日輪を宿す暁   作:狼ルプス

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痣と万力の力

二体の上弦の鬼による刀鍛冶の里襲撃から四日経過した。

 

現在産屋敷邸では緊急柱合会議が開かれている。禰豆子が陽の光を克服した事が報告されると、一夏を含めた蝶屋敷の者達は驚きを隠せなかった。

 

そして、その翌日から鬼による被害がピタリと止んだのだ。柱たちが集まる中、実弥が右頬に手を添える。

 

「あーあァ。羨ましいことだぜェ。何でオレは上弦と遭遇しねェのかねェ、その中で一夏は二体も倒してやがるしなぁ」

 

「そうは言われましても……」

 

「うむ!こればかりは相手が都合よく現れるわけではない!しかし、柱が誰も欠けず生きているのは素晴らしい事だ!」

 

「俺の場合はイチがいたからこそ派手に勝てたもんだからなぁ。下手すりゃあ、俺はこの場にはいなかったかもしれねぇ」

 

 

実弥は一夏や杏寿郎、天元と無一郎、蜜璃を見やる。一夏は、上弦の弐の先代と当代、伍の兄妹の四体と遭遇し、その内先代の弐と伍を倒している。

天元は一夏と共に伍を討伐した。肆は無一郎が単独で倒しており、参は蜜璃が炭治郎達と力を合わせて倒している。

 

「甘露寺と時透、体の具合はどうなんだ?」

 

 蜜璃と無一郎はまだ本調子ではないが「問題ない」と答えた。

 

「煉獄の言う通り、誰も欠けずに上弦二体を倒したのは尊いことだ」

 

 行冥がそう言った所で前の襖が開き、そこから産屋敷あまねが姿を現す。

 

「本日の柱合会議、産屋敷耀哉の代理を産屋敷あまねが務めさせて戴きます。そして、当主の耀哉が病状の悪化により、今後皆様の前へ出ることが不可能となった旨、心よりお詫び申し上げます」

 

 あまねの言葉を聞いた柱たちは、バッと前に両の手をつけ姿勢を正す。

 

「承知……。お館様が一日でも長くその命の灯火を燃やして下さることをお祈り申し上げる……。あまね様も御心を強く持たれますよう……」

 

 行冥が柱を代表して答えると、あまねは両目を一旦閉じた。

 

「柱の皆様には、心より感謝申し上げます」

 

 あまねが会議内容について話し始める。

 

「既にお聞き及びとは思いますが、日の光を克服した鬼が現れた以上、鬼舞辻無惨は目の色を変えてそれを狙ってくるでしょう、己の太陽に弱い体を克服する為に。だからこそ、大規模な総力戦が近づいております」

 

 禰豆子が太陽を克服したことで、鬼の出現がピタリと止まったのだ。これぞ、嵐の前の静けさというものだ。

 

鬼と人……お互いに、全てをぶつけ合う刻限が近づいてきている。それは、どちらかが滅ぶ程の壮絶な戦いだ。

 

「上弦の参,肆との戦いで、時透様、そして、この場にいない鱗滝様に独特な紋様の痣が、そして甘露寺様は一夏様のように赫刀を発現したという報告が挙がっております」

 

蜜璃が知らなかったのか「痣?」と呟くと、あまねは一度頷き言葉を続ける。

 

「戦国時代、鬼舞辻無惨をあと一歩という所まで追い詰めた始まりの呼吸の剣士たち…彼ら全員に、鬼の紋様に似た痣が発現していたそうです」

 

 痣者は、普段以上の力を引き出すことが可能になるのだ。そして、一夏と杏寿郎を除いた柱たちは驚愕で息を呑む。

 

「伝え聞くなどして、御存じの方は御存じの筈です」

 

「………」

 

「一夏」

 

一夏は沈黙にて答えた。杏寿郎は一夏の心情を察しておりあえて追及はしなかった。煉獄家の面々は、一夏から痣について聞いている為、杏寿郎も知っていたのだ。

 

 

 

「オレは初耳です。何故伏せられてたのです」

  

あまねにそう聞いたのは、実弥だ。

 

