「そうか…俺が寝てた間にそんな事があったのか」
「ええ、私たちはなんとか岩を動かす事に成功して認めてもらえたの…」
「…あの人に大岩を動かせなんて言われた時は信じられなかったわよ。私達に出来るわけがないって思ってたけど、時間をかけて考えたら岩を動かすなんて簡単だったわ」
一夏は現在、胡蝶姉妹から、寝ている間に起こった事の些細の説明を受けていた。一夏は鬼を倒した後、前触れなく地面へ倒れ込んだという。二人が揺さぶるも反応は全くなく、それと同時に、一人の男性が現れたらしい。その人物こそ、あの時、縁壱が教えてくれた鬼殺隊の剣士だったようだ。
胡蝶姉妹は、その後、事後処理に追われることになった。胡蝶夫婦の葬儀を執り行わなければならなかったのだ。一夏は意識がなかった為、葬儀に参加はできなかった。そして一夏が目覚めたら、胡蝶夫婦のお墓参りに行くことなどを話していたらしい。
「南無、異常はないようだな」
「悲鳴嶼さん」
カナエが悲鳴嶼と呼んだ人に一夏が視線を向けると、大きな数珠を持った大男が立っていた。その体格たるや日本人離れしており、“南無阿弥陀仏”と書かれた羽織も異彩を放っている。
「(改めて見ると大きいな……二メートルは余裕で超えてる。明治,大正にもいたんだな…二メートル越えの人)」
一夏の時代でも知る限り、最高で180くらいだが、二メートル超の身長がある日本人は少なく、流石の巨体に驚くのも仕方なかった。
「はい、この通り異常はありません」
「うむ、突然の変化に二人が戸惑うのも無理はなかろう」
二人は悲鳴嶼に目覚めた後、一夏の変化を伝えたらしい。彼は盲目であるが、視覚以外の感覚が非常に優れていると言う。
「それで…今後俺はどうなるんですか?」
「二人は話し合った末、鬼殺隊の道を選び、与えた試練も乗り越えた。後は、君が目覚めるのを待ち、どうするのか聞くのみだ。君はどうする…少年?」
胡蝶姉妹が一夏の顔を見やると、複雑そうな表情をしていた。
「正直言って、二人の選択肢に反対の意もありますが…、俺は二人の決めたことを止めるつもりはありません。この二人に、俺が何かを強いる権利はありません。俺も、目覚める前からとっくに決めています…二人と同じ道を行くことを」
「……そうか」
悲鳴嶼は一言そう言った。一夏から、とても子供とは思えない何かが宿っていたのを悲鳴嶼は感じ取ったのだ。
「君の決意はわかった。こちらに来るといい」
悲鳴嶼は家から出ると、一夏達も彼の後を追う。
悲鳴嶼は、外の大岩へ近づき、片手を置いた。
「君に与える試練は簡単。君は一人でこの大岩をその刀で斬ること、この岩を斬り裂く事ができれば、私は君を認めよう」
「え…………」
悲鳴嶼行冥は淡々と告げた。その言葉に、しのぶは戸惑いの反応を見せるも、すぐに気丈さを取りもどす
「何を言っているの?バカじゃないんですか⁉︎そんなこと出来るわけないでしょ!!私達の岩を押すよりも難易度が高いじゃない!!誰が出来るのよ、そんなこと!」
「さ、流石に私もしのぶと同意見です。その刀でそんな大岩…斬れるわけが…」
一般人である二人の意見も当然の反応だ。彼より大きい大岩を刀で斬るなど合格をさせるつもりがないと思うのも当然のことだった。
「悲鳴嶼さん…本当にこの大岩を斬るだけでいいんですね?」
「……ああ」
一夏の問いに答えると、悲鳴嶼は胡蝶姉妹へと顔を向ける。
「な、なによ」
「出来なければ誰かが死ぬ。守るべき者や、大切な人を殺される。鬼はそんな生やさしい存在ではない。そんな状況で生温い言い訳は許されない。出来なくても、やらなければならない。力が及ばずとも、何を犠牲にしようとも、己のすべてを賭してやり遂げろ」
辛辣かつ重厚な言葉に、姉妹は気圧された。
「しのぶ、カナ姉…悲鳴嶼さんの言う通りだ。鬼殺隊はそんな生やさしい組織じゃない。課せられた試練と壁を乗り越えなければ…守るものも…守れない」
「一夏、あなたまさか…本気で…」
「い、一夏……」
一夏は刀を手に取り大岩の前に立つ。悲鳴嶼から渡された刀の柄を握ると抜刀する。
「(岩を斬るか…俺の時代にいた時は、これよりも小さい岩を木刀で斬っていたっけ…)」
一夏は過去を振り返りながら深く呼吸を行う。その様子を感じ取った悲鳴嶼は動揺していた。
「(この感じは…全集中の呼吸!二人から話を聞いてまさかとは思ってはいたが…)」
