日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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おそらく今年最後の投稿になります。

2020年はコロナで大変なこともありましたが、読者の皆様も、気を抜かずに来年も頑張っていきましょう!


上弦の兄妹鬼

気を失った炭治郎を見て禰豆子はそのまま勢いよく、怒りに身を任せ堕姫の顔面目掛けて足を振り上げる。

 

「(蹴るしか能が無いのか!!)」

 

堕姫は、すぐさま禰豆子の足を斬り落とす。

 

「雑魚鬼が!!」

 

そのまま、禰豆子の胴体を真っ二つに引き裂きながら、遠くへ吹き飛ばした。

 

 

激しい轟音の中、意識を飛ばした炭治郎は、とある夢を見ていた。

 

 

『兄ちゃん。兄ちゃんと姉ちゃんは、よく似てるよな。優しいけど、怒ると怖い。姉ちゃん、昔…小さい子にぶつかって怪我させたガラの悪い大人にさ、謝ってくださいって怒ってさ…その時は周りに大人が大勢いたからよかったけど、怖かった、俺。人のために怒る人は、自分を顧みない所があるから、そのせいで、いつか、大切なものを無くしてしまいそうだから、怖いよ…』

 

 

 

────────

────────────────

 

 

 

 

 炭治郎が夢を見ている間、禰豆子を吹き飛ばした堕姫は、無惨が命じた通り、彼女の息の根を止めるべく、飛ばした方へ降り立った。

 

 

「弱いわね、大して人を喰ってない。なんであの方の支配から外れたのかしら?」

 

 

 壊れた家の瓦礫の中から、禰豆子が這い出ようとする。

 

 

「可哀想に…胴体が泣き別れになってるでしょ、動かない方がいいわよ。アンタみたいな半端者じゃ、それだけの傷、すぐには再生できないだろうし。同じ鬼だもの、もういじめたりしないわ。帯に取り込んで、朝になったら日に当てて殺してあげる…鬼同士の殺し合いなんて時間の無駄だし……」

 

 

 そう言いかけた堕姫は、自らの目を疑った。

 

 

 「ふうっ、ふうっ……!」

 

そこには、足を再生させた禰豆子が、自らの足で立つ姿があったからだ。

 

 

「(は? ちょっと待ってよ、なんなの?足が再生してるんだけど、足どころか…なんで立ってるの?さっき体、切断したわよ…手応えがあったもの。斬ったのは間違いないし…)」」

 

 

 左腕から血が滴り落ちていた禰豆子は、物凄い早さで腕を再生させた。その回復再生の速度は、上弦に匹敵するものであった。

更に、禰豆子の口から、ミシミシと音を立て、口枷が外れた。

 

それを皮切りに、禰豆子の体が、大人の体ほど大きくなり、片角が生え、手足に葉のような紋様が浮かび上がった。この時、堕姫の全身に嫌な感覚が走った。

 

 

「(何、この圧…威圧感、急に変わった!?)」

 

 

「グルルルル!」

 

 

 うなりながら猛進した禰豆子は、再び堕姫へ足を振り上げる。

 

 

「(また蹴り…)」

威圧感に、一瞬怯んだものの、単調な禰豆子の蹴撃に、堕姫は、ニヤリと笑みを浮かべ、禰豆子の足を再び斬り落とす。

 

 

「(馬鹿の一つ覚えね)」

 

そして、堕姫の帯が、禰豆子の頸へと迫る。

 

 

「次は頸よ!!」

 

 

しかし、次の瞬間、堕姫の体は、斬ったはずの禰豆子の足に、地面へ叩きつけられていた。

 

 

「げぅっ…!!」

 

 

 あまりの衝撃と激痛に、顔を歪める。

 

 

「(何で斬り落とした足が、アタシの背中を貫通してるのよ!)」

 

 

禰豆子は、堕姫の背中から、足をズポッと引き抜き、一瞬にして再生させる。

 

 

(一瞬で再生した!?そんな!! だったら、アタシの再生速度を上回ってるじゃない!!)

