日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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あれから一年の月日が経った。一夏の髪は首あたりまで伸び、身長もさらに伸びていた。

 

 

「…偶には、夜明け前の散歩も悪くはないな」

一夏は現在、夜中の河川敷で夜空を眺めていた。一年半をこの時代で過ごすその間、一夏は胡蝶家の手伝いをしながらある問題を解決していた。

 

現代の義務教育を途中までとはいえ受けてきた一夏は、文字を書けないなんてことはない。束からもいろんなことを教えてもらい学力もそれなりにある。

しかし今いる場所は明治時代。この時代の字と現代の字は全く違う。手伝いに次いで、しのぶ達からこの時代の読み書きを教えてもらい、一ヵ月かけて、覚えていった。

 

胡蝶家一同曰く、しのぶが一番頭が良いと聞き、いざ教えてもらうと、しのぶは説明や教えが確かに上手だった。

 

「だいぶ書ける様になったわね、一夏」

 

「うん!とても綺麗な字だわ!」

 

「しのぶの教えが上手だからここまでできたんだよ、正直俺自身も驚いてる」

 

「一夏がまじめに話を聞いていたからよ。それにしても、一夏の字はかなり変わっているわね。未来じゃそんな字が殆どなの?」

 

「うんうん、全く違う形に変化してるわね」

 

現代で使用している文字を胡蝶姉妹に見せた所、とても興味深く見ていた。

 

「ああ、今の時代の字と大分違うからな。良ければ俺の時代の文字、俺がわかる範囲で教えようか?」

 

「いいわね…未来の文や言葉にも興味があったからやってみるわ。一夏からたまに聞きなれない言葉もあるから、それも教えてくれないかしら?」

 

「あ!私も知りたい!」

 

「わかった。言葉は後で教えるとして、まずは簡単な平仮名からだな」

 

字の読み書きの勉強の際、胡蝶姉妹に俺の時代の字を書いて見せたら興味を示していた。そこで、胡蝶姉妹に俺の時代の読み書きを教えたら、すぐに書ける様になっていった。その後、胡蝶夫妻も興味を持ち、一緒に勉強することになったことを付け加えておく。

 

 

 

最近しのぶといると何故か胸がポカポカと温かくなる。今まで感じたことのない感覚だ。

カナエさんの場合は一緒にいると楽しいお姉さんみたいな感じだが、しのぶといるひと時はまた違う感覚がする。

 

 

なんだろうな…この感覚

 

彼がその違和感の正体に気づくのは……まだ先のお話。

 

 

「(あの夢、今回はかなり幼い時の夢だったな)」

一夏が夜中に外を歩いているのには理由がある。

 

 

 

 

 

「(ここは……屋敷の門の前か?)」

一夏は胡蝶家で眠っていたはずが、いつのまにか屋敷と思われる場の門前に立っていた。

 

「この感じは、あの人の夢か」

一夏はあの耳飾りの侍の夢と判断し、しばらく辺りを見渡すと、耳飾りをつけた男の子が一人で出てきた。屋敷に一礼すると、男の子は歩きはじめる。

 

「あの痣、それにあの耳飾りは…」

一夏も男の子の後を追う。しばらくして、男の子は満天の星空を見上げたかと思えば、すごい速さで走りだしたのだ。普通の子供ではありえないくらいの速さであった。

 

「(速い!けど、追いつけない速さじゃない)」

一夏も走りだし、男の子の後を追う。

 

「(あの子はおそらく、あの耳飾りの侍だ。推測が正しければ、多分あの人が幼い時の夢のはず。それにしても、あの子、俺と歳は変わりないはずだろ?)」

 

男の子と一夏は一昼夜走り続けると少しずつペースを落とし始めた。男の子の視線の先、田んぼに女の子がポツンと立っていた。

 

「(あれ、あの女の子…何処かで)」

女の子は桶を持ったまま長い間ぴくりとも動く様子はなかった。

 

『何をしているんだ?』

男の子は女の子に問いかける。

 

『流行り病で家族が死んじまった。一人きりになって寂しいから……田んぼにいるおたまじゃくしを連れて帰ろうと思って…』

 

「(そうか……昔じゃ治せなかったんだよな)」

女の子はまた動かなくなった。日が暮れ始めると、女の子は桶に入っていたおたまじゃくしを田んぼに逃した。

 

『連れて帰らないのか?』

 

『……うん、親兄弟と引き離されるこの子たちが可哀想じゃ』

女の子は田んぼの中に手を入れ、おたまじゃくしにふれる。

 

『………じゃあ一緒にうちへ帰ろう』

 

『………えっ?』

女の子はその言葉に涙を流しながら、男の子の方へ振り向く。一夏は女の子の瞳を見た瞬間、胸を締め付けられるような感覚におそわれた。

 

「黒曜石のような……瞳」

 

———————–––––

 

————————

 

—————

 

 

