仮面ライダーツルギ・外伝 ~甲賀、見参~   作:ロンギヌス

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はい、4話目の更新デッス!

今回はツルギ本編にて脱落者を出したあの男・鐵宮武(くろがねのみやたける)こと仮面ライダー吼帝(こうてい)(考案:はっぴーでぃすとぴあ様)が登場。

彼が仮面ライダーヘリオス(考案:kajyuu1000000%様)と戦う姿を見た時、樹ちゃんがどんな反応を示すのか?

それではどうぞ。



第4話 恐れる者

ミラーワールド。

 

風が吹かず、生物もおらず、環境音だけが常に鳴り響く反転した世界。

 

「グガァァァァァッ!?」

 

その異世界で、聞こえるはずのない大きな爆発音が響き渡る。

 

とある横断歩道橋の上で、ガゼルのような特徴を持った怪物・ギガゼールが、その胴体を鋭利な刃に貫かれ跡形もなく爆散。

 

爆炎が小さくなっていく中、そこから浮かび上がってきた光の球を、どこからか飛来した大きな人魚のようなモンスターが咀嚼した後、まるで実際に水中を泳いでいるかのような優雅な動きで、空中を飛び去って行く。

 

「……」

 

その様子を見届けていたのが、ギガゼールを倒した一人のライダーだった。

 

両腕に魚のヒレのような装飾を持ち、下半身の腰布を靡かせた、瑠璃色の仮面ライダー。

 

その人魚のライダーは、手に構えていたトライデントのような武器の刃先をツーッと撫でた後、まだ僅かに燃えている地面の炎に背を向け、立ち去ろうとした……

 

「隙ありぃ!!」

 

「……ッ!!」

 

……が、それはできなかった。

 

すぐさま振り向いた人魚のライダーがトライデントを振るい、ガキィンと甲高い金属音が鳴り響く。

 

人魚のライダーに不意打ちを仕掛けて来たのは、両腕に鉤爪を装備した別のライダーだった。

 

エメラルドグリーンの装甲を持ち、蜘蛛の顔を模した胸部装甲が特徴的なそのライダーは、不意打ちを防がれた事に驚きつつも華麗に着地した。

 

「ふぅん、こんな所にもライダーがいたのね。悪いけど、アンタもここで倒させて貰うわ。アタシの願いを叶える為にもね」

 

「……」

 

「……ねぇ、何か言いなさいよ。喋ってるこっちが馬鹿みたいじゃない」

 

「……」

 

「だんまり決め込むつもり? はぁ、じゃあ良いわ……嫌でも悲鳴を聞かせて貰うから!!」

 

何も喋らない人魚のライダーに対し、蜘蛛のライダーは跳躍して再び接近し、両腕の鉤爪を人魚のライダー目掛けて振り下ろす。

 

人魚のライダーもそれをトライデントで防御し、それを合図に二人のライダーによる激しい戦いが始まった。

 

その様子を、歩道橋から少し離れた位置から眺めている者もいた。

 

(あ、ここでもやってる。ライダーって割といろんな所にいるのね)

 

その者の正体は、クリアーベントで姿を透明化させていた甲賀。

 

たまたま二人のライダーの戦いを目撃した彼女は、その戦いの様子をじっくり眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれからというもの。

 

黒峰樹は現在、他のライダーを発見しても、戦闘は極力避けるようにしていた。

 

悔しいが、今の自分では他のライダーと正面から戦ったところで、勝てる望みはかなり薄い。

 

そう思った彼女は、他のライダーを発見した際、その戦いの様子を隠れて監視する事にしたのである。

 

使える能力や戦法、変身者の声や口調など。

 

ライダーに関する情報を得る事で、自分がどのライダーと手を組むか、それを決める為の判断材料になる。

 

手を組まない場合であっても、そのライダーの能力や戦法の欠点を把握しておけば、いざ敵対した時に存分に役立てる事ができる。

 