 

 

 そんな堕姫を見て、禰豆子は笑みを浮かべた。その笑みは、狂気じみており、殺戮を楽しむ鬼と同じ目をしていた。

 

 

 

 

『兄ちゃん、助けて!姉ちゃんが、姉ちゃんじゃなくなる!!』

 

 

その瞬間、意識を失っていた炭治郎は慌てて飛び起きた。

 

 

 

 

 

 

 

「どけ!!ガキ!!」

 

 

 怒りで頭に血が上った堕姫は、禰豆子の手足や頸をバラバラに切断した。

 

 

「(細かく刻んで、帯に取り込んでやる)」

 

 

 さらに細かく刻もうと振り下ろす帯を、禰豆子の斬られた手が受け止める。

 

「(止めた!? 切断した肢体で!?いや、切断できてない、血が固まって…)」

 

堕姫の頸が帯状になった時のように、禰豆子の血が、切断された肢体を繋ぎ止めている。

 

 そして、禰豆子の血を全身に浴びた堕姫の肢体は、激しく燃え上がる。

 

 

「ギャアア!!」

 

堕姫は禰豆子の"血鬼術・爆血”の炎に取り込まれてしまったのだ。

 

 

「(燃えてる…返り血が!! 火…火…!!)」

 

 

 堕姫自身の遠い記憶…火炙りにされた嫌な記憶が呼び起こされる。

 

その間に、まるで磁石で引き寄せられるかのように、手足が体の元へと戻った禰豆子は、火だるまにされて苦しむ堕姫を何度も何度も何度も何度も蹴りつける。

 

 

普段の優しい禰豆子の行動とは思い難い一方的な蹂躙である。そして、禰豆子はそのまま勢いよく堕姫を蹴り飛ばした。

 

壁を突き破り、家の中へと飛ばされた堕姫を追って、禰豆子が壁穴から部屋へ入る。すると、壊れた家の瓦礫で怪我をした女性が、震えながら禰豆子を見ていた。

 

 

「……」

 

「…ひっ!?」

 

目があった途端、禰豆子は、女性目掛けて飛んでいく。

 

 

「ガァアアアッ!」

 

「キャァァァッ!!」

 

 女性を襲おうと手を伸ばした瞬間、後ろから羽交い締めにされ、口に刀の鞘を宛てがわされた。

 

 

「禰豆子…!」

 

 

 間一髪で止めた炭治郎は、今までのように禰豆子をなだめる。

 

 

「だめだ!! 耐えろ!!」

 

「グアアッ!!」

 

「だめだ!! 辛抱するんだ、禰豆子!!」

 

 

 けれど、禰豆子の抵抗は収まらない。必死で抵抗する禰豆子を、炭治郎も負けじと必死で止める。

 

 

「ガゥア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ!!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 

 制御が利かず、炭治郎の頬を禰豆子の爪が裂く。

 

 

「ごめんな、戦わせてごめんっ!」

 

 

 そんな禰豆子に、炭治郎は必死で謝った。

 

 

「(そこら中、禰豆子の血の匂いがする……俺が気を失っている間、どれだけ傷つけられたか分かる)」

 

 

「痛かったろう、苦しいよな…ごめんな、でも大丈夫だ。兄ちゃんが誰も傷つけさせないから、眠るんだ禰豆子、眠って回復するんだ」

 

「ヴアアア゙ッ!」

 

「禰豆子!」

 

 

 なれど、炭治郎の声は、なかなか禰豆子に届かない。羽交い締めにする炭治郎を背負うように立ち上がった。

 

 

「禰豆っ…!」

 

 

その瞬間、禰豆子は真上に飛び上がった。炭治郎もろとも、天井を突き破って、上の部屋へ突き抜けていった。

勿論、上の階にも人が複数人おり『下から誰か突き破って…』と騒ぎになるけれど、禰豆子で手一杯の炭治郎には、どうすることもできない。

 

炭治郎は禰豆子を眠らせんと、懸命に妹へ声をかける。

 

 

「禰豆…子!!眠るんだ!!」

 

「ガゥアアッ!グワア゙ッ!」

 

 

そんな最悪の状況の中、災厄がやってきた。

 

「よくもまぁ、やってくれたわね。そう…血鬼術も使えるの、鬼だけ燃やす奇妙な血鬼術。しかもこれ、なかなか治らないわ…もの凄く癪に障る……もの凄くね……!」

 

 

「(まずい、人がいる!!守らないと、考えろ!考えて動け!!すぐ攻撃がくるぞ、建物ごと切断される!!禰豆子を放して大丈夫か?いや!!…どうする、まず周囲の人を…!)」

 

 

 窮地に立たされた炭治郎……そんな彼の視界に、ド派手な装飾が、飛び込んできた。

 

 

「おい、これ竈門禰豆子じゃねーか!?派手に鬼化が進んでやがる」

 

「っ!?うっ!?」

 

「お館様の前で大見栄切ってたくせに、なんだこの体たらくは?」

 

 

 気配を感じた堕姫が、口を挟む。

 

 

「柱ね、そっちから来たの、手間が省けた…」

 

