柱稽古─柱より下の階級の者が柱を順番に巡り稽古をつけてもらう事を言う。柱は基本的に継子以外には稽古をつけない。理由は単純に忙しいから……柱は警備担当地区が広大な上に鬼の情報収集や自身の更なる剣技向上のための訓練その他にやることが多かったからだ。
禰豆子が太陽を克服し、現在嵐の静けさを迎えていた。そのおかげで柱は夜の警備と日中の訓練にのみ焦点を絞ることができたのだ。
「遅い遅い遅い遅い!!何してんだお前ら意味わかんねぇんだけど!まず基礎体力が無さすぎるわ!!走るとかいう単純なことがさ!こんなに遅かったら上弦に勝つなんて夢のまた夢よ?!ハイハイハイ、地面舐めなくていいから!まだ休憩じゃねぇんだよ、もう一本走れ!」
隊服ではなく私服姿の天元の地獄のしごきに隊士達は地に伏せている。中には吐いてしまっている者もいる。
まずは音柱宇髄天元によるしごき…もとい基礎体力向上が第一の試練である。
霞柱時透無一郎による高速移動の稽古。
恋柱甘露寺蜜璃による地獄の柔軟。
蛇柱伊黒小芭内による太刀筋矯正。
先代及び当代炎柱である煉獄親子による戦闘時の耐久力向上。
風柱不死川実弥による無限打ち込み稽古。
岩柱悲鳴嶼行冥による筋肉強化訓練。
“水柱”冨岡義勇による精神統一訓練。
日柱織斑一夏による呼吸,基礎能力向上に係る剣術指南。
水柱と日柱の方は、他の柱の稽古を済ませた後のどちらかの参加となっている。どちらの稽古を受けるかは個人の判断による。
◇
「ごめんくださーーーい!冨岡さーん。こんにちはー!すみませーん!義勇さーん」
外出の許可をもらった炭治郎は松葉杖を携えながら水柱邸の門の前にいた。現在、炭治郎は義勇の名を呼び続けている。
「俺です、竈門炭治郎ですー。こんにちはーじゃあ入りますー」
「(入ります?いや…帰りますだな、聞き間違いだ)」
ヒョコー!と道場に顔を覗かせた炭治郎は鼻を頼りに義勇のいる場所にたどり着いた。
「こんにちは義勇さん!」
「(………)」
なんとも言えない表情となった義勇に対し、炭治郎は現状を説明する。
「俺、あと七日で復帰許可が出るから、柱稽古つけてもらっていいですか?」
「つけない」
「どうしてですか?…じんわり怒ってる匂いがするんですけど、何に怒ってるんですか?」
「お前が水の呼吸を極めなかったことを怒ってる。お前は水柱にならなければならなかった」
「それは申し訳なかったです。自分の呼吸が一夏さんと同じ日の呼吸とわかってからは一夏さんに指導されっぱなしでした。だけど、俺は水を併用しないと日の呼吸はうまく扱えません。使ってる呼吸を変えたり新しい呼吸を派生させるのは珍しいことじゃないそうなので…特に水の呼吸は、技が基礎に沿ったものだから、派生した呼吸も多いって……それに水の呼吸なら真菰さんが……」
「真菰には、(今の俺から柱を継ぎたくないと)拒絶された。(水柱が不在の今、一刻も早く)誰かが水柱にならなければならない」
「……?義勇さんがいるじゃないですか?」
「俺は水柱じゃない、帰れ」
ここまで彼を追い詰めている原因は何なのだろうか……頭を悩ませる炭治郎だったが、お館様の手紙の内容を思い出し、自身の頬を叩く。
「根気強く…はい!」
お館様の言葉を額面通りに受け取った炭治郎は、昼夜問わず義勇につきまとい話しかけまくった。
「冨岡さん!」
「……」
「冨岡さん!」
「……」
「冨岡さん!」
「………」
四日後、義勇は根負けし、話を始めた。
「…俺は、最終選別を突破していない。」
「え?最終選別って藤の花の山の、ですか?」
「あの年に俺は、“錆兔”と共に、選別を受けた。十三歳だった。同じ年で天涯孤独、すぐに仲良くなった。翌年引き取られた真菰とは、3人で兄妹のように育った。錆兔は、正義感が強く、心の優しい少年だった。あの年の選別で死んだのは、錆兔一人だけだ」
義勇は自身の最終選別の事を黙々と話し始める。一夏から義勇自身はあまり喋る人ではなく、言葉が足りず誤解されやすいと聞いていた炭治郎は、彼がここまで話すのはかなり稀の為、ただ義勇の話を黙って聞くことしか出来なかった。
「彼が、あの山の鬼を殆ど一人で倒してしまったんだ。錆兔以外の全員が、選別に受かった。俺は、最初に襲いかかってきた鬼に怪我を負わされて、朦朧としていた。その時も錆兔が助けてくれた。錆兔は俺を別の少年に預けて、助けを呼ぶ声の方へ行ってしまった。気づいた時には選別が終わっていた。俺は確かに七日間生き延びて選別に受かったが、一体の鬼も倒さず助けられただけの人間が果たして選別に受かったと言えるのだろうか。俺は水柱になっていい人間じゃない」