その為、今は相手側から襲われでもしない限り、自分から攻撃を仕掛けに行くような事はしないつもりでいた。

 

もちろん、そのライダーが弱りに弱り切っていた場合は、トドメを刺すくらいならやるかもしれないが。

 

このライダーバトルの主催者であるアリスからは、積極的に戦いを挑まないこのやり方に何かしら文句を言われそうだが、そんなのは知った事じゃない。

 

別に他のライダーとの戦いを完全に放棄した訳ではないのだ。

 

真面目にライダーバトルを勝ち残ろうとしているだけ、まだありがたい方だと思って貰いたい。

 

そういうのもあって、樹はカノンやグリム、ヴァールやツルギ以外にもまた、数人ほどのライダーの存在を把握しており、それらの情報を全てメモ帳に収めていっていた。

 

中には、既に変身者の素性まで特定できているライダーもおり、そういったライダーは今後、手を組んだライダーと共に仕留めていく方針だ。

 

全ては、この過酷なライダーバトルを勝ち残る為。

 

命の奪い合いである以上、卑怯だの何だのとのたまう精神は樹にはなかった。

 

しかし、そんな彼女にも当然、休息は必要である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

そんなこんなで、とある土曜日。

 

学校が休みで、部活にも所属していない樹はこの日を利用し、CDショップ「ハイパーレコード聖山店」を訪れていた。

 

この「ハイパーレコード」は、国内各地に店舗が置かれている有名なCDショップだ。

 

その店舗の一つであるこの聖山店もまた、様々なジャンルの楽曲が揃えられており、おまけに専用の試聴コーナーまで用意されている。

 

樹もまた、CDの試聴ができて、かつ学校帰りに気軽に立ち寄れるこの店舗をかなり気に入っていた。

 

試聴機から繋げられているヘッドホンを装着し、流れて来る音楽に聴き入りながら目を閉じる。

 

リズムに乗るあまり、彼女の頭も僅かにだが左右に揺れていた。

 

いろんなCDの楽曲を聴いては、その中からお気に入りの曲を発見し、そのCDをレンタルして気に入った曲だけを自分の音楽プレイヤーに入れる。

 

特別気に入るような曲がなくても、色々な曲を聴いて回るだけで、あっという間に時間が過ぎていく。

 

今の樹にとっては、これが何よりもの至福の時間だった。

 

他のライダーとの戦いを避けるようにしてから、苛立たせられる回数も少なくなったからだろうか。

 

この時の樹は珍しく、普段は滅多に見せる事のない、穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

こうしている間だけ、自分の世界に入り込んでいられる。

 

悲しい事も、ムカつく事も、全部忘れていられる。

 

「フンフン、フンフ~ン……♪」

 

ご機嫌な様子の彼女は、流れて来る曲に合わせて、鼻歌まで交え始める。

 

できる事なら、今日という日はこのまま楽しい時間を過ごしていたい。

 

聴いていた曲が終わりを迎える中、樹は心の中でそう願っていた。

 

まぁもっとも。

 

キィィィィィン……キィィィィィン……

 

ライダーである以上、それは叶わない願いなのだが。

 

「―――チッ」

 

曲が完全に終わると同時に聞こえて来た、今この時間には必要のない耳障りな雑音。

 

しかしそれは、始まりを知らせる合図だった。

 

せっかくの時間を邪魔され、笑顔が一瞬で消えた樹は小さく舌打ちしてからヘッドホンを外す。

 

よりによってこんな時にか、と。

 

ライダーとしての宿命を受け入れた彼女ではあったが。

 

今ぐらいは空気を読んで欲しいと、そう思わずにもいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは~!!!」

 

戦いが始まる合図を聞きつけ、ミラーワールドに突入していくライダー達。

 

ライダー達が聞きつけたのは、ミラーワールド全域に響き渡る、このライダーバトルの主催者の声。

 

「ライダーの皆さーん! 皆のアイドル、アリスですよ~!!!」

 

「今日は、アリスからのボーナスタイム!」

 