「うるせぇな、お前と話してねーよ、失せろ。お前、上弦の鬼じゃねぇだろ?弱すぎなんだよ、俺が探っていたのはお前じゃない」

 

 

 そんな堕姫の、視界が傾く。

 

 

「え?」

 

 

 直後、堕姫はぺたりと座り込む。その手に、すとんと頸が落ちた。

 

 これには炭治郎も、思わず目を見開く。

 

 

「(斬った!!頸が落ちてる!!宇髄さんが斬ったのか!?すごい…!!)」

 

驚きと安堵を滲ませる炭治郎に、天元が口を開く。

 

 

「おい、戦いはまだ終わってねぇぞ、妹をどうにかしろ」

 

「グアアッ!!」

 

「禰豆子!」

 

 

 ジタバタと暴れもがく禰豆子……そんな禰豆子を見ていた天元は、

 

「ぐずりだすような馬鹿ガキは、戦いの場に要らねぇ。子供には地味に子守唄でも歌ってやれや」

 

と言い放つ。それと同時に、また暴れ始めた禰豆子は炭治郎ごと二階の窓から、外へ向かって飛び降りる。

 

 

「うぐっ!」

 

 

 禰豆子を抑えるのに精一杯だった炭治郎は、受け身もとれずに背中から落下した。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ…!」

 

「ウグウヴッ…!」

 

「禰豆子…!」

 

 

 まだまだ禰豆子は止まらない。

 今までにない鬼化の様子に、炭治郎も焦る。

 

 

「(だめだ、俺の声が届かない…全然聞いてくれないよ、どうしよう、母さん…)」

 

 

『子守唄でも歌ってやれや』

 天元の言葉が、脳裏に浮かんだ。

 

 

「こんこん…」

 

「ガアァ!!」

 

「小山の、子うさぎは…なぁぜにお耳が、長ぅござる」

 

「グアアッ!」

 

「小さいときに、母さまがっ」

 

 

 禰豆子に抵抗されながらも、何とか子守唄を唄い紡ぐ。

 

 

「長い木の葉を食べたゆえ、そーれでお耳が長うござる…」

 

 

すると、今まで炭治郎の声すら届かなかった禰豆子は、母親に包まれている感覚に囚われた。

 

 

『禰豆子』

 

 

 そんな禰豆子の脳裏に、小さな頃の記憶がよみがえる。

 

 

『こんこん小山の子うさぎは、なぁぜにお目々が赤ぅござる、小さい時に母さまが、赤い木の実を食べたゆえ、そーれでお目々が赤ぅござる』

 

 

 母と山菜採りに行った帰り道、ぐずる弟を寝かす子守唄……その歌を聞いていた禰豆子が、笑顔で母に問いかける。

 

 

『お兄ちゃんのお目々が赤いのは、おなかの中にいた時に、お母さんが赤い木の実を食べたから?』

 

 

 そんな禰豆子の問いかけに、母は、優しく、微笑んだのだ……。

 

「わーーーーん!」

 

「禰豆子…」

 

やっと抵抗しなくなった禰豆子は、母を思い出し、まるで赤子のように、大声で泣き始めた。

 

「うわあーーん!」

 

 

 身体中にあった葉のような紋様が、少しずつ消えていく。そして、体も木箱に入る時と同じ小さな体へ戻った。

 

「すぅ、すぅ、すぅ……」

 

涙を浮かべながら、やっと寝息を立ててくれた禰豆子に、炭治郎は安堵の表情を浮かべた。

 

 

「寝た…母さん、寝たぁ…寝ました、宇髄さん…」

 

 

 

 

 

炭治郎が禰豆子を寝かしつけてる一方で、堕姫は、己を放置し去ろうとしていた天元を、騒ぎながら引き留めていた。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ、どこ行く気!?」

 

 

 天元はチラッと無言で堕姫を見やる。

 

 

「よくもアタシの頸を斬ったわね、ただじゃおかないから!」

 

「まぁだ、ギャアギャア言ってんのか。もうお前に用はねぇよ、地味に死にな」

 

「宇髄さん、お待たせしました」

 

「おお来たか、こっちは終わったところだ。状況は?」

 

「被害は大きいです。建物の一部は切り裂かれて死傷者も出ています。今はまきをさんと須磨さんが、付近の人達の避難誘導をしています」

 

「そうか、ありがとよ」

 

「…………彼女が上弦の鬼ですか?」

 

「いや違うだろ、俺様に呆気なく斬られたんだ。ただ単に気配を隠すのが上手いってだけの鬼だ」

 

「ふざけんじゃないよ!だいたいアンタ、二度も上弦じゃないとか言ったわね!!」

 

