今回はツルギ本編の『?-5 騎士乱舞』にて繰り広げられた、仮面ライダー甲賀vs仮面ライダーカノン(考案:人見知り様)の本格的な戦闘シーンを描いてみました。
それではどうぞ!
鏡の世界、ミラーワールド。
全てが左右反転したこの異世界には、本来なら生物など存在しないはずだった。
しかし、ある少女が戦いの開始を宣言。
それにより、このミラーワールドで壮絶な戦いが始まってしまうのだった。
雲一つない、満月の夜……
「危ない!!」
「うわっ……!?」
ミラーワールド、聖山港の埠頭エリア。
複数並んだコンテナ、貨物を吊り上げる為の巨大クレーンなどが存在するこのエリアで、既にライダー達の戦いは始まっていた。
ある巨大クレーンの上では、一人のライダーが地上にいるライダー達を狙い撃とうとしていた。
地上で狙われている二人のライダーの内、青いライダー“アイズ”が狙撃して来るライダーの位置を特定してから、もう一人の白いライダー“ツルギ”を突き飛ばし、銃弾が地面に着弾する。
「へぇ。目がいいんだ。あの青いの」
クレーンの上から二人を狙撃していた、藍色のアンダースーツに艶消しの黒の鎧が特徴的なライダー“カノン”は仮面の下で笑みを浮かべ、自身が構えていた銃のスコープを覗き込む。
覗き込んだスコープに映っているのは、こちらを見上げながら武器を構えているアイズの姿。
月明かりがあるとはいえ、こんな真っ暗な中でよくこちらの居場所を把握できたものだと、カノンは少しだけ感心した様子で銃の引き鉄に指をかけ、そして狙撃する。
アイズには華麗に避けられたが、もう一人のツルギはと言うと、とにかく銃弾を回避するので精一杯といった様子であり、先程から彼の足元を銃弾が何発も掠めている。
見たところ、狙いやすいのはあの白いライダーの方か。
ボディが白い分、この暗い夜でも位置を把握しやすいと判断したカノンは、ツルギの方に対して銃撃の回数を増やしつつ、さりげなくアイズの方も狙うといった形で、二人を一方的に翻弄し続けていた……その時。
「!? ぐっ……!!」
スコープを覗き込んでいたカノンの背中に突如、強い衝撃が襲い掛かった。
それなりに強めの衝撃を受けたカノンは体勢が崩れ、すぐに後ろに振り返る……が、後ろには何もいない。
「な、何が……!?」
困惑した様子で周囲を何度も見渡すカノン。
その時、カノンを照らしていた月明かりがフッと消え、それによってカノンはようやく気付く事ができた。
何者かが、宙を高く跳び上がっている。
驚くカノンを前に、そのライダーは空中でクルクル回転しながら、カノンが立っているクレーンの向かい側にある別のクレーンへとシュタッと着地、その場で静かに立ち上がる。
(ッ……忍者……?)
深緑色のボディを持ち、黒いマフラーを風に靡かせたそのライダーは、まるで忍者のようだった。
「結構動けるもんだね、変身しただけで」
気怠そうな様子で、拳を握り締める動作を何度か繰り返したそのライダー“
「あなたもライダーなんでしょ? ライダー同士はさぁ……殺し合うんでしょ!!」
「……ッ!!」
甲賀がクレーンから跳躍し、それを見たカノンが素早く銃口を向ける。
再び発せられる銃声を合図に、ライダーの戦いは激化していく。
時は遡り、聖山高校校舎の音楽室……
「……仮面ライダー?」
樹の前に突然現れた謎の少女―――アリスの口から告げられた、仮面ライダーという名前。
樹はその名前に聞き覚えがあった。
ここ最近新しく噂になり始めている、鏡の中に存在しているとされる異なる世界。
そこに巣食う怪物達が、獲物と見なした人間を捕食し、それにより失踪する人間が絶えずにいた。
その怪物達と戦っているのが、仮面で素顔を隠し、全身に鎧を纏った戦士……それが仮面ライダーだという。
以上が都市伝説の大まかな全容なのだが、樹はあくまで単なる都市伝説だと考え、これまでは興味すら全く抱いていなかった。
SNSやネットなどで出回っている情報に関しても、仮面ライダーを目撃しただとか、自分が仮面ライダーだとか、信憑性の薄い呟きばかりであり、後者に至っては樹も「馬鹿じゃないのコイツ」と思うくらいだった。
しかし、こうして非現実的な現象が目の前で起こっているとなれば、流石の彼女も考えは変わってくる。
「……そんなのになって、何をすれば良い訳?」
「うわぁ、ものすっごくテンションの低い人ですねぇ……まぁ何をするのかと言えば実にシンプル。仮面ライダーになって、ライダー同士で戦えば良いのです!」
「ライダー同士で……?」
「そう、いわば殺し合い。そしてライダーに選ばれるのは若い少女のみ。ライダー同士が戦い合い、最後の一人まで勝ち残る! どうです、シンプルイズベストでしょう?」
「……!」
殺し合い。
それを聞いて、樹は眉を顰めた。
突然現れて何を言い出すのかと思えば、仮面ライダーとかいうのになって、殺し合いをしろ?