 

 

「………」

一夏は夢から醒め、体を起こす。

 

「今回はかなり長かったな、それに、あの女の子……」

一夏は黒曜石のような瞳の女の子を知っている気がした。

 

「…あ、れ……?」

頬を伝うなにかに触れ……涙を流していたことに気づく

 

「あれ、なんで、……?どうして、こんなに……ッ!」

一夏は訳もわからず袖で拭う。

 

「夜明けまでまだ数時間か。目も冴えてしまったし、散歩でも行くか」

一夏は未来の服を着てスマホを持ち、二階から飛び出して、夜中の道を歩き始める。

 

しかし、一夏は知る由もなかった、胡蝶家に何かが近づいていたことに。後にそのことを一夏は、死ぬほど、死んでしまいたいほど後悔することとなる。

 

 

 

 

「(前からなんとなく感じてはいたが、俺の内には自分じゃない“何か”がいる…)」

そう思いながら、一夏は胸に手を当てる。

 

「今は考えたって仕方がない……ん、あれは?」

一夏は川に目を向けると月の光に何かが反射しているのに気づく。一夏は向かい岸まで飛び越え、光の反射に近づき……

 

「これって…」

反射しているものを川から拾い上げた。

 

「抜き身の刀?しかも本物だ……なんでこんな所に刀が?状態も良いし、それに、刀身が…………赫い」

一夏が川の浅瀬で拾い上げたのは炎の形のある鍔と赫い刀身が特徴的な刀だった。そして刀には『悪鬼滅殺』の文字が彫られていた。

 

「流されて来たのか。それに、大事にされていたのもわかる」

状態を見ても、つい先日くらいに持ち主がなんらかの理由で川に落としてしまい、ここまで流されたのだと分かる。

 

「一先ず持っておくか。持ち主が現れたら、ちゃんと返さないと」

一夏は刀をスマホの拡張領域にしまうと、胡蝶家に向けて帰路を歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「(もう二時間したら日が昇るな…流石に出入り口から入るのまずい…)っ!あれは⁉︎」

一夏が急いで駆けつけると、胡蝶家の扉が何者かにより破壊されていた。

 

「まだ新しい。まさか、強盗か何かが……!」

 急いで家へ入り込み、廊下を走る。すると部屋の襖が開いていた。その場所は―――胡蝶夫妻の部屋だ。

 

「(っ!血の匂い…まさか……!!)」

 

そして入る前から血の匂いが漂ってきた。

 

「おじさん!おばさ…」

 

一夏は部屋に駆け込む。そこには―――信じられない光景が広がっていた。

 

 血の匂いが充満しており、畳は血に染まっていた。そこにいたのは、何かに体を貫かれ、切り裂かれ、変わり果てていた胡蝶夫妻であった。

 

「お、おじさん?……おば、さん?」

 

目の前の光景が信じられない。身体に風穴が空いていたからだ。普通の人間や動物の芸当ではなかった。

 

「い、い……ちか……くん?」

 

「っ!おばさん!!」

一夏は掠れた胡蝶夫人の声を聞き取ることができた。一夏はすぐに近づく。

 

「おばさん、しっかりしてください!」

 

「よ、よか……た、あなた、が……無事…で」

 

「俺は大丈夫です!いったい、誰が、こんな事を……!とにかく、今はすぐに血を止めて…」

 

「むり、よ……こ…れじゃあ、もう……助からない…わ。お願い……一夏くん、カナエ…と、しのぶをつれて……逃げ、なさい」

 

「そ、そんな」

状態を見ても、助かる算段はないのは一夏もわかっていた。今意識があるのが奇跡としか言いようがなかった

 

「お……ねがい…私の、最期の言う、事を……を聞いて、娘と……一緒に、逃げなさい…まだ、あの……化け、物に……殺されて……いないはず」

胡蝶夫人は最後の力を振り絞り、一夏の頬に触れ……

 

「三人……共、愛、してるわ…」

 一夏の頬を一撫でして力なく――――落ちた。

 

 

 

呼吸が止まり、心音すら消える。  

 

 

「お、おばさん?」

一夏が胡蝶夫人の身体をみると、心臓も、呼吸も止まっているのを確認できた。

一夏の目は周りの人達や物を透けて見ることができる。それによって相手の骨格・筋肉・内臓の働きも、手に取るように分かる。

 

 

「…………」

一夏はしばらく茫然としていたが、今自分が成すべき事を思い出し、すぐに立ち上がる。

 

「そうだ。今は感傷的になってる場合じゃない!しのぶとカナエさんを探さないと……!!」

一夏は胡蝶夫妻に布を覆わせ、拡張領域から木刀を取り出して、二人を探す為、廊下を駆け出す。

 

「(二人とも、無事でいてくれ!)」

 