「(…おかしい、何故頸を斬られても消滅しないんだ。それにこいつ、脳と心臓が二つも…まさかこの鬼…)」

 

 

一夏は透き通る世界で堕姫の体の中の異様に気づく。その間も天元に噛みつく堕姫に対して、彼は真顔で答える。

 

 

「何度でも派手に言ってやろうか?地味な!お前は!上弦じゃ!ねぇ!」

 

「アタシは上弦の伍よ!!」

 

「だったら、なんで頸斬られてんだよ?弱すぎだろ、脳味噌爆発してんのか?」

 

 

 天元からの罵倒に負けず堕姫は言い返す。

 

 

「アタシはまだ、負けてないからね、上弦なんだから!」

 

「負けてるだろ、一目瞭然に」

 

「アタシ本当に強いのよ。今はまだ伍だけど、これからもっと強くなって…」

 

「説得力ねー」

 

「宇髄さん、流石に可哀想ですからやめてください。それにこの鬼が言ってるのは事実で「うわーーーーん!」……え?」

 

 

 

天元の言いぐさに、ついに堕姫が泣き始めた。

 

「(…泣いた)」

 

これには、一夏と天元もギョッとする。

 

 

「本当にアタシは上弦の伍だもん、本当だもん!数字だって貰ったんだから!アタシ凄いんだからァッ!」

 

「(なんでだろう…すごく悪いことした気分になるな……)」

 

泣き喚く堕姫を見ながら、一夏は少しかわいそうと思い、天元は困惑する。それに対し一夏は心臓と脳が動くのを見て警戒体制に入る。

 

 

「(ギャン泣きじゃねぇか、嘘だろ?いやいやいや、それよりコイツ、いつまで喋ってんだ?)」

 

「宇髄さん、構えてください。あなたが狙っていた鬼が出ますよ……いるんだろう、いつでもこい」

 

「はぁ?それってどう言う…」

 

 

「死ね!!死ね!!みんな死ね!!うわああああっ、頸斬られたぁ、頸斬られちゃったぁ…お兄ちゃあああん!!」

 

 

 一夏は日輪刀を抜く。堕姫がそう叫んだ瞬間、堕姫の体から、もう一体ナニカが出てきた。

 

 

「うぅううん…」

 

 

 今までに無かった気配に、天元は咄嗟に日輪刀を振るうも、虚空を斬るだけに終わった。

 

 天元から距離を取った“お兄ちゃん”と呼ばれた鬼は、堕姫の傍にしゃがみこんで、優しくあやす。

 

 

「泣いたってしょうがねぇからなぁ。頸くらい、自分でくっつけろよなぁ」

 

そう言って、堕姫の頭を撫でながら頸をつける。

 

 

「おめぇは本当に頭が足りねぇなぁ…」

 

 

 そんな二人を、天元が冷静に分析する。

 

 

「(頸を斬り落としたのに死なない…織斑は気づいていたみてぇだが、背中から出てきたもう一体は何だ!?反射速度がさっきの女の鬼と比じゃねぇ)」

 

「(やはりもう一人いたか)」

 

「顔は火傷かぁ? これなぁぁ、大事にしろ、顔はなぁ…せっかく可愛い顔に生まれてきたんだから」

 

ごしごし擦って火傷を再生させる。

 

「何、呑気にしてんだテメェらは」

 

「っ!宇髄さん、だめだ!」

 

 

そんな鬼に向かって、一夏の静止を聞かず天元は再び刃を振るう。しかし、もう一体の鬼は天元の攻撃を受け止め反撃に出てきた。かろうじて、天元はそれを防げたが……

 

 

「へぇ、やるなぁあ…攻撃止めたなぁあ。殺す気で斬ったけどなぁぁ、いいなあお前、いいなあ…」

 

先程の攻撃で天元の装飾がバラバラと落ちる。一夏との手合わせにより動体視力も鍛えられていた為、天元は兄鬼の一撃を受けても無傷で済んだようだ。

  

 

兄鬼は、じとっと天元と一夏を見る。

 

 

「お前いいなぁあ、その顔いいなぁあ、肌もいいなぁ、お前はシミも痣も傷もねぇんだな。それに比べてお前は痣があるんだなぁ…ひひっ!愛着が湧くぜ」

 

「「……」」

 

「肉付きもいいなぁ、俺は太れねぇんだよなぁ。上背もあるなぁ、縦寸が六尺は優に越えてるなぁ…女にも嘸かし持て囃されるんだろうなぁあ」

 

 

 そう言いながら兄鬼は、自分を掻き毟りながら天元を恨めしそうに見る。

 

 