ふざけてるのかと言いたくなる樹だったが、言う事はできなかった。
そのふざけているかのような発言をしている張本人が、明らかに普通の存在じゃない事。
そして何より、それを告げている時のアリスが、実に楽しそうで、胡散臭そうで、そしてとてつもなく不気味な笑顔を見せてきているからだ。
「もちろん、ただで戦わせるような事はないのでご安心を! もし最後の一人になるまで勝ち残る事ができたら、その時好きな願いを一つ、叶える事ができます!」
「……!?」
好きな願いを叶えられる。
樹が一番食いついたのはその発言だった。
樹の目が見開いたのを見て、アリスは口角を更に釣り上げる。
「どうですか? あなたにとっても、決して悪い話ではないはずです。あなたにもあるんでしょう? どんな手段を使ってでも、叶えてみせたい大切な願い事が」
「……あんたが何を知ってるのさ」
「私にはわかりますよぉ~? だってあなた、こうやって私の話を真面目に聞いている時点で、何か訳ありな事情を抱えてるって、自分で証明しちゃってるようなものじゃないですか~♪」
「ッ……!!」
樹の表情が歪む。
図星を突かれ、何も言えなくなった彼女にアリスはさらに畳みかける。
「まぁでも、別に断っちゃっても構わないんですよ~? こういうのはちゃんと、ご本人の了承も得ないといけませんからねぇ~♪」
「……いの」
「うん?」
その時だった。
アリスに不審そうな目を向けながら、樹が口を開いたのは。
「そのライダーになるのって、どうすれば良いの」
「……ほぉ。受けるんですね?」
アリスがニヤニヤ笑っている顔に妙な苛立ちを覚える樹だったが、そんな事は今はどうだって良い事。
彼女が先程告げた、最後に勝ち残った一人が叶えられる願い。
樹にとって、それは無視する訳にいかない話だった。
彼女にとって、夢を取り戻す最大のチャンスだったのだから。
「さっさと答えて。その仮面ライダーとやらになるのに、何をすれば良い訳?」
「……良いですねぇ、その目。私が見たかった目をしてますよぉ、今のあなた」
アリスは懐から取り出したある物を放り投げ、それを樹が両手でキャッチする。
「あなたがそれを手にした、今この瞬間……あなたの戦いは始まりました。もう後戻りはできませんよ~♪」
「……これが」
アリスから樹に投げ渡された物。
それは無地の、深緑色をしたカードデッキだった。
樹がこれを手にした時、アリスが悪魔のような笑顔を見せていた事を、樹は今後も忘れる事はないだろう。
そして現在……
「「―――はぁっ!!」」
聖山港のとある廃工場にて、掴み合いになった甲賀とカノンが天井を破壊し、その工場内部へと落下して地面に叩きつけられる。
普通の人間なら死んでもおかしくない衝撃なのだが、甲賀とカノンはピンピンした様子ですぐ立ち上がり、戦闘を再開する。
カノンが向けようとした銃を甲賀が蹴りつけ、逆に甲賀が振り下ろして来た忍者刀をカノンが屈んで回避。
そこから両者同時に左手で拳を突き出し、お互いに大きく吹き飛び地面を転がされる。
「へぇ……やるじゃない君、楽しくなってきたよ! 君、名前は?」
「……甲賀」
「ふぅん、変わった名前。アタシはカノン、よろしく。じゃあ存分に楽しもうよ、この最高のゲームをさ!」
「……ゲーム、ねぇ」
テンションの上がってきたカノンが銃を連射する中、逆に甲賀は低いテンションのまま、素早い身のこなしで工場内を駆け抜ける。
銃弾が次々と飛んで来る中、甲賀は工場内部のあちこちに存在するドラム缶や木箱、金網などの障害物を利用し、カノンの銃撃を華麗に回避していく。
銃弾がなかなか当たらず、カノンは小さく舌打ちしながら銃の装填口を開き、カードデッキから引き抜いたカードを装填する。
「チィ、すばしっこい!!」
≪SHOOT VENT≫
「ッ……!!」
カノンはトカゲの頭部を模した大型のランチャーを召喚し、甲賀の走ろうとしている方角を先読みして砲弾を発射。
爆発に怯んで動きが止まる甲賀だったが、彼女もすぐに忍者刀の装填口にカードを装填する。
≪TRICK VENT≫
「「「ふっ……!!」」」
「おっとぉ!?」
電子音と共に、駆け出した甲賀の姿が三つに分かれ、分身が次々と生成されていく。
