「い、一夏さん!?」
猗窩座の拳が杏寿郎の命を貫こうとした刹那、炎を守護るかのように現れたのは、一夏であった。
その場にいた全員が驚いたのも無理はない。しかし、杏寿郎のそれはすぐに笑みへと変わった。
「無事でよかった… 杏寿郎、ってか、ボロボロじゃないか。かなり無茶したみたいだな…」
「あぁ……危うく死んでいた!しかし無茶に関しては人のことは言えないと思うぞ!」
「はは、そうだな。とにかく杏寿郎は止血の呼吸に専念を、後は俺に任せてくれ」
「うむ!任せたぞいちゴホッ!」
「大声で喋るなよ、誰が見ても重傷だぞ」
「そ、そうであったな……!」
その様子に呆れながら告げる一夏と吐血しながら朗らかに笑う杏寿郎……事の次第を見守っていた炭治郎達が、突然の出来事についていけてない様子であったのは無理からんことであった。
一方で、猗窩座の反応は劇的だった。
「耳飾りの剣士……!」
当然ながら猗窩座も一夏のことは知っている、知らぬはずがない。己よりも格上である童磨すら何もできずに倒されたという。そのあまりの強さから十二鬼月を始めとした上位の鬼達は鬼無辻無惨から直々に抹殺又は警戒する様に言い渡されたほどだった。
「………」
「(な、何だこいつは……!? この俺が近づいていた事でさえも気づかなかった!赤子であっても、わずかながらに闘気はあった……!! なのに、柱の耳飾りの剣士からは全く闘気を感じ取ることができない……!?だがなんだ、あいつの姿が…誰かと重なって……?)」
腕を犠牲にして、何とか頸を斬られることだけは回避できた猗窩座であったが、いつものように距離を取った後、動揺で動けなくなってしまった。無表情で自分を見据える一夏の闘気は、不気味なほど静かで何も感じられなかったからだ。
そして、その姿はある男と重なって見えた。紅蓮に染まった日輪刀、赤羽織、耳飾り、赤味がかった髪先、何も映していない瞳、頭部にある痣…その姿は無惨の細胞の記憶で見た継国縁壱の姿であった。
そして、猗窩座は気づく。
「っ⁉︎な、何故腕が再生しない⁉︎」
斬られた腕が再生せず更に動揺の色が濃くなった。上弦の鬼は他の鬼と違い一瞬で再生できるはずだった。しかし、一夏の斬撃を受けた猗窩座の腕は再生しなかったのだ。もしカナエがこの場にいたならば、一夏と先代上弦の弍の対決の時を思い出したであろう。
「この状態の日輪刀は、お前ら鬼の再生能力を阻害する力がある。普通に再生するのは難しい筈だ」
「な、なんなんだ……なんなんだ貴様はッ!?」
力量がまるで計れない。すれ違っても、いたことにさえ気づかないほどに、気配が希薄だ。猗窩座はその膨大な戦闘経験から一目見れば相手の戦闘能力が測れるつもりだった。しかし、一夏のことはまるで解らなかった、不気味なほど何も感じなかった。
「鬼殺隊・日柱…織斑一夏。始まりの呼吸を使えるちょっとすごい剣士……みたいだ」
「ふ、ふざけるなぁ!」
ーー術式展開 破壊殺・乱式
猗窩座は拳撃を虚空へと打ち込み、発生させた衝撃波を一夏へとぶつけた。
「ふざけたつもりはない…」
その時、一夏は日輪刀を鞘に納める。
「(は⁉︎何のつもりだ!?)」
「日の呼吸 黒式 肆ノ型・日影」
間合いに入った一夏は猗窩座の放つ衝撃波を全て無力化する。
「(何だ?何が起きた!?俺の攻撃が…当たらない)」
相手が何もしていないのに関わらず、自身の技が無力化されたように見えたのだ。猗窩座は茫然としてしまった。
