仮面ライダーツルギ・外伝 ~甲賀、見参~   作:ロンギヌス

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3話目の更新。

今回はツルギ本編の『?-8 夕陽と宵の間で』及び『?-9 歪む、歪む』で影守美也(かげもりみや)こと仮面ライダーグリム(考案:マフ30様)と対峙した際の、樹ちゃんの心情を書いてみました。

それではどうぞ。



第3話 苛立つ者

仮面ライダーカノンとの戦いから翌日。

 

聖山高校ではいつも通りの時間が過ぎていくのだが、生徒達の間では現在、一つの楽しみが生まれつつあった。

 

文化祭。

 

それが始まるまであと一ヵ月程度となり、どのクラスもホームルームの時間にて、文化祭の出し物について様々な話し合いが行われるようになっていた。

 

さらには、文化祭実行委員の会議で急遽決まったとされる一大イベント―――男子女装コンテストは、生徒達の興味を引き付けていた。

 

それに対して生徒達は、純粋に文化祭を楽しみにしている女子生徒もいれば、文化祭すらもめんどくさいと思いやる気を見せない不良生徒、他にも女装を嫌がる男子生徒など、その反応は様々だった。

 

そして彼女、黒峰樹はと言うと……

 

「~♪」

 

……文化祭に対し、全く興味を示していなかった。

 

明るい性格だった中学生時代であれば、文化祭の出し物に対しても、積極的に取り組んでいた事だろう。

 

しかし例の事件が起きて以来、何事に対しても熱意が湧かなくなっていた現在の彼女は、クラスの話し合いにすら碌に参加しようとしなかった。

 

しかもこの時、彼女はライダーバトルの方に意識が向いていた。

 

自分の願いが無事に叶うかどうか。

 

他のライダー達はどんな戦法で戦っているのか。

 

あの銃使いのライダーにリベンジできる日は来るのか。

 

ライダーバトル以外の要素は全く頭にない樹は、その日の放課後、屋上行きの階段に座ってから音楽に聴き入り、その音楽に乗るように鼻歌を歌いながらのんびりと過ごしていた……が。

 

「―――はぁ」

 

現在、彼女は少し機嫌が悪かった。

 

好きな音楽を聴いているにも関わらず、それに乗るように鼻歌を歌っているにも関わらず、彼女は心の中の苛立ちが晴れずにいた。

 

それも全て、昨夜のカノンとの戦いが原因だった。

 

樹にとっては、あの戦いが仮面ライダー甲賀としての初戦闘だった。

 

トリックベントによる分身や、クリアーベントによる透明化など、甲賀が持つ能力は非常に便利な物だった。

 

それなのに、カノン相手には終始劣勢気味だった。

 

相手が手練れだったのもあるとはいえ、それだけ便利な能力を使えるにも関わらず、彼女は戦闘で優位に立つ事ができなかったのだ。

 

(……アイツの言う通りかもね)

 

戦闘中、カノンは言っていた。

 

同じ手は二度も通じないと。

 

確かにあの時、自分は先の事をよく考えないままトリックベントのカードを使用し、分身達を囮にして背後から騙し討ちを仕掛けようとした。

 

しかし、過去に同じ能力を使うライダーと戦った事があったであろうカノンは、甲賀のそれをあっさり見抜いて的確に対処してみせた。

 

あんな遊び感覚で戦っている奴に言われるのは非常に悔しい物があるのだが、言っている事は確かにその通りなのだから、ぐうの音も出ない。

 

カードを使うタイミングや、相手の不意を突く方法など、もっと戦い方を研究する必要がある。

 

カノンとの戦いでそれを学ぶ事ができたのは、樹にとって充分な収穫だったと言えよう。

 

だからと言って、カノンのライダーバトルに対するスタンスを認めてやった訳ではないのだが。

 

次は昨日みたいな戦いにはするまいと、その思いを胸に秘めつつも表情には出さない樹は、外したイヤホンをカーディガンのポケットにしまい、教室まで戻ろうと階段を下りていく。

 

しかし廊下を歩いていたその途中、樹はある人物を発見し、すぐさま廊下の曲がり角に隠れた。

 

(! あれは……)

 

曲がり角から覗き込んだ先にいたその人物は、樹にとって顔見知りとなる女子生徒。

 

さらによく見ると、その女子生徒が視線を向けている先の窓ガラスにも、ある物が映り込んでいた。

 

それは、ライダーとライダーが戦っている姿。

 

そして、その戦いが映り込んでいる窓ガラスを、ハッキリと見据えているのがその女子生徒……まぁ、つまりはそういう事(・・・・・)なのだろう。

 

まさか彼女までもがそうだったとは……と内心少しだけ驚く樹だったが、やはりそれを表情には出さず、樹はその女子生徒の前に姿を現す事にした。

 

「あれが見えてるって事は、あなたもライダーってことで良いんでしょう? 影守さん」

 

「ッ……樹さん……!」

 

黒髪を団子ヘアに結んだその女子生徒。

 

彼女―――影森美也(かげもりみや)もまた、樹と同じ仮面ライダーだった。

 