「モンスターのレベル稼ぎの為に、こんなにたくさんモンスターを用意しましたよ~!!!」

 

それは戦いに刺激を求めた主催者の、ちょっとした“祭り”の開催を宣言する物だった。

 

「……うっわキモ」

 

他のライダーと同じようにミラーワールドに駆け付けた甲賀は、仮面の下で嫌そうに表情を歪めた。

 

何故なら、彼女の視界に広がっていたのは……

 

「ウッヘ」

 

「「ウッヘウッヘ」」」

 

「「「「ウッヘウッヘウッヘ」」」」

 

「「「「「「「「ウッヘウッヘウッヘウッヘ」」」」」」」」

 

白い体色をしたヤゴのようなモンスター・シアゴーストが、街中のあちこちを埋め尽くす勢いで蔓延っている光景だったからだ。

 

「いやいや、これはないでしょ」

 

確かにモンスターを倒せば、そのモンスターの魂を喰わせて自分の契約モンスターを強化できる。

 

しかしそれでも、この数は明らかに多過ぎる。

 

いくら倒してもキリがないであろうこのシアゴーストの大群を前に、甲賀はできる事なら今すぐ撤退……しようとは考えなかった。

 

「ま、何とかなるでしょ……たぶん」

 

モンスターがレベルアップすれば、そのモンスターと契約しているライダーも比例して強化される。

 

自分のスペックに不安があった甲賀にとって、これは実にありがたい状況だった。

 

この状況を上手く利用すれば、自分とステルスニーカーのスペックを同時に高める事ができる。

 

シアゴーストの尋常じゃないその数には流石にドン引きこそしたが、だからと言ってこの場から逃げる理由も彼女にはなかった。

 

≪ADVENT≫

 

「行くよ、ステルスニーカー」

 

「ゲココココ……!」

 

忍者刀を構えた甲賀は、召喚した自身の相棒と共に素早く駆け出し、シアゴーストの蔓延る街中を駆け抜ける。

 

他の場所でも、他のライダー達が同じようにそれぞれの武器を構え、戦い始めていた。

 

ある者は、侵攻するモンスターから人々を守る為に。

 

ある者は、自分が死なないようにする為に。

 

ある者は、自身の契約モンスターを強化する為に。

 

ある者は、戦いという名の快楽を楽しむ為に。

 

事情こそ違えど、どのライダーも皆、己の目的の為に、己の意志で、この戦場を駆け抜けていく。

 

そしてそれは……

 

 

 

 

 

 

「雑魚ばかりだな。数を喰えば腹の足しにはなるか。なぁ、レオキマイラ」

 

 

 

 

 

 

世界の頂点を目指すこの男も、例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

「エウゥ!?」

 

道路を素早く駆け抜けながら、すれ違い様にシアゴーストを大型手裏剣で斬り裂いていく甲賀。

 

斬り裂かれたシアゴーストが次々と爆散し、出現する光の球を片っ端から舌で絡め取り、咀嚼していくステルスニーカー。

 

意外にも、甲賀とステルスニーカーのレベルアップ作業は順調だった。

 

シアゴーストは数こそ多いものの、一体一体のレベルは低く、手裏剣で斬りつけるだけでも簡単に倒せてしまうほどだった。

 

口から吐き出して来る糸は厄介だが、それも甲賀とステルスニーカーの機動力があれば、下手な油断でもしない限り捕まる事はない。

 

今の自分の火力でも問題なく倒せるシアゴーストの存在には、甲賀も内心少しだけありがたいと感じていた。

 

「ふぅ、ちょっと休憩っと」

 

最初は倒したシアゴーストの数も律儀に数えていたが、段々面倒になってきたのか、途中から数えるのをやめた甲賀。

 

一旦休憩を挟む事にした彼女は、歩道に生えている街路樹に背を預け、周りにシアゴーストの姿が見当たらない事を確認してから息を整え始める。

 

