日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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終わりと始まり

「いやあああ!死なないでぇ!死なないでくださぁぁい天元様あ~~!せっかく生き残ったのに!せっかく勝ったのに!!やだやだあ!!」

 

 

 戦いは終わったが、払った代償は大きかった。毒に蝕まれた天元の身体は出血も酷く、須磨はだだっ子のように咽び泣く。

 

「鬼の毒なんてどうしたら良いんですか!?解毒薬が効かないよぉ…ひどいです神様、ひどい!!」

 

もう長くないと悟った天元が、口を開く。

 

「最期に言い残すことがある、イチにも伝えてくれ、俺は今までの人生……」

 

「天元様死なせたら、あたしもう、神様に手をあわせられません!!」

 

 

 辞世の句は、泣きわめく須磨にかき消された。

 

 

「絶対に許さないですからぁ!!!」

 

「ちょっと黙んなさいよ、天元様が喋ってるでしょうが!」

 

 

 須磨を止めるため、まきをが口を開くものの、騒ぎは酷くなり、終息しない。

 

「どっちも静かにしてよ…!」

 

雛鶴がなだめるも、二人には届かない。

 

 

「口に石詰めてやる、このバカ女!!」

 

「うわあああ、まきをさんがいじめるうううう゛オ゛エ゛ッ?!ホントに石入れたぁ!!ギャアアアッ!!!」

 

 

 天元は薄れゆく意識の中で後悔した。

 

 

「(嘘だろ? 何も言い残せずに地味に死ぬのか俺?毒で舌も回らなくなってきたんだが、どうしてくれんだ…言い残せる余裕あったのにマジかよ?派手に終ノ型決めて、イチとド派手な技決めて、派手に別れを告げて、華々しく散ろうって覚悟決めてたのによぉ……ああ…チクショウ…花畑が見えてきやがった……すまねぇ、愛しき女たちよ!!!)」

 

そんな騒ぎの中、天元の体に触れ、血鬼術を”天元へと放った”者あり 。愛する亭主が火だるまになり、三等分の嫁達は慌て出す。

 

 

「ぎゃあああああっ⁉︎何するんですか⁉︎誰ですかあなた?!いくらなんでも早いです、火葬なんて、まだ死んでないのに焼くなんて!!」

 

 

 須磨達がぎゃあぎゃあ喚くも、その“焼かれた”はずの天元が止めに入った。

 

 

「ちょっと待て、こりゃ一体どういうことだ?毒が、消えた……!?」

 

 

 その言葉に、須磨達は一斉に天元へ飛び付いた。そこへ、遅れてやってきた炭治郎が声をかける。

 

 

「禰豆子の血鬼術が、俺と伊之助の毒を燃やして飛ばしたんだと思います、俺にもよく分からないのですが…傷までは治らないので、もう動かないでください…御無事で良かったです」

 

 

 ぽかんとしながら、天元も返事をする。

 

 

「こんなことって有り得るのかよ、混乱するぜ…だが、煉獄が認めたのも納得だわ」

 

 

 「動かないで」と言った炭治郎本人は、どこかへ行こうとするので、天元が止める。

 

 

「いやいや、お前も動くなよ、死ぬぞ?」

 

「俺は鬼の頸を探します。確認するまでは、まだ安心できない」

 

 

「それはイチが確認しに行った。だからテメェも隠が来るまでおとなしく待機してろ……また蝶屋敷で胡蝶(おに)が出るぞ」

 

 

「わっ……わかりました」

 

「(竈門の妹のおかげで助かったが、俺も派手に危なかったわ、一瞬花畑が見えたぜ)」

 

「(血の回収をしようと思ってたけど、一夏さんに任せよう)」

 

炭治郎はしのぶに叱られた時のことを思い出したのか、顔を青くし禰豆子に背負ってもらいながらもその場で待機した。

一夏と炭治郎は珠世の依頼を受けている為、炭治郎は鬼の消滅を確認するのと同時に血の回収に向かったのだと判断した。

 

 

しかし天元は知らなかった、本当の地獄がここから始まることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし、血の回収はこれで大丈夫だ。後は……」