「鬼を一体も倒さずに鬼殺隊に入った人達だと聞いたことがあります!義勇さんはそこから這い上がったんですよね!?」
「そもそも他の柱たちと対等に肩を並べていい人間ですらない。俺は彼らとは違う。本来なら鬼殺隊に俺の居場所はない……稽古なら柱につけてもらえ、それが一番いい。俺には痣も出ない、錆兎なら出たかもしれないが…もう俺に構うな、時間の無駄だ」
しばしの沈黙が訪れた。義勇は歩み出した時、炭治郎は、暫く考え込んだ後、口を開いた。
「義勇さんは……義勇さんは、錆兎さんって人から託されたものを繋いでいかないんですか?」
「………!」
その言葉に義勇はハッとして何かを考えているようだった。
──繋いでくれた命を、託された未来を…お前も繋ぐんだ、義勇
義勇は左手を自身の頬に置く。錆兎の言葉を義勇は思い出していた。
『冨岡さんは、何か欠けているものがあるんです。自分の大事な何かを……忘れてしまっているんです』
義勇は過去に一夏に言われた事を今になって理解した。
「(そうか、織斑の言っていたのは、そう言う事だったのか。何故忘れていた?錆兎とのあのやりとり、大事な事だったろう…)」
そして、気まずくなった炭治郎も何かを思いついたようだ。
「炭治郎、遅れてしまったが俺も稽古に…」
「義勇さん!ざるそば早食い勝負、しませんか?」
「(なんで?)」
突然の炭治郎の提案に義勇はただ、呆然とすることしかできなかった。
結局二人はざるそばを早食いしただけで一日が終わった。
その後、柱同士の稽古の際、義勇は一夏にこの事を話すと笑われた。
◇
義勇が本格的に加わり、柱稽古は順調に進み始めた。一方蝶屋敷では……。
「帰ってこないわね、一夏」
「心配しすぎよ姉さん、いつもの事じゃない…」
「いくらなんでも裏山に行っただけで三日も屋敷に戻らないなんて事はなかったわ」
胡蝶姉妹は仏壇のある部屋で胡蝶夫妻に色々と報告をした後、一夏のことについて話していた。
『俺には……俺個人ですべきことができたんだ』
「(あの時の一夏は、いつもと雰囲気が違った)」
しのぶは一夏がただならぬ雰囲気を纏っていたことから、何か重要な事をしに向かうことはすぐに察した。
「一先ず一夏の様子は後で見に行くとして、私は傷薬や包帯を準備したら実弥君の所へ届けに行ってくるわ。怪我人も多いみたいだしね」
「わかったわ」
カナエは立ち上がり、準備をする為、部屋から退室する。部屋に残されたしのぶはあることに気づいた。
「(あれ?今、姉さん、不死川さんの事を下の名前で……まさかね)」
「しのぶ姉さん、お戻りでしたか。私はこれから風柱様の稽古に行ってまいります」
「そう」
「姉さんの稽古は岩柱様の後でよろしいですか?」
「ごめんなさいカナヲ、私は今回の柱稽古には参加できないの」
「え…ど、どうして……」
「カナヲ、こっちへ」
しのぶはカナヲを手招きし、向かい合うように座った。カナヲはもじもじさせながら恥ずかしそうに口を開く。
「あの…あの、私……もっとしのぶ姉さんと兄さんと一緒に稽古をしたいです」
カナヲの素直な気持ちにしのぶは笑みを浮かべる。カナヲは他人とも話す様になり、特に炭治郎と話している時は何処か嬉しそうな様子を見せていることにしのぶは気づいていた。
「……ふふっ、カナヲも自分の気持ちを素直に言える様になりましたね。カナヲには…話しても大丈夫そうね」
「……?」
「私は、柱稽古が行われている間……「カァー!おい蟲柱の姉ちゃん、大変だぜ!!」」
突如と乱入したのは一夏の鎹鴉であるブイだった。何やら慌ただしい様子を見せている。
「ど、どうしたのよブイ、一体何があったの?」
「一夏のやろぉが屋敷の前で倒れてんだよ!!ワリィが手ェ貸してくんねぇか、起こそうとしても起きねぇんだよ!」
「っ!い、一夏が⁉︎」
しのぶ達が慌てて屋敷の前に向かうと、一夏がうつ伏せ状態で倒れていた。側にはアオイや三人娘もいた。
「一夏!!」
「兄さん!」
「「「お二人ともお静かに!」」」
三人娘達から沈黙を促され、二人は口を閉じる。
「えっと、一夏さん……眠っています。ほら……」
アオイに促され、しのぶとカナヲが一夏の顔を覗くと、ぐっすり眠っており……寝息を立てていたのだ
「………ふふっ、何よ…心配かけさせて」
何処か満足した様な表情で眠っている姿を見てしのぶは少し呆れながらも、笑みを浮かべる。その後、しのぶはカナヲと共に一夏を部屋まで運びベットに寝かせた。
そしてその夜、月の光が部屋を照らしてる中、しのぶは一夏の部屋へ訪れ一夏の手を取る。その手はお日様の様な温もりを持っていた。