シアゴーストを狩り続けている内に、学校の正門前までやってきていた甲賀。

 

休憩に入った事でやっとその事に気付いた彼女は、現実世界での光景を思い浮かべる。

 

今もまだ、学校では部活動が平和に行われているのだろうか。

 

自分達がこうして命懸けで戦っている間も、何も知らない生徒達は平穏な時間を過ごせているのだろうか。

 

(……って、何考えてるんだか私)

 

この状況下、そんな事を呑気に考えていられる余裕は今の自分にはない。

 

早いところモンスター狩りを再開しようと、甲賀が休憩を終えて移動しようとした時だった。

 

ドズゥゥゥゥゥン……

 

「……!」

 

正門前にいる甲賀へと伝わってきた、大地がほんの僅かにだが揺れる音。

 

甲賀はそれが、学校のグラウンドから聞こえてきた物である事を悟った。

 

「もしかして、ライダー……?」

 

≪CLEAR VENT≫

 

突然起こった地響き。

 

その原因を探るべく、甲賀は学校のグラウンドへと素早く移動する。

 

念の為、クリアーベントで姿を透明化させておく事も忘れずに。

 

グラウンドに到着した甲賀は、そこで地響きが起こった原因を発見した。

 

(! あれは……)

 

透明化しつつ、校舎の陰から覗き込んだ甲賀が目撃したのは、グラウンドを覆うほど蠢いているシアゴーストの大群の中、契約モンスターを従えて相対する二人のライダーだった。

 

片方は、頭部の二本角が特徴的な赤いライダー。

 

その赤いライダーの後ろには、巨大な赤いマンモスのようなモンスター・ダイナエレファスが佇んでいる。

 

この赤いライダー“ヘリオス”の事は、これまでに目撃したライダーの一人だった為、甲賀も一応は知っていた。

 

そのヘリオスの変身者が、聖山の演劇部で起きた事件の犯人である可能性が高いという事も、独自に調べ上げた事である程度は把握している。

 

甲賀にとって問題なのは、ヘリオスではないもう片方のライダーだった。

 

(アイツも、ライダーなの……?)

 

黒いアンダースーツの上から身に纏った、赤紫色の豪奢かつ重厚無比な装甲。

 

吼える獅子を思わせる、頭部の王冠のような装飾。

 

毛皮のような紫色のマントを翻し、気圧されるシアゴースト達の中を堂々と歩むその姿は、まさに皇帝と呼ぶに相応しい物だった。

 

あんなライダー、今まで見た事がない。

 

その威圧感は、物陰から覗き見ている甲賀すらも、思わず圧倒されてしまうほどだった。

 

「……何、あんた?」

 

「仮面ライダー、吼帝」

 

「その声……あんた男? どうなってんのよ。ライダーバトルは女しかいないって言ってたのは嘘だったの? 昨日の奴も男だったし、マジ意味分かんない」

 

(……それは私も同意見ね)

 

ヘリオスの疑問には、甲賀も内心で同意する。

 

この皇帝のようなライダー“吼帝(こうてい)”は今、確かに男の声を発した(・・・・・・・)

 

樹が初めて甲賀になった時も、アリスは確かに言ったはずだった。

 

この戦いに参加しているのは女、しかも若い年齢の少女だけだと。

 

それから、ヘリオスの言う昨日の奴(・・・・)とやらにも、甲賀は首を傾げた。

 

(男が変身してるライダーが、二人いる……?)

 

本当に、一体何がどうなっているのか。

 

疑問が尽きない甲賀が考え込む中、対峙する吼帝とヘリオスの話は次の段階に進もうとしていた。

 

「ほぉ、私以外にも男がいたか……まぁ良い。いずれ相まみえるだろうが、今はお前だ。喜べ女。お前は私が屠る最初のライダーだ」

 

「……ふざけるな……ッ!!」

 

(っと……考え事してる場合じゃないよね……!)

