日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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今話は結構長めです


遊郭へ

無限列車の戦いから四ヶ月────

その間、一夏は日々の仕事をこなしつつ、杏寿郎の機能回復訓練に付き合う等充実した日々を送っていた。杏寿郎は透き通る世界に慣れる為、しのぶの許可をもらった上で打ち合いなども行った。どうやら杏寿郎は打ち合っている間だけ人体が透けて見えるらしい。鬼殺業で死体を見る事はあれど、正常に動いている内臓や心臓といった慣れないものを常時見るとなると、慣れていない杏寿郎は顔色を悪くし、「幼い頃から当たり前の様に見ていたのか?」と一夏は若干引き気味に言われたことを付け加えておく。

 

 

いつもと変わらない鬼殺業をこなしていた中、ある少年も指導を受けようとしていた。

 

 

 

「これから鍛錬を始める。覚悟は出来ているな、炭治郎」

 

「はい!一夏さん!」

 

傷は完全に癒えた炭治郎は、蝶屋敷の道場にて木刀片手に一夏と向かい合っていた。

 

「まず、始める前にお前の実力を測らせてもらう」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 ペコリと、炭治郎が大きく頭を下げた。

 

 

「これから先、お前には日の呼吸を教える事になる。時間が許す限り、鍛錬、そして呼吸や型の矯正を実践形式で行う。いいな?」

 

一夏は一度息を深く吸った。

 

「任務は、鬼を殺すことよりも、戦場で生き抜くことを第一とする。決して無理はしない事だ。たとえば強力な鬼と相対した場合、死んだらそこで終わりだ。だけど、情報を生きて持ち帰ることができれば、俺達柱や隊士の皆と協力して倒すことができる。逃げる事は決して恥じゃないんだ」

 

「はい!」

 

「よし。では始めよう」

 

 そして、お互い木刀を握り直した。炭治郎は両手で握りしめ、正中線と合わせるように構える。一夏は片手で握ったままの自然体だ。

 

「遠慮は無用、思いっきりこい……今、お前の持てる全ての力を俺に見せてみろ」

 

「はい!」

 

 返事と共に、炭治郎が飛び出す。一夏が透き通る世界で彼の肺を見ると、その呼吸法は水の呼吸だと分かった。

 

飛び出しと同時に放たれたのは水平一閃────

 

 

────全集中 水の呼吸 壱ノ型・水面斬り

 

「……なるほどな」

 

 一夏は小さく頷いた。

 

「え?」

 

気づいた時には、一夏の背後でひっくり返っていた。視界にあるのは道場の天井と一夏の背中だけ……何が起きたのか、まるで解らなかった、斬りこんでいた瞬間には、既に倒れていたのだから。

 

「……炭治郎」

 

「は、はい!すみません(何をされたのか全くわからなかった)!」

 

「いや、謝る必要ない。見事な動きだった。だが、水の呼吸はお前に適応しきっていないみたいだな」

 

「…………はい、解っています。鱗滝さんにも言われました」

 

炭治郎は水の呼吸の適正が決して高くはない。この適正というものは存外重要で、適正と練度が高ければ呼吸に応じた幻影が見えるのだが、低いと何も見えない。

炭治郎は幻影を生み出せるが、義勇や真菰のように呼吸の極みまで至るほどではなかった。

 

「俺の日輪刀は黒刀で、どの呼吸の適正も低くて……」

 

「黒の日輪刀は日の呼吸の適性だと俺は推測している。俺も黒だからな。」

 

「えっ!?そうなんですか?一夏さんの日輪刀は確か…赫かったような」

 

「あれか。まぁ今は置いておこう。と言うか、無限列車の任務の時に杏寿郎が言っていただろ?」

 

「煉獄さんが?……あっ」

炭治郎は無限列車での会話を思い出す

 

『黒刀か、間違いなく日の呼吸だな!』

 

『え、黒色が日の呼吸の…?』

 

『うむ!黒刀の剣士が柱になったのを一夏以外いなかったらしい!当時はどの系統を極めればいいのかも分からなかったからな!先程も言ったが、日の呼吸については一夏に聞くといい!君と同じ黒刀の剣士だからな!』

 

 

 

 

 

 

 

「思い出しました。一夏さんも黒刀の剣士だと、確かにそう言っていました」

 

 

「そう言う事だ。それと炭治郎……一度ヒノカミ神楽を見せてもらってもいいか?」

 

「え、ヒノカミ神楽を、ですか……?」

 

「…ああ」

 

「ヒノカミ神楽は使うと体に負担がかかるんです。今の状態でどのくらい保つか……」

 

「とにかくやってみてくれ、頼む」

 

「…わかりました」

 

炭治郎は再び木刀を構え呼吸を整える。

 

「(あの呼吸は……日の呼吸。やっぱりヒノカミ神楽は日の呼吸で間違いない。これは、円舞か)」

 

ーーヒノカミ神楽・円舞

 

炭治郎は円舞を使い一夏に迫るが、透き通る世界ですぐに対応され、先ほどと同じように受け流された上でひっくり返された。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

「大丈夫か?」

 

