日輪を宿す暁   作:狼ルプス

39 / 66
花魁の鬼

「こうか!? これなら分かるか!?」

 

「(ごめん伊之助、全くわからない)」

 

 

花街にある建物の屋根の上、炭治郎と伊之助は、定期連絡の為に集まっていた。

現在は、ボディランゲージで鬼らしき者に遭遇したことを説明しようとしていた伊之助を炭治郎が何とか落ち着かせようとなだめている途中だ。

 

「そろそろ宇髄さんと一夏さん、それに善逸が来ると思うから……」

 

「こうなんだよ、俺にはわかってんだよッ!!」

 

「うん、うん……」

 

すると、少し離れた場所から、天元の声がした。

 

 

「善逸は来ない」

 

「……」

 

「「!!」」

 

 

 突然の声に、炭治郎と伊之助は慌てて振り返った。

 

 

「(コイツら……やる奴だぜ、音がしねぇ……風が揺らぎすらしなかった……)」

 

改めて柱二人の凄さを見せつけられ、伊之助は感心した。それに対して炭治郎は、天元の言葉に、嫌なものを感じる。

 

 

「善逸が来ないって、どういうことですか?」

 

「お前たちには、悪いことをしたと思ってる……。俺は嫁を助けたいが為に、いくつもの判断を間違えた…善逸は、行方知れずだ、昨夜から連絡が途絶えている」

 

 天元は言葉を続ける。

 

 

「お前らは花街から出ろ、階級が低すぎる…ここにいる鬼が上弦の可能性が高くなった。お前らじゃ対処できない。消息を絶った者は、死んだと見なす……後は俺達二人で動く」

 

「いいえ宇髄さん、俺たちは……!!」

 

 

 炭治郎の言いたいことが分かった天元は、言葉を遮る。

 

 

「恥じるな、生きてる奴が勝ちなんだ……機会を見誤るんじゃない」

 

「待てよオッサン!!」

 

 

伊之助も止めようと言葉を発したが、天元は待つことなく、一夏だけ残し、その場から去ってしまった。

 

 

「「……」」

 

 

 そんな中、炭治郎はしょんぼり顔を浮かべる。

 

 

「俺たちが、一番下の階級だから、信用してもらえなかったのかな?」

 

「俺の階級は庚だぞ。もう上がってる、下から四番目」

 

 

 衝撃の事実に目を丸くする炭治郎を他所に、その証拠を見せようと、伊之助が階級の確認方法を実演してみせる。

 

 

「階級を示せ!」

 

 

 そう言い、拳を握ると、手の甲にズズッと「庚」の文字が浮かび上がった。

 

 

 

言葉と筋肉の膨張によって浮かび上がる“藤花彫り”という特殊な技術を用いた鬼殺隊の印である。

 

 最終選別の後に、説明を受けたのだが、選別合格後、疲労困憊だった炭治郎は説明を聞きそびれていたらしい。

 

「俺はどのくらいなんだろう?」

 

「俺や紋逸と同じじゃねぇの?」

 

「階級を示せ!」

炭治郎もそういい、拳を握るり手の甲に浮かび上がった文字は

 

「「…………」」

炭治郎の浮かび上がった文字を見て、二人は唖然としてしまう。何せ浮かび上がった炭治郎の階級は…

 

 

 

 

 

 

 

「丁」だった

 

 

「おいぃ!どう言う事だ万次郎!!なんでお前が俺より三つ上の階級なんだ⁉︎」

 

「お、落ち着け伊之助!お、俺も知らないよ!なんでこんなに上がっているんだ⁉︎」

 

伊之助は自分より上の階級だったのが納得いかなかったのか、炭治郎の着物を掴み炭治郎を揺らす。

数ヶ月間の間、炭治郎は一夏により鍛えられ、任務先の鬼は難なく討伐出来る様になっていた。実績を重ねていくうちに、知らず知らずに階級も上がっていたのだ。

 

「落ち着け嘴平、任務の頻度もあったかもしれないが、階級が上がったのはそれなりの結果を残している証拠だ。因みにカナヲの階級は乙だ」

 

「上から二番目の階級⁉︎」

カナヲは修行を始めた当初から一夏やしのぶに鍛えられている為、最終選別時の実力はそこらにいる隊士とは比べ物にはならなかった。カナヲは下弦の鬼を倒している為、階級もかなり上がっている。

 

 

 

 

 