そして、樹と同じ境遇の持ち主でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『影守美也……ねぇ』

 

影森美也の過去について、樹は風の噂で聞いた事があった。

 

かつて剣道部に所属し、その業界では“神童”と呼ばれた少女がいた。

 

しかしその少女もまた、交通事故によって(・・・・・・・・)選手生命に関わる大怪我を負い、そのせいで剣道を辞めざるを得ない状況にまで追い込まれたという。

 

最初にその噂を聞いた時、樹は自分でも意外に思うほどに、その話に食いついていた。

 

自分と同じ境遇の人間がいた。

 

他者に夢を踏みにじられた人間が、自分以外にも存在していた。

 

それを知った時、少しだけ共感のような感情を抱いた事を、樹は覚えている。

 

そしてある時、学校帰りにたまたまCDショップに寄った樹は、その当人と初めて対面する事となった。

 

『あれ? あなたは確か……』

 

『んぅ?』

 

それは本当に偶然だった。

 

同じCDを借りようとした二人の手が重なるという、まるでフィクションのような出会い方だった。

 

その一件を切っ掛けに、樹と美也は学校でも何度か顔を合わせるようになった。

 

と言っても、友達なのかと言われると、別にそういう訳でもなかった。

 

校舎の廊下を歩いていたら、たまたま出会った。

 

二人の通学路が、途中までたまたま一緒だった。

 

樹と美也のクラスが、体育でたまたま合同授業を行った。

 

二人が顔を合わせた回数なんて、本当にそれくらいしかない。

 

会話らしい会話も、ほとんどした事がない。

 

それでも樹は、美也という存在を決して無視する事はできなかった。

 

美也の姿を見かけては、彼女を目で追う事も何度かあった。

 

その内、明るい表情で友達と話している彼女の姿を見ていた樹は、こう思うようにもなった。

 

私と彼女は、同じようでいて違う。

 

そんな気がしてならないと、樹の中の勘がそう告げていた。

 

そして今、その勘は確信へと変わる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダーって事は、何? あなたもかつての栄光を取り戻したいって訳?」

 

美也もライダーだった事を知り、樹は内心驚きつつも、同時に納得もしかけていた。

 

あぁ、なるほど。

 

私と同じく、夢を失っている彼女だ。

 

彼女もきっと、このライダーバトルに勝利して、かつての夢を取り戻そうとしているのだろう……と。

 

当初、樹はそう予想していた。

 

しかし、美也の口から飛び出た言葉は、樹の予想とは全く違っていた。

 

「違う……私は、戦いを止める為に戦う」

 

「……は?」

 

樹は思わず呆けてしまった。

 

一体何を言っているのだこの女は、と。

 

「戦いを止める? ふざけないで。そんな事したら、アタシの夢が叶わないじゃん」

 

そもそも、何故そんな事の為に戦っているのだろうか。

 

せっかく夢を取り戻せるチャンスが来たというのに、何故彼女はそれをどぶに捨てるような真似をするのか。

 

樹には、全く理解ができなかった。

 

「あなたが戦うというなら私は止める。だってあなたと私は同じだから」

 

……あぁ、そうか。

 

その一言を受けて、樹は悟った。

 

やはり、自分と彼女は違うのだと。

 

「はっ! 勝手にそんな風に思わないでくれない?」

 

彼女は逃げたのだ。

 

かつて自分が失った夢を、取り戻そうとすらしない。

 

彼女の夢に対する熱意なんて、所詮その程度だったのだと、樹は美也を睨みつけながらそう判断した。

 

「確かにアタシとあなたは同じ境遇かもしれない。だけど、戦いを止めるなんて綺麗事言って、自分の夢から逃げたあんたとアタシは違う!!」

 

「ッ!? 違う、私は……」

 

「良いからさ。戦おうよ」

 

美也が何か言おうとしたが、樹が意図してそれを遮った。

 

自分の夢から逃げるような奴の言葉なんて、いつまでも聞いてやるつもりはない。

 

後はもう、当初の目的を果たすまでだ。

 

「止めたいって言うなら止めれば良い。だけど、アタシはそうはいかない。戦って、あんたを倒して、他のライダーも皆倒して、願いを叶える」

 

自身のカードデッキを見せつけながら、樹はそう言い放った。

 

それを聞いて苦悩する美也だったが、もう戦うしかないと理解したからか、彼女もカードデッキを取り出し、樹と共に窓ガラスへと向き合う。

 

二人はカードデッキを向け、出現した銀色のベルトが、二人の腰にそれぞれ装着される。

 

樹はカードデッキを下ろし、忍者のように指を立てた右手を前に突き出しながら。

 

美也はカードデッキを下ろし、唐竹割りを彷彿とさせる手刀を振り下ろしながら。

 

戦いの合図となる台詞を、二人は同時に告げた。

 

「「変身ッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして樹が変身した甲賀と、美也が変身した朱色のライダー“グリム”は戦いを繰り広げた。

 

高い機動力と、忍者らしいトリッキーな戦法を駆使し、グリムを翻弄する戦いを見せた甲賀。

 

実力はあのカノンほどではないと判断した甲賀は、一気にグリムを追い詰めようとした……が、そこで彼女は別のライダーの妨害を受けた。

 