「は、はい。やっぱり、一回使うだけでもかなりきつい」

炭治郎はゆっくり呼吸を整える。一夏はこの一瞬で炭治郎の足りない部分を見つける。

 

「(炭治郎は間違いなく日の呼吸に適性はあるが…それに耐える体に出来上がっていない)」

 

「俺は一,二回使うだけでこの有様です……あの、一夏さんは?」

 

「俺は技を半日以上は繰り出し続けることができる」

 

「半日ですか………えっ、半日、以上?」

 

炭治郎は青ざめてしまった。

 

 

「じょ、冗談ですよね?」

 

「事実だ。一日中舞うこともある」

 

「いっ、いっ、いっ、一日中⁉︎」

炭治郎の顔は更に青く染まった。

 

 

「日の呼吸は始まりの呼吸とされている型だ。日の呼吸、ヒノカミ神楽を使った舞、お前も心当たりがあるだろ?」

心当たりはあった。炭治郎の父、竈門炭十郎が舞をしている姿だ。炭治郎は、炭売りの火を使う家庭の長男として生まれ、怪我や災いが起きないよう年の初めに火の神様に舞を捧げていた。

 

 

「はい、竈門家の神楽の舞も日が昇るまで舞を続けていました」

 

「俺の修行時代も長い時間舞を続ける……そんな感じだった。炭治郎、お前は日の呼吸の技をつなげることができるのは知っているか?」

 

「え、繋ぐ?」

 

「日の呼吸は壱から拾弐まで型を繋げることができる。その様子だと……順番を知らないようだな。とりあえずこれを見てくれ」

 

一夏が懐から取り出して床に広げた紙には、日の呼吸の型が順番に書かれていた。

 

壱ノ型 円舞

 

弐ノ型 碧羅の天

 

参ノ型 烈日紅鏡

 

肆ノ型 灼骨炎陽

 

伍ノ型 陽華突

 

陸ノ型 日暈の龍 頭舞い

 

漆ノ型 斜陽転身

 

㭭ノ型 飛輪陽炎

 

玖ノ型 輝輝恩光

 

拾ノ型 火車

 

拾壱ノ型 幻日虹

 

拾弐ノ型 炎舞

 

拾参ノ型 円環

 

 

「あれ……拾参ノ型?俺が知ってるのは炎舞までですけど」

 

「日の呼吸拾参ノ型は円舞から炎舞、二つの『えんぶ』で円環する十二の型全てを連続で行うこで完成する。それが日の呼吸拾参番目の型──円環」

 

 

「…円環」

 

「技を磨く前に……炭治郎、ヒノカミ神楽にお前の水の呼吸を織り混ぜてみたらどうだ?」

 

「え、水の呼吸を?」

 

「ああ、呼吸の併用によっては違いがあるが、中には負担を減らす方法もある。とにかくやってみろ」

 

「はい!わかりました!」

 

そのまま二人は木刀をぶつけ合い、汗を流した末、炭治郎は水の呼吸を併用する事でヒノカミ神楽の負担を格段に減らすことに成功したのだった。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

「今日はここまで、その感覚を忘れないように」

 

「は、はい!今日はありがとうございました!」

炭治郎は汗が流れており、対して一夏は僅かな汗しかかいていなかった。その後、一夏と炭治郎は井戸水で汗を流し、湯浴みを済ませる。

 

そして月が照らす夜に、一夏は音楽を聴きながら縁側で寛いでいた。

 

 

 

「(炭治郎は筋がいい。短い時間で日と水の併用に適応してきている。この調子なら、様子を見て黒式を教えてもいいかもしれないな)」

 

一夏は炭治郎の素質に可能性を感じながら、今後の指導を練る。

 

 

「むぅぅ~~っ」

そんなことを考えていると、テクテクテクッと竹の口枷を咥えた少女が走りながら一夏に近づいてきた。

 

「禰豆子、どうしたんだ?」

 

「ム~~っ」

炭治郎の妹の禰豆子が一夏に駆け寄ってきたのだ。

 

「ムゥ、ムゥ~~っ」

 

「ふふっ、元気がいいな…おいで」

 

「ムー♪」

 

禰豆子は嬉しそうに一夏により、ぽすんと膝の上に収まる。そんな彼女の頭を優しく梳くと気持ちよさそうに目を細める。

 

「ムゥムー♪」

 

もっとやってと催促し、一夏は笑みを浮かべながら頭を撫でる。

 

「二年前が懐かしいな。君の取った行動が、俺の考えを変えた。そして今は、俺達鬼殺隊に新たな風を…確実に吹かせ始めている」

 

「ムー?」

 

炭治郎の家族は無惨の襲撃を受け禰豆子を残して亡くなった。たった一人生き残った禰豆子も無惨の血を与えられたせいで鬼化してしまった。

だが、禰豆子は一夏と義勇の前で、鬼としての欲求を自らの意思で抑え込み、炭治郎を守る行動をとった。鬼の力を強める人肉や血を必要とせず日が当たる場所以外では、人間と同じように生活している。

 

禰豆子は特にカナエからは可愛がられており、姉妹の様に仲がいい。そして禰豆子は一夏にも懐いている。

 