 

 

天元が復活する少し前、彼の指示で鬼兄妹の首を探していた一夏は、途中で鬼の血溜まりを見つけ、上弦の鬼の採血に成功した。

 

 

 

一夏が気配を辿っていくと、言い争う声が聞こえてきた。

 

 

「なんで助けてくれなかったの!?」

 

「二人の柱を相手してたんだぞ!!ましてやあのお方が警戒していた耳飾りの剣士もいたんだぞ!!」

 

「だから何よ!?」

 

 

「(喧嘩、か?)」

 

一夏はしばらく様子を見守っているが、二人の兄妹喧嘩は止まない。

 

 

「そもそもお前は、何もしてなかったんだから、柱にトドメくらい刺しておけよ!」

 

「じゃあ、そういう風に操作すれば良かったじゃないアタシを!それなのに何もしなかった!!油断した!!!」

 

「うるせぇんだよ、仮にも上弦と名乗るんならなぁ、手負いの下っぱ三匹くらい一人で倒せ馬鹿!!」

 

 

 兄の言葉にカチンときた堕姫は、売り言葉に買い言葉で……

 

 

「……アンタみたいに醜い奴が、アタシの兄妹なわけないわ!」

 

 

 言い出したら止まらない、止められない。思っていなくても、嫌な言葉がどんどん溢れてくる。

 

 それを妓夫太郎も、黙って聞いてはいられない。そして、醜い言い争いは泥沼と化す。

 

 

「出来損ないはお前だろうが!?弱くてなんの取り柄もなくて、お前みたいな奴を庇ってきた事が心底悔やまれるぜ。お前さえいなけりゃ、俺の人生もっと違ってた、お前さえいなけりゃなあ!!」

 

 

 兄の言葉に、堕姫はボロボロと涙を溢す。止める術はないのだろうか。

 

 

「お前なんて、生まれてこな……」

 

 

 その言葉を、一夏が止めた。

 

「その先は言ったらダメだ。本当は、そんな事思ってない、全部嘘の筈だ。俺も血の繋がった家族が姉一人だけだ。だから、君たちの気持ちも、少しはわかるつもりだよ。仲良くしよう…この世でたった二人の兄妹なんだろ?君たちのしたことは誰も許してくれない。殺してきたたくさんの人に、恨まれ憎まれて罵倒され、味方してくれる人なんていない。だからせめて二人は、お互いを罵り合ったら駄目だ。二人にも悲しい過去が、人間と決別したいことがあり、人間と共存する道は有り得なかったんだろう……だけど、君達は鬼であり兄妹だ、その絆が本物だってのもわかる。だからせめて……最期まで笑い合ってくれ」

 

一夏の瞳からは慈悲の念が汲み取れた。

 

「変な奴、なんで……私達に、そんな顔できるのよ……」

 

「正直、兄に甘えてる君が羨ましかった。俺は姉に甘えられない環境で育った。この痣のせいで周りからは汚物を見られるような視線を当たり前のように向けられていた。数え切れないほどの罵声を浴びたよ。」 『織斑の汚物』,『なんでお前みたいな奴が存在しているの?』,『千冬様の存在の邪魔』,『忌み子』………「……もしかしたら、君達と同じように人を信じられなかったかもしれない。でも、少なからず俺を理解してくれる人達がいたから、人を信じようと思えたんだ……今では、俺には勿体無いくらい、かけがえのないものがたくさん増えたんだ」

 

そして、一夏の言葉に、堕姫は涙を流しながら一夏に笑みを浮かべた後、

 

「そっか、お前、お兄ちゃんと……似てるとこあるんだ。私達も、そんなみちが……あったのかなぁ、お兄、ちゃん、ごめん……なさい、酷いこと……言って、ごめん…なさ」

 

 

先程の言葉を撤回しながら、後悔しながら、堕姫は崩れて消えた。

 

 

「梅!!」

 

その瞬間、妓夫太郎は全てを思い出した。

 

妹の名前は堕姫ではなく、梅だったと。それも、母親の病名から付けられた名前であることも。

 

 