「クシュン!」

一方、蝶屋敷にいたカナヲはくしゃみをし、頭にハテナを浮かべた。風邪をひいていないのに何故くしゃみが出たのか分からなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「話を戻すが、炭治郎……お前はどうしたい?」

 

「え?」

 

「宇髄さんは街から出ろ言っていたが…お前はどうしたい?」

 

「俺は……」

一夏は炭治郎に問いかける。炭治郎は少し迷いの顔を浮かべていた。炭治郎自身も天元の言われた事に納得しているところもあった。前回無限列車での任務は上弦の弐と遭遇し、ただ見ることしかできなかった。一夏の指導により腕を上げたからと言って今の自分が通用するかわからなかった。

 

「上官の命令を無視して任務を続行し仲間を助け鬼を斬るのか……それとも指示に従うのか」

炭治郎は少し考え込むが一夏は言葉を続ける。

 

 

「簡単に言えばやるかやらないかの二択だ。お前は……どちらを選ぶ?」

 

そう告げた後、一夏も天元と同じようにその場から消えた。

 

「おい、炭治郎…どうす……」

 

珍しく相手の名前で呼べた伊之助は、炭治郎を見て、すぐに笑みを浮かべる。炭治郎は何かを決意した表情となっていたからだ。

 

「そうだ、やることなんて決まってる!伊之助!夜になったら、すぐに荻本屋へ行く、それまで待っててくれ、一人で動くのは危ない。今日で俺の店も調べ終わるから!」

 

 

 納得がいかない伊之助は、炭治郎の頬を引っ張りながら反論する。

 

 

「なんでだよ!俺んトコに鬼がいるって言っただろ!?今から来いっつーの! 頭悪ィな、テメーはホントに!!」

 

ひがうよ(ちがうよ)

 

「アーーン!?」

 

 

すると今度は炭治郎を、ペムペムと叩く。

 

「夜の間、店の外は宇髄さんが見張っていただろう?イタタタタ、でも善逸達は消えたし、伊之助の店の鬼も、今は姿を隠している……」

 

 

 ペムペムと叩き続ける。

 

 

「イタタ、い、伊之助、ちょ……やめてくれ。建物の中に通路があるんじゃないかと思うんだよ」

 

 

 その言葉を聞いた伊之助の手が止まった。

 

 

「通路?」

 

「そうだ、しかも店に出入りしてないということは、鬼は中で働いている者の可能性が高い。鬼が店で働いていたり、巧妙に人間のふりをしていればしているほど、人を殺すのには慎重になる……バレないように」

 

 

炭治郎の推理に、伊之助も「なるほどぉ」と納得する。

 

 

 

「そうか……殺しの後始末には、手間がかかる……血痕は簡単に消せねぇしな」

 

「ここは夜の街だ。鬼には都合のいいことが多いけど、悪いことだって多い。夜は仕事をしなきゃならない。いないと不審に思われる……俺は、善逸も、宇髄さんの奥さんたちも、皆生きていると思う」

 

 

 伊之助は、炭治郎の言葉を黙って聞いている。

 

 

「そのつもりで行動する。必ず助け出す・・・伊之助にもそのつもりで行動して欲しい。そして、絶対に死なないで欲しい……それでいいか?」

 

 

 真っ直ぐ伊之助を見据えると、

 

 

「…お前が言ったことは全部な…今、俺が言おうとしたことだぜ!!」

 

ニッと笑って応えた。

 

 

 

 

 

◇その夜

 

ときと屋・炭子……いや、炭治郎

 

日が暮れ始めた頃、付き人の少女達に食事を摂るよう促し、一人になった鯉夏の元へ、隊服に着替えた炭治郎が現れた。

 

 

「鯉夏さん。不躾に申し訳ありません。俺はときと屋を出ます。お世話になった間の食事代などを旦那さんたちに渡していただけませんか?」

 

炭治郎はそういって、お金の入った封筒をスッと差し出す。

 

 

「炭ちゃん、その格好は……」

 

「訳あって女性の姿でしたが、俺は男なんです」

 

 

 その言葉を聞いた鯉夏は真顔になる。

 

 

「あ、それは知っているわ、見ればわかるし……声も」

 

「……え?」

 

「男の子だって言うのは最初から分かってたの。何してるのかなって、思ってはいたんだけど・・・」

 

 

 鯉夏の発言に、炭治郎は固まってしまった。

 

「(まさか、バレていたとは…)」

 

けれど鯉夏は、炭治郎を咎めたり詮索したりすることなく、優しい眼差しを向ける。

 

 

「事情があるのよね?須磨ちゃんを心配してるのは本当よね?」

 