「ムゥゥ~~♪」

 

「あはは、俺の髪を触って楽しいのか?しのぶ達の方が綺麗だろうに」

禰豆子は髪を解いた一夏の長い髪を触りながら楽しそうにしていた。禰豆子から見ると髪の色が兄と同じだと思っているのだろう。

 

「もう良いのか?」

 

「むー!」

 

「うん?どうしたんだ?」

 

突如禰豆子は一夏のスマホに目がつき、指差す。

 

「あっ……これに目がいったか」

 

一夏はスマホを手に取ると、禰豆子が聞こえるように音量を上げ、禰豆子に歌を聞かせるとするとキラキラと目を輝かせ、むーむーと唸る。

 

「聴きたい?」

 

「むー!むー!」

 

「そうか…なら、お兄ちゃんには内緒にするんだぞ?」

 

「ム!」

 

「わかった」と言う感じに禰豆子は頷いたので、一夏は拡張領域にある予備のヘッドホンを取り出し、彼女の頭につけて、聴いていた歌を最初から流す。禰豆子は目を細め、聞いている歌に聞き入っていた。そして、聴いていた歌を聴き終えると、禰豆子は身につけていたヘッドホンを一夏に返す。

 

「ムー!」

 

「はは、気に入ったみたいだな。さっきの曲」

 

すると禰豆子は先程聴いていた曲の鼻歌を歌い始めた。一夏は彼女を抱き抱え、縁側から立ち上がる。

 

「むーむー」

 

「ああ、機会があったら、また聴かせてあげるさ」

 

頭を撫でると、禰豆子はうとうとし始める。一夏の体温が心地よかったのか。一分もせずに整った寝息を立て始める。一夏は笑みを浮かべ、禰豆子の髪を優しく撫で、部屋へと運ぶ。

 

 

寝ている禰豆子を起こさないように静かな足取りでその場を後にした

 

翌日、禰豆子は鼻歌をよく歌う事が多くなった。その歌を聴いた炭治郎は、「凄いな禰豆子!歌が歌えるようになったのか!」と嬌声を上げながら禰豆子を褒めていた。その歌を聞いた善逸は「鼻歌を歌ってる禰豆子ちゃんもカワィィィッ!!」と奇声を上げながら禰豆子を褒めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏から時間がある限り指導を受けてから数ヶ月が経った。一夏の指導のおかげで着実に腕を上げてきた炭治郎は、ヒノカミ神楽の負担を最小限に抑えることができた。これは、そんな炭治郎が、単独任務、更に、盟都玩具店の調査やリョウメンスクナ退治の任務を経て帰ってきた、ある日の出来事である。

 

 

「(疲れた…けど、一夏さんのおかげでだいぶ強くなった気がする。この調子で頑張ろう!)ん?何かあったのかな」

炭治郎は匂いで蝶屋敷の方が騒がしい事に気づいた。

 

 

一方、屋敷内では、俵担ぎにされ、顔を青ざめるアオイの姿があった。彼女を担いだ人物は、鬼殺隊の音柱 宇髄天元である。

 

 

「放してください、…その子はっ……!」

 

「うるせぇな!黙っとけ!!」

 

「ひいいいいっ!!」

 

 

 アオイの反対側には、なほが小脇に抱えられていた。

 

 

「やめてくださぁい!」

 

「……」

 

「はなしてくださあい~!」

 

アオイは、傍にいたカナヲへと手を伸ばす。

 

 

「カッ……カナヲ!」

 

 

 今まで自分の意思で滅多に動けなかったカナヲは、いろんな言葉を巡らせる。

 

 

「(任務、命令、上官、アオイ、なほ、銅貨、柱、命令……銅貨……銅貨を投げて決め……いや、違う!私は…)」

 

心の中で躊躇している中、そんなカナヲの背中を、一夏と炭治郎の言葉が押す。

 

『心のままに』

 

 

 

「カナヲ!」

 

「カナヲさん────っ!」

 

 

「アオイ!なほ!」 

 

遠ざかるアオイ達の姿を見て、カナヲはその場から動き、咄嗟になほの服とアオイの手を掴んだ

 

 

「カナヲ……」

 

「カナヲさん」

 

 

引っ張られたことに気付き、天元が振り返った。

 

 

「地味に引っ張るんじゃねぇよ、離せやその手」

 

「離さない、アオイとなほを離して!」

 

アオイとなほは今まで聞いたことのないカナヲの声に驚く。引っ張るカナヲに、痺れを切らし叫びだす。

 

 

「テメェ、誰に向かって言ってんのかわかってんのか!!柱だぞ俺!!(こいつ、派手に力が強ぇ、胡蝶と織斑の奴に鍛えられただけの事はあるぜ)」

 

 

天元はカナヲの力に驚く中、そんな姿を見たきよ達も動き出す。

 

 

「キャーーーーッ!とっ、突撃ぃーーーー!!」

 

「とつげきぃーーーーっ!!」

 

 

 きよ達も叫ぶと、大男へ飛び付いた。もちろん、彼女達の抵抗に、天元も怒鳴り続ける。

 

 