「一夏、起きてるんでしょ?何かいいことでもあったの?」
しのぶの手を一夏は握り返す。起き上がり、ゆっくり目を開けた一夏がしのぶに顔を向けると、しのぶは目を見開いて驚いた。
「ああ、そんなところかな。いつから気づいてたんだ?」
「部屋に入った時によ…それまでは本当に眠っていたみたいだけど、それよりも一夏、その左眼……」
「…?俺の左眼がどうしたんだ?」
しのぶは近くにあった手鏡を一夏の顔が映るように向けた。一夏の左眼は金色の瞳に変化していたのだ。
「ああ、そう言う事か……」
「そう言う事って、なんでそんなに冷静なのよ?」
「縁壱さん関係って言ったら…納得してくれるか?」
しのぶは縁壱の名を聞き、納得する。一夏の内にはもう一人の人物“継国縁壱”がおり、元々黒一色だった髪の変化はその縁壱が宿っていることが影響していると教えられていた為、すぐに把握出来たのだ。
「はぁ、もう慣れてるから何も言わないけど……」
「取り敢えずゆっくり休んだら柱稽古の様子を見に行くよ……それとすまない、心配かけてしまっ……」
一夏は最後まで言えなかった。しのぶは一夏に口付けをしており塞がれてしまっていたからだ。
「ん……ちゅう……」
「んん!?」
吸いつくように接吻し、そのまま一夏の口の中に舌を入れようとするしのぶに対して、一夏はすぐにしのぶの両頬を指で挟み離れる。
「しのぶ……それ以上はダメだ」
「何でよ……」
しのぶは頬を膨らませて拗ねるが一夏は呼吸を整える。
「そんなに拗ねるなよ。誰かが入ってきたらどうする?」
「その時はその時よ。別に私は……一夏になら……何されたって構わないわよ」
そういうとしのぶは一夏の額の痣を優しく触り始めたが、今回は何故か妙にくすぐったいらしい。
一夏も負けじとしのぶの頸から肩、鎖骨あたりを優しく撫でる。
「はぁ……あ」
お互いに息が荒くなってくる。二人の頬は赤く染まり、言葉数が減ってきた。この部屋に待ったをかける人間はいない──
「んっ」
一夏の手は自然としのぶの着物の中に伸びていく。しのぶの体はびくっと揺れたが、一夏を拒絶する様子はなかった。
一夏の手はしのぶの素肌を、背中を撫でる。
それに対抗するようにしのぶが一夏の隊服のシャツのボタンを外し、手を中に入れてくる。一夏の隊服中はシャツ一枚だけであり、しのぶの服装は寝着である。
「しのぶは……俺とで後悔しないのか?」
しのぶの耳にしか聞こえないぐらいの小さい声で言う。
「どうして?好きな殿方とするのを後悔しなくちゃいけないのよ?私は、一夏となら、いいよ……」
「しのぶ……」
俺はしのぶの唇に吸い付いた。どちらからともなく唇を重ねた。いつものように唇を重ねるだけの軽めの接吻を終えて唇を離す。
普段ならこの位の接吻を数回ほどしたくらいで、切り替えはできるが、今回はお互い顔を合わせるのが難しかった。しのぶも俺も物足りなかったようで、俺はしのぶを抱き寄せてもう1度唇を重ねた。
「んんっ!?いっ、いち…」
先ほどとは違い、一夏が舌でしのぶの唇をこじ開け、口の中に舌を入れてきたので、しのぶもお返しにと言わんばかりに一夏の舌を自身の舌と絡ませる。
「んっ、んぅ」
しのぶも初めは驚いていたが、嫌がることもなく、すぐに俺を受け入れてくれた。
お互いに相手を求めるように舌を絡ませて唾液を交換する。そのため、接吻の音と水音が部屋中に響く。
途中で息が続かなくなると一旦唇を離してもう一度重ねる。これを何度も繰り返した。濃厚な接吻を終え、ゆっくりと唇を離す。一夏としのぶの口の間に糸がかかっていた。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ、はぁ」
これだけ濃厚なのは今回が初めてだ。しのぶは頬を赤く染め、トロンとした目で一夏の顔を間近で見つめている。一夏の耳と顔も真っ赤に染まっている
今のしのぶを見た瞬間、プツン、と何かが切れる音がした。そう、決定的な何かが──
「(これは……もう、無理だ)」
一夏の理性が完全に崩壊した瞬間だった。
「しのぶ、俺……」
「ええ………来て…一夏…」
俺はゆっくりと、しのぶ抱きしめながらをベッドに押し倒した。
「愛してる…しのぶ」
「うん、私も……」
────それから先は二人だけの世界────
産屋敷夫妻とにちかとひなき、珠世を含め生存させるかさせないか
-
させる
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原作通り
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作者に任せる