「はい!それは勿論です!嘘ではありません!いなくなった人たちは、必ず助け出します!!」

 

 

 炭治郎の言葉に、鯉夏は笑顔を浮かべた。

 

 

「ありがとう、少し安心できたわ……私ね、明日にはこの街を出ていくのよ」

 

 

 遊郭を出ると言うことは、自由になれると言うこと。それには、炭治郎も笑顔を浮かべた。

 

 

「そうなんですか、それは嬉しいことですね!!」

 

「こんな私でも奥さんにしてくれる人がいて……今、本当に幸せなの…でも、だからこそ残していく皆のことが心配で堪らなかった…。嫌な感じがする出来事があっても、私には調べる術すらない……」

 

そんな優しい鯉夏に、炭治郎は言葉をかける。

 

「それは当然です。どうか気にしないで、笑顔でいてください」

 

そんな炭治郎に対して、鯉夏も言葉をかける。

 

 

「…私は、あなたにもいなくなって欲しくないのよ、炭ちゃん…」

 

 

 その言葉を聞いた炭治郎は、言葉の代わりに鯉夏へお辞儀を返し、そのままスッといなくなった。

 

 

 

 けれど、炭治郎が去った直後、鯉夏は再び、背後に人の気配を感じた。

 

 

「何か忘れ物?」

 

「そうよ、忘れないように喰っておかなきゃ」

 

 

鯉夏が振り返ると、鬼の姿へと戻った蕨姫が立っていた。

 

 

「アンタは、今夜までしかいないから、ねぇ鯉夏」

 

 

 

────────

────────────────

 

 

 

 鯉夏と別れた炭治郎が屋根の上へと移動すると、外は既に日が暮れようとしていた。

 

 

「(まずい、殆ど陽が落ちかけてる。早く伊之助の所へ…!)」

 

 

 そう思った矢先の事だった。

 

 

「(……匂いがする、甘い匂いが微かに……。鬼だ!! 鬼の匂いだ、近くにいる!!)」

炭治郎自身が持つ五感で、鬼の気配を察知し、即座に引き返す。

 

 

 

 

──荻本屋・伊之助

 

 

 

「遅いぜ!!もう、日が暮れるのに、来やしねぇぜ!!惣一郎の馬鹿野郎が…俺は動き出す、猪突猛進を胸に!!」

 

 

 そう言うと、足に力を込め、天井に向かって飛ぶ。

 

 

「だーーーーっ!」

 

そのまま勢いで天井を突き破る。すると、天井裏に向かって、伊之助が叫んだ。

 

 

「ねずみ共、刀だ!!」

 

 

 天元の使いである忍獣ムキムキねずみ……特別な訓練を受けており、極めて知能が高い。力も強く、一匹で刀一本持ち上げられる。

 

 

 そんなムキムキねずみ達が、伊之助の刀を持ってきた。炭治郎同様、伊之助も元の姿へと着替え、猪の被り物を装着した。

 

 

「行くぜ、鬼退治!! 猪突猛進!!」

 

 

 

──京極屋

 

 

善逸,雛鶴が行方不明となった京極屋では、店の主人が、亡くなったお三津の着物を手に、呆然としていた。

 

 その背後に、一夏と天元がそっと近づく。

 

 

「鶴と善子はどうした?簡潔に答えろ…問い返すことは許さない」

 

 

 主人の首には、クナイがひたりと当たる。冷や汗が吹き出し、心音がドクドクと脈打つ中、なんとか言葉を紡ぎ出す。

 

 

「ぜ、善子は消えた……雛鶴は病気になって、切見世へ……」

 

 

そのまま一夏は主人の目線を合わせるように尋ねる。

 

「……心当たりのあることを全て話してください。怪しいのは誰ですか?」

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

 

 透き通る世界は不要だった。今の質問に、明らかに呼吸が乱れたのを感じ取った一夏と天元は、更に問いかける。

 

 

「お願いします。そいつを教えてください。俺達が必ず、仇を討ちます。信じてください」

 

その言葉に、お三津の姿が脳裏に浮かぶ。

 

 

「(お三津……)」

 

その言葉は紛れもなく、主人の疑惑が確信に変わるものだった、お三津の死は事故でなく他殺だ、と。

 

 

「蕨姫という花魁だ、日の当たらない、北側の部屋にいる・・・!!」

 

 

「ありがとうございます」

 

その直後、目の前にいた一夏が消え、背後の気配が消えたことも感じ、主人は振り返った。

 