「ちょっ……てめーら!!いい加減にしやがれ!!」

 

 

ちょうどそこへ、炭治郎が到着した。

 

「女の子に何をしてるんだ!手を離せ!!」

 

と言いつつ、目の前の光景に、炭治郎は困惑した。

 

 

「(いや……群がられている?捕まっ……どっちだ?)」

 

 

 ぽかーんとしてる炭治郎に、カナヲが炭治郎に気づき、きよが叫ぶ。

 

「た、炭治郎⁉︎」

 

「人さらいですぅ~~っ、助けてくださぁい!」

 

 

そんなきよを天元が睨む。

 

 

「この馬鹿ガキ……」

 

「キャーーーーッ!」

 

 

 その瞬間、炭治郎が間合いを詰める。

 

 

頭突きを喰らわせようと振りかぶったが、天元に当たることはなく、きよと共に地面へ落ちた。

 

「大丈夫!?」

 

「はい~~っ!」

 

 

 きよを庇う炭治郎に向かって、屋根へ移動していた天元が口を開く。

 

 

「愚か者、俺は“元忍”の宇髄 天元様だぞ。その界隈では派手に名を馳せた男、てめぇの鼻くそみたいな頭突きを喰らうと思うか」

 

 

 けれど、そんなことは炭治郎達に関係ない。

 

「アオイさんたちを放せ、この人さらいめ!!」

 

「そーよそーよ!」

 

「一体どういうつもりだ!!」

 

「変態!!変態!!変態!!変態!!」

 

 

あまりの言われように、天元は再び切れる。

 

 

「てめーら、コラ!!誰に口利いてんだコラ!!さっきもそこの女にも言ったが俺は上官!!柱だぞ、この野郎!!」

 

 

そんな天元に対して、炭治郎も退かない。

 

 

「お前を柱とは認めない!!むん!!」

 

「いや、むん、じゃねーよ!!お前が認めないから何なんだよ!?こんの下っぱが、脳味噌爆発してんのか!?」

 

 

そのまま天元は、アオイ達を連れていく理由を話す。

 

「俺は任務で女の隊員が要るから、コイツら連れていくんだよ!!継子じゃねぇ奴は胡蝶達の許可とる必要もない!!」

 

 

 そんな天元に対して、きよが叫ぶ。

 

「なほちゃんは隊員じゃないです!!隊服着てないでしょ!!」

 

 

 きよの言葉を聞くや否や、天元はなほを手放した。屋根から落とされたなほを、炭治郎が慌てて助ける。

 

 

「何てことするんだ、人でなし!!」

 

「わーん、落とされましたぁ〜!」

 

けれど、天元は動じず言葉を続ける。

 

 

「とりあえず、コイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇが、こんなのでも一応隊員だしな」

 

 

 その言葉に、アオイの顔が青ざめる。アオイの心のうちを知る炭治郎は全力で止めに入る。

 

 

「人には人の事情があるんだから、無神経につつき回さないで頂きたい!!アオイさんを返せ!!」

 

「ぬるい、ぬるいねぇ。このようなザマで地味にグダグダしているから、鬼殺隊は弱くなっていくんだろうな!」

 

 

 

そんな天元に向かって、炭治郎が叫ぶ。

 

 

「アオイさんの代わりに、俺たちが行く!!」

 

 

天元の左側に善逸、右側に伊之助が立っていた。

 

 

 

 

「今帰った所だが、俺は力が有り余ってる!行ってやってもいいぜ!」

 

 

伊之助は、いつもの調子でビシッと決める。

 

 

「アアア、アオイちゃんを放してもらおうか、たとえアンタが筋肉の化け物でも俺は一歩も ひひひ、退かないぜ」

 

ガクガク震えているが、善逸も志は退かない。

 

「………へぇ、やるってのか?」

 

 

そんな炭治郎達に対して、天元は殺気を放つ。その殺気に対して、炭治郎達も絶対に退かない。そして、この男も────

 

 

「何をやっているんですか…宇髄さん?」

 

「……え?」

 

ガシッ!と天元の頭を掴んだ人物がいた。その手によって強引に振り向かされた天元は顔を青くする。 

 

「よ、よぉ織斑……ど、どうしたよ?」

 

「どうした?それはこちらの台詞です。なんでアオイを抱えているのか、詳しく聞かせてもらえないでしょうか?」

 

 

「一夏さん⁉︎」

 

突然の一夏の登場に炭治郎達は驚いた。天元も殺気が一瞬にして霧消し、冷や汗をかいていた。一夏の表情は笑っているが黒い何が渦巻いていたからだ

 

「とりあえず、アオイをこちらに引き渡してもらっても?」

 

「い、いや…こいつはこれか「アオイを返してください…」…は、はい」

天元からあっさり解放されたアオイは一夏の背に隠れる。

 

「アオイ…大丈夫か?」

 

「は、はい。ありがとうございます、一夏さん」

アオイは安堵し息を吐く。彼女とは真逆に、天元は一夏の表情に冷や汗が止まらなかった。

 

 

「さて、とりあえず説明をお願いしても?さっきなほを投げ捨てていた光景も見えましたが?」

 

