日が暮れ、あたりは暗闇に包まれ始める。空は満月で、月明かりがあたりをてらし出す。そんな人気のない道を一夏は一人歩いていた。
ふと風が吹き、一夏の髪を揺らす。異質である陽炎模様の痣があらわになる。
「嫌な風だ……こういう風が吹く時に限ってあまりいい事はないな」
一夏は現代にいた時も、吹く風でどの様な日になるかわかっていた。一夏はそのまま暗い道中、足を進める。
「(もう、八年になるのか…)」
一夏がこの時代に来て八年目となる。一夏はすっかり年齢に相応しい見た目となっていた。身長は現在178はある。しかさ、両耳につけた紫色の蝶と、桃色の花柄の耳飾りは健在だ。
「緊急ゥー!!緊急ゥー!! 」
自身の鴉とはまた違った鎹鴉が一夏の頭の上に乗る。鴉はすごい息切れをしていて必死に飛んできた事が分かる。そんな鴉を一夏は両手で抱える。
「どうした、何があった?」
「那田蜘蛛山ニテ隊士達数名ガ襲ワレ死傷者多数!! 至急救援!救援!!」
「那田蜘蛛山か。分かった、お前はここで少し休んでろ。ブイ!」
「おうおう、呼んだかぁ、一夏ぁ?」
「さっきの伝令、聞いていたな?」
「もちのろんだぜぇ!先導するからついてきな!」
そう言って一夏は鴉を休める場所に置いたのちに、ブイの案内で那田蜘蛛山へと駆け出した。距離的には数刻も掛からないだろうがもう真夜中だ。一夏とブイは速度を一気に上げ、那田蜘蛛山に向かう。
◇
那田蜘蛛山に到着した後、ブイには待機してもらい、一夏は一人、山の中へと入っていった。その途端、凄まじい刺激臭が鼻を突く。
「(……酷い匂いだ、普通の人だと吐きかねないな)」
一夏は内心で呟き、生存者を捜索する為、木々に飛び移り山の中を駆け巡る。
跳んでいたら微かに人の気配を感じたが、それはぶら下げられた白い繭の中からだった。だが、死臭が混じっていることからして、全ての繭が手遅れだろう。
「すまない……どうか安らかに」
俺は心中で手を合わせ呟く。
「(他の隊士も来ていると言っていたな。十二鬼月がいる可能性を考えた方がいいか)」
俺は先を急ぐことにした。
森を走っていると、猪頭の鬼殺隊士が約二メートルを超える鬼に首を掴まれている所を発見する。
猪頭の鬼殺隊士は、口から鮮血を流していた。おそらく頭を潰されるのも時間の問題だろう。
俺は、即座に刀の柄に右掌を添えた。
「日の呼吸改・円舞一閃」
火の一閃が炸裂し、猪頭が掴まれていた腕を斬り落とす。
「グワアァァアッ!」
斬られた鬼が雄叫びを上げる中、地に落ちた猪頭の鬼殺隊士を透き通る世界で診てみると、喉に異常が見られた以外は特に問題もなく呼吸も安定していた。
「(日の呼吸 漆ノ型・斜陽転身)」
一夏は鬼の攻撃を回避しながら、我が身を天に捧げるかの如く跳び、宙で身体の天地を入れ替えながら水平に刀を振る。それは、相手の攻撃を躱しながらの鋭い一薙ぎとなる。
炎の斬撃を描き、鬼の体を一刀両断すると、鬼は力尽きたようで仰向けに倒れる。その時、起き上がった猪頭の少年が、俺に刀を突き付け言い放った。
「オレと戦え、赤羽織!」
「………え?」
思わず首を傾げてしまう。だが、猪頭の少年は話し始める。
「お前は、あの十二鬼月を倒した!そのお前を倒せば、オレの方が強い!」
「(見るからに、こいつは重傷だ。それにあんな大声を出して大丈夫なのか?)」
透き通る世界で確認したが、猪頭の少年は鬼に首を握り締められた際、喉に爆弾を抱えてしまっている為、いつ爆発してもおかしくない状態だ。
「(しかし、何故その結論に至ったんだ?あれが十二鬼月……なわけないか。瞳には数字が刻まれていなかったし)」
「オイ、聞いてんのか赤羽織!?」
「……傷が治ったら何時でも手合わせをしてやる。だから大人しくしてろ、いいな?」
一夏は拡張領域から紐を取り出し瞬時に猪頭の少年を縛り上げて木に吊るす。猪頭の少年はその早い動きを捉える事はおろか縛られた事さえ気づかなかった。
「(ななな、何だこれ?ハエー、こいつかなり速いぜ!)」
「後で隠を来させる。その状態で動かれると怪我が悪化するからな」
俺はそう呟いてから納刀し、この場を小走りで後にした。
「んだと!こんなもんどうってことねぇわ!つか、縄解け!オイ!オイ!!」