けれど、そこにはいつもの光景が映るだけだった。

 

主人から情報を得た一夏と天元は、迷わず北側の部屋へ向かったが、部屋はもぬけの殻だった。

 

 

「(いない……人を狩りに出ているな。鬼の気配を探りつつ、雛鶴の所へ行こう…まだ生きていれば情報を持っているはずだ。どの道、鬼も夜明けには此処へ戻るはず、俺達の手で必ずカタをつける)」

 

「宇髄さん、急ぎましょう」

 

「ああ、わかってる」

 

 

────────

────────────────

 

 

 

 鬼の気配を察した炭治郎が鯉夏の部屋へ戻ると、左目に“上弦”と刻まれた鬼が、ジロッと睨み付けてきた。

 

 

「鬼狩りの子?来たのね、そぅ、何人いるの? 一人は黄色い頭の醜いガキでしょ?」

 

話ながら、シュルシュルと帯が動く。

 

 

「柱は来てる? もうすぐ来る?アンタは柱じゃないわね、弱そうだものね…柱じゃない奴は要らないのよ、私は年寄りと不細工は喰べないし」

 

 

 そんなことよりも、炭治郎は捕まった鯉夏の状態の事で、頭がいっぱいだった。

 

 

「(体…!! どうなってる、鯉夏さんの体が無い…出血はしてない、血の匂いはしない…)」

 

 

「その人を放せ!!」

 

 

 炭治郎の言葉に、堕姫の表情が変わる。

 

 

「誰に向かって口利いてんだ、お前は」

 

 

帯が一瞬揺れた。途端に、炭治郎の体は向かいの家の屋根へと飛ばされた。しかし炭治郎はなんともなかった様に立ち上がる。

 

 

 

「くっ!(危なかった、なんとか受け身は取れたけど、なんて力だ。今だけで手が痺れてる)」

炭治郎は帯が迫る中、一瞬にして抜刀し攻撃を防いだ。普通の隊士なら致命的なダメージを受けていたが、一夏により鍛えられた炭治郎は帯を難なく防ぎ衝撃を軽減できたのだ。

 

そして炭治郎は色んな思考がぐるぐるする。

 

 

「(落ち着け!!体はちゃんと反応できてる!!そうじゃなかったら、今生きてない……!)」

 

 

 炭治郎は、己を鼓舞するため、前向きに考える。

 

 

「(手足にまだ力が入らないのは、俺が怯えている証拠だ。鬼の武器は帯だ。人間を帯の中に取り込める異能がある…建物の中を探しても探しても、人が通れるような抜け道が無かったわけだ。帯が通れる隙間さえあれば、人を攫える)」

 

 

 すると、炭治郎を飛ばした堕姫が、窓から出てくる。

 

 

「生きてるの、ふぅん…思ったより骨がある。目はいいね、綺麗。目玉だけほじくり出して食べてあげる」

 

 

「(箱は壊れてない。でも次に攻撃を喰らったら、壊れる)」

 

 

自分は無傷で済んだが、禰豆子の入ってる箱は先ほどの攻撃で肩紐が切れてしまっている。この状態で戦うのはいけないと判断した炭治郎は、背負っていた木箱を下ろす。

 

 

「禰豆子、ごめん、肩紐が千切れた、背負って戦えない…箱から出るな、自分の命が危ない時以外は……」

 

炭治郎は禰豆子にそれだけ念を押すと、刀を再び堕姫へ向ける。

 

 

「水の呼吸 肆ノ型・打ち潮・乱!!」

 

炭治郎はヒノカミ神楽ではなく、水の呼吸を使い、四方八方から飛んでくる帯の攻撃を、乱撃で相殺していく。そして、不意をついて、鯉夏の囚われた箇所を、彼女を傷つけないよう斬り落とし、互いに地面へ着地する。

 

 

 

 

 

「……フゥ」

 

「可愛いね、不細工だけど…なんか愛着が湧くな、お前は……それにそこそこ強いみたいね」

 

 

 

 

 炭治郎が一足先に帯鬼と戦う中、

 

 切見世と呼ばれる、客が付かなくなったか、病気になった遊女が送られる、最下層の女郎屋にて、一夏と天元は雛鶴を助け、解毒薬を飲ませていた。

 

 

「天元様、イチ、私には構わず、もう行ってくださいませ…先程の音が聞こえましたでしょう?鬼が暴れています」

 

「本当に大丈夫だな?」

 

「はい、お役に立てず、申し訳ありません…」

 

