リアルが忙しくてなかなか執筆できず、小説を覗きに来る機会すら減っていた自分ですが、ようやく執筆作業が再開できました。
という訳で5話目の投稿。今回は今までで一番長いです。
それではどうぞ。
ジリリリリリリリ!
「―――ん、みゅう」
時刻は朝6時。
目覚まし時計がうるさく鳴り響く中、布団に包まっていた樹が、ゆっくり目を覚ます。
(……朝か)
布団から顔を出した彼女は、まだ眠たそうな表情を浮かべている。
今日は日曜日なのだから、できる事なら二度寝してしまいたいと思う樹だったが、残念ながらそうはいかない。
彼女にとって、今日という日は非常に重要な一日だからだ。
(……起きなきゃ)
ウトウトしつつも、まずはうるさい目覚まし時計を黙らせた樹は大きく欠伸をした後、布団を捲り上げてから体を大きく伸ばし、ベッドから起き上がって部屋を出る。
パジャマ姿のまま降りて行く彼女は、まだ眠気が残っているのか時折フラフラする事もあったが、何とか階段を転げ落ちるような事態にはならず、1階のキッチンへと到着する。
そこで樹が見たのは、キッチンで朝食を作っている母の姿だった。
「あら、おはよう樹」
「ん、おはよう……」
「珍しいな、樹がこんな早く起きるなんて」
リビングルームでコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた父が、物珍しげな様子で呼びかける。
彼の言葉通り、樹は基本、日曜日はこんなに朝早くから起きる事はほとんどない。
それなのに、何故樹が朝早くから起きたのかと言うと……
「ん、ちょっとね。見たい映画があるからさ」
「あぁ、前にテレビでCMに出てた恋愛系の奴か? 樹はそういうのには興味ないと思ってたが」
「失敬な。私だってたまには見る時あるし」
「あらあら、樹ちゃんの新しい一面が見れた気がするわね」
「何それ……変なの」
ウフフと微笑ましそうな母を他所に、樹は自分用のマグカップに冷蔵庫から取り出した牛乳を注いでいき、グイっと口に含む。
冷たい牛乳を口の中で味わいつつ、樹は父と母に視線を向ける。
(……新しい一面、ねぇ)
映画を見に行くなど嘘だ。
本当は恋愛映画など微塵も興味はない。
樹がわざわざそんな嘘を付いたのには、ある理由があった。
『私をさ、あなたの手下にして欲しいんだ』
『どうかな? ライオンのライダーさん』
『……ふむ』
それは、生徒会室の前での出来事。
わざとらしく「ライダー」の名前を出した樹に対し、最初は穏やかそうだった表情が一瞬にして、感情のない冷徹な物へと切り替わる鐵宮武。
獣のような鋭い目付きに変わった彼は、自身の下顎を指先で触れながら、落ち着いた口調で樹に問い返す。
『そのような言い方をするという事は……君もそうなんだね?』
『うん、そういう事』
落ち着いた口調であるにも関わらず、凄まじい圧を感じさせる鐵宮。
樹は内心恐怖を感じつつも、決してそれに臆する事なく、自身のカードデッキを取り出して答えを示してみせた。
『名前を聞こうか』
『黒峰樹。1年E組の帰宅部。よろしく』
『黒峰樹……ん? 黒峰……ふむ、黒峰か……』
『?』
樹の名字である「黒峰」と聞いた時、鐵宮は何か引っかかりのような物を感じたのか、まるで考える人の石像のように考え事をし始めた。
鐵宮の様子に樹は首を傾げる。
『何、どうしたの?』
『……あぁいや、すまない。ここで立ち話をするのもなんだ、中で話をしようじゃないか』
樹に呼びかけられた事で、一旦考え事を中断した鐵宮は生徒会室の扉を開く。
それを見て、どうやら入室を許可されたようだと樹は判断した。
鐵宮は一足先に生徒会室へと入って行き、樹もそれに続くように中へと入室していく。
初めて入る生徒会室を前に、樹が思ったのは……
『……無駄に豪華ね』
部屋全体が綺麗なのは別に何の疑問もない。
一番目を引いたのは、校長室にあるのと同じようなサイズのテーブルとソファ。
ただの生徒会室に何故そんな豪華な物を、しかも場所を大きく取ってしまうような備品を置いているのか。