胡蝶家に駆けつけた時にはすでに手遅れであり二人の犠牲が出ていた。そして声のする方へ駆けつけると、姉妹がひとりの少年へ懸命に呼びかけていた。そして近くには鬼と思われる存在がいたが、既に頸を断ち斬られ消滅している最中だった。少年は武器らしきものを持っていなかったが、二人は刀を持って化け物を倒したと言っていた。しかし、普通の刀ではまず鬼は倒せない。状況から見て日輪刀で鬼を倒していたのは確定的に明らかだった。
一夏の方は刀を上段に構えていた。
「(この技なら、この岩を斬るにはうってつけだ)」
一夏は目を瞑り、無となる。そして一夏は刃を岩の方へ向け、
「日の呼吸黒式 壱ノ型・零日白夜」
黒い炎の一撃を振り下ろす。
「黒式」とは、一夏が日の呼吸の技を独自に改良した縁壱すら知らない一夏独自の派生。日の呼吸の技をさらに洗練させ、あらゆる技全てが一撃必殺級の威力を兼ね備えている。その技は、赤い太陽よりも黒い太陽といった表現に近い。この呼吸は日の呼吸の技の幅を増やしたと言っていい。
そして静かな一太刀により、噴煙が起こり、胡蝶姉妹は手で目を覆った。そして、噴煙が晴れると、信じらない光景があった。
「う、うそ」
「大岩を…刀で」
大岩は奥が見えるくらい綺麗に斬れていた。その斬撃は地面をも切り裂いていた。胡蝶姉妹は一夏がもともと運動神経が並外れていたのはわかっていたが、まさか大岩を一太刀で斬るとは予想外だったのだ。
「嗚呼、見事だ」
悲鳴嶼の瞳から涙が溢れ出ていた。悲鳴嶼は一夏の美麗の一太刀に感服していた。
「これでいいですか…悲鳴嶼さん」
「…ああ、見事だ」
悲鳴嶼は頬を緩ませる。
「私は、君も認めよう、織斑一夏」
「ありがとうございます」
その言葉に喜びの声が上がった姉妹は一夏に抱きつく。そして一夏達は鬼殺隊への道を歩む。
◇
「とりあえず…ここまでだな、二人とも、体にお気をつけて」
「うん、そっちもね。一夏、決して無茶はしないで」
「いや、無茶はするつもりは……」
「……私達を逃すために独りで鬼を押さえつけたのは誰でしたっけ?」
「はは……(何も言えない)」
あの大岩を斬り裂いて二日後、一夏は胡蝶姉妹と共に、胡蝶夫婦のお墓参りに来ていた。これから一夏と姉妹は別々に鍛えられる為、離れ離れになるのだ。
「一夏は、煉獄さんって“柱”の元に行くんだよね?」
「ああ、この刀の持ち主に返さないといけないし、出来ればその人からも教えも請うつもりだ。出来なかったら独自に鍛えるつもりだ。頭の中には知識もあるからな」
「一夏の言っていた、縁壱って人よね?」
一夏は拡張領域から抜き身の赫い刀を取り出し、しのぶ達に返答する。鬼殺隊関係者とわかり、この刀も鬼殺隊の使う刀と知り、悲鳴嶼に刀のことを伝えると、鬼殺隊の柱である炎柱の物だとわかった。
縁壱に関しては姉妹に事情を説明し、納得してもらったものの、しばらくの間心配をされた、主に頭の。
「…今度一夏に会えるのは鬼殺隊員になってからかな……結構かかりそうだね」
「悲鳴嶼さんが言うには、修業期間は長ければ数年。そしてその後に最終選別……合格率はかなり低いみたい」
「ああ、けど…決めたからにはやるしかないだろ」
「一夏、もし元の時代に帰ったなんて聞いたら、許さないんだから」
「…ああ約束だ、絶対に二人のところに帰ってくる」
一夏は姉妹へ誓った。その言葉を聞いた途端、カナエは二人を抱きしめた。そして暫く抱きしめた後、ゆっくり優しく手を離す。
「ありがとう。カナ姉、しのぶ、行ってくる」
「うん、いってらっしゃい…一夏」
一夏は姉妹に背を向け歩き出す。しばらく彼の背を見つめると、しのぶが突然一夏の元へ走り出す
「一夏!」
「?しのぶ、どうし…」
ーーチュ
しのぶが一夏の手を握り、自身の顔を彼の頬に近づけ、口付けをする。頬の柔らかい感触に一夏は呆然とし、遠くで見守っていたカナエは笑顔で「あらあら、うふふ」と嬉しそうに笑っていた。
「し、しのぶ……!」
一夏は頬を赤くし動揺していたが、しのぶも同じだったらしい。
「お、おまじないよ……、一夏にしかこんな事しないんだから」
「……はは、そうか…ありがとう、しのぶ」
「…改めて、いってらっしゃい…一夏」
「ああ、行ってくる」
しのぶは掴んでいた手を離し、一夏は踵を返し歩き出す。
そうして姉妹は、背を向ける一夏の姿が見えなくなるまで、見送った。
中の人の繋がりで、一夏に使わせるとしたらどっち?
-
神気合一
-
冥我神気合一