「謝る必要はないですよ、雛鶴さん」

 

 

天元の妻の一人雛鶴は、蕨姫花魁が鬼だと気づいたが、逆に蕨姫に怪しまれたため、毒を飲み病にかかったふりをして京極屋を出ようと試みた。しかし蕨姫から監視及び殺害目的のため、帯を渡され、どうすることもできないでいたのだ。

 

 

「お前はもう、何もしなくていい…解毒薬が効いたら、吉原を出ろ、わかったな」

 

「……はい」

 

「よし、行くぞ織斑」

 

「了解」

 

それだけ言うと、一夏と天元は鬼の元へと急ぐ。その間にも、どこかで戦闘の音が轟く。

 

 

「(戦闘が始まっている、どこだ…気配を探れ!)」

 

「(この気配は、炭治郎が調査していたときと屋からか。この感じ、上弦の鬼!予感は的中したみたいだ。炭治郎、俺達が来るまで持ち堪えてくれ。それに、意識を集中して探れば、近くに人の気配を多く感じる)」

 

屋根の上を走っていた一夏と天元は、音の出所に気付き、足を止め地面へと降りた。

 

 

「(ここだ!! 地面の下!!)」

 

 

「(……なるほど、道理で見つからなかったわけだ)」

 

 一夏は透き通る世界を使い、天元は地面に耳を当てた。音が反響し、この下が戦場になっていることが分かった。

 

 

それと同時に、空洞や子どもしか通れないような小さな抜け道が無数に存在していることも全て把握できた。

 

「わかってるな?」

 

「勿論」

 

 

天元は、背中に背負う太い二本の日輪刀の柄を握ると布は解け、金色色の刃があらわとなり、一夏は自身の日輪刀を抜剣しその場から飛び上がる。

 

 

「日の呼吸改 陽華突・虚空」

 

「音の呼吸 壱ノ型・轟!!」

 

そして二人は真下へ向かって、火を纏った虚空と爆音の斬撃技を放った。

 

そしてこの音に、すぐさま反応したのは、他でもない堕姫だった。

 

 

 

「喧しいわね、塵虫が…何の音よ?何してるの?どこ?」

 

独り言、否、誰かと話しているようだ。

 

 

「荻本屋の方ね、それに雛鶴…。アンタたち、何人で来たの? 五人?」

 

 

 そんな仲間を売るようなこと、炭治郎がするわけがない。

 

 

「言わない!」

         

「正直に言ったら、命だけは助けてやってもいいのよ?先刻ほんの少しやり合っただけでアンタの刀、刃こぼれしてる…それを打ったのは、碌な刀鍛冶じゃないでしょう」

 

自身の刀を担当している鋼鎧塚を馬鹿にする堕姫に、炭治郎は猛反論する。

 

「違う!この刀を打った人はすごい人だ!!腕の良い刀鍛冶なんだ!!」

 

「じゃあ何で刃こぼれすんだよ、間抜け。あっちでも、こっちでも、ガタガタし始めた…癪に障るから、次でお前を殺す」

 

 

「(使い手が悪いと刃こぼれするんだ。俺のせいだ…俺は、水の呼吸に適した体じゃない。水の呼吸では、鱗滝さんや冨岡さん、真菰さんのようには、なれない。俺の場合、一撃の威力は、どうしてもヒノカミ神楽の方が強い…体に合っていた。でも、その強力さ故に、連発ができなかったけど……今は違う!)」

 

 

炭治郎は、日輪刀の柄を握り直す。

 

「(俺はやれるはずだ…いや、やる!そのために一夏さんと修行してきた、今こそ鍛練の成果を見せる時!)」

 

『心を燃やせ、竈門少年!』

 

 

 

「(負けるな、燃やせ、燃やせ、燃やせ!!心を燃やせ!!)」

 

脳裏に焼き付いた炎柱の言葉を思い出しながら自身を鼓舞する。

 

「ヒノカミ神楽・烈日紅鏡!」

 

 

 炭治郎の放った技は火を纏い、堕姫の帯を切り裂いた。この炭治郎の反撃には、堕姫も目を見開いた。

 

 

「(太刀筋が変わった!?先刻より鋭い、けどなんだ…この感覚は!?)」

 

堕姫は炭治郎からただならぬ何かを感じ始めていた。

 

 

「(何なのこの音?嫌な音ね、呼吸音?)」

 

そんな堕姫へ、炭治郎が猛追する。

 

 

「ヒノカミ神楽・炎舞!」

 

それを、咄嗟に躱す。

 

