日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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列車の鬼

「――何をしているんだ?こっちに来い。何やら束がまたつまらない物を作ったらしい」

 

「つまらないは酷いよちーちゃん!」

 

千冬はめんどくさそうにいうが何処かウキウキしている様子だった。

 

「いっくんは束さんの創ったもの、興味あるよね!?」

 

「え、えっと……うん」

 

「そうだよね!流石いっくん!わかってるぅ〜!!」

 

一夏は曖昧な返事をし、束の発明品を見た後、家に帰り部屋で一人考え込むが、実際この状況について把握できていた。これは夢…鬼の“血鬼術”だ、と。

 

「(一体どういう事だ。余りにリアルすぎる。現実世界と遜色ないこの感覚…)」

一夏は試しに頬をつねると、痛みはあるが目は覚めなかった。姿も隊服を着た長身の青年ではなく、現代にいた頃の服装……当時10歳の頃の姿だった。

 

「(脱出する方法、一つはこの世界を支配している親玉を斬ること。二つ目は…これは正直不安要素がある)」

 

一夏は夢からの脱出方法を模索し、立ち上がり外に出てある場所に向かう

 

 

「いっくん、何処に行くの?」

 

「一夏、どうしたのだ。そんなに急いで」

 

「…………」

一夏は途中で立ち止まる。後ろから千冬や束に声をかけられたのだ。

 

「(…わかっているのに!)」

複雑な感情が渦巻くが、一夏はその感情を押し殺し、二人に振り向く。

 

 

 

「なぁ、千冬姉、束さん」

 

「ん、どうした一夏?」

 

「い、いっくん?」

 

「俺、行かなきゃいけないんだ。戻れないかもしれないけど、いつか絶対に、どんな形になっても帰ってくる。だから……ごめん、二人とも」

一夏は二人に背を向け走り出す。

 

「一夏!/いっくん!」

二人に呼び止められ振り向くと、二人は何か察した表情だった。

 

 

「必ず、帰ってこい…一夏!」

 

「私達、いっくんを信じて、待ってるから!」

 

「千冬姉、束さん……」

まるで現実の二人に言われたような気がした。俺の答えなんて一つだ。

 

「うん、必ず帰ってくる。行ってきます!」

一夏は笑顔で告げて、駆け出して、二人から離れる。現代から見れば信じられない速さで走っているが、驚く人どころか人そのものが見当たらない。おそらく大切な人と風景のみを再現している為だろう。一夏がある場所へ駆け出す途中で、幼少期の姿から今の鬼殺隊の隊服に身を包む青年に戻っていた。

山に来た一夏は木々をわけ進んでいく。そして、彼にとって思い出の詰まった場所へとたどり着いた。

 

「やっぱり、この場所もあるのか」

藤の花が満開に咲きほこる場所…現代で過ごした頃の一夏の秘密の場所であり、修行場所でもあった。この場所を一夏以外で知っているのは束くらいだ。この場所は藤の木があり、藤の花が咲く季節となるととても綺麗な光景が広がる。

 

「鬼はいないか」

一夏は一番可能性があった場所にいると思ったが、鬼の姿はない。

 

「この夢からどう脱出するかだな」

血鬼術だとすれば、日の光を浴びるのが手っ取り早いのだが、ここは夢の中である為、その方法を取ることが出来ない。

 

そして二つ目の方法が頭をよぎる

 

「二つ目の方法……自分を斬る…」

一夏は自身の日輪刀を抜く。刀身は深い漆黒色に日の光を帯びていた。

 

「まさか夢の中とは言え、自害することになるとはな。現実に反映されない様、祈るしかない!」

 

一夏が日輪刀を自身に構えた時、

 

――ボウッ、と一夏の体が紅色に燃える。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

不思議と炎は熱くなく温かかった。

 

『一夏』

突然自分を呼ぶ声がした方へ向くと、いつの間にか場所が変わっていた。どこまでも果て無く続く澄んだ水面と青空、温かい日の光が照らしていた。以前と違い、夕焼け空ではなく、青空で、一本の藤の木があった。そして目の前には…