「あの、そのぉぉ、任務に必要だったと言いますか、鬼殺隊じゃないのを知らなかったと言いますか……」

 

「カナ姉としのぶの許可は?蝶屋敷はアオイ達がいないと機能しないんです。それを分かっていますか?」

 

「………」

 

「何かいったらどうですか……“派手柱”?」

 

「え、ちょっ、やめっ、ギャアアアアァァァァァァァァァッ!!???」

一夏は笑顔でそのまま手に力を入れ天元の頭を握る。いつぞやの炭治郎と同じく頭から鳴ってはならない音が、悲鳴と共に派手に響く。

 

「「「「(い、痛そー!)」」」」

 

「(お、俺は……一夏さんの脳天締めだけはもう絶対に受けたくない)」

炭治郎以外は宇髄に同情をしていたが、炭治郎に関しては実際食らっている為、目を逸らして怯えていた。

 

 

 

 

 

 

◇ 

 

「ッてて…織斑テメェ、容赦なさすぎだろうが!?派手に頭を潰されるかと思ったぜ」

 

「自業自得じゃないですか…“派手柱”さん」

 

「“音柱”だ!名前すら呼んでくれねぇのかお前は!最近派手にあの姉妹に似てきたなテメェ!」

 

「恐悦至極に存じます」

 

「いや、褒めてねぇよ!」

 

 

「「(一夏/織斑さん、相当怒ってる)」」

 

炭治郎と善逸はそれぞれ持つ五感で、無表情と笑顔に隠された一夏の怒りに気付いていた。最近の一夏は怒る時は無表情か笑顔、どちらかで対応する事がある。

 

炭治郎達は、一夏と天元の歩き出す方へ、後を追うように歩き出した。そして、伊之助が沈黙を破った。

 

 

「で?どこ行くんだ、オッさん」

 

 

伊之助の言葉に、天元は立ち止まる。

 

 

「日本一色と欲に塗れたド派手な場所だ」

 

 

とは言われても、一夏達はぴんと来ない、善逸以外は。

 

 

「「「?」」」

 

「………!」

 

 

そんな炭治郎達の方を、天元は振り向いた。

 

「鬼の棲む、遊郭だよ……」

 

 

「(ゆうかく……?)」

 

一夏の頭の中に、疑問符がいっぱい浮かぶ。天元の言う「遊郭」を一夏は全く知らない。十歳でタイムスリップした為、そこまでの知識はまだなかった。

 

 

「(ふむ……全く分からない)」

考えてもわからない未来人の一夏は、この時代に生まれた善逸の羽織をくいっと引っ張り耳元で呟く。

 

『なぁ、我妻』

 

『?なんすか?』

 

『“ゆうかく”とは何だ?』

 

『ええ⁉︎織斑さん、遊郭知らないんですか⁉︎』

 

『知っているのか?教えてくれないか…』

 

二人でヒソヒソ話していると、天元がギロッと一夏達を睨んできた。

 

 

「なにをごちゃごちゃ話してんだ?いいか?俺は神だ!お前らは塵だ!まずはそれをしっかりと頭に叩き込め!!ねじ込め!!」

 

 

突然の神宣言に、炭治郎達は、目玉が飛び出す勢いで目を見開いた。天元は、気にする様子もなく更に言葉を続ける。

 

 

「俺が犬になれと言ったら犬になり、猿になれと言ったら猿になれ!!猫背で揉み手をしながら、俺への機嫌を常に窺い、全身全霊でへつらうのだ!そしてもう一度言う、俺は神だ!!」

 

 

炭治郎と伊之助は、頭が追い付かず、呆気にとられていた。そんな中、善逸は下劣な物を見るかのような目で天元を見ており、一夏は顔には出さないが内心呆れていた。

 

 

「(やべぇ奴だ……)」

 

「(何が何だかわからない…)」

 

 

そんな中、炭治郎がびしっと手をあげる。一夏は成り行きを見守ることにした。

 

 

「具体的には何を司る神ですか?」

 

炭治郎の言葉に、善逸達は思った。

 

「(とんでもねぇ奴だ……)」

 

「(違う、そうじゃない)」

 

そんな炭治郎に対し、天元は満足げに腕を組み、ニヤリと笑う。

 

 

「いい質問だ、お前は見込みがある」

 

「(アホの質問だよ、見込みなしだろ)」

 

「(まぁ、この人らしいと言えばこの人らしい)」

 

天元はじっと炭治郎達を見る。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

「派手を司る神…祭りの神だ」

 

 

 真面目な顔して話す天元に対して善逸、そして、流石の一夏も呆れた顔を浮かべる。

 

 

「(アホだな、アホを司ってるな、間違いなく)」

 

「(相変わらずですね……派手柱さん)」

 

すると、今度は先程まで黙って聞いていた伊之助が口を開いた。

 

 

「俺は山の王だ、よろしくな祭りの神」

 

「「「……」」」

 

堂々たる挨拶(?)をする伊之助を、炭治郎達がなんとも言えない目で見つめていると、天元が真顔で口を開いた。

 

「何言ってんだお前……気持ち悪い奴だな」

 