廊下にあった血痕の跡を追う。一夏が急いで部屋に着くと、抱き合う姉妹、そして、今にも二人に襲い掛かろうとしていた人間ではない何かが目に映った。

一夏は深く呼吸を行い、一瞬にして間合いを詰め、

 

「日の呼吸・円舞!」

 

「がはぁっ⁉︎」

 

木刀を振り抜き胡蝶夫妻を殺したと思われる犯人を弾き飛ばす。木刀はその威力に耐えられなかったのか折れてしまった。

 

「無事か!しのぶ!カナエさん!」

 

「い、一夏ぁ!!」

 

「い、一、夏くん?」

 

「良かった。無事でよか「このクソ餓鬼がぁぁぁ!」…嘘だろ?」

一夏が吹き飛ばした相手を見ると、砕いたはずの骨が完治していた。

 

「お前は一体、何なんだ?人間じゃないな(なんで俺はこんなにも冷静にいられるんだ?)」

一夏は、動揺なく至って冷静でいる自分自身に内心驚く。

 

「俺様の正体が知りたいかぁ?」

 

「ああ」

 

一目でわかるくらい眼前の存在は異形だった。顔にある無数の血管が異常に膨れ上がり、額には二本の角らしきものが存在し、目玉はとても巨大だった。

 

「キヒヒ!さっきの太刀筋は効いたが、俺様にかかればすぐ直せるんだよ!そして武器を失ったお前には勝ち目はない!冥土の土産に教えてやるよ、俺は、人食い鬼だよぉ!!」

 

叫ぶと同時に鬼はこちらに加速する。そして上から振り下ろすように爪の一撃を放つ。

 

 

「日の呼吸・火車・無手」

 

鬼と名乗った化け物の攻撃を難なく回避し、力強くアッパーを決めつつ飛び上がり、かかと落としをかます。その地面が凹む衝撃の中、一夏は鬼を抑えつける。

 

「カナエさん!しのぶ!逃げろ!」

 

「「!?」」

 

 二人が驚いた表情でこちらを見る。

 

「俺が抑えておく間に、早く逃げろ!」

 

「で、でも……!」

 

「い、いちか」

 

 だが二人は動かなかった。この二人に一夏を見捨て逃げるという選択は出来なかった。

 

「離せぇ! このクソ餓鬼がぁぁぁ!こんなガキの何処にそんな力がァァ!!」

 

「大人しくしてろ化け物!二人共早く逃げろ!絶対に生きて二人に追いついてみせる!頼む、逃げてくれ!」

 

鬼はなんとか起きあがろうともがくが、一夏からのあり得ないほどの力に抑え付けられ、振り解くことができなかった。

 

「クソがぁぁ!」

 

「くっ、しまっ!?」

 

二人に逃げる事を促していると鬼に右手を掴まれ、そのまま一夏は投げ飛ばされる。そして襖をぶち破り、廊下の壁へと激突した。

 

「がはっ!」

 

「い、一夏!」

 

「一夏くん!!」

 

動けなかった二人が一夏へ駆け寄った。

 

「一夏くん! しっかりして一夏くん!」

 

「一夏!一夏!!」

二人は涙を流しながら、一夏に呼びかける。

 

「だ、大丈夫だ。背中を打ちつけただけだ」

 

カナエとしのぶの呼びかけに痛みを堪えながら一夏は答える。そんな三人に鬼がすぐ傍まで近付く。

 

「やってくれたな、クソ餓鬼」

 

「!?」

 

 三人は見た、鬼の顔面が瞬く間に再生していく姿を。

 

「これで終わりだ、クソ餓鬼!!女もろともなぁ!!」

 

鬼が自身の右手を振りかざす。数瞬後にはその一撃が直撃し、三人の命は尽きてしまうだろう。

 

 

「(このままじゃ三人とも!守らなきゃ、二人を守らないと!!俺に、居場所をくれた二人を…死なせたくない!!)」

 

 

 

ーー剣を取れ、織斑一夏

 

 

「(ッ!なんだ?)」

一夏の周りは突如真っ暗になる。辺りを見渡しても暗闇に包まれていた。

 

 

ーーお前はすでに持っているはずだ…目の前の化け物を、鬼を滅する事を出来る刃を、斬るものは…目の前にある

 

 

「(鬼を滅する……刃)」

 

聞き覚えのある声と共に、一夏の意識は元に戻る。

 

そして、即座に立ち上がり姉妹を守るように前に立つ。

 

 

 

 

「日の呼吸」

一夏の右手には何かが出現し、居合の構えを取る。

 

 

 

 

 

「碧羅の天・残月」

 

一夏は右手に、炎の形をした鍔の刀を持っていた。そして、刀身は赫色に染まっていく。

 

片手で刀を持ち、斬り上げ、紅蓮の炎を纏った反撃の一撃で、

 

 

 

 

 

 

 

鬼の頸が、腕と一緒に…宙を舞った。

中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?

  • 神気合一
  • 冥我神気合一
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