樹は色々と突っ込みたいところだったが、残念ながらそれは叶わなかった。
『!? あなたは……ッ』
部屋に入った際、既に生徒会長専用のテーブルの近くに立っていた1人の女子生徒。
樹もまた、その女子生徒に見覚えがあった。
『あれ、副会長さん……?』
生徒会の副会長を務めている、鐵宮の右腕とも呼べる存在。
品行方正にして成績優秀、まさに全生徒の見本とも言える人物。
そんな佐竹だが、彼女は部外者であるはずの樹が生徒会室に、しかも生徒会長である鐵宮に連れられてやって来た事に対して驚く反応を見せていた。
そして樹もまた、その佐竹がいる生徒会室に自身を連れて来た鐵宮の行動に、少なからず疑問を抱いていた。
これからライダーに関する話をしようというのに、どうして無関係の人間がいる場所へと連れて来たのか。
不思議に思う樹だったが、その疑問はすぐに解決する事となる。
『会長、彼女は一体……』
『安心したまえ佐竹君。彼女は別に、こちらと敵対したい訳ではないそうだ』
『……あぁ、そういう事』
佐竹も同じくライダーか。
それかライダーでなくても、ライダーの存在を知っている人間か。
鐵宮が告げた一言から、樹はすぐにそれを察する事ができた。
『コホンッ……まぁひとまず座りたまえ、黒峰君』
小さく咳き込む動作をした後、豪華なソファに座り込んだ鐵宮に促され、樹も鐵宮と向かい合うようにソファへと座り込む。
『さて、自己紹介と行こうか。私は鐵宮武。この聖山高校の生徒会長を務めている』
うん、知ってる。
樹からすれば、この学園で一番有名な生徒である鐵宮の事は、いちいち自己紹介を聞くまでもなかった。
『そして、仮面ライダー吼帝でもある。良い名前だろう?』
『……私は少し意外だったよ。男である会長さんが、ライダーになっていたなんてね』
『あぁ、佐竹君から聞いている。このライダーの戦いに参加しているのは女だけだとね。佐竹君には心から感謝しているよ。彼女のおかげで、私もこの戦いに参加する事ができているのだから』
あぁ、なるほど。
彼のデッキは、元々は副会長さんの物だったのだろう。
それを会長さんが奪ったと……だからさっきから副会長さんは会長さんを睨んでいて、陰でこっそり舌打ちしているのか。
鐵宮に聞こえないよう小さく舌打ちしたつもりなのだろうが、耳の良い樹はもちろんそれを聞き逃さなかった。
というか、品行方正で通っている彼女の本性が、まさかこんなだったとは。
樹は少しだけ意外に感じていた。
『では、先程の話の続き……と行きたいところだが、その前に1つ思い出した事がある。黒峰君。君はかつて、ピアノを演奏していたんじゃないかな?』
『! ふぅん、知ってるんだ。アタシの事』
『テレビでも取り上げられていたのを覚えている。その手の業界からも一目置かれていた、稀代の天才ピアニスト少女として』
鐵宮は先程までの冷たい表情が一旦鳴りを潜め、穏やかな笑顔で語り続ける。
『私も、テレビで初めて君の演奏を聴いた時は、思わず最後まで聴き入ってしまったよ。あんなにも素晴らしい音色を奏でられる人間がこの世に存在していたのか、とね』
『はぁ……』
『将来、君がプロのピアニストとして活躍する事を私も楽しみにしていた……だからこそ、残念に思っているよ』
鐵宮は自身の膝の上に両肘を立て、両手を組みながら悲しげな様子で首を横に振る。
『君がピアノを辞めたと知った時はショックだったよ。そして、君が辞める原因を作った事故についても、到底許せない話だとも思った』
『……』
『あれほどの素晴らしい才能を持った人間が、何の才能もない無能な俗物如きに踏みにじられてしまうなど、絶対にあってはならない事態だというのに……君もそう思うだろう?』
両手を組んだまま顔を伏せ、目元が見えなくなる鐵宮。
その姿は一見、とても悲しそうなようにも見える雰囲気だったが……樹は知っていた。
これらの言動や表情は、どれもそんな感情など込められていない事を。
テレビでも取り上げられていたのを覚えている?