「……次はこちらから行くぞ」
ーー日の呼吸改 陽華突・虚空
一夏も腕の筋肉を全力で振り絞って、虚空を突くと同時に衝撃波を飛ばす。
「ゴハァッ⁉︎」
まともに攻撃を受けた猗窩座はくの字になりながら吹っ飛び噴煙が起こる。これをまともに見ていた炭治郎達は唖然としてしまう。
陽華突・虚空は、主に遠距離用で敵を貫く事が可能な技だ。その上、本人曰く「突きと言うより大砲」と語るほど、攻撃範囲が広い。ちなみに、両腕で突くと最大五十メートルくらいは衝撃波が飛ぶ。ただし、この技には「一日三回」という制限を設けている。それ以上は腕の骨が砕け散る為だ。片腕ずつなら合計六回は打てるが、威力と範囲が格段に落ちる。
「(威力は大きいが…やはり、その分負担も大きいな)」
一夏は、突きを繰り出した右腕を透き通る世界で見て、そう再認識した。
「こんな物で俺を倒せると思うな!化物がぁ!」
ーー術式展開 破壊殺・滅式
猗窩座は、赫刀で斬られた腕以外の傷を再生させ、普通の者では認識できないくらいの速さで一夏に迫る。その技は、杏寿郎に使った時より更に威力は大きいと窺える。
「この型を使うのは久しぶりだな……」
一夏は日輪刀をゆっくり頭上に構え、炎が纏いはじめる。
「日の呼吸改 飛輪陽炎・業炎撃」
業炎を纏い両手で振り下ろした。その一振りで火柱が起き、再び噴煙が発生する。
業炎撃は飛輪陽炎に炎の呼吸の要素を取り入れた技で飛輪陽炎をより強力に振り下ろす技である。五年前、煉獄邸で槇寿郎の指導のもと炎の呼吸の壱から参を会得した際、使えるようになった型だが、違和感故に今まで封印していたのだ。
視界が晴れ、そこに映ったのは、頸は斬れていないものの、残った腕と体が縦に削がれた猗窩座の姿だった。息を荒立てながら、なんとか一夏の一振りを中断させ、距離を取った猗窩座はすぐさま体を再生させようとするが、赫刀によって斬られた傷はやはり治らなかった。
「はぁ、はぁっ、はぁっ!(奴に攻撃を当てていたら…間違いなく頸ごと斬られていた……)」
流石の猗窩座も息が荒く、汗が流れていた。胴体の斬り傷は深く、再生が出来ずにいた。頸を絶たれていないことに安堵するがすぐにその余裕もなくなる。
「!!(しまった、夜明けが近い!この場から去らなければ……)」
命のやり取りの最中、誰よりも先に動いたのは炭治郎だった。
離れた場所に落ちていた自身の日輪刀を拾うと、猗窩座へ向かって走り出す。
「(夜が明ける!!ここには陽光が差す……!! 逃げなければ、逃げなければ…!!)」
猗窩座は全力で逃げ出す。
「逃さなーー」
「ゲホッ!ゲホッ!」
「っ!杏寿郎!」
一夏は技を繰り出そうとするが、後ろで崩れ咳き込んだ杏寿郎に気を取られた。
「(傷口が開いて…!)」
透き通る世界で見て、容体を確認できた。
「(好機!)」
ーー術式展開 破壊殺・鬼芯八重芯
「……!」
すぐさま一夏は猗窩座の技を無効化した。弱っていたため威力はなかったが退却する為の牽制にはなったようだ。
猗窩座は、逃げながら すぐに治せる傷の再生を始める。
このままでは逃げられると判断した炭治郎は、咄嗟に己の日輪刀を、猗窩座目掛けて投げ飛ばした。
──ビュッ!
「(早く太陽から距離を……あいつには何をやっても勝てん!無惨様が警戒するのも、童磨がやられたのも納得だ!)」
──ドスッ!!