「痣が発現しない為、思い詰めてしてしまう方が随分といらっしゃいました。それ故に、痣については伝承が曖昧な部分が多いのです。当時は重要視されていなかったせいかもしれませんし、鬼殺隊がこれまで何度も壊滅させられかけ、その過程で継承が途切れたのかもしれません。ただ一つ、はっきりと記し残されていた言葉があります」

 

 あまねは一度言葉を切ってから、再び口を開く。

 

「痣の者が一人現れると、共鳴するように周りの者たちに現れる」

 

 そして、この世代で最初に痣を発現したのは、竈門炭治郎だ。

 

「ですが、上弦の伍との戦闘に於いて、音柱・宇髄天元様には現れなかった。しかし里の一件で、霞柱・時透無一郎様、甲・鱗滝真菰様が発現させた。時透様、宜しければ御教示願います」

 

 「痣というものに自覚はありませんでしたが、あの時の戦闘を思い返してみた時に、思い当たること、いつもと違うことが幾つかありました。その条件を満たせば、恐らく痣が浮き出す。今からその方法を御伝えします。前回の戦いで、僕は毒を喰らい動けなくなりました。呼吸で血の巡りを抑えて、毒が回るのを遅らせようとしましたが、僕を助けようとしてくれた少年が殺されかけ、以前の記憶が戻り、強すぎる怒りで感情の収拾がつかなくなりました。その時の心拍数は、二百を超えていたと思います。更に体は燃えるように熱く、体温の数字は三十九度以上になっていたはずです」

 

「!?そんな状態で動けますか?元々体温の高い一夏さんならまだしも、普通の人なら命にも関わりますよ」

 

「心拍数って所は、俺の音の呼吸・終ノ型の状態に地味に似てるな」

 

「だからそこが篩に掛けられる所だと思う。そこで死ぬか、死なないか。恐らく痣が出る者と出ない者の分かれ道です」

 

 

そんな無一郎の言葉に、あまねが問いかける。

 

「心拍数を二百以上に…体温の方は、何故三十九度なのですか?」

 

「はい。胡蝶さんの所で治療を受けていた際に僕は熱を出したんですが、“体温計”なるもので計ってもらった温度三十九度が、痣の出ていたとされる間の体の熱さと同じでした」

 

「(そうなんだ…)」

 

「(成る程…ようやく痣についてわかった。どうりで縁壱さんの記憶で見た発現者の剣士達の心臓の鼓動が激しかったわけだ。だが、俺や縁壱さんの体温は生まれつきのもの、心拍数も正常だ。やはり、心拍が鍵を握るのか)」

 

「チッ。そんな簡単なことでいいのかよォ」

 

「これを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい」

 

「何だと?」

 

「何も」

 

義勇の言葉に実弥が噛み付くが、義勇は素知らぬ顔だ。

 

 

「わかりました。次に甘露寺様、赫刀の御教示を……」

 

あまねの頼みに、蜜璃が「はい!」と意気込み、力強く頷いた。

 

 

「あの時はですね、え―っとえ―っとぐっと握ってぐあああ~っドカーン!ってきました!グッとしてぐぁ―って!手がメキメキメキイッて!」 

 

 

沈黙が屋敷を包み、一夏を含め、この場に居る者全員行冥を除いて目が点になる。

 

「………」

 

流石の小芭内もフォローができず頭を抱えた。

 

「「(蜜璃さん、あなたも姉さん/カナ姉と炭治郎/君と同じタイプですか……)」」

 

一夏としのぶはカナエや炭治郎を思い浮かべ頭痛を覚える。

 

「…………すいません、穴があったら入りたいです」

 

蜜璃は気まずい雰囲気を感じ取り、恥ずかしさの余りに上体を倒し、畳に顔を埋める。

 

「使ってください。蜜璃さん、赫刀を発現させた時、柄をどう握っていましたか?」

 

「ふえ?あ、ありがとう一夏君。えっと、あの時は無我夢中で…覚えてるのは…私が持つ力を柄に込めただけで……」

一夏がハンカチを渡すと、蜜璃は涙目になりながらも、柄をどう握っていたかを説明する。そして一夏の考えは確信へと変わった。

 

 

「そうか、どうりで蜜璃さんが発現できたわけだ」

 

「何かわかったんですか、一夏さん?」

 

「ああ、俺の赫刀は普通に柄に力をいれると赫くなる。それに対して蜜璃さんは自身が持つ力で柄を握ると赫くなった……」

 