先程まで私の顔を見ても思い出せなかった奴が何を言っている。
あんなにも素晴らしい音色を奏でられる人間がこの世に存在していたのか?
今じゃまるで見る影もないとでも言うかのような台詞だ。
君がピアノを辞めたと知った時はショックだった?
私の顔を見て思い出せない奴がそんなショックを受けるとは到底思えない。
鐵宮が発する台詞の1つ1つが、樹からすればどれも裏があるようにしか聞こえなかった。
その証拠として、先程から横で話を聞いていた佐竹もまた、胡散臭げな感じで鐵宮を見ているほどだ。
『……と、すまない。話が逸れてしまったね。それじゃあ本題に戻るとしようか』
組んだ両手で目元を隠していた鐵宮が、一瞬で表情を切り替えて無感情な顔に戻る。
ほらこれだ。
吼帝として戦う姿を見た限りでは、どう考えてもこちらが彼の本性だ。
先程までの穏やかな表情は、あくまで生徒会長としての表向きの姿に過ぎないのだろうと、樹は考えていた。
『さて、君は先程こう言ったね。自分を私の手下にして欲しいと』
それを聞いて、佐竹が再び驚く顔を見せていたが、樹はそれを無視して口を開いた。
『アタシね、実は見たんだ。会長さんがライダーとして戦っているところをね』
『ふむ』
『あんなにもあっさりライダーを倒すんだもん。正直、見ていてゾっとした』
これは間違いなく本音である。
今の樹からすれば、カードも使わずしてライダーを一方的に圧倒できる吼帝のパワー、そして鐵宮の技量は敵に回すと恐ろしいものだった。
だからこそ、樹は考えたのだ。
この男と手を組めば、自分がこの戦いを生き残れる確率が少しでも上がるのではないかと。
『ライダー同士で手を組みたい、か……なるほど。話自体は至って単純な物のようだね……しかし、私としては少し疑問に思う。何故そこは同等の立場ではなく、敢えて手下になる道を選んだのかな?』
『そこは簡単な話。会長さん、人から命令されるの嫌いでしょ』
『……ほぉ?』
両手を組んでいた鐵宮の指先が、僅かにピクリと反応する。
『あの赤いライダーと戦っている会長さんの話を聞いてて思ったの。会長さんはたぶん、世界の頂点に立つ事が夢なんじゃないかなって』
―――喜べ女。お前は私が屠る最初のライダーだ
―――野蛮な奴だな君は。私の世界に君は必要ない
どこまでも傲慢な鐵宮の言動。
ライダーの名称として、わざわざ吼帝と名乗った事。
そして政治家一家である鐵宮の家系。
それらの要素から、樹は推測できたのだ。
この男は恐らく、今の生徒会長としての立場にも納得していない。
いずれは鐵宮家の家督を継ぎ、この国の頂点に立ち全てを支配するという、底知れない野心を抱いていると。
『同等の立場だと、組んでいる相手から偉そうに命令される可能性だってある。それだと会長さんにとってもあまり良い気分にはならないでしょ?』
それ故に、樹は敢えて手下になる道を選んだのだ。
自分は手下として従うから、好きなだけ命令すれば良い。
いずれはこの国の頂点に立ち、国の支配者になろうとしている鐵宮にとっても、別に悪い話ではないはずだ。
そう考えた上で、樹は敢えて危険な賭けに出る事にしたのである。
『……確かに、他人がこの私に命令して来るなど、我慢のならない話だ』
鐵宮は小さく頷きながら、樹の話を最後まで聞き入れていた。
すると彼はソファから立ち上がり、両手を後ろに組みながら生徒会室の窓に視線を向けた。
『それで君は、敢えて私の手下になる事を選んだという訳か……』
窓の鏡面に映り込む、鐵宮の笑う姿。