 

「(炎舞は二連撃だ、一度躱されても、もう一撃!)」

 

「(こいつ、動きがどんどん良くなって…!)」

 

炭治郎は堕姫を切りつけ、切り傷を負わせるも、しかし相手は上弦ゆえ、直ぐに傷は再生する

 

「ヒノカミ神楽改・円舞回天!」

 

炭治郎の動きに多少焦りを感じた堕姫は攻撃する。けれど、帯が炭治郎の頸を刎ねる直前、姿を見失った。

 

「ヒノカミ神楽・幻日紅!」

 

 高速の捻りと回転による躱し特化の舞である幻日紅は、視覚の優れた者ほど、よりくっきりと、その残像を捉えてしまう技である。真上に飛び上がった炭治郎の日輪刀の先から、隙の糸がピンと張る。

 

 

「(隙だ!!隙の糸!!いける)」

 

 

「ヒノカミ神楽・火車!」

 

「調子に乗るんじゃないわよ!」

 

 

 堕姫がそう叫ぶと、隙の糸がプツンと切れてしまった。炭治郎は、その勢いで遠くに飛ばされる。

 

 

「(受け身を取れ、受け身!!)」

 

 

 うまく受け身をとって、地面へ着地する。その隙に炭治郎を殺そうと、堕姫が飛んでくる。その攻撃を炭治郎は躱し、次々と襲い来る攻撃を、受け止める。

 

 

「(帯が強靭な刃のようだ、隙の糸が見えても、すぐに切れてしまう。けど、上弦相手にも手応えありだ!)

 

ヒノカミ神楽に水を織り交ぜる前は、技の跳ね返りが、自身の体を襲っていた。

 

 

それは、蝶屋敷で療養しながら修行をしていた時のこと、いつまで経っても熱が三十八度から下がらない炭治郎を心配したきよが、しのぶに報告しようとした。

 

 そんなきよへ、「修行の時、体温が高いとヒノカミ神楽が連発出来た」ことや「体調自体は好調である」旨を告げ、無理を言って隠してもらった……のだが、すぐに一夏にバレてお叱りを受けたことがあった。

 

けれど、炭治郎の思惑は当たっていた。

 

 

「(戦えてる、上弦の鬼と…ヒノカミ神楽なら、通用するんだ…いや通用するだけじゃ駄目だ!! 勝つんだ!自分の持てる力を全て使って、必ず勝つ!!守るために、命を守るために・・・二度と理不尽に奪わせない!もう二度と、誰も…俺たちと同じ、悲しい思いはさせない!!)」

 

「ふふっ、不細工にしてはやるじゃない」

炭治郎の熱意に、堕姫は微笑む。

 

─少し前に遡って荻本屋・伊之助

 

 

 伊之助が“普段着”に着替えていたため、屋敷内では、少々混乱が起こっていた。

 

 たまたま伊之助の姿を見つけた女性が、悲鳴をあげながら右往左往する。

 

 

「ギャーーーーッ、化け物が、化け物が!!」

 

「アンタ、仕事の支度しなさいよ!」

 

「何? どうしたの?」

 

 

 問いかけられた女性は、真っ青な顔を近づけて、先程の出来事を、必死に伝える。

 

 

「猪の化け物が、あちこち壊しまくってんのよ!」

 

「はぁ!?」

 

 

 勿論、そんな与太話を鵜呑みにする者は少なく、周りは困惑するばかりだった。

 

 

 

 けれど事実、別の場所で、伊之助が天井や床を破壊し、暴れまわっていた。

 

 

「グワハハハ!! 見つけたぞ、鬼の巣に通じる穴を!! ビリビリ感じるぜ、鬼の気配を!!」

 

 

 高笑いののち、穴に向かって飛び込む。

 けれど、子どもくらいしか入れない大きさの穴に、伊之助の体が通るはずもなく、頭が入っただけで、つっかえてしまった。

 

 

「頭しか入らねぇと言うわけだな、ハハハハ!」

 

 

 それにも関わらず、伊之助は何故か笑いながら、体をゴキゴキと鳴らし始める。

 

 

「甘いんだよ、この伊之助様には通用しねぇ!」

 

 

 そう言うと、伊之助は身体中の関節という関節をはずし始めた。

 

 

「俺は、身体中の関節を外せる男!」

 

 

 この光景には、近くにいた女性達も、悲鳴をあげる。

 

 

「つまりは頭さえ入ってしまえば、どこでも行ける!!」

 