天元の言葉に、伊之助は怒り、善逸は目を見開き、一夏はため息を吐く。

 

「(いや、アンタとどっこいどっこいだろ!!引くんだ!?)」

 

「(あなたも人のこと言えないと思いますけど)」

 

そんな事を頭で考えつつ、炭治郎は怒る伊之助をなだめる。

 

 

「伊之助、落ち着け!」

 

「ムキーーーーッ!」

 

「キモイ」

 

「宇髄さん」

 

「ん、何だ織む……ら」

天元が一夏の方に振り向くと、手を開いたり閉じたりしながら構えていた。それを見た天元は顔を青くする。

 

「嘴平を煽らないでください。あなたも人のこと言えませんから」

 

「す、すいません!」

天元は脳天締め(アイアンクロー)を受けたくなかったようで、素直に一夏の言葉に従う。

 

そんな姿を遠目に見ながら、善逸はある結論にたどり着いた。

 

 

「(織斑さんすげぇ、この人を一瞬にして黙らせたよ。けど、伊之助と同じような次元に住んでる奴に対しては、嫌悪感があんのな……)」

 

 

そんな中、ふと疑問が浮かんだ炭治郎は、おずおずと天元に向かって再び手を挙げた。

 

「あの、宇髄さん…質問いいですか?」

 

「なんだ?」

 

「これから、鬼が棲む遊郭に行くといっていましたが、確か女性隊員が必要だって……でも、俺たちは男です。そこはどうするつもりなんですか?」

 

面子は全員男だ。どう頑張っても、女と誤魔化す事はできない。すると、天元は思い出したように口を開いた。

 

「ああ、花街までの道のりの途中に、藤の家があるから、そこで“準備を整える”」

 

「準備?」

 

「付いて来い……」

そう言うと、天元は前を向き、足音一つさせずに、フワッと居なくなった。その一瞬の出来事に、三人組は開いた口が塞がらない。

 

 

「え!?」

 

「消えやがった!!」

 

すると、三人の中で善逸が先に気づいた。

 

 

「あっ、はや!!もうあの距離、胡麻粒みたいになっとる!!」 

 

「え、あの一瞬で!?」

 

 

 これには、負けず嫌いの伊之助でさえ、圧倒されていた。

 

 

「これが祭りの神の力……!」

 

「いや伊之助、あの人は柱の宇髄 天元さんだよ」

 

 

 伊之助に対して、炭治郎は丁寧に説明する。そして、一夏は、

 

「俺も行く。しっかりついてこいよ」

 

「あっ、織斑さん、って!早っ!宇髄さんよりめっちゃ早いんだけど⁉︎二人とも、追わないと、追わないと!!」

善逸は一夏に視線を移すが遅かったようだ。一瞬にして天元に追いついていた。そんなこんなで、炭治郎達は慌てて胡麻粒みたいになった一夏と天元の後ろ姿を追いかけるも、一夏に指導された炭治郎だけが彼らの近くまで走っていた。これを見た伊之助と善逸は驚きを隠せない。

 

「ええっ⁉︎なんであの二人についていけんの⁉︎」

 

「紋次郎に負けてらんねぇ!……猪突猛進!!」

 

二人は慌てて速度を上げ三人を追いかける

 

 

「炭治郎、無理はするなよ」

 

「はい!まだ大丈夫です!」

 

「俺様達の速度について来られるなんざ派手にやるじゃねぇか!だったらド派手にペース上げるぜぇ!」

 

一夏に教えてもらった外来語を挟みながらそう宣言した天元は速度(ペース)を上げた。炭治郎はなんとかついてくる事ができたが、善逸と伊之助二人は目的地にたどり着くと、ばったり膝をつき息を荒げていた。

 

 

 

 

 

 

 

藤の花の家紋の家。

 

 この家の者は、鬼殺隊を無償で手助けしてくれる。

 

一足先に藤の家へと到着した天元は、これから必要になるものを用意するよう、偉そうに伝えていた。

 

 

 

 

善逸達が到着し、部屋でくつろぎ始めた頃、窓際で何かを考えていた天元が突然一夏達の方を見た。

 

 

「遊郭に潜入したら、まず俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」

 

「宇髄さんの奥さんをですか?」

 

「っ!まきをさん達に何かあったんですか!」

 

一夏が三人の安否を心配をしていると、善逸が何故だか怒り始めた。

 

「とんでもねぇ話だ!!」

 

「あ゙あ?」

 

天元は、怒り始めた善逸を睨むが、善逸も一歩も引かない。

 

 

「ふざけないでいただきたい!!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!!」

 

 

 その言葉を聞いた途端、一夏は、急に善逸が怒り出した理由を理解した。

 

 

「(『宇髄さんの“奥さん”を探す』じゃなくて、『宇髄さんの“結婚相手”を探せ』と捉えたか)」

 

宇髄さんは少し杏寿郎と似た所もあるが信頼できる御人だ。

 

「(ちゃんと説明しないとな)」

 

そう思いつつ、善逸を止めに入ろうとする一夏だが、

 

「はぁ?何勘違いしてやがる」

 