そして彼は、衝撃の一言を口にした。
『良いだろう』
『『―――ッ!?』』
良いだろう。
そのたった一言に、樹と佐竹は目を大きく見開いた。
『黒峰君。私の傘下に下ろうという君の判断は、実に素晴らしい物だ。快く歓迎しようじゃないか』
『よろしいのですか会長!? そんなあっさり受け入れるなど……』
『すまないが、佐竹君は少し黙っていたまえ。私は今、黒峰君と話をしているんだ』
『……ッ』
反対意見を出そうとした佐竹を、鐵宮は重く冷たい言葉で容赦なく黙らせる。
苛立った様子で俯く佐竹だが、彼女のその反応は決して無理のない物だろうという事は、樹もわかっていた。
というか樹からしても、鐵宮の告げた一言に疑問を抱いていた。
一体どういうつもりなのか。
自分から手下にして欲しいという人間を、そんなあっさり受け入れるなど普通ならあり得ない。
何か裏があるはずだと、樹は鐵宮に対して疑心の目を向ける。
『……良いの? アタシから提案しといて言うのも何だけど、普通なら疑うところじゃない?』
『君が言ったんじゃないか。私の戦う姿を見てゾッとした、と』
鐵宮はクルリと振り向き、ソファに座っている樹に笑顔を見せる。
しかし笑顔を向けられた樹は、思わずゾクリと体を震わせた。
その笑顔が、とてつもなく獰猛な物に見えてしまったからだ。
『それはつまりだ。仮に君が私と相対したとして、君はこの私を相手に負ける可能性があると、そう考えたのではないかな? この私に勝てると踏んだのならば、わざわざ手下になどならず、同等の立場で組もうという考えになってもおかしくないはずだ。そうなのだろう?』
『……ッ!!』
『その反応、肯定と見なそうか』
樹は戦慄した。
見抜かれている。
樹の考えは、この男には全てお見通しだったのだ。
鐵宮は樹が座っているソファの後ろまで移動し、彼女の肩にポンと手を置く。
手を置かれた樹が思わずビクッと反応するも、鐵宮は構わず話を続けた。
『だが安心したまえ。自ら私に従おうとする者の意志を、無下にするつもりはない。裏切るような真似でもしない限りは、私の傘下として、手厚い待遇を約束しようじゃないか』
どこまでも感情のない鐵宮の言葉に、樹は冷や汗を流す。
そして彼女は理解させられた。
この男は、どこまでも他者を見下している。
誰がかかって来ようとも、この自分には敵わないのだと。
自分をあっさり迎え入れると言ってのけたのも、その余裕から来ているのだろう。
樹はそんな鐵宮の事が恐ろしく、同時に一種の安堵もあった。
あの圧倒的強さを誇る吼帝が味方になるというのなら、これ以上ないほど頼もしい存在だ。
だからだろうか。
鐵宮のとてつもない威圧感に対しても、まだ何とか心が完全には屈さずにいられたのは。
願いの為にも、ここで屈する訳にはいかない。
その執念とも言える強い意志が、辛うじて樹の心を支えていた。
『……しかし困ったな。君は私のライダーとしての力を知っているのだろうが、私はまだ、君のライダーとしての腕前を全く知らない。そこでだ』
鐵宮は樹の肩から手を離し、再びソファに座り込む。
今度は足まで組み始めた彼は、樹にある提案を行った。
『少しばかり、君の事をテストさせて欲しい』
『テスト?』
『そう難しい内容ではない。もしこれをクリアできれば、正式に私の配下として迎え入れようじゃないか』
その言葉で、樹は察した。
鐵宮は確かめたいのだ。
彼にとって、自分が使える存在であるかどうかを。
クリアできればそれで良し。
ではもし、使えない存在だと見なされた場合は……。