 

紫色の体毛に赤黒い鎧を纏い、山羊の角と蛇の毒牙を持った獅子のような怪物・レオキマイラを従えた吼帝は、相対するヘリオスをまっすぐ指差し、彼女を最初の標的として屠る事を宣言。

 

その威厳のある物言いに、シアゴースト達すらも思わず後ずさる中、獲物扱いされたヘリオスだけは怒りを露わにし、吼帝に向かって駆け出していく。

 

これから戦いが始まる事を察知し、考え事をひとまず中断した甲賀は、二人の対決を一部始終見届ける事に集中する。

 

特に吼帝は、甲賀が今まで一度も姿を見た事のないライダーだ。

 

どんな能力を持っているのか。

 

どんな戦法で戦うのか。

 

まずはそれを一通り把握しなければならないと、当初の甲賀はそう考えていた。

 

そんな彼女が見たのは……彼女の想像を、遥かに上回る光景だった。

 

(ッ……何なの、アイツ……)

 

戦いの一部始終を見届けた甲賀は、戦慄していた。

 

彼女の目の前で始まった、吼帝とヘリオスの戦い。

 

その戦いは……もはや戦いですらなかった。

 

怒りのままに挑みかかったヘリオスを、吼帝はパンチ一発で大きく吹き飛ばした。

 

カードも使わずに、吼帝はそれをあっさりとやってのけたのだ。

 

その後も、吼帝はヘリオスの繰り出す攻撃を難なく捌き、周りにいたシアゴースト達すらも巻き添えになるほどの蹂躙劇を見せた。

 

そして彼は倒れたヘリオスに対し、彼女が……否、全てのライダーが最も恐れている事を、躊躇いなく実行した。

 

「見てみたいものだな、願いの反転(・・・・・)というものを」

 

それは、ヘリオスから奪ったメモリアカードを、彼女の目の前で破り捨てる事。

 

メモリアカード。

 

どのライダーも必ず持っている、そのライダーの“願い”が書かれた大切なカード。

 

それを破り捨てられる、燃やされるなどの事をされると、その願いは反転し、二度と叶う事はないという。

 

それは願いを失うという事であり、そのライダーの脱落を意味する。

 

「やめ……やめて……ッ」

 

「何だ? 途端に雌らしい声を出すようになったな。今更媚びても無駄だぞ、雌」

 

メモリアカードを奪われた途端、ヘリオスは先程までの攻撃的な態度を一変させ、弱々しい声を挙げていた。

 

しかし一方的に叩きのめされた今のヘリオスに、反撃する気力は残っていなかった。

 

そんなヘリオスを冷たく見下ろしながら、吼帝は彼女から奪ったメモリアカードに手をかける。

 

それを見て、ヘリオスの焦る声が更に大きくなった。

 

「野蛮な奴だな君は。私の世界に、君は必要ない」

 

「待っ……待って!! お願いだからっ!! 私、あんたの為に何でもするから―――」

 

「くどい」

 

それは、あっさり破り捨てられた。

 

その時に起こった出来事を、甲賀は確かにその目で見た。

 

(!? 消えた……!?)

 

倒れたまま、メモリアカードに向かって空しく手を伸ばしていたヘリオスの全身が、一瞬でその場から姿を消してしまった。

 

何が起こったのか理解できないまま、甲賀は周囲を何度も見渡した。

 

「さて、どうなる? ……なんだ、どうなるかは見せてはくれないのか。つまらん」

 

吼帝は興が醒めた様子でクルリと背を向け、どこかに立ち去って行く。

 

周りにいたシアゴーストを全て喰らい尽くし、ダイナエレファスをも難なく仕留めたレオキマイラが、その後ろに続いていく。

 

吼帝とレオキマイラがいなくなった後、その一部始終を見届けた甲賀は、これまで感じた事のない恐怖心を抱いていた。

 

(ッ……あれは……流石にヤバいよね。あの赤いライダーには悪いけど、様子見に徹して正解だった。乱入していたら私もやられてただろうし……)

 