 

「縁壱……さん!」

 

『こうやって会うのは久しいな、かなり背が伸びたんじゃないのか?』

額には陽炎の痣に、長い髪は結び、髪先は赤みを帯びており、耳には耳飾り、一夏の内にいる継国縁壱だった。

 

 

「あれから七年も経っていますから、それは伸びると思いますよ」

 

『そうか…もうそんなに時が経ったのか』

一夏の背と髪は伸び、髪は結んでいる。縁壱は一夏の成長を何処か喜んでいるように見えた

 

 

「縁壱さん。俺に何か用があるんじゃないんですか?」

 

『ああ、炭吉の子孫と会ったみたいだな。竈門炭治郎…だったか?伝えてはくれぬか?ありがとう…と」

 

「わかった、伝えておきます。他には…」

 

『あるにはある。しかし、今はまだその時ではない』

 

「どういう意味ですか?あるなら今伝えてくれても……」

 

『言ったはずだ。今はまだその時ではない。近いうち、いずれはまたこの場で会うだろう。その時に伝える』

 

「わかりました。今は待つことにします、その時まで」

 

『ありがとう』

縁壱は一夏に礼を言うと、彼を見つめる。

 

『(一夏…いずれお主は、俺を超えるだろう。己自身気づいていないだろうが、今は片足のみであるが…俺ですら入れなかったあの領域へ踏み入れかけている。俺は、その先に進むのをやめ、誰しも同じ場所に辿り着くと思っていたが、一夏は違うみたいだ、いや…他の者たちも)』

 

「…?縁壱さん?」

 

『こんなところで足止めをしてすまない。現実では待っている人がいるのだろう?』

 

「はい、縁壱さん…久しぶりに会えてよかったです。また…会いましょう」

 

『…ああ』

 

 

同時に、一夏は意識が浮上するのを感じた。縁壱は笑みを浮かべて、一夏を見送った。

 

 

 

 

一夏は現実世界へ帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇一夏が無意識領域に入る少し前

 

 私には家族がいた。優しく温かい両親,心優しい姉と幸せに暮らしていた。けれども、その幸せは、長くは続かなかった。突然と、何の前触れもなく崩れ去ってしまった。

流行り病で両親が亡くなり、姉は幼い私を養うために朝から晩まで休むことなく働いた。姉も両親が亡くなって数年としない内に過労で死んでしまった。

私は独りになった。身寄りが無かった私は、引き取られて奴隷のような扱いを受けた。もう死にたいと思った。死ねば、大好きな家族が待っていてくれると思った。

 

そんな時だった、あの男が私の前に現れたのは……。見た目は人間だけど、本当は人間じゃない別の存在だと一目ですぐにわかった。あの男は私に素敵な夢を見せてくれた。家族と仲良く暮らしていた頃の夢、幸せだった。

 

あの男に命令された。

 

「夢の中に入って精神の核を壊せ」

と。幸せな夢を終わらせないためならば、他の奴らがどうなろうと知ったこっちゃない。私は今まで奪われてきたんだ。奪ったっていい筈だ。

 

けど、この人の夢は変わっている夢だった。見たことのない建物に囲まれ、信じられない高さの建物が沢山あった。外国の人だと思ったが、神社があり、繋がっている男性が姉や知人と日本語を話していたから日本で間違いないと確信した。

 

人によって夢の世界は様々だが、この人の夢の光景は異質だった。

 

周りの光景に戸惑う中、繋がっていた男性は走り出した。私はまずいと思い、やっとの思いで、夢の端に行き、錐で空間を裂いて“無意識領域”とやらへ入る。

そこには、どこまでも果て無く続く澄んだ水面と青空、温かい日の光が照らしていた。なんて美しい……

 

しばらく彷徨っていると、遠目には一本の藤の木があった。その前に浮かんでいる宝石のような炎を纏った赫色の結晶……“精神の核”だ。しかしそれだけではなかった。

 