『構わないね? 黒峰君』
相変わらずニコニコと笑顔を浮かべている鐵宮。
ここへ来た以上、拒否などさせないぞとでも言うかのような表情だった。
しかし、これは樹にとって想定内だった。
むしろこうして試される事を覚悟の上で、彼女はここへ来たのだから。
樹には、それを拒む理由はなかった。
そして現在……
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
ミラーワールド、少し大きな交差点。
現実世界でならたくさんの人が行き来するこの交差点も、ミラーワールドでは誰1人として人など存在しない殺風景と化す。
そこでは今、とあるライダーが蹂躙されようとしていた。
「がは、げほ、ごほっ……!!」
空中を大きく吹き飛び、近くの建物の壁に激突してから地面に落ちる1人の仮面ライダー。
蜘蛛の顔を模した装甲に、エメラルドグリーンで配色されたボディが特徴的なそのライダー“アルケニー”は咳き込みながら、自身をこんな目に遭わせた張本人のいる方角を見据え、仮面の下でキッと強く睨みつけた。
「どうした? この程度か」
「ッ……お前ぇ……!!」
アルケニーを吹き飛ばした張本人―――吼帝は自身の右手を軽めにブンブン振ってから、つまらなさそうな様子でアルケニーを見据える。
この両者が相対しているのには理由がある。
吼帝はこの交差点付近まで移動し、そこにちょうど襲って来たモンスターを狩っている最中だった。
そしてモンスターを倒し終えたその直後、アルケニーが不意打ちで吼帝の背後から襲い掛かって来たのである……しかし。
「全く、雑魚狩りをしている時に後ろから不意打ちとはな。戦術としては決して間違いではないが、大声を出しながら攻撃するなど、かわして下さいと言っているようなものだ」
アルケニーも標的を見つけてテンションが上がっていたからか。
彼女はこれまで自分以外のライダーを襲った時のように、掛け声を上げながら飛びかかったのだ。
その結果どうなったかと言うと、掛け声を聞いて素早く振り返った吼帝により、カウンターの形で拳を喰らい、大きく吹き飛ばされる羽目になったのである。
「ッ……その声、まさかとは思ったけど男だったなんてね」
「ふむ、やはり男が変身するライダーというのは珍しいようだな。まぁそれは良いだろう……喜べ女。お前は今日この場で地に沈む事となるだろう」
「ふざけんな……誰がお前なんかにぃ!!」
≪STRIKE VENT≫
アルケニーは鉤爪型の武器を両腕に装備し、吼帝に向かって勢い良く飛びかかる。
しかしそれで怯む吼帝ではなく、時には体を反らし、時には手で弾くなどして、アルケニーの振るう鉤爪を的確に捌いていく。
そして一瞬の隙を突いた吼帝の右手が、アルケニーの横腹目掛けて掌底を炸裂させた。
「がはぁっ!?」
「……つまらん、やはりこの程度か」
「舐めんじゃないわよ!!」
≪ADVENT≫
『キシャアッ!!』
地面を転がされたアルケニーは、すかさずカードを装填して自身の契約モンスターを召喚。
ターコイズブルーのボディを持つ、蜘蛛のような2足歩行型のモンスター“アイスパイダー”が出現し、吼帝はアイスパイダーが振り下ろして来た鉤爪をかわす。
するとアイスパイダーの鉤爪が斬りつけた電柱が、パキパキと音を立てながら少しずつ凍りついていき、それを見た吼帝は「ほぉ」と声を漏らす。
「攻撃した物体を凍らせるか。面白い能力だな。ではこちらも……」
≪ADVENT≫
『ガオォォォォォォン!!』