「妬ましいなぁ、妬ましいなぁあ、死んでくれねぇかなぁ…そりゃあもう苦しい死に方でなぁあ!生きたまま生皮剥がれたり、腹を掻っ捌かれたり、それからなぁ…」

 

 傷を再生させた堕姫は、兄鬼に告げ口する。

 

「お兄ちゃん、コイツだけじゃないのよ、まだいるの!! アタシを灼いた奴らも殺してよ絶対!!」

 

 

 堕姫は、わんわん泣きながら、訴える。

 

 

「アタシ一生懸命やってるのに……凄く頑張ってたのよ一人で……それなのに、みんなで邪魔してアタシをいじめたの!! よってたかって いじめたのぉお!!」

 

「そうだなあ、そうだなあ、そりゃあ許せねぇぜ…俺の可愛い妹が、足りねぇ頭で一生懸命やってるのを、いじめるような奴らは皆殺しだ。取り立てるぜ、俺はなぁ…やられた分は必ず取り立てる。死ぬ時ぐるぐる巡らせろ、俺の名は妓夫太郎だからなあ!!」

 

 

 そう言うと、手に持っていた鎌を投げ飛ばす。その鎌は屋根をも突き破り、外へ放たれる。

 

 その凄まじい音に、禰豆子を木箱へ運ぼうとしていた炭治郎は、思わず立ち止まり、空を見上げた。

 

 

「っ!?(な、何だあれは、鎌か?)」

 

 

 鎌はある程度まで飛ぶと、物凄い勢いで回転しながら、今度は屋敷の方へと逆戻りしていく。

 

 

「(鎌が回転して戻っていく!さっきの帯鬼とは武器が違う、どういうことだ、新手の鬼か?宇髄さんと一夏さんは…俺も、加勢に行かないと!!)」

 

 

 そんな焦る炭治郎の耳に、安心する声が聞こえてきた。

 

 

「俺が来たぞコラァ!!御到着じゃボケェ!!頼りにしろ、俺をォォ!!」

 

「伊之助!! 善逸…は、寝てるのか!?」

 

すると、伊之助と眠っている善逸が駆けつけた。

 

 

 

「そうだ、宇髄さんを加勢してくれ、頼む!!」

 

「任せて安心しとけコラァ、大暴れしてやるよ、この伊之助様がド派手にな!!」←影響を受けやすい男

 

 

 けれど、炭治郎を落ち着かせるのに効果は十分だった。

 

 

「すまない、俺は禰豆子を箱に戻してくる!少しの間だけ許してくれ!」

 

「許す」

 

「ありがとう伊之助!」

 

それを見た炭治郎も走り出した。

 

炭治郎が禰豆子を箱に戻しに行っている間、一夏と天元は一般人を庇いつつ、妓夫太郎の攻撃を受け流していた。

 

 

「妬ましいなぁあ、結局、痣持ちもなんだかんだいい男じゃねぇかよなぁあ、人間庇ってなぁあ、格好つけてなぁあ、いいなぁ。そいつらにとって、お前らは命の恩人だよなあ、さぞや好かれて感謝されることだろうなあ」

 

 

「(…こういう言い回しをする人は身内にもいるとはいえ、キツいな、これは。)」

 

ネチネチと話す妓夫太郎に一夏は、蛇柱の伊黒を思い浮かべた。それを意に介するでもなく、天元は真顔で答えた。

 

 

「まぁな、俺は派手で華やかな色男だし当然だろ、女房も三人…しかもな、お前が嘲笑った痣持ち様も恋人(イロ)持ちだぜえ?それもかなりの女だぜぇ」

 

「えっ!?宇髄さん!それは今言うことじゃ…」

 

 

すると、妓夫太郎の目の色が変わった。そして再び自身を掻き毟りだす。天元としては、忍の極意の一つ、喜怒哀楽そして恐怖を操り、相手の隙を生み出す五車の術、その中の“怒車の術”のつもりであった。

 

「はぁ?はぁ?!はぁ!? ふざけるなよなぁ!! なぁぁぁ!! 許せねぇなぁぁ!!」

 

 

ーー 血鬼術・飛び血鎌

 

 

 天元目掛けて無数の斬撃が飛んでくる。ある意味、逆効果だったようだ。

 

 

「(薄い刃のような血の斬撃、そしてこの数!!まずい、俺の技じゃ庇いながら捌ききれねぇ)」

周りには一般人もおり、守りながら戦っている。その為、あまり激しく動くことはできなかった。この時、一夏は日輪刀を鞘に納刀する。

 

「………」

 

ーー日の呼吸黒式 肆ノ型・日影

 