次々と分身を増やしていく甲賀に驚くカノンだったが、慌てずにランチャーを放り捨て、再び銃を構え直す。
「へぇ、君もそういうのできるんだ……でも負けないよ!」
障害物を利用し、死角からカノンに襲い掛かる甲賀の分身達だったが、それで簡単に追い詰められるほどカノンも甘くない。
カノンはその場に倒れ込みながら甲賀の攻撃を回避し、銃撃を決めて甲賀の分身を一人消滅させる。
そしてすぐに立ち上がったカノンは二人目の分身にも銃弾を命中させ、そこから順番に甲賀の分身達を攻撃しては、一人ずつ確実に消滅させていく。
そして最後の一人を消滅させるカノンだったが、そこで彼女は気付いた。
「? いない……」
いつの間にか、本物の甲賀は姿を消していた。
一体どこに隠れたのか、カノンは銃を構えながらゆっくりと工場内を探して回る。
周囲を何度も見渡しながら、真っ暗な工場内を探し続ける中……背後から僅かに感じ取れた気配に、カノンは素早く反応してみせた。
「はいそこぉ!!」
「うぁっ!?」
反射的に振り返ったカノンの銃撃が、背後から跳びかかろうとしていた甲賀の胸部に命中した。
体勢が崩れた甲賀が落下して地面に倒れ込み、そこにすかさずカノンが銃口を向ける。
「はい、残念でした」
「くっ……」
「分身を使うのは悪くない手だったけどさ、アタシに同じ手は二度も通じないよ。戦いの鉄則ね」
今回が初めての戦闘になる甲賀に対し、カノンはこれまでも何度か戦闘経験がある。
過去に同じような戦法を使って来るライダーがいたのか、その経験を活かしたカノンは甲賀の分身攻撃を冷静に対処し、あっという間に甲賀を追い詰めてみせた。
「じゃ、残念だけどお別れだね……さよなら」
せっかくライダーになったばかりなのだろうが、初心者相手だろうと情けをかけるつもりはない。
それがライダーバトルなのだからと、カノンは銃の引き鉄をゆっくり引こうとした……が。
シュルルルルッ
「ん?」
何かが巻き付く音がした。
何だろうと思い周囲を見渡すカノンだったが、自分の足元を見て気付いた。
自分の右足に、ピンク色の何かが巻き付いていた事に。
「なっ……うわぁ!?」
カノンが対処するより前に、巻きついていたピンク色の何かが彼女の右足を強く引っ張った。
引っ張られたカノンが空中で大きく回転しながら地面に倒れ込み、その際に彼女の手から銃が離れてしまう。
「今のは……!?」
「アタシのモンスター」
カノンが困惑する中、少し離れた所で立ち上がっていた甲賀が口を開く。
すると甲賀のすぐ隣に、1体のモンスターがシュタッと着地した。
「ゲコココココ……!」
深緑色のボディ、ピンク色の長い舌、そして背中に大型の手裏剣を装備した、蛙のような二足歩行型の怪物。
甲賀の契約モンスター“ステルスニーカー”は低く鳴きながらカノンを睨みつけ、再度暗闇の中へと身を潜める。
「ッ……なるほど、いつの間にか召喚してた訳ね」
甲賀がトリックベントで分身を生成した時の事である。
甲賀の分身達がカノンに襲い掛かっている間、本体はカノンに見えない所で、かつ彼女に聞かれないようにこっそりステルスニーカーを召喚していた。
そこからステルスニーカーを物陰に潜ませた後、カノンに隙ができるまで待機させていたのである。
「良いねぇ、ほんと面白いよ君。今回もまた、面白いゲームになりそうかも」
「……あのさぁ」
楽しそうに笑うカノンに対し、甲賀は今もなお気怠そうな口調のまま、静かに問いかけた。
「アンタ、この戦いをゲームだと思ってる訳?」
「うん? そうだけど、それが何?」
「……別に」
甲賀の問いかけに対し、カノンはそれが当たり前の事であるかのような態度で返す。
その返答に甲賀が黙り込み、質問の意図が読めないカノンは首を傾げた後、すぐに思考を切り替える事にした。
「今の質問に何の意味があったのか知らないけどさ……取り敢えず隙あり!」
「!? くっ……!!」
「ほらほら、せっかく楽しいゲームなんだから気を抜かない!」
銃を拾い上げたカノンがすかさず銃撃し、体を斜めに倒してギリギリ回避する甲賀。
構え直した忍者刀で銃弾を弾き、そこから再び二人のバトルが再開されようとした……その時。
ドガァァァァァン!!