「なんで…精神の核が二つあるの?」

それより高い位置に、太陽の様な光を放つ核があった。女性はどうしたら良いか分からず立ち止まるが、

 

 

 

『お前は、ここに来るべき者ではない』

 

そこには、額に痣のある男がいた。物静かで、どこか哀しげな澄んだ瞳をした男だった。

 

「なんで、なんで……ここに人がッ!!?」

 

あの男は「無意識領域には基本精神の核以外存在しない」と言っていたのに。

 

『私は一夏の無意識領域に在るこの世界を守る者。私達が生きていた世界はありとあらゆるものが美しい。お前は自分のいるべき場所に帰るべきだ。元いた世界へ、ここにいるべきではない』

 

「あんたに、アンタに私の何が分かるっていうのよ!?何も知らないくせに!知ったようなこと言わないで!!私が一体、どんな思いで…!!」

 

 

『………』

 

思いの丈をぶちまけたせいか、息が苦しい。ただ何も言わず、じっと私の話を聞いていた彼の瞳はこちらが哀しくなるほど優しいものだった。

 

「う、ううっ、うわぁぁぁあああん!」

 

気付けば、私は声を上げて泣いていた。いつぶりだろう、こんなに泣いたのは。泣いた所でどうにもなりはしないことを理解していたから。あの人は優しく私の頭に手を置いてくれた。お日様みたいに、心地よい温もりだった。優しさが枯れた心に染み渡っていくような気がした。

 心の闇を照らすほど優しい日の光、そこに棲まう日輪のような優しい人、この世界はどこまでも温かかった。

 

私は後悔した。こんなにも美しい世界を、いるだけでも温かくなる世界を、破壊しようとした。すると意識が、暗闇へと微睡んでいく。目が醒めるその時まで、あの方はずっと頭を撫で続けてくださった。

 その中で少女は無意識に、一夏の心の一部を胸の中へと浸入させてしまった――温かい、温かい日の心を。

 

 

 

 

 

 

「一夏さん!」

 

「炭治郎…か?そうか、戻ってこれたのか…俺は。お前も目を覚ましたんだな」

 

「はい!でも、煉獄さんたちがまだ………!」

 

炭治郎に言われ、杏寿郎たちを見ると、三人ともまだ眠っていた。

 

「なるほどな……」

 

「それから、禰豆子のお陰で、俺たちは自由に動けそうです」

 

「禰豆子の?」

 

「はい!禰豆子の血鬼術は俺たちの縄を焼けるみたいです」

 

見ると、俺の腕には結ばれていたであろう縄があった。

 

恐らく、炭治郎の言った通り、禰豆子が炭治郎の縄を燃やし、その後なんらかの方法で目を覚ましたのだろう

 

「ありがとな、禰豆子」

 

「ムー♪」

 

一夏は禰豆子の頭を優しく撫でると、禰豆子は嬉しそうにする。炭治郎は座席の下に隠しておいた日輪刀を取り出し、腰に差す。

 

「この縄、斬ったらダメな気がする……」

 

「良い判断だ。どうやら、今回の鬼は“一筋縄”じゃいかないらしい」

 

「禰豆子!三人の縄も燃やしてくれ!」

 

禰豆子は頷き、三人の縄も燃やした。

 

「杏寿郎、起きろ!杏寿郎!」

 

「善逸!伊之助も!起きろ!」

 

三人の体を揺するも、起きる気配がない。

 

「ダメか…」

 

「こうなったら、俺達三人で鬼を探して…っ!炭治郎、危ない!」

 

俺は咄嗟に炭治郎の腕を掴み、引き寄せる。

 

同時に、杏寿郎と繋がっていた女性が錐で炭治郎に襲い掛かった。

 

「何てことしてくれるのよ!あんたたちのせいで、夢を見せてもらえないじゃない!」

 

「(この感じ、鬼に操られている風にも、脅されている風にも見えない。まさか自分の意思で鬼に従っているのか?)」

すると他の人達も、錐を手にして起き上がり、俺達に近寄ってくる。

 

そんな中、やせ細った男の人と涙を流して呆然としていた少女はただ黙って立っていた。

 

「(他の二人には敵意がない。何かあったのか?)」

 

 

「アンタたちも!起きたなら加勢しなさいよ!結核だか家族だか知らないけど、ちゃんと働かないなら、“あの人”に言うわよ!夢見せてもらえないようにするからね!?」

 

人の弱みに付け込んでやらせていたのか。自分は手を汚さず、他人に汚いことをやらせていたのか……!