 

「(っ⁉︎あの痣持ち…俺の血鬼術を全てかき消しやがったぁ。そうかぁ…あのお方が警戒していた耳飾りの剣士はこいつかぁ)」

 

 

一夏は妓夫太郎の攻撃を全て無力化すると、天元は瞬時にとある行動に出た。

 

この爆発音には、妓夫太郎も更に驚く。

 

「!!(何だ、爆ぜたぞ? 一階へ落ちたなぁ)」

 

 

 床が抜け、天元達は守っていた一般人ごと真下へと降下する。

 

 

「早く逃げろ!! 身を隠せ!!」

 

「はっ、はい!」

 

 

 男の人は、女の人を連れ、その場から急いで立ち去ろうとするが、それを妓夫太郎は許さない。

 

 

「逃がさねぇからなぁ。曲がれ、血鎌」

 

 

 妓夫太郎がそう言うと、血の斬撃が、方向転換し、天元達の方へ向かっていく。

 

 

「日の呼吸改・円舞螺旋撃」

 

円舞螺旋撃……その一撃は灼熱の竜巻を発生させ、鎌を防ぐと同時に妓夫太郎に斬り傷を与えた。

 

しかし一夏は、

 

「(相変わらず妙な違和感を感じる!これから先、七つの型も必要になる。早く解決策を見つけないと)」

 

内心何処か納得していない様子だった。

 

 

「っ!いてぇなあ…ホントに再生しねぇ。お前…誰かと重なって見えてムカつくなぁ!」

 

火の斬撃を受け再生する様子はなく、一夏を見る妓夫太郎の表情は汚物を見る顔に変わった。そんな中でも一夏は冷静に状況を把握していく。

 

「(兄鬼の方は斬撃自体操れるみたいだな。敵に当たってはじけるまで動く血の斬撃…おそらく毒もふくまれている。あの兄妹、妹の方は宇髄さんが頸を斬っても死ななかった…。おそらく一人斬ったとしても倒せない。倒す方法は、本体の兄鬼の…頸を斬れば一緒に消滅、もしくは…)」

 

 

一夏が兄妹鬼を倒す方策を考えている間、天元は懐から火薬玉を取り出した。

 

 

「(かなりまずい状況だが、どの道やるしかねぇ、あの音からして上の階の人間は殆ど逃げてる…)」

 

 

 そして、天元は玉を取り出し、一夏にアイコンタクトで何をするか伝えた。一夏が頷くと、その玉を妓夫太郎の方へ投げ飛ばした瞬間、一夏は退避し、素早く日輪刀で斬りつけた。

玉は爆発し、外から天元達の様子を窺っていた伊之助は、慌てて飛び退いた。その後すぐに二階へと戻った天元と一夏の前の光景に、ニヤリと笑った。

 

 

「…まぁ、一筋縄にはいかねぇわなぁ」

 

「相手は上弦です。気を抜かないでください。今回ばかりは面倒な相手ですよ」

 

 

「俺たちは二人で一つだからなぁ」

 

爆煙が晴れると、そこには帯で爆破を防いだ鬼兄妹の姿。

 

「(二人で一つ?やはりこの鬼…)」

 

「お前達違うなぁ、今まで殺した柱と違う」

 

 

一夏が考えていると、妓夫太郎が、突然、天元と一夏に向かってこう言った。

 

 

 その言葉の意味が分からず、天元はキョトンとする。そんな天元に、妓夫太郎はこう続ける。

 

 

「お前らは生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ、選ばれた才能だなぁ、妬ましいなぁ、一刻も早く死んでもらいてぇなぁ」

 

「…才能?」

 

「………」

 

その言葉に、一夏は無言で、天元は鼻で笑った。

 

 

「ハッ、俺に才能なんてもんが、あるように見えるのか?俺程度でそう見えるなら、テメェの人生幸せだなぁ!何百年生きていようが、こんな所に閉じ込もってりゃあ、世間知らずのままでも仕方ねぇのか」

 

「……」

 

「この国はな、広いんだぜ?凄ェ奴らがウヨウヨしてる…得体の知れねぇ奴もいる!刀を握って二月で柱になるような奴もいる。選別後に俺より年下で、テメェらより格上の上弦を無傷で倒した奴がいる」

 

そう言いながら、天元は妓夫太郎を睨む。

 

 

「俺達が選ばれてる?ふざけんじゃねぇ。俺の手のひらから、今までどれだけの命が零れたと思ってんだ!?」

 

天元の脳裏に、杏寿郎の姿が映し出される。

 

「(そう、俺は煉獄や織斑のようにはできねぇ)」

 