「いいや、言わせてもらおう。アンタみたいな奇妙奇天烈な奴はモテないでしょうとも!!だがしかし!!鬼殺隊員である俺たちをアンタ、嫁が欲しいからって……」

 

 

流石にこのぶっ飛んだ言いがかりには固まってしまう。そして、天元の切れやすい堪忍袋の緒がブチ切れた。

 

 

「馬ァ鹿かテメェ!!俺の嫁が遊郭に潜入して、鬼の情報収集に励んでんだよ!!定期連絡が途絶えたから、俺も行くんだっての!」

 

 

流石にまずいと思ったのか、炭治郎も一緒になって善逸をなだめようとする。

 

 しかし、一度そういう風に歯車が回ってしまった善逸には、全く効果がなかった。

 

 

「そういう妄想をしてらっしゃるんでしょ?」

 

「我妻……少し落ち着きなさい」

 

「ヒィッ!す、すいませんでした!」

一夏が善逸の頭に手を置くと、善逸は条件反射かすぐに謝罪をする。

 

「このクソガキが!!これを見てから言いやがれ!」

 

 

「ギャーーッ!」

 

そんな善逸に向かって天元は証拠の手紙を投げつけた。

 

 

「これが鴉経由で届いた手紙だ!」

 

的確に善逸へと投げつけられた手紙…しかし束ねられた手紙の量は一枚や二枚ではなかった。

 

「(こんなにたくさんの手紙が……鬼が遊郭に潜んでいるのは確かだな)」

 

一夏が一枚一枚手紙の内容を読むと、情報や定期連絡の内容がそれぞれしたためられていた。一夏自身も須磨,まきを.雛鶴には任務で事前に調べた情報を提供をしてもらって助けられたこともある。

引っくり返る善逸の横で、天元へ一夏は質問を投げ掛ける。

 

 

「まきをさん達は、かなり長い期間、潜入されてるんですか?」

 

「ああ、だが…連絡が途絶えてしまってな。何かあったのは間違いねぇだろ」

 

「……」

 

「んな、しけたツラすんなって!そう簡単にあいつらがやられるかよ。お前だって知ってるだろうが!あいつらもそれなりに力を身につけてるのはよ」

 

「そう……ですね」

一夏自身も三人からは弟のように結構可愛がられた。不気味な痣がある未来人と知っても普通に接してくれた。一夏もお礼代わりに、くノ一としての腕を上げられるよう三人の訓練に付き合ったこともある。

 

 

「あの、すみません……まきをさん『達』って?」

 

若者達にとって、天元の返事は予想外なものだった。

 

「三人いるからな、嫁」

 

「ええっ⁉︎奥さんが三人もですか⁉︎」

 

 

「おう、因みに織斑の奴は蟲柱の胡蝶と付き合ってんぞ、それも四年間もなぁ」

 

「えっ⁉︎しのぶさんと⁉︎そうだったんですか一夏さん⁉︎」

 

「ちょ!宇髄さん、今それを言う事ですか!」

 

「なんだ、言ってなかったのかお前?」

 

炭治郎は驚きの声を上げる。知らない人にとっては普通の反応だが、それに対して、善逸は再び叫びだす。

 

「三人!?嫁……さ…三!? テメッ…テメェ!!なんで嫁三人もいんだよ、ざっけんなよ!!ましてや織斑さんはしのぶさんと付き合ってる!!?ふざけんなよぉ!」

 

「善逸っ!よすんだ!」

 

炭治郎が叱るより先に、天元の手が善逸の顔面に伸びた。

 

 

「なんか文句あるか?」

 

「「……」」

 

 

天元の夜叉が如き顔を間近で見て、これ以上騒げた者はいない。一夏の場合は聞かれなかったから黙っていただけで、聞かれたらしっかり答える。

 

伊之助ですら、倒れている善逸から目をそらした。そんな気まずい空気を切り替えようと、炭治郎が口を開く。

 

 

「あの…手紙で、来るときは極力目立たぬようにと、何度も念押ししてあるんですが…具体的にどうするんですか?」

 

 

確かに、綺麗な文字で『目立たぬように』と念押しするが如く綴られている。

 

「そりゃまあ変装よ、不本意だが地味にな……おい、織斑」

 

天元は一夏の方を見やった。

 

「はい、なんですか?」

 

「お前は俺と一緒に行動してもらう。残りの野郎三人…お前らには“あること”をして潜入してもらう」

 

「あること…?」

 

ぽかんとする炭治郎達に、天元は言葉を続ける。

 

 

「織斑以外は知らねぇから言うが、俺の嫁は三人とも、優秀な女忍者、くの一だ。花街は、鬼が潜む絶好の場所だと思っていたが、俺が客として潜入した時、鬼の尻尾は掴めなかった」

 

 

「(宇髄さんが掴めないほどの鬼が潜んでいる。十二鬼月を視野に入れた方がいいかもしれないな)」

人に紛れ込む鬼は発見が難しくなる。そのため、柱やそれなりの実力を持っている剣士が出向いて討滅するのが常だ。しかし、今回は、柱の一角を担う天元を始めとした手練れが手を焼いている。つまり、今回の鬼は、十二鬼月…それも上弦の鬼である可能性が高くなるのだ。