 

 

「嘘っぱちな世界に、幸せも何もない」

俺は、炭治郎と俺が繋がっていた二人を除いた人達を手刀で気絶させた。

 

「すまない、暫く眠っててくれ……せめて良い夢を」

 

気絶した人たちを席に寝かせて、残りの二人を見る。

 

この二人からは敵意を感じられなかった。

 

だから、この二人から話を聞くことにした。

 

「聞きたいことがある。この女性が言ってた“あの人”は、鬼だな?」

 

そう聞くと、少女はこくりと頷いた。

 

「そうか……俺は君の苦しみを知らない。でも、その苦しみはいつか晴れる。だから、それまで生きるべきだ。勝手だろうけど、生きてくれ…」

 

少女にそう言って、外に出ようとすると、

 

「あの!」

 

少女が声を掛けてきた。

 

「私たちに命令したバケモノは、汽車の先頭に居ます。それと、左目に“下”と“壱”って文字がありました」

 

「………そうか、ありがとう。後は俺たちに任せて隠れていてくれ。炭治郎!」

 

「はい!分かってます!禰豆子、この人たちを頼む!」

 

「ムー!」

 

「あ、待ってください!」

俺と繋がっていた少女はまだ話があるようだった。

 

「ありがとう。無意識領域であなたに似た殿方にも励まされました。あなた達のおかげで私も前を向いていける」

 

「……そうか」

 

どうやら目の前の少女は、心の内で彼と会ったみたいだ。

 

「ご武運を…」

 

「……ああ、ありがとう」

 

「二人とも、気をつけてね」

 

「はい!」

 

「あなたは、確か結核って言われてましたね。少し待ってほしい」

一夏は羽織の袖に手を入れ炭治郎達に見えない様にスマホの拡張領域から束製の特効薬と注射の入ったケースを取り出す

 

「一応、俺の勤めている場所が療養所でしてね。医学の知識は身につけています」

 

「あの、いったい何を?僕の病気はもう」

 

「いいから、じっとしてて。痛みは一瞬です」

一夏は、炭治郎と繋がっていた男性の袖をめくり、アルコールで腕を拭き注射を打ち込む。

 

「もし、症状に変化があったらこの場所に来てください。あなたのこの先の人生に、幸福を願っています」

 

「……」

 

男性に蝶屋敷の場所を記した地図を渡すと、一夏は炭治郎と共に移動を開始した。

 

 

「……鬼はこの先か?」

 

「たぶんそうです。俺の鼻も、先頭車両の方から嫌な匂いを察知してます」

 

 炭治郎は頷くと、一夏と炭治郎は窓の外から上がるように体を反転させ、車両上を駆けて行く。

 

 

 

 

 先頭車両に到着すると、車両上に佇んでいた鬼は気安く声を掛けてきた。

 

「あれぇ、起きたの?おはよう、まだ寝てて良かったのに」

 

瞳には“下弦壱”とあり十二鬼月と確信する。ひらひらと手を振る鬼の姿に、炭治郎は眉を寄せ、一夏は話し掛けた。

 

「……お前は、何故関係の無い人たちを巻き込んだ?」

 

「聞いてないの?あの子たちはもう先がない。だから、オレが夢を見せる約束をしたんだ」

 

「……それから、精神を破壊してから喰う、ということか?」

 

 「そうそう、夢心地だろう?」

 

下弦の壱 魘夢は笑う。それを聞いた炭治郎は、青筋を浮かべ日輪刀の柄に手をかけるが……

 

 