その後も猪頭の少年の声が山中に響き渡る。大人しくしろと言ってるのに……
鬼の気配がする方向に走っていたら、その先で刀を構え対峙している冨岡さんとしのぶの姿が映る。そして、冨岡さんが地に膝をつけていたのは
あの雪山で出会った炭治郎,禰豆子の竃門兄妹の姿だった。
「(なんで柱二人がここに?しかもこれはかなりまずい状況だな)」
俺は急停止して冨岡さんとしのぶの間に立つ。
「あら、一夏“さん”も来ていたんですね。丁度よかったわ。そこにいる冨岡さんが庇っているのは鬼なんですよ、手を貸してくれないかしら?」
「…………」
「一夏さん?」
「……ごめん、しのぶ」
一夏はしのぶに謝ると義勇の隣に立つ。
「……どう言うつもりです、一夏さん?なんで冨岡さんに加担するんですか?冨岡さんが庇っているのは鬼ですよ。『鬼殺の妨害』、この意味…わかってますよね?」
「ああ……わかってるさ」
「……なぜ庇うんですか」
俺がそう答えると、しのぶは落ち着いた口調だが、青筋を浮かべているのが見える。確かに、事情を知らないしのぶから見たら、鬼は滅殺する対象だ。
「……織斑、ここはオレが(受け持つ)。(炭治郎達を)任せる」
「……わかりました」
「っ、“一夏”!」
しのぶは追いかけようとするが、義勇に阻まれる。
「掴まれ、炭治郎」
「へっ?あ、はい!」
炭治郎は突然のことになんとか返事をするが、俺は、箱を背負った炭治郎を背におぶり、この場から走り出す。
「い、一夏…さん?」
「ああ、久しぶりだな。こんな再会で申し訳ないが何も言うな。今はここを切り抜けるのが先決だ。しっかり掴まってろよ」
「は、はい!」
「(酷い怪我だ。この様子だとまだ止血の呼吸を習得していないか。それに見違えたな…あの時とは大違いだ)」
そう思いながら山中を走る。
「(しのぶには……ちゃんと謝らないとな)」
一夏が罪悪感を抱きながら進んでいると、背後から茂みが揺れる音がした。姿を現したのはカナヲだった。
一夏は気配を察知し、カナヲは禰豆子が入った箱だけに向けて抜剣し振り下ろすが、俺はカナヲの攻撃を躱し距離を取る。
「……一夏兄さん。その隊士が背負っている箱からは、鬼の気配がする」
「わかっている。これには事情があるんだ」
そして先程の回避した動きに振り回され、疲労でピークを迎えたのか、白目を剥きながら気絶している炭治郎たちを安全な場所に下ろしてから元の場所に戻る。
「……どんな事情?一夏兄さんは、鬼に慈悲をかけ過ぎ」
「言っただろ、事情がある、と」
カナヲは後方に刀を回し、
「――私はしのぶ姉さんに、鬼を滅するように頼まれた」
「命令か……だったらそれ相応に対応させてもらう」
一夏は日輪刀を抜刀し構える。
――花の呼吸 肆ノ型・紅花衣
「(日の呼吸 壱ノ型・円舞)」
俺は炭治郎に迫ると思われる攻撃を相殺させると、ガキンッと甲高い音と共に刀の鍔競り合いになる。そして、カナヲは眉を寄せる。
「隊員同士の戦闘は、隊律違反になるんだよ」
と言い、首を傾げる。
「……それもわかってる。でも、この先は通させない」
一夏はカナヲを押し返し距離を取る。そこから、カナヲは無数の花の斬撃を繰り出すが、一夏は難無く捌いていく。
「花の呼吸 伍ノ型 徒の勺薬」
「日の呼吸 肆ノ型・灼骨炎陽」
カナヲの九連撃は、一夏の技によりまた無力化される。カナヲは一夏に決定打を与える事ができず、ただ攻撃を受け流され、無力化されてしまう。
「……そこをどいて、一夏兄さん。その鬼を殺せない」
「………断る」
俺がそう言ったら、カナヲは「だったら無理にでも押し通る」と呟き、刀を振るう。
「花の呼吸 捌ノ型・日輪草」
カナヲは花の呼吸を行うと、花の一閃を行う。
日輪草とは、修行の際、カナヲが一夏の指導の元、日の呼吸・壱ノ型 円舞と肆ノ型・灼骨炎陽を参考に編み出した抜刀術である。
日の呼吸より威力は低いが、この技は力で斬るというよりも速さで斬るという意味合いが強く、逆に力みすぎるとかえって威力が激減するため、力強い剣士よりも力の制御が効く剣士や力が弱い剣士の方が向いている技であり、敵が範囲に入った瞬間斬り裂く一式と自ら敵に近づき抜刀する二式が存在する。
ただし、抜刀術と言うだけあって難易度も高く、生半可な抜刀では刀が折れたり、上手く技が発動しない。実質カナヲは完成までに木刀をいくつか壊してしまっている。