焦る猗窩座の胸に、突如炭治郎の日輪刀が突き刺さる。炭治郎は、そのまま猗窩座との距離を詰めながら、こう言い放った。
「逃げるな卑怯者!! 逃げるなぁ!!」
炭治郎の言葉に、猗窩座は青筋を立てる。
「(はぁ?何を言ってるんだあのガキは?脳味噌がアタマに詰まってないのか?俺は
遠退いていく猗窩座の後ろ姿に向かって、炭治郎は叫び続ける。
「いつだって鬼殺隊は、お前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!! 生身の人間がだ!! 傷だって簡単に塞がらない!! 失った手足が戻ることもない!!逃げるな馬鹿野郎!! 馬鹿野郎!! 卑怯者!!」
見えなくなった猗窩座へ、何度も何度も叫び続けた……。
「お前なんかより、煉獄さんと一夏さんの方がずっと凄いんだ!! 強いんだ!! 煉獄さんは負けてない!! 誰も死なせなかった!! 戦い抜いた!!一夏さんが来るまで、たった一人でお前を追い詰めた!!守り抜いた!!お前の負けだ、煉獄さん達の……勝ちだ!!」
炭治郎の叫びに一夏と杏寿郎は互いに見ると、笑みを浮かべる。
「炭治郎、もうそれ以上叫ぶな。傷口が開くぞ」
「竈門少年、君も軽症じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら、俺達の負けになってしまうぞ」
「煉獄さん、一夏さん……」
「こっちにおいで、意識を落とす前に…言っておきたい事がある」
「……はい」
一夏は杏寿郎を仰向けにさせ、応急処置を始める。
「……煉獄さん、大丈夫ですか?」
炭治郎はゆっくり一夏達に近づき口を開く。
「ああ、この通り生きてるとも!先程は、死を覚悟したんだがな!わははは!」
「大声で喋るな。大声で喋ったら強制的に黙らせるぞ?」
笑う杏寿郎に対し、一夏は笑顔とどすの利いた声で即座に黙らせた。杏寿郎には、一夏の笑みが怒った時の胡蝶姉妹の姿と重なって見えた気がしたのだ。
「…………しかし、上弦と対峙する経験が二度もある柱などそうそういないぞ」
「……奴を取り逃してしまった」
「そう落ち込むな。生きているだけで儲け物だ。しかし、やはりすごい奴だお前は……手負いとはいえ、奴を圧倒していたからな」
「いや、あれは杏寿郎が追い詰めたから、各段に戦いやすかった。今回は杏寿郎の大金星さ、俺が駆けつけるまで、お前は上弦の鬼と同等に戦ったんだぞ?」
「そうか、しかし俺もまだまだ未熟の様だ。怪我が治ったら一から鍛え直さなければな!」
「怪我が治ったらいくらでも相手をする。頼むから大声を出さないでくれ」
その時、
「煉獄さんんんんっ!死んだらダメええぇぇええっ!」
「死ぬなよっ!ギョロギョロ金髪頭!」
と叫び声が上がる。
禰豆子の入った箱の紐を両肩から提げた善逸、そして伊之助が杏寿郎たちの方へ走り寄ってきた。
「良かった、君たちも無事か」
「黄色い少年、猪頭少年、竈門少年、よくやった。君たちのお陰で、俺は心置きなく戦えたんだからな」
善逸は顔を青くし、
「そんな重傷でも普通に喋れるって!柱って怖ッ!普通喋るのは辛いはずですよねっ⁉︎」
目も丸くしていた。 そして、杏寿郎は、近くに座っている炭治郎に話しかけた。
「――竈門少年。今なら、一夏と冨岡が言っていたことがわかる。俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。俺は、汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は、誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ」
炭治郎は嬉しかった。認めてもらえたことが、本当に嬉しかった。杏寿郎は、しっかりと炭治郎たちの行動を見てくれたのだ。
「……あ、ありがとう…ございます……!」