「お、オレ……梅に……なんてことを……」

 

「大丈夫だ。兄妹なんだろ?兄妹なら、喧嘩くらい心配ない。『喧嘩するほど仲がいい』とも言うからな、何度でもやり直せる。いくら仲がいいとはいえ、喧嘩も偶にはするものさ」

 

一夏がそう呟く。そして妓夫太郎が思い出すのは、人間だった頃、『梅』と過ごした日々だ。

 

 

『お兄ちゃん……寒い……』

 

『俺たちは二人なら最強だ、寒いのも、腹ペコなのも、全然へっちゃら。約束する、ずっと一緒だ、絶対離れない。ほら…もう、何も怖くないだろ?』

 

「……そうだと、いいなぁ、なあ、痣柱…いや、織斑のイチさんだったか?冥土の土産に、ダンナの名前聞かせてくんねぇかなぁ」

 

「織斑一夏、君と同じ…生まれつき痣もちの人間さ」

 

「おり、むら、いちか、織斑一夏か……ははっ、やっぱ愛着が湧くなぁ…いい男なのに、いい男過ぎて気持ちが良すぎらぁな!まぁ、せいぜい死なねぇよう気をつけるんだなぁ、“一夏のダンナ”」

 

妓夫太郎は、両瞳から涙を流していたが、声は穏やかだった。妓夫太郎は、妹の後を追うように消滅する。

 

 

「…もし…生まれ変わることができたら、いつか未来で会おう」

 

 

一夏は夜空に向け、告げる。

 

ザァァア。

 

 

その時、ほんの少しだけ風が吹き、一夏の髪と耳飾りが揺れる。そして小さな何かが一夏の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

『『ありがとう』』

 

その夜風はまるで二人が感謝の言葉を伝えているように感じた。

 

 

 

 

遊郭での戦いが、終わりを告げた時でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上弦の伍の討伐を終え、宇髄夫妻、意識を失い隠に背負われた炭治郎,禰豆子,善逸,伊之助は蝶屋敷に向かう。

 

 

一夏は一度、藤の屋敷に戻った。理由は上弦の血を珠世の元に届ける為だ。猫の茶々丸に血の入った短剣を渡すと、茶々丸は姿を消し、珠世の元に戻っていった。

 

そして一夏は、そのまま朝まで藤の屋敷で休み、蝶屋敷へと帰路を急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいッ⁉︎…こっ、これは…あの時の!?」

蝶屋敷に戻ると、任務時にふと感じた邪気を放つドス黒いオーラが屋敷内を充満していた。そして出迎えてくれたのはカナエと真菰、そして蜜璃の三人だった。

 

「お、お帰りなさい、一夏」

 

「任務…お疲れ様、一夏」

 

「こ、こんにちわ一夏君」 

 

 

「た、ただいま。あの、これは一体…、それになんで蜜璃さんと真菰が…」

三人はかなり疲れている様子だった。一夏は意を決してこの充満している邪な気配について問うた。

 

「あの、このドス黒い邪気は…もしかして」

 

「うん、一夏の予想してる通りよ」

 

「ご、ごめんね一夏君…」

 

「私達も踏ん張って説得はしたんだけど、治る気配もなくって」

 

 

「…俺、しのぶに何かしたのか?」

しのぶが怒る時は一夏自身も基本自覚はしていたが、今回ばかりはしのぶを怒らせる要因に心当たりがなかった。

 

 

「実は……」

 

 

 

 

 

◇時は数日前

 

一夏達が遊郭に向かった翌日の事である。蝶屋敷ではある人物により邪気が充満していた。

カナエとカナヲ、薬をもらいに来た真菰と、様子を見にきた蜜璃、四人は、それを発している存在の部屋の前に立っていた。

 

「カナヲは悪くないのよ、だから気にしないでいいのよ?」

 

「…けど、私がしのぶ姉さんに兄さん達が向かった先について話したから……」

 

「確かに気持ちもわからなくはないけど…流石にこればかりは異常よ……」

 

「カナエさんに事情を聞いて状況はわかったけど、しのぶちゃん……大丈夫かしら?」

 