そして伊之助は再び、鬼の巣へ通じる穴へ潜り込んだ。

 

「グワハハハ、猪突猛進!! 誰も俺を止められねぇ!!」

 

叫びながら、狭い穴の中を、ひたすら進みまくっていた伊之助は、途中でスポンと抜け、広い地下空洞へと出た。そこには、奇妙な柄をした帯が沢山ぶら下がっている。

 

 

「(人間柄の布? 何だこりゃ)」

 

 

 けれど、伊之助が分からない訳がない。

 

 

「(この感触…生きてる人間だ、女の腹巻きの中に、捕まえた人間を閉じ込めておくのか…)」

 

 

 伊之助は、この中で、とある帯を見つけて固まった。

 

 

「ん?」

 

そこには、鼻に風船を浮かべながら眠っている善逸の姿だった。

 

 

「何してんだ、コイツ…」

 

すると、別の方から、怒声が響いた。

 

 

「お前が何してるんだよ」

 

「!!」

 

「他所様の食糧庫に入りやがって!汚い、汚いね…汚い、臭い、塵虫が!!」

 

 

 グネグネと独りでに動き始めた帯の姿に、流石の伊之助も引いた。

 

 

「(なんだ、このミミズキモッ!!)」

 

そんな気持ち悪い様を、日輪刀で斬り裂く。

 

 

「ぐねぐねぐねぐね、気持ち悪ィんだよ、蚯蚓帯!!グワハハハ!!動きが鈍いぜ、欲張って人間を取り込みすぎてんだ」

 

伊之助は的確に、帯で捕らえられている人を避けて刻んでいく。

 

 

「でっぷり肥えた蚯蚓の攻撃なんぞ、伊之助様には当たりゃしない!!ケツまくって、出直してきな!!」

 

 斬った先から、ズルズルと、閉じ込められた人達が、こぼれ出ていく。

 

伊之助の攻撃に、蚯蚓帯は焦り、本体である堕姫に指示を仰ぐ。

 

 

「(…どうする?)」

 

 

『生かして捕らえろ。そいつは、まきをを捕らえた時に邪魔してきた奴だ。美しかった・・・保存していた人間も、極めて美しい十人以外は、殺しても構わない……ただ殺すより生け捕りは難しいかもしれないが、そこにいる何人か喰って、お前の体を強化しろ』

 

 

「オラアアア!!!」

 

伊之助は蚯蚓帯を斬りつけたが、ぐねぐねとうねり、刃が通らない。

 

「(斬れねぇ!? ぐねるせいか!?)」

 

 

 すると、蚯蚓帯は不意をついて伊之助の日輪刀ごと締め付けようと攻撃をしかけてきた。そんな状況で伊之助は、一旦刀を手放し、攻撃を反らすと、足で刀を蹴りあげ、再び掌におさめた。

 

「獣の呼吸 陸ノ牙・乱杭咬み!!」

 

 

 すると、蚯蚓帯がニヤついた。

 

 

「アタシを斬ったって意味ないわよ、本体じゃないし」

 

「それより、せっかく救えた奴らが疎かだけどいいのかい?」

 

「!?」

 

「アンタにやられた分は、すぐに取り戻せるんだよ!」

 

 

 そう言って、伊之助の注意を反らし、生け捕りしようと試みる。

 

 その策に、まんまと掛かりそうだった伊之助だったが、別の場所からの攻撃に救われることとなる。

 

 

 

──カカカッ

 

 

 

「“蚯蚓帯”とは上手いこと言うもんだ!」

 

「ほんと気持ち悪いです!ほんとその通りです!天元様に言いつけてやります!」

 

 

 そう言うと、蚯蚓帯の攻撃をクナイで相殺していく。

 

 

「あたしたちも加勢するから、頑張りな猪頭!」

 

 

 

 急に加勢に入った二人に、伊之助は目を見開く。

 

 

「誰だお前ら!?」

 

「宇髄の妻です! アタシあんまり戦えないけど、期待しないでくださいね」

 

「須磨ァ!! 弱気なことを言うんじゃない」

 

「だってだって まきをさん、あたしが“味噌っかす”なの、知ってますよね!? すぐ捕まったし無茶ですよ、捕まってる人皆守りきるのは!!私一番に死にそうですもん!!」

 

 

…………一気にびーびー騒がしくなった。

 

そんな須磨に、蚯蚓帯も同意する。

 

 

「そうさ、よくわかってるねぇ。どれから喰おうか」

 

 

 吟味する蚯蚓帯に、伊之助も焦りを見せる。そんな伊之助の背後に、一つの気配を感じた。

 