 

 

「だからお前らは客よりももっと内側に入ってもらうわけだ……既に怪しい店は三つに絞っているから、お前らはそこで俺の嫁を探して情報を得る」

 

「はい、わかりました」

 

天元の指示に、炭治郎が頷いた。

 

「ときと屋の須磨,荻本屋のまきを,京極屋の雛鶴だ」

 

すると、ずっと黙ったままだった伊之助が口を開く。

 

「嫁、もう死んでんじゃねぇの?」

 

「伊之助!」

 

 

そして再び、炭治郎が怒るより先に、天元が伊之助を仕留めた。

 

 

「………」

 

「はぁ(今のは嘴平が悪い)」

 

 

 炭治郎と一夏が、無言で殴り飛ばされた伊之助を見つめていると、襖が開いた。屋敷の人間が必要な物を揃えて持ってきてくれたのだ。

 

 

 

 

「宇髄さん、これは…大丈夫なんですか?」

 

「ああ、大丈夫だ、問題無い」

 

「嘴平はともかく、こんな風にしなくても良かったんじゃ……」

 

「おい、そりゃどういう意味だ赤羽織ぃ!?」

 

一夏の言葉に、伊之助が突っかかる。

 

 

「それは……」

 

「「……」」

 

察している炭治郎達は無言で目をそらす。

 

 

「馬ァ鹿、逆にこの三人が目立つだろーが……鬼がどんな素性か分からねぇ以上、そのまま潜入すると襲われる危険があるだろ?」

 

「だからって、こんな変な見た目に直さなくても」

 

 

時は数十分前に遡る。

 

 

「よし、変装はこんなもんだろ。後は化粧だけだな、織斑、化粧は任せたぞ」

 

「わかりました。炭治郎、我妻、嘴平、こっちに」

隊服から普段着に着替えた一夏は、化粧をする為、三人を連れて別室に移る。

 

「よし、まずは嘴平からだな。その被り物をとってもらってもいいか?」

 

「ああ、なんでだよ?」

 

「変装には必要ないからな。悪いが外してもらえると助かる」

 

「ちっ、わかったよ。じっとするの苦手だから早くしろよな」

伊之助は渋々と猪の被り物を外す。すると一夏はものすごい速さで猪頭に戻した。

 

「何しやがんだテメェ!?遊んでんのか!?外せっていったのはテメェだろうがコラッ!!」

 

「すまない嘴平。……炭治郎、我妻、確認していいか?嘴平は、男だよな?」

一夏は今まで透き通る世界で顔までは見ていなかった為、伊之助の素顔を初めて見た途端、あまりの美形に驚いたのだ。

 

「はい、顔は女の子寄りなんですけど、正真正銘男です」

 

「中身はかなり残念ですけどね……」

 

「そうか…」

 

「俺の顔に文句あんのか?」

 

「いや、文句はないが…驚いただけだ」

 

一夏はゆっくり被り物を取り、再び伊之助に視線を移す。

 

 

「(嘴平は軽く紅をつけるだけで大丈夫そうだ。他の二人は少しだけ手を入れるか)」

 

そして伊之助に紅を塗った後、炭治郎と善逸の化粧を始める。

 

 

 

 

 

 

 

「おせぇな……織斑のやつ」

天元は自身の着替えを終えた後、化粧を落としてすっぴんの姿となっている。その容姿は一夏と並ぶくらいに美形であった。

 

「すいません、宇髄さん、お待たせしました」

 

「おお、待ってたぜ。んで…三人は」

 

「中々の出来栄えになっています。三人とも、出て来なさい」

部屋に入ってきた三人は美少女と呼ぶにふさわしい姿になっていた。

 

 

「おい織斑…あいつら、さっきの三人だよな?」

 

「はい、炭治郎達ですよ。紅と軽く白粉を差しました、嘴平は紅のみですが……それでも、三人ともいい仕上がりになったと思います」

 

 

「おお〜炭治郎めっちゃ可愛いじゃん!」

 

「善逸も可愛いぞ」

二人はそれぞれの感想をいい、伊之助は部屋にあった菓子をたべている。

 

「(派手に化けすぎだろこの三人!?磨きゃ光る連中だったか……しかしなぁ、目立ちすぎても任務に差し支える。しかもこいつらぽやっとしてやがるからなぁ)」

天元は三人の姿に驚くも、何故か無意識な過保護が発動してしまう。

 

 

「織斑……悪りぃがやり直させてもらうぜ」

 

「……おかしいですか?」

 

「お前らこっちに来い!俺が派手に仕上げてやる」

 

そして天元のメイクによりヘンテコな化粧をされた炭治郎達が誕生した。

 

────────

────────────────

 

 

「んじゃ、行くぞお前ら……」

 

「「おう/はい」」

 

「(こんなんでうまくいくの?織斑さんの化粧の方がもっと上手くいく気がするよ)」

 

「(大丈夫だろうか…これ)」

 

何はともあれ、無事(?)準備を終えた天元達は、藤の家を出る。一夏は一抹の不安を抱きながら花街へと向かったのであった。

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

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