良くも悪くもこれは言う機会を間違えただけ。「遊郭に行く」といってもそこで遊郭本来の姿を堪能してくる一夏の姿を全く想像出来ないカナエと蜜璃、真菰は、しのぶが異常な程苛立っていることに驚いている。

一夏は遊郭へ遊びに向かったのでは無く、音柱の宇髄天元と一緒に遊郭の任務調査へ出向いただけのことだ。

 

「(一夏に限って、しのぶ以外の女性とあんな事やそんな事はしないだろうけど……)」

 

「(一夏君に限って浮気するような子じゃないのは直ぐにわかる。一夏君はしのぶちゃんに一途だから…絶対にそんな事はない…)」

 

 

 

一夏がこの時代に来た時から、二人の関係を見守っていたカナエは知っている。一夏としのぶの関係は、周りから見ておしどり夫婦と見えるくらい仲がいい。

 

蜜璃は杏寿郎の紹介で一夏と二人で話した際、悩みを聞いてくれたりと、胡蝶家の事を話すと、表情が一変して笑顔で話してくれた。特にしのぶの事を話した時の一夏の表情はまた違った。

 

しのぶ以外の女性との反応の差は歴然で、蝶屋敷の少女達の場合は家族愛に近い。カナヲやアオイ、三人娘達にとっては兄のような存在、一夏は蝶屋敷の太陽的な存在なのだ。

 

 

「(一夏の場合、昔あったものが一夏の時代じゃなくなってるって言うし、遊郭自体も聞いたことがないかもしれないわね)」

 

「とにかくカナエさん、しのぶをまず説得しないことには流石にまずいですよ」

 

「真菰ちゃんの言う通りですよカナエさん!一夏君は絶対に浮気するような男子じゃないですから!」

 

「そ、そうね、蜜璃ちゃん、真菰ちゃん。しのぶをなんとか説得しましょう。カナヲ、私達に任せてアオイを手伝ってあげて」

 

カナヲは「うん」と返事をしアオイの元に向かう。それを見届けたカナエが襖を開けると、部屋の奥にある作業台の前にしのぶは立っていた。どうやら鬼に有効な毒の研究をしているらしく、試験管の中の毒々しい色をした液体をクルクルと回していた。

 

「あら、 姉さん、蜜璃さんに真菰?どうしたの三人共?」

 

「え、っと、しのぶ…あのね」

 

「昨日から苛々してた事を聞きにきたのかしら? だとしたらごめんなさいね二人共。けど大丈夫よ、落ち着いてきたから」

 

 

しのぶは笑顔で告げるが、目は笑っていないし、邪気が治まる気配は全くない。「どこが?」と言いたい性分をなんとか真菰は抑える。しのぶの周囲は昨日から邪気が充満しており、カナヲとアオイ、三人娘達はカナエと一緒に寝るほど怖がる始末だ。

 

 「しのぶちゃん、今回はいつもの毒にしては違う気がするけど、新しい藤の毒かしら?」

 

蜜璃が話題を変え、しのぶの手に持つ試験管の液体を指差して問いかけると、彼女はそれを見ながら問いに答える。

 

「違います。これは主に痺れ効果を発揮する薬です。揮発性にするか悩んでるんだけど、三人はどうかしら?」

 

真菰とカナエ、蜜璃はしのぶの言った事を整理する。まず違うと答えた時点で鬼に使うつもりは無い。そしてわざわざ揮発性にするかを考えている。

 

「しのぶ、ハッキリ言うわよ」

真菰は、早めに釘を刺しておこうと決めた。今回ばかりは、暴走の一歩手前だ。

 

「一夏が遊郭で女性と逢瀬を楽しむなんて全く無いから、物騒な考えは止めよう」

 

「真菰ちゃんの言う通りよしのぶ、一夏は偶然任務先が遊郭になっただけで遊びに行ったわけじゃないわ」

 

 

その言葉にしのぶは折れることなく常に笑顔を浮かべカナエ達に告げる。

 

「何を言ってるの二人とも? 私は一夏が遊郭で女性と逢瀬をする事に苛立ってる訳では無いの。ゼッタイニネ」

 