白いアンダースーツの上に青い鎧を纏ったライダー“ヴァール”と、白い鎧を纏ったライダー“ツルギ”が姿を現した事で、興醒めした甲賀はクリアーベントを使い、その場は撤退する事となった。

 

そして、帰宅した樹は……

 

「……ふぅ」

 

両親と共に夕飯を食べた後、風呂場にてシャワーを浴びていた。

 

スベスベした白い肌の上に、お湯に濡れた長い黒髪がかかる中、樹はこの日の戦いを思い返す。

 

 

 

 

『あなたが戦うというなら私は止める。だってあなたと私は同じだから』

 

 

 

 

『あなたと私は同じだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ な た と 私 は 同 じ だ か ら 。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

目の前の鏡に、ガンッと拳を叩きつける。

 

樹は苛立ちを隠せなかった。

 

戦いをゲームと称し、遊び感覚で戦っているカノンも。

 

失った夢を取り戻そうとせず、戦いを止めるなどとほざく美也も。

 

自分が出会うライダーは何故、どいつもこいつも自分を苛立たせる者ばかりなのか。

 

自分はこんなにも必死な気持ちなのに。

 

本気で戦おうとしているのに。

 

「あぁもう……ほんとに、ムカつく……ッ!!」

 

鏡に叩きつけた拳が、苛立ちと共に強く握り締められる。

 

鏡に目を向けた時、樹の目は怒りに満ちていた。

 

その怒りの矛先は、カノンや美也だけではない。

 

そのムカつくライダー達を相手に手こずっている、自分自身に対しても向けられていた。

 

(駄目だ……このままじゃ、勝ち目は薄い……!!)

 

美也こと仮面ライダーグリムとの戦いを経て、樹はいくつか理解した事がある。

 

自分が変身する甲賀は、やはりパワーが足りない。

 

並の攻撃では、ライダーをまともに怯ませるのも簡単ではなかった。

 

おまけに機動力重視である為、甲賀は他のライダーに比べて装甲が薄い。

 

故に耐久面にも不安があり、パワーが高いライダー相手だと、パンチを一発喰らうだけで致命傷になりかねない。

 

(どうする……どうすれば良い……?)

 

募りに募った苛立ちから、かえって自身の脳を冷静にさせていた樹は、この先の戦いを生き延びる為の方法を必死に考え始める。

 

その際、樹は思い出した事があった。

 

グリムと戦っている最中、自分を妨害して来たヴァールとツルギ。

 

その二人の存在を思い浮かべた時、樹は一つだけ案が思い浮かんだ。

 

それは、他のライダーと手を組む事。

 

火力と耐久が心許ない自分が生き残るには、それが最善の道なのではないかと樹は考え始めた。

 

しかし、こういったサバイバルにおける同盟は、裏切りが付き物だ。

 

手を組む相手を間違えれば、逆に自分の命を危険に晒す。

 

だからこそ、樹は誰と手を組むべきか、慎重に考える。

 

もちろん、戦いを止めようとしている美也は論外だ。

 

それ以外では……意外にもカノンが、自分が手を組むライダーの候補として挙がっていた。

 

カノンのあの性格は嫌いだが、カノンが持つ能力やスペックは決して馬鹿にはできない。

 

おまけにカノンは戦闘経験が豊富である。

 

そう分析した樹は、自分が手を組むライダーの最終候補として、カノンの存在を頭の隅に置いておく事にした。

 

できる事なら組みたくないというのが、彼女の本音ではあるのだが。

 

何にせよ、まずは他のライダー達の情報をもっと多く集める必要がある。

 

その方が考えを纏めやすくなるし、敵対した場合でも、相手の戦法や弱点を把握する事ができる。

 

「まぁ……やるしかないよね」

 

明日以降は、少しばかり忙しくなる事だろう。

 

シャワーのお湯を止めた樹は、濡れた前髪を掻き上げてから、再度目の前の鏡を注視する。

 

「明日もよろしく、ステルスニーカー」

 

『ゲココココ……』

 

樹の言葉を理解したのか否か。

 

鏡に映り込んだステルスニーカーはただ、低く鳴きながら樹を見つめているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しした後。

 

 

 

 

 

 

樹が手を組もうと考えるライダー……その最有力候補は、意外にも早く見つかる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行こうか、レオキマイラ。この私を、あるべき運命(さだめ)へと導いてくれたまえ」

 

『グルルルルル……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




如何でしたか?

同じ境遇の樹ちゃんと美也ちゃんですが、ライダーバトルに対するスタンスと、かつての夢に対する想いは全く違います。
樹ちゃんの視点からだと、失った夢を取り戻せるチャンスなのにそれをしようとしない今の美也ちゃんは、「夢に対する熱意がない」ように見えてしまっているようです。

ここから始まった彼女達の因縁が、果たしてどのような展開を繰り広げていくのか?
今後もツルギ本編から目が離せませんね。

さて、ラストシーンに登場した謎のライダー。
その正体は……ツルギ本編を見た方は、お分かりですね?

次回もお楽しみに!
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