吼帝の戦う姿を見たからこそ、甲賀は悟った。

 

あの男には勝てない。

 

あの動きは、明らかに武術に精通している動きだった。

 

あの男には、トリックベントも、クリアーベントも通じる気がしなかった。

 

ただでさえ、他のライダー相手でも苦戦しているくらいなのだ。

 

小細工抜きであの男に真正面から戦いを挑むなど、ハッキリ言って自殺行為に等しいだろう。

 

吼帝に恐れを抱いたからこそ、甲賀は冷静にそう分析する事ができた。

 

甲賀は自身のデッキから、1枚のカードを引き抜く。

 

それは彼女が一番大切にしているメモリアカード。

 

そこに書かれているのは【HEALING(治癒)】。

 

もし、このカードを失ってしまったら……その時、自分はどうなる?

 

その先を考えただけで、甲賀は身震いが止まらなかった。

 

嫌だ。

 

絶対に嫌だ。

 

失いたくない。

 

この願いだけは絶対に。

 

「ッ……スゥゥゥゥゥ……ハァァァァァ……!」

 

メモリアカードを大切そうに持ちながら、甲賀は大きく息を吸い、そして吐く事で自分を落ち着かせる。

 

そうだ、落ち着け自分。

 

今は恐怖している暇などない。

 

ライダーになったその時から、覚悟は決めたはずではないか。

 

ならば、迷う必要もない。

 

自分はただ、するべき事をすれば良いのだ。

 

「……よし」

 

いくらか落ち着きを取り戻した甲賀は、すぐにその場から移動を開始する。

 

彼女がこれから果たしたい目的は、彼女一人では達成できない物だ。

 

だからこそ、彼女は会う必要があったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身が一番恐れを抱いたあの男―――吼帝の元へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい! 皆さんご参加、ありがとうございました!」

 

「ミラーワールドから強制退出されて、びっくりしちゃったかな? イベントはこれで終了でーす!」

 

「少しは強くなれたかな? 強くなって、もっともーっと派手に殺し合ってくださいね! それじゃあ皆さん、またいずれ~」

 

モンスター狩りという名の祭りは、再び主催者のアナウンスが響き渡ると共に、あっさりと終了した。

 

シアゴーストの大群と戦っていたライダーは皆、ミラーワールドから一人残らず強制退出させられる事となった。

 

しかし、それで終わりではない。

 

ミラーワールドから現実世界に戻って来た樹は、再び学校へと移動し、ある一室へと向かおうとしていた。

 

それは生徒会室。

 

本来、樹のような一般生徒はそうそう訪れる機会のない部屋だった。

 

(いた……!)

 

その扉の前までやって来た樹は、ちょうどその扉に手をかけようとしていた人物を発見した。

 

樹は速足で接近し、生徒会室に入ろうとしていたその人物も、樹の存在に気付いた。

 

「あなたでしょ? 生徒会長さんって」

 

ポニーテール状に結んだ黒髪に、鋭い切れ目が特徴的な長身の男。

 

その男の声を聞いて、樹は確信した。

 

その声は、あの吼帝の放つ声と一致していたからだ。

 

「あぁ、私がそうだが……君は?」

 

「私は黒峰樹。あなたに用があってここに来たの」

 

だからこそ樹は、生徒会のトップに君臨するその男に対し、ある事を提案したのだった。

 

全ては、己の願いを叶える為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私をさ、あなたの手下にして欲しいんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかな? ライオンのライダーさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




如何でしたか?

鐵宮こと吼帝の圧倒的な力を前に、樹ちゃんが下した決死の決断。これが吉と出るか、それとも凶と出るか、それはまだ私にもわかりません。
まぁ話の原作が龍騎な時点でなぁ

そして脱落したヘリオスはどうなったのか?
その末路は、ぜひツルギ本編にてご確認を。

次回……たぶんもうそろそろ、樹ちゃんが【一線を越えてしまう】かもしれません。

それでは!
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