そんな天元に対し、妓夫太郎は納得いかない顔をする。

 

 

「ぐぬぅう…だったら、どう説明する?お前がまだ死んでない理由はなんだ? 俺の血鎌は猛毒がある、こいつを喰らえばお前は死ぬんだよぉ!!」

 

 

 その言葉に、天元は言い返す。

 

 

「情報ありがとよ、俺は忍の家系なんだよ、耐性つけてるから毒は効かねぇ」

 

天元の言葉には、堕姫が反論した。

 

 

「忍なんて江戸の頃には絶えてるでしょ、嘘つくんじゃないわよ」

 

「(嘘じゃねぇよ、忍は存在する。姉弟は九人いた。十五になるまでで七人死んだ。一族が衰退していく焦りから、親父は取り憑かれたように、厳しい訓練を俺たちに強いた。生き残ったのは、俺と俺の二つ下の弟のみ…そして弟は、親父の複写だ。親父と同じ考え、同じ言動、部下は駒、妻は跡継ぎを産むためなら死んでもいい、本人の意志は尊重しない、ひたすら無機質。俺は、あんな人間になりたくない)」

 

「宇髄さん…」

 

 

堕姫の言葉を、天元は頭で否定した。一夏自身も天元達の事情はあらかた聞いている。

 

『つらいね天元、君の選んだ道は。自分を形成する、幼少期に植え込まれた価値観を否定しながら、戦いの場に身を置き続けるのは、苦しいことだ。様々な矛盾や葛藤を抱えながら君は、君たちは、それでも前向きに戦ってくれるんだね…人の命を守るために。ありがとう、君は素晴らしい子だ』

 

 

「(俺の方こそ感謝したい、お館様、貴方には。命は懸けて当然、全てのことはできて当然、矛盾や葛藤を抱える者は、愚かな弱者…ずっとそんな環境でしたから、それに…こいつのおかげで…少なからず俺も未来を見ることができたからな)」

 

天元は無意識に隣にいる一夏を見る。初めて会った時の印象は「地味な奴」だった。未来から来た人間だと到底信じられなかった、到底今の時代では作れない代物(スマホ)を見るまでは。

合同任務があった際、一夏の使う日の呼吸の技は、天元にとって派手を通り越していた。その一太刀は美しくまるで本当の神がいるかの様な剣舞だった。

そんな一夏は『そんな大層な事ではないです』と一点張り、一度任務でまきを達が負傷した際も三人は一夏に救われたこともあり、その後一夏は的確な応急処置で治療をしていた。

三人にも一夏が未来人である事はその後に話したが、まきを達は受け入れ、まるで弟のように可愛がっていた。その時の一夏は14で思春期でもあった為か、表情の変化は少なかったが恥ずかしそうにしていた。

 

天元は未来の時代の事を聞いたり、未来の日本で当たり前のように使われている外来語を教えてもらったりした。「未来に鬼はいない」と知り、天元も少なからず鬼がいなくなったその先の人生について考えるようになった。

 

 

そんな中、天元の変化に気づいたのは、他でもなく妓夫太郎だった。

 

 

「ひひっ、ひひひっ、何ダァ?お前怖いのかぁ?俺達の前で虚勢張って、みっともねぇなぁあ、ひひっ」

 

 

 そんな妓夫太郎に、天元は笑って答える。

 

 

「いいや怖かねぇ…むしろ気分がいいぜ。踊ってやろうか。絶好調で天丼百杯食えるわ!ド派手に行こうや…… “イチ”!!」

 

「ふっ、はい… “天”さん!」

 

 

二人は互いに名で呼び合い、同時に攻撃に転じる。すぐに帯で応戦する堕姫の帯を一夏は赫刀で斬り、天元は堕姫の腹へ蹴りを喰らわす。それを見た妓夫太郎が鎌を振り、堕姫もすぐに帯の攻撃で猛追する。

 

 

「俺の妹を蹴んじゃねぇよなあ」

 

「この糞野郎!!」

 

 

 そんな妓夫太郎達へ、先ほどの火薬玉を投げる。咄嗟に気づいた妓夫太郎は、寸前で躱せたが、堕姫の帯は、火薬玉に触れてしまった。

 

 

 

ドドドンッ!と、凄まじい勢いで爆発する。なんとか回避出来た堕姫は再生を始めるが

 

「月の呼吸 壱ノ型・闇月・宵の宮」

 

一夏は青い斬撃を放つと、堕姫の頸がまた飛び、悲鳴が上がった。

 

 

「ギャッ!」

 