そしてカナヲ自身気付いてはいなかったが、自身の日輪刀に変化が起こっていた。
「(っ!カナヲの刀が赫く……)」
一瞬カナヲの日輪刀が桃色から赫く見えたが、一夏も瞬時に日輪刀を納刀し、構える。
「日の呼吸改・円舞一閃」
一夏はカナヲの花の一閃を、自身の火の一閃で相殺させる。カナヲの技は練度,所作,速さ,力も日の呼吸を極めた一夏には程遠かかった。
経験の差が見えてきたのか、カナヲは呼吸が乱れ両肩を揺らしていた。
「はぁ、……やっぱり一夏兄さんは強いや」
「鬼殺隊の柱だからな、そう簡単には負けるつもりはない。カナヲも成長したな…ここまで腕を上げていたなんてな、正直驚いた」
妹の成長を喜ぶ中、その時、一夏の鴉、ブイが空中を旋回し、口を開く。
「カァァアア!伝令だ!伝令!竈門炭治郎、及び、鬼の禰豆子を拘束!本部へ連れて帰れだとよ!」
それから、ブイが炭治郎と禰豆子の特徴を復唱していた。俺は日輪刀を納刀し息を吐く。取り敢えず、この場は収まったと見てもいいだろう。
カナヲも納刀し、口を開く。
「……兄さん。命令によりご同行を」
「……わかった」
炭治郎は隠の人が背負い、俺はカナヲに連行されることとなった。
◇その道中
「兄さん、この後覚悟していた方がいいと思う。しのぶ姉さんが黙るはずがないから」
「わかってる。とっくに殴られる覚悟は出来て「何の覚悟が出来てるのかしら……イ・チ・カ・さ・ん?」………し、しのぶ?」
振り向くと、そこには青筋をつくり笑みを浮かべたしのぶがいた。しかしその笑顔は笑っている様で笑っていない笑顔で、どす黒いオーラが見えた。一夏は表情こそ変えないが、顔を青くする。一緒にいるカナヲまでもが真っ青だ。今のしのぶが怒っているは誰が見てもわかっていた。
「さっきはまぁ逃げてくれたものですよ……冨岡さんは長ったらしく事情を説明しようとするわ、一夏さんは鬼を連れた隊士を抱えてトンズラこくわ、全くどいつもこいつもですよ」
しのぶはシュッシュッと拳を前に振るう。一夏が無意識に視線を逸らすと、カナヲはいつのまにかいなくなっていた。おそらくあまりの威圧感に逃げたのだろう。
「(……覚悟を決めるか)」
「一夏さん……覚悟は出来ていますか?」
「……ああ、弁解はしない。この際殴り飛ばしてくれても構わない」
「うふふ、殊勝な心がけですね。それじゃあ遠慮なく……歯ぁ食いしばりなさい!」
「…っ」
一夏は反射的に目を瞑る。しかしいつまで経っても痛みは来なかった。
「(あ、あれ?)」
一夏は殴り飛ばされると思った。しかし両頬に暖かい感覚が、唇には柔らかい感触がした。
「…んっ⁉︎」
目を開けると、しのぶは一夏の唇に重なっていた。数十秒くらいそれが続いた後、しのぶは唇をはなす。
「し、しのぶ…何を⁉︎」
「とりあえず今はこれで済ませてあげる。“一夏”が理由もなしに鬼を庇うわけがないのは、わかってるから」
「……しのぶ」
「ただし!事が落ち着いたら言うことをなんでも聞いてもらうから、覚悟してなさい!」
「……はは、わかった。やっぱり、しのぶには敵わないなぁ」
「おいおい、イチャついてるトコ悪ぃが…さっさと無口柱と合流しな、一夏ちゃんよ」
「わかってるブイ、悪いが今は何も言わないでくれ」
一夏は頬を赤くし、先程しのぶが行った行為に心臓が速く鼓動する。しのぶは何ごとも無かったように隣を歩いているが、彼女自身耳を赤くしていた。
「(今更だけど、かなり恥ずかしいわ…)」
しのぶは先程の行為で顔も真っ赤にしていた。一夏に悟られない様に平常心を保っていたが、一夏にバレバレである。しかし一夏はしのぶの気持ちを汲んで、敢えて何も言わなかった
その後、日の光が山を照らし始める。一夏としのぶは義勇と合流した後、産屋敷へと向かうのであった。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
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神気合一
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冥我神気合一