炭治郎はそう呟き、双眸から涙を流す。その時、遠くから黒い服に身を包んだ集団がこちらに走り寄る――隠の人々だ。
鴉たちは産屋敷邸に飛び、報告を上げていたらしい。お陰で、乗客の人々も怪我の治療が受けられるはずだ。
「隠の者たちが来てくれたようだ!我らも蝶屋敷に向か…っ!」
「………」
「い、一夏さん⁉︎一体何を!」
「眠らせただけだ」
「だとしても何も言わずに首に注射を打ち込みますか普通⁉︎」
「(よ、容赦なぇな織斑さん。音が静かすぎて無言が余計に怖いよ)」
「………」
また大声を出した杏寿郎は最後までしゃべれず。しのぶ特製痛み止め睡眠薬を打ちこみ強制的に眠らせた。因みに注射針は束製注射を再利用した物だ。過去に一度、しのぶが柱に就任した際、日輪刀を調整するため、刀鍛冶の村を訪れた事があった。医学に精通している刀鍛冶の職人に針を見せるとそれは驚いていた。職人達は血眼になりながらも未来の注射針を完成させた。
しかし一夏は注射針を鬼殺隊関係者のみの使用と限定した。下手な事をして医学の歴史を変えたくなかったからだ。その後は蝶屋敷でも使用し、注射を打つ際の痛みは激減され、注射を打たれるのを嫌っていた患者は嫌がる様子もなく打たれる様になった。その後は換え針だけを生産してもらう様になったのだ。
話を戻す。その様子を見ていた善逸は自身が持つ五感で一夏の心情を察知し、あえて何も言わなかった。何を言われるかわからなかったからだ。伊之助に関しては無言だった。
その後、隠の人達と協力し、なんとか眠った杏寿郎と炭治郎の応急処置を終わらせた後、蝶屋敷へと運んだ。
ともあれ、隠の人々は杏寿郎を背に乗せ運び、一夏は炭治郎を背負い、善逸は禰豆子が入った箱の紐を両肩に掛け直し、歩みを始めたのだった。
「炭治郎、お疲れ様。今はゆっくり休みなさい」
一夏は背負っている炭治郎に労いの言葉をかける。
「俺は…何も出来なかった。ただ、煉獄さんが戦っているのを……黙ってみることしか出来なかった…」
炭治郎は一夏の羽織を強く握りしめる。その手からは相当な悔しさが伝わってきた。
「例え強くなったとしても、新たな壁が立ち塞がるのは当たり前だ。勿論俺も杏寿郎、柱のみんなもそうだ。……ある人が言ってた『強さにゴールはない。人はさらに強くなる。いつまでも、どこまでも』ってな。」
「強さに、ゴールは、ない…………ん?“ごーる”?」
「ん?あっ……いや、『お前もまだまだこれから』ってことさ。下弦の壱ともやり合ったわけだしな。だけど今は、怪我を治すことに専念する事、いいな?」
「……は、はい(戸惑いの匂いがする……)」
一夏はつい現代用語を口に出してしまい、なんとか訂正する。炭治郎は一夏の背に揺られながら、これまでのことを思い返す。そして、
「(一夏さん、お日様みたいに暖かい)」
一夏の体温の心地よさに安心したのか、意識を落とした。
無限列車での戦いは、終わりを告げた。
原作の煉獄杏寿郎の違い
一夏とは鬼殺隊になる前の仲で今では親友関係
炎の呼吸の新たな型を創造する←(技は読者からのアイディアです。本当にありがとうございます!)
この時点で、猗窩座で言う既に至高の領域に踏み入れており、奥義煉獄を放つ際、自身の内にある全ての闘気を燃やし、この時だけ更なる領域に踏み入れかけた
一夏に鍛えられた事により上弦の弐となって原作より強くなっている猗窩座と互角に戦える実力、そしてこの戦いで透き通る世界に踏み入れる。
産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか
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させる
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原作通り
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作者に任せる