「「…ひっ!」」

カナエと蜜璃はしのぶの最後の方の言葉に恐怖を覚えた。今までのしのぶからはあり得ないほどの冷たく低い声だったのだ。

 

「(うん。コレは、もう無理だ……一夏に任せるしか手がない、一夏、早く帰ってきて……!)」

 

真菰は諦めた。よって、一夏が帰ってくるまで、蝶屋敷の乙女達は邪気が充満した世界で過ごす羽目になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一夏、あなた、今回の任務の行き先は?」

 

「?遊郭に潜んでいる鬼の調査、発見し次第討伐…」

 

「一夏、遊郭がどんなところか知ってる?」

 

「最初は天さん達に説明されただけでよくわからなかっ………そう言うことか」

一夏は理解した。天元や善逸に説明された際、遊郭はいわば現代で言うキャバクラみたいな所と考えていた。「おそらくしのぶは俺がしのぶ以外の女性と絡んでいると考えてしまったのだろう」と。

 

「わかった、なんとかしてみる。遊郭を知らなかったとはいえ、連絡しなかった俺にも責任があるか「おかえりなさぁい、イ・チ・カ」…っ!!!???」

 

一夏は背筋が凍る感覚に襲われ、後ろを振り向くと、満面の笑みのしのぶが一夏を出迎えていた。しかしその眼は笑っているようで笑っておらず、一夏は無表情のまま、冷や汗がどんどん流れる。

 

「た、ただいま…しのぶ?」

 

「おかえりなさい、イ・チ・カ」

 

「その、しのぶ……え、笑顔が怖くないか?」

 

いつもと同じような笑顔を浮かべているようで、その笑顔の裏に見え隠れする黒いナニカが溢れ出ていた。

 

「そんな事ないわよ、ねぇ、姉さん、蜜璃さんに真菰?」

 

「わ、私、患者の診察に行ってくるわねっ!」

 

「わ、私達は任務に!行こっ!真菰ちゃん!」

 

「は、はい!」

 

 

 

逃げ出すカナ姉と蜜璃さん、真菰をしのぶは止める事なく、笑顔のまま俺に迫ってくる。

 

「一夏、任務お疲れ様。楽しかったかしら?」

 

「な、何を言っているんだ…俺はただ」

 

 

「部屋でお話聞くわ?」

 

蝶屋敷の廊下からしのぶの自室へと場所を移すことになった。俺は覚悟を決めしのぶについて行く。

 

そして、しのぶの部屋に入ったその直後、俺はしのぶを背後から抱きしめた。俺としのぶは身長差があり、俺の顔はしのぶの肩に置くことができる。

 

しのぶは俺の手に触れてくれるが、目を合わせてはくれない。その体は僅かに震えており、その目は少し潤んでいるようにも見える。

 

 「……一夏は、私のこと、好きなんでしょ?」

 

「当たり前だろ…」

 

「なんで…何も言ってくれなかったのよ?」

 

「ごめん。そこは俺も軽率だった。知らなかったとはいえ、連絡しなかった俺にも責任がある。本当にごめん、しのぶ」

 

一夏は更に強くしのぶを抱きしめる。すると屋敷内を充満していた邪気がみるみる浄化されていく。

 

 

「馬鹿、連絡してくれるだけでもよかったのに、私、一夏が他の女性と……」

 

しのぶを悲しませてしまった。しのぶの彼氏として、やってはいけないことをしてしまった。

 

「今度からそう言う場所に任務に行く際は連絡する。けど、忘れないでほしい、俺はどんな事があろうとも…しのぶ、君しか見ていないと」

 

「………一夏」

 

 その姿をみて、愛おしさが溢れてくる。今度はしのぶが正面から俺を抱きしめた。華奢な体だけれど、柔らかく暖かい。とても落ち着く。そして俺もしのぶの背に手を回し抱きしめる。

 

「ごめんな…しのぶ、」

 

「私も…ごめんなさい、こんなめんどくさい女で。大好き、一夏」

 

 

お互いに見つめ合い、二人は唇を重ねた。

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

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