天元は、そのまま妓夫太郎の頸へと日輪刀を伸ばす。妓夫太郎は、そんな天元の攻撃を躱しながら分析する。

 

 

 

「(特殊な火薬玉だなぁ、鬼の体を傷つける威力。斬撃の僅かな摩擦で爆ぜる…気づかねぇで斬っちまって、喰らっちまったな…すぐ攻撃喰らうからなぁ、アイツは。それにこの感じ…なんであいつが壱の奴の技使ってやがるんだぁ)」

 

 

 妓夫太郎は一夏の技に、十二鬼月最強の鬼を思い浮かべるが、避けたはずの日輪刀が、すぐそばにあることに気づき、目を見開いた。

 

 

「(刀身が伸びっ…)」

 

妓夫太郎は、更にその先を見て驚いた。

 

 

「(刃先を持ってやがる!!どういう握力してやがる!?)」

 

 

 二刀の天元の日輪刀は、柄が鎖で繋がってるため、それを利用し、指先で刃先を持ち、刀身の距離を伸ばしたのだが、あと少しのところで妓夫太郎に気づかれ、躱されてしまった。

 

   

「(やはり単独で斬るだけじゃ駄目なのか、さっき兄鬼が言っていた二人で一つ…もしかして、この二人の頸を同時に斬らないといけないのか)」

 

一夏は二人を倒す方法を推測しながら考えていたが、堕姫は赫刀で斬り落とされた頭を持つ。

 

「うううう…痛い!!また頸斬られた!!糞野郎!!糞野郎!!絶対許さない!!それよりも…なんであんたが “黒死牟”の技を使ってるのよ⁉︎」

 

「っ⁉︎こ…くし、ぼう?」

 

一夏はその名前に激しく反応し、堕姫は自身の頸を付けながら喚く。

 

 

「悔しい、悔しい、なんてアタシばっかり頸斬ら「お前今なんて言った?」…っ⁉︎」

 

「知っているのか、黒死牟を…」

今の一夏から幻視する程の何かが溢れ出ており、堕姫は冷や汗が背筋に流れる。

 

「(な、何よこいつ…気配が変わって、殺気?威圧?なんなのよ…こいつぅ⁉︎)」

 

「知っているのか…黒死牟の居場所を」

 

一夏は縁壱の記憶で、兄である継国巌勝を思い出している。記憶で多く出たのは、特にうたと、兄と過ごした時間が多かったからだ。

 

 

「黒死牟は……何処にいる?」

一夏は縁壱の兄が鬼になった事も記憶で知っており、鬼の名前も知っている。

 

「教えるわけがないでしょ!あの男と会ってどうするつもりよ!」

すると一瞬にして一夏の威圧が鎮まった。

 

「……わからない」

 

「……………は?」

 

「俺は、別にその鬼が憎いわけじゃない。けど、会わなければならないんだ。そうしなければならない、気がする…」

 

「(なによ、なんなのよ…こいつは⁉︎)」

 

 ぞわりと、堕姫の背筋に冷たいものが走った。解らない。この男は何を言っているのだろう。会わなければならない?

 

「っ……!」

 

 喉がひきつるのを自覚する。背後に下がろうとするが、一夏の瞳が突き刺さり、それをさせてくれない。その瞳が言っている。

 

「なんなのよ、お前は……!」

 

 何一つ、堕姫は一夏を理解できなかった

 

「……鬼殺隊の柱だ。頼む、黒死牟の…… “兄上”の居場所を、教えてくれないか…?」

 

「兄上?何言ってんのよお前?ふざけるのも大概にしな!!あんたはあのお方ですら警戒している人間!!教えるわけないでしょ!お前はここで死ね!!」

 

堕姫は辺りを覆い尽くす程の帯を一夏に向けて放つ。

 

「……そうか」

 

一夏は小さく頷き、

 

「では……もういい」

 

ーー月の呼吸 我流ノ型・無月一刀

 

堕姫は勝ちを確信したと思ったら、チンッ、とまるで刀を鞘に納めるような音が聞こえた。それと同時に、全ての帯が斬り裂かれていた。

 

「(え…今、あいつ何したの?反応すらできなかった)」

 

一夏は紅蓮に染まった日輪刀を振り抜いていたのだ。一振りの居合で帯を斬られた堕姫は、何をされたか分からず呆然としていた。

 

「生憎、俺は女だからと言って容赦はしない…覚悟していろ…悪鬼」

 

その表情は「無」、一夏が完全に目の前にいる鬼を敵として捉え、赫い日輪刀を堕姫に向けて言い放った。





良いお年を!

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

  • させる
  • 原作通り
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