「「ッ!?」」
突如、別方向から飛んで来た光弾が、甲賀とカノンの足元に着弾。
爆発の衝撃に対応できず、甲賀とカノンが同時に倒れ込む。
「何……!?」
「グルルルルル!!」
ドラム缶や木箱を押し退け、パイプ管を破壊しながら突っ込んで来たのは、イノシシのような怪物・ワイルドボーダー。
唸り声をあげながら突っ込んで来たワイルドボーダーの突進を、甲賀とカノンはそれぞれ左右に転がって攻撃を回避する。
「グルァ!!」
「「うわぁっ!?」」
しかしすぐに振り向いたワイルドボーダーが、胸部から光弾を発射して二人のいる地面を爆破。
体勢が崩れた甲賀をワイルドボーダーが突進で突き飛ばし、そのままカノンにも容赦なく襲い掛かっていく。
「ッ……こんな時に邪魔者とか、すっごい萎えるし……!」
忌々しげにワイルドボーダーを睨みつけた甲賀は、ベルトに装填しているカードデッキから次のカードを引き抜こうとする……が、ここで甲賀は気付いた。
カードを抜き取ろうとした右手が、少しずつ粒子化を始めていた事に。
「……はぁ、最悪。もう良いや、帰ろ」
≪CLEAR VENT≫
甲賀は忍者刀にカードを装填し、その姿が少しずつ透明になっていく。
そして甲賀の姿は完全に見えなくなり、その場にはカノンとワイルドボーダーだけが残される。
「あ、アイツ……!?」
「グルルルルァッ!!」
「チッ……まぁ良いや。ひとまず、ゲームの邪魔してくれたお礼はさせて貰うよ!!」
先程まで戦っていた相手に、野良モンスターの相手を押し付けられた挙句、そのまま逃げられてしまったカノン。
その苛立ちを発散するべく、戦いの邪魔をしてきたワイルドボーダーに標的を変更したカノンは、ワイルドボーダーの突進を回避した後、その背中目掛けて銃弾を乱射するのだった。
その後。
無事に戦闘を切り抜けた甲賀はミラーワールドから脱出し、とある建物の窓ガラスから飛び出した。
甲賀の全身が鏡のように砕け散り、その姿が樹の物へと戻る。
「……ふぅ」
初めての戦いが終わり、建物の壁に寄りかかる樹。
彼女は額の汗を拭いながら、先程まで自身が戦っていたカノンの事を考えていた。
正直、かなり危なかった。
もしあそこでステルスニーカーの援護が無かったら、あのまま倒されて自分は負けていた事だろう。
ライダーになったばかり故、まだ勝手がいまいちわかっていないのもあるとはいえ、考えなしに戦うのはハッキリ言って無謀だったなぁと、樹は自分でも驚くくらい冷静に分析できていた。
自分が変身する甲賀の能力やスペックも踏まえて、今後は戦い方を工夫した方が良いかもしれないとも考える樹だったが……それよりも今は、カノンが戦闘中に言っていた台詞が、頭から離れずにいた。
『じゃあ存分に楽しもうよ、この
『ほらほら、せっかく
「……ッ!!」
苛立ちの感情が湧き上がり、樹は壁に拳を叩きつける。
ふざけるな。
何が最高のゲームだ。
何が楽しいゲームだ。
こっちは殺すか殺されるか、覚悟を決めた上でかつての夢を取り戻そうとしているのに。
アイツはただ、殺し合いをゲームと称して楽しんでいるだけ。
樹はそれが気に入らなかった。
本気で命懸けの戦いに挑んでいる身からすれば、カノンのような遊び感覚で戦っているライダーは、見ていて不愉快極まりない物だった。
(決めた……アイツ、いつか潰す)
だからこそ、樹は決意した。
あんなふざけたライダーは、いつかこの手で必ず潰すと。
今回の勝負は実質、自分の負けに等しい。
しかし負けは負けでも、得られた物はたくさんあった。
この戦いで得られる物、その全てを利用して、なんとしてでもこの戦いを勝ち残ってやる。
そんな思いを胸に抱きながら、樹はその場を後にし、両親の待つ自宅へと歩みを進めていくのだった。
「おやおや、苛立ってますねぇ彼女。良いですよぉ、その怒り……その怒りを糧にして、更にライダーバトルを盛り上げちゃって下さいな! フッハハハハハハハハハハハハハハ!!」
To be continued……
甲賀vsカノン、如何だったでしょうか?
ここから樹ちゃんがどのようにして戦闘スタイルを確立していくのか、その様子を今後も少しずつ描いていきたいと思っております。
それではまた次回!