も出し体調を崩す事が多かった。一夏は透き通る世界でカナヲの体を見たが日の呼吸はカナヲに合わないと判断し、カナエとの相談の上、今は一夏としのぶ二人でカナヲを指導している。形としては、カナヲはしのぶの継子となる。
カナヲは呼吸の中で花に適していると事が判明し、花の呼吸に関してはカナ姉からのアドバイスもあったが、説明が下手だった為、しのぶが教えた所…カナヲは半年で花の全ての型を習得した。カナヲは花以外に日の呼吸壱ノ型だけは使える。
しのぶは教えるのが一番上手だ。俺もこの時代に来た時には色々と助けられた。
「カナヲも何か心境に変化があったのかもしれないわ。最初の頃に比べると信じられないわよね……」
「ああ、カナヲは少しずつだが確実に自分の意思で物事を決められる様になってる。」
二人はカナヲの成長を見守って来たので、彼女の変化を嬉しく思っていのだ。そのまま二人は手を繋ぎ雑談を交えながら蝶屋敷へ戻って行く。
◇
蝶屋敷に帰還すると、しのぶは患者の薬の調合の為、作業場に戻り、一夏は道場に向かう。すると、道場内で物音がした。
顔を覗かせると、額に汗を滲ませ、カナヲが素振りをしていた。カナヲは一夏に気づき、素振りを止める
「……一夏兄さん。お帰りなさい」
カナヲは少し驚いた顔をしている。いきなり現れたからびっくりしたのだろう。
「ただいまカナヲ、悪いな…戻るのが遅くなって」
「ううん、大丈夫。一夏兄さんとしのぶ姉さん…最近忙しくて会えてないから……その」
カナヲは口籠る。どうやら俺達の事で気を使わせてしまった様だ。
「ありがとうな、カナヲ」
カナヲは一夏に頭を撫でられ、気持ちよさそうにしている。現在“ホワホワ”している状態だ。
「よし、早速鍛錬を始める。準備はできてるか?」
「うん、いつでも大丈夫」
一夏とカナヲは木刀を構える。
「………」
「………」
一夏は無となりカナヲに緊張が走る。カナヲはいつでも対応出来るよう神経を研ぎ澄ませる。
すると先手と言わんばかりか、カナヲは加速し鍔競り合いとなる。力量が伴えば、これだけで相手の強さが解ってしまうのだ。
「いい動きだ。」
一夏は誰かを指導した事がない為、基準はわからないが、現代の人達に比べてカナヲの力量は群を抜いていると感じた。しかしカナヲは頭を左右に揺らす。
「ううん……まだ、兄さんたちには程遠いよ」
「いや、カナヲはかなり筋が良い。見ただけで円舞を覚えたくらいなんだ。自信を持っていい」
しかし、元柱,現柱,準柱と比べてしまっては、カナヲがそう思ってしまっても仕方がないかもしれない。
そして、一夏とカナヲは無数の剣撃を打ち合う。しかし一夏は一歩もその場から動かず、カナヲの剣戟を捌いていく。刀を弾き、間合いを取ると、カナヲは深く呼吸を行い、型を繰り出す。一夏も透き通る世界でカナヲが繰り出す型を確認する。
「花の呼吸 陸ノ型・渦桃」
一夏はカナヲの剣を避け、宙で身体の天地を入れ替えながら呼吸を行う。
「(日の呼吸 漆ノ型・斜陽転身)」
これは水平に刀を振るう技である。相手の攻撃を躱しながらの鋭い一薙ぎを振るうのだ。
しかしカナヲはなんとか反応し一夏の木刀を受け止め、鍔競り合いになる。
――日の呼吸 陸ノ型・日暈の龍・頭舞い
一夏は刀を弾きその勢いで追撃し、龍を形どるように駆け巡りながら刀を振るう。
――花の呼吸 弐ノ型・御影梅
カナヲは周囲に自身を守る斬撃を放ち、一夏の斬撃を受け止めると、カンッ!!と、高い木製音が響き、一夏とカナヲは距離を取る。
「カナヲ、型を使っていく内に無駄な動きが多くなっている。鋭く、速く、そして体感を意識して剣技を繰り出すんだ」
「……は、はいっ!」
一夏とカナヲは道場の中を縦横無尽に動き、木刀の合わせ音を響かせる。
この攻防も、見る人が見れば高水準な剣技だが、一夏はカナヲに合わせどんどんペースを上げている。
「花の呼吸 伍ノ型・徒の勺薬」
「日の呼吸 玖ノ型・輝輝恩光」
カナヲが高速の九連撃を、動きを止めることが出来る部位に放つが、一夏は周囲に炎の斬撃を放ち、九連撃を受け流していく。
だが先程とは違い、カナヲの無駄な動きが無くなり、剣技には鋭さが増している。
「花の呼吸 漆ノ型・彼岸花!」
「ッ⁉︎」
一夏は透き通る世界でいち早くカナヲの型に対応し、距離を取る。
カナヲは一夏の中で見たこともない技を繰り出して来た。
「カナヲ……今の型は?」
一夏は表情に出てはいないが内心はかなり驚いていた。カナヲが技を放つ前に彼女の肺を見ると、今まで見たことのない呼吸をしていた為だ。
「この型は……しのぶ姉さんの型から参考にした技」
「そうか、驚いたな。まさか花の新しい型が見られるとは思わなかった」
「私も、何もできない自分は……嫌だから」
「そうか、成長したな……カナヲ」
カナヲの瞳は、出会った時は何も映していない瞳をしていた。しかし、今は光を宿しており、確かな意思があった。
「……ありがとう、一夏兄さん」
一夏の言葉に、カナヲは嬉しそうに頷いた。
「それから……まだやるか、カナヲ?」
そう一夏が言い、カナヲが構えた途端、カナヲの木刀の刀身が粉々に砕けてしまった。
「……木刀が」
「……続けるのは無理だな」
一夏はまた木刀を壊してしまった事を反省しながら、現在の時刻を確認する。どうやら約一時間、剣を交えていたようだ。
「今回はここまでにしよう」
「……うん、わかった」
お互いに一礼する。
「あの…兄さん、聞いてもいい?」
「ん、どうしたカナヲ?」
「今、花の新しい型を作っているんだけど、何か助言が欲しい」
「もう新しい型を開発してるのか……そうだな、因みにどんな技にするつもりだ?」
「抜刀術を使った技にしたいの。でも…中々上手くいかなくて、何か足りない気がするの」
「抜刀術か……確認するがカナヲ、お前は他の呼吸を併用した事はあるか?」
「え?えっと……ない」
「だったら花の呼吸に日の呼吸を織り交ぜてみたらどうだ?」
「日を……花に?」
「ああ、前に岩柱の悲鳴嶼さんと手合わせした際、円舞一閃を使ったら言われたんだ、『その型は雷を併用しているのか?』と。雷は見た事がなかったから自分で編み出したとしか言えなかったんだが、円舞を使えるカナヲなら可能なんじゃないかって思ったんだ。実際、俺も他の呼吸を併用した改の型が幾つかあるからな」
「……わかった。やってみる」
「ただし、あまり無茶はするなよ。日の呼吸は他の人が使うと負担が大きいから気を付けろ。いいな?」
カナヲは「うん」と返事する。あの時の一件から、日の呼吸はあまり使わない様にカナヲには言いつけている。
そしてその後、一夏はカナヲに抜刀術のいろはなどを教える。
療養していた患者が偶然目撃したが、傍から見ると二人は兄妹に見えたらしい。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一