「つまりどう言う意味だ一夏!わかりやすく言ってもらえると助かる!」

 

「特別な事はいらないって事だ。ただ………」

 

一夏は周りに見せるように、自身の日輪刀を抜くと、漆黒の刀身が、熱を帯び始める。

 

「万力の力で、柄を握る」

一夏は柄を初めて全力で握ると、漆黒の日輪刀が赫く染まりはじめる。今までの赫と違い、更に濃く赫くなり、漆黒の色がわからなくなるほどの濃さとなった。

 

「なっ⁉︎漆黒の色が、派手に染まりやがった⁉︎」

 

「今まで見た赫刀よりも、遥かに濃くなってる…」

 

他の柱は、濃い赫色に変化した一夏の日輪刀に驚く。

 

「赫刀にするには万力の力…簡単に言えば火事場の馬鹿力ってやつです」

一夏は日輪刀の柄に込めた力を抜くと、色は薄くなり通常の漆黒色が見える赫刀へと戻った。そして納刀すると一夏は座る。

 

 

「では、痣の発現、日輪刀の赫刀化が急務となりますね」

 

「御意。何とか致します故、お館様には御安心召されるようにお伝え下さいませ」

 

しのぶと行冥がそう言うと、あまねが小さく頭を下げる。

 

 

「ありがとうございます。ただ一つ、痣の訓練につきましては、皆様に御伝えしなければならないことがあります」

 

「…なんでしょうか?」

 

「もう既に痣が発現してしまった方は選ぶことができません。痣が発現した方は、どなたも例外なく二十五歳を超えるまで生きられないとされています…」

 

 

あまねが言うには、痣を発現した者は例外なく――――二十五歳までしか生きられない、とのことだった。

 

しかし、

 

 

「あまね様、その代償を乗り越えられる方法が一つだけあります」

 

「…⁉︎本当なのですか?」

 

「みんなに稽古をつけている際によく言っている事なのですが、説明します……」

 

 

一夏がその代償を乗り越えられる方法をみんなに話すと、あまねは退室し、部屋の中には十人の柱が残った。

 

 

 

「あまね様も退室されたので、失礼する」

 

突然義勇が立ち上がる。

 

「おい待ちやがれ、地味に失礼すんじゃねぇ」

 

 

「今後の立ち回りも決めねぇとならねぇだろうが」

 

「残りの九人で話し合うといい、俺には関係ない」

 

「関係ないとはどういう事だ。貴様には柱としての自覚が足りぬ。それとも何か?自分だけ早々に鍛錬を始めるつもりなのか、会議にも参加せず」

 

「不死川の言う通りだぞ冨岡!竈門少女が陽の光を克服した今、今後の事も決めていかなければならないのだぞ!」

 

他の柱の叱責などどこ吹く風か、義勇は反応せずに出ていこうとする。

 

「テメェ、待ちやがれェ」

 

「冨岡さん、理由を説明してください。さすがに言葉が足りませんよ」

 

「……俺は…お前たちとは違う。」

 

「気に喰わねぇぜ…前にも同じこと言ったなァ冨岡。俺たちを見下してんのかァ?」

 

「(まだ言葉が足りませんよ、冨岡さん!)」

 

心配そうに見る一夏と止まらない義勇……一夏は義勇の言葉を理解出来ているが、他の者は義勇の事を理解出来ていない為、無駄な軋轢を生んでしまっているのだ

 

「待ちやがれェ!」

 

 

今にも殴り掛かりそうな実弥に蜜璃は間に入り止めようとするが…

 

「動くな……」

 

静かな一言で二人とついでに蜜璃は動けなくなる。その声は静かながら威圧がこもっていた。義勇は余りに静かで威圧のある声でその場から動く事ができなかった。殴りかかろうとした実弥も同じで、他の柱は冷や汗をかいていた。

 

「冨岡さんも座ってください。悲鳴嶼さん、何か提案はありませんか?」

 

「ああ、一つ、提案がある…」

 

 

 

 

 

 

その後義勇も大人しく指示に従い会議は進む。そして出た提案は柱稽古をするという内容だった。

 

 

 

 

 

鬼殺隊と鬼との全面戦争は、確実に迫り始めていた。

産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか

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