 

──雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃・六連

 

雷鳴と共に、善逸の雷の連撃技が炸裂する。

 

 

「すげぇ……」

 

そして、善逸の技を初めて見た伊之助が珍しく彼を称賛した。

 

 

「お前、ずっと寝てた方が良いんじゃねぇ?」

 

因みに、善逸の刀を運んだのは、ムキムキねずみ達である。そして、その直後、天井から轟音とと共に、風穴が開いた。

 

 

「な、なに!?」

 

「何だァ…?」

 

 

 土埃が晴れると、その中から一夏と天元が現れた。この気配を、鬼が見間違うはずがない。

 

 

「(柱!)」

 

 

 一夏と天元は、蚯蚓帯を木っ端微塵に斬り裂いた。

 

 

「天元様…一夏!」

 

「まきを!須磨!遅れて悪かったな。こっからはド派手に行くぜ!!」

 

「ええ、帰りましょう、皆んなで」

 

大切な人と弟の後ろ姿を見て、まきをは『助かった』と安堵した瞬間、その気持ちに心が揺らいでいた。

 

「(昔は、こんなんじゃなかったんだけどな・・・死ぬのは嫌じゃなかった、そういう教育を受けてきた忍だから…。特にくノ一なんてのは、どうしたって男の忍に力が劣るんだし、命を懸けるなんて、最低限の努力だった)」

 

 

 だけど、天元様は違った。

 

 

『自分の命の事だけ考えろ。他の何を置いても、まず俺の所へ戻れ。任務遂行より命。こんな生業で言ってることちぐはぐになるが、問題ない。俺が許す』

 

更に、天元様は こう続けた。

 

 

『俺は、派手にハッキリ命の順序を決めている。まず、お前たち三人、次に堅気の人間たち、そして俺だ』

 

『…?』

 

あの時は、三人とも意味が分からなくて、間抜けな顔晒しちゃったね……

 

 

『鬼殺隊である以上、当然のほほんと地味に生きてる一般人も守るが、派手にぶっちゃけると、お前らのが大事だから、死ぬなよ、と……』

 

『(…そんなこと言っていいの? 自分の命なんか優先してたら、大した仕事できないけど、いいの?)』

 

そんな事を言われたのは初めてで、最初はどうしていいか分からなかった。

 

 だからその後、三人で話をした。本当に、天元様の言うように、自分の命を優先しても良いのかと…。

 

 

『いいんじゃない?天元様がそれでいいと言うなら』

 

私の質問に、雛鶴がそう答えた。 

 

『死ぬのが嫌だって、生きていたいと思うのだって、悪いことじゃないはずよ。そういう自分が嫌じゃなければ、それでいいのよ きっと…』

 

 

 それでもまだ、あの頃は戸惑いの方が大きかった──蚯蚓帯を蹴散らした後、天元様はすぐさまあたし達の元へ歩いて来てくれた。そして、労いを込めて、須磨とあたしの頭を軽く叩いてから優しく梳いてくれた。その様子を穏やかな表情を浮かべながら一夏は見守ってくれた…………ありがとう。

 

 

「派手にやってたようだな、流石俺の女房だ!」

 

 

 その声を聞いた瞬間、生きてまた、天元様と再会できたことが、心の底から嬉しかった。

 

 

生きてて良かったと、心から思った……

 




原作のカナヲの違い

原作より心を開いているが、他人事だと、未だ銅貨で物事を決めている事が多い、

最近では耳飾りをつけた一人の男の子が気になっている

髪飾りはカナエと同じ物ではなく、一夏からの贈り物で色は紺色、一夏に撫でられるとホワホワする

苗字を決める際、しのぶとアオイは妹が欲しかったのか、胡蝶か神崎を勧めていたが、カナヲ自身は織斑か栗花落で迷い、結果自ら栗花落の苗字を選んだ。一夏とカナエはその様子を笑顔で見守っていた。


花以外に日の呼吸、壱、玖ノ型、負担はあるが使える。しかし本来の威力には劣る。

日の呼吸で、日と花を織り交ぜた改の緋空斬は使えるが、一夏独自が編み出した改ノ型の為、負担が一番大きく、滅多な事がない限り使わない


一夏の指導により原作よりちょい強め(那田蜘蛛山の時点で、原作の義勇よりちょい下)

新たな花の型を編み出す←(読者からのアイディアの方から来ています)
 

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

  • させる
  • 原作通り
  • 作者に任せる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。