ーー日の呼吸改・円舞一閃

 

「土足で人の想いに踏み躙るな……悪鬼が」

 

一夏は眠り鬼の頸を斬り落としていた。

 

「(え……?今、何が……!?一夏さんの動き、全く見えなかった!)」

炭治郎が驚愕したのも無理はない。下弦の鬼は一瞬にして消え、すでに紅蓮に染り、火を纏った日輪刀を振り抜いた一夏の姿に変わっていた。先程一夏が立っていた場所は陥没してしまっている。

 

「お前、本体じゃないだろ?」

 

 一夏は先ほどの手応えで本物ではないことにすぐ気づいた。

そして、頸だけになった鬼は口を開く。

 

「あの方が、“柱”に加えて“耳飾り”の君達を殺せって命じられたこと、よくわかったよ。存在自体が何かこう…とにかく癪に障る感じ、特に赤羽織の君はね」

  

「………」

一夏は無表情で見下ろすも、魘夢は言葉を続ける

 

「なんでかわからないけど、忌々しいね……その顔。でもそうだよね、なぜ頸を斬ったのに死なないのか。それはね、この身体がもう本体ではなくなっていたからだよ。今喋っているこれもそうさ、頭の形をしているだけで頭じゃない。君たちがすやすやと眠っている間に、俺はこの汽車と融合した!」

 

 鬼は、一夏と炭治郎を見ながらニタニタと笑う。

 

「この汽車全てが、オレの血肉であり骨となった。つまり、この汽車の乗客二百人余りがオレの体を更に強化する餌、そして人質。ねぇ、守りきれる?君たちだけで、この汽車の端から端までうじゃうじゃしてる人間全てを――俺におあずけさせられるかなぁ?」

 

 魘夢は列車の屋根に溶け込んで消える。

鬼の言葉に弾かれるように、一夏と炭治郎は列車内へ戻った。そこで目にしたのは、天井や椅子の端から肉塊のようなものが盛り上がり、乗客を包み込もうと蠢いている様だった。

 

「まずい!乗客が!」

炭治郎は慌てて刀を抜くが、一夏は冷静に呼吸を行う。

 

「日の呼吸黒式 弐ノ型・炎陽紅焔」

 

一夏は超高速の十五連撃で、肉塊を斬り付ける。斬られた肉塊は灰に還った。

 

 

 

「(す、凄い、一瞬にして……鬼の塊を!)」

 

「日の呼吸 陸ノ型・日暈の龍・頭舞い」

 

 一夏は、狭い通路や座席の間を移動しながら、肉塊を斬り、灰に還す。この型を放っただけでこの車両の肉塊は消え去った。再生も、一夏の日輪刀の力で抑えられたと言っていい。

 

 

「(これが、一夏さんの日の呼吸!)」

 

一夏の日輪刀は黒から赫き紅蓮に染まり、どこか太陽を想起させるようなものだった。その太刀筋から放たれる技は息を忘れる程綺麗で、その所作はあまりに美しく、無駄な動きが一切無く、まるで火の神が舞っているように炭治郎は見えた。

 

炭治郎はただ、一夏の剣に魅了されていた。

 

「(前方もまずいな)」

 

一夏は即座に前方車両に向かう。

 

炭治郎は一夏の速さに目視する事ができなかった。

 

「(は、早い!動きが全く見えない。それに、一つ一つの動作が静かだ)」

 

 

前方の車両に着くと、肉の触手が一夏を見つけゆっくりと迫る。

 

「……寝ている間にこんな事態になるとは、杏寿郎の言葉を借りるなら…」

 

車両内は下弦の壱の支配下にあり、車両全体は肉塊が覆い、触手が一夏に迫る。

 

 

 

 

しかし同じ頃、状況は杏寿郎も同じだった。

 

「うーん、うたた寝している間にこんな事態になっていようとは!!」

 

 

 

 

 

「「よもやよもやだ/な、柱として不甲斐なし/い、穴があったら…」」

 

一夏は日輪刀を構え、杏寿郎は頭上へと構える

 

「「入りたい!/入りたい所だな」」

 

 

一夏と杏寿郎はほぼ同時に、眠っている乗客に刃が当たらないように迫る触手、窓,天井,床にうねる肉塊を斬り刻む。触手は、一夏の赫刀によって現状再生する気配はない。

 

 

そして、車両から揺れが起きる。

 

「っ……⁉︎」

 

 

炭治郎は先程いた場所から一車両移動し、乗客を守りながら触手を斬りつけていたが、突然の揺れで転がってしまい、なんとかバランスを立て直す。

 

「(なんだ今の、鬼の攻撃か?)」

 

 

杏寿郎の到着と同時に更に車両が揺れ、目の前に杏寿郎の姿が現れる。

 

「竈門少年!!」

 

「れ、煉獄さん!」

 

 

「ここに来るまでに斬撃を入れて来た!しかし、時間稼ぎにしかならないだろう!一夏はどこにいる?」

 

「一夏さんは「ここにいる」うわぁっ!!?」

炭治郎は音もなく、突然一夏が戻ってきた事に驚くが、杏寿郎は簡潔に話を始める。

 

「うむ!そっちも無事で何よりだ!時間がないので手短に話す!この汽車は八両編成だ!なので、一夏は前車両、俺は黄色頭少年、竈門少女を援護しつつ、後ろの車両四両を守る!竈門少年たちは、鬼の頸を探せ!」

 

 杏寿郎の言葉は簡潔だった。それから、一夏は刀を握り直し口を開く。

 

「炭治郎。任せていいな?」

 

「はい!まずは、伊之助と合流します。御二方も、お気をつけて」

 

「うむ!急所を探りながら戦おう!君たちも気合いを入れろ!」

 

 そう強く言うと、杏寿郎は凄まじい勢いで、一夏は音を立てず各車両に向かい、炭治郎は伊之助と合流する為、車両の外へ出る。

 

 

 

別車両にいる杏寿郎と同時に一夏も加速し、跳び込んだ各車内で、蠢く肉塊へ向かって刀を振るう。

 

 

日の呼吸 烈日紅鏡

 

     灼骨炎陽

 

     陽華突

 

     日暈の龍・頭舞い

 

技を繋げながら放ち、ボタボタと肉塊を斬るが、すぐに車両に吸収されてしまう。

 

 

「日の呼吸黒式 弐ノ型・炎陽紅焔」

 

一夏は焔の斬撃を放ち肉塊を斬り刻む。

 

 

「(乗客はみんな眠っているのか。正直ありがたい。騒がれると守れないからな)」

 

一夏の斬撃は鬼の再生能力を阻害する力がある。

 

 

 

ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!

 

 

 

その時、凄まじい断末魔が車両全体を揺らした。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

現在の鬼の体は列車そのものだ。彼がのた打ち回ればその分、列車全体も跳ねるのだ。

 

「(炭治郎達が鬼を討ったのか!それなら、後は俺たちの出番か……!!)」

一夏は車両の窓から外へ飛び出し、もう一振りの日輪刀も抜刀した状態で走り出し、二振りの日輪刀を振るう。

 

 

日の呼吸 円舞

 

     碧羅の天

 

     烈日紅鏡

 

     灼骨炎陽

 

     陽華突・龍王

 

     日暈の龍・頭舞い

 

     斜陽転身

 

     飛輪陽炎

 

     輝輝恩光

    

     火車

 

一夏はつなげる様に日の斬撃を放つ。

日の斬撃は列車の動きを停止させることができた。後方四両も、どうやら、杏寿郎が停止させたようだ。これで脱線は免れたと言える。

 

「無事か、一夏!?」

 

「ああ、なんとか無事だ」

 

「うむ!無事で何よりだ!俺は竈門少年達の様子を見てくる。一夏は乗客の救助と怪我人の手当てを頼む!」

 

「了解」

 

 

杏寿郎が炭治郎達のもとに向かうのを見届けた一夏は乗客の安否確認へと向かった。

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

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