吼帝も同じようにカードを装填し、彼の背後に現れたレオキマイラが高い咆哮を上げる。
その迫力ある咆哮に圧倒されるアルケニーだったが、彼女は仮面の下でニヤリと笑みを浮かべた。
「かかったわね!!」
≪FREEZE VENT≫
アルケニーはすぐさまカードを装填し、電子音が鳴り響く。
それを合図に、吼帝と共に動き出そうとしたレオキマイラの身に、突如異変が起こった。
『!? グガ、オ、ォ……ッ……』
「! 何……?」
レオキマイラの吠える声が少しずつ弱まっていったかと思えば、突然レオキマイラの全身が凍りついたかのように硬直し、その場で停止したままピクリとも動かなくなってしまった。
この事態に、流石の吼帝はレオキマイラの方へと振り向いた。
「ほぉ、これが
「ほらほら、余所見してる場合!?」
そこへすかさずアルケニーとアイスパイダーが跳躍し、連携して吼帝に攻撃を仕掛ける。
吼帝はアルケニーの振るう鉤爪を屈んで回避した後、アイスパイダーの胸部を蹴りつけてから、停止して動かないレオキマイラに目を向け、クククと興味深そうに笑ってみせる。
「全く動かないか……なるほど、能力はなかなか面白いじゃないか」
「いつまで余裕ぶってるのかしら。それとも、自分の立場がわかってないの?」
「あぁ、もちろん余裕さ。
「ッ!?」
吼帝の告げた名前を聞いた時、攻撃を仕掛けようとしたアルケニーがその場で立ち止まった。
アルケニーは驚いた。
それは他でもない、アルケニーの本名だったからだ。
「しかし残念だな。いくら能力が優秀であったとしても、肝心の本人の実力が伴っていないのではな。確か君は、
「な、何で……何でお前なんかが、アタシの事を知っている……!?」
「何故知っているか? その答えならば、すぐにわかるさ」
「はぁ? 何言って―――」
≪SWORD VENT≫
「がぁっ!?」
『キシャアッ!?』
突如、アルケニーとアイスパイダーの背中に強烈な痛みが襲い掛かった。
地面に倒れ込んだアルケニーが後ろを振り向くと、そこには巨大な手裏剣を構えた甲賀の姿があった。
「な、もう1人……!?」
「どう? アタシの情報、役に立った?」
「君の情報通りだったようだ。良いだろう、1つ目のテストは合格だ」
アルケニーは予想していなかった。
まさか、2人のライダーが手を組んでいたとは。
驚くアルケニーを他所に、吼帝の横に甲賀が並び立つ。
この時、吼帝の口からは“テスト”という言葉が発された。
「んじゃ、まずは1つ目クリアね」
「ッ……な、何よ、どういう事なの!?」
「頭の悪い君にも教えてあげよう」
話が全く読めていないアルケニーに対し、吼帝はわざわざわかりやすく説明を開始する。
「彼女だよ。君に関する情報を、私に提供してくれたのは」
この日、樹が外出しようとした理由……それは他でもない。
鐵宮と共に、ライダー狩りを行う為だった。
そのライダー狩りを行う中で、鐵宮は樹に対し、3つのテストを行う事にしたのだ。
その内の1つ目。
樹が鐵宮に対して、どのような形で役に立つのか。
それを証明する事が、樹に課せられた最初のテストだった。
これに関しては、樹からすれば何の問題もなかった。
何故なら既に、数多くのライダーの情報を集めてみせていたのだから。
『黛寿葉。松生高校の3年生で、普段は同じ松生の不良達と屯してるみたい。後輩の女子をパシリみたいに扱ってるところを見た人もいるって』
『松生高校……低能な猿共の溜まり場か』
樹が調べたライダーの中には、既に素顔や住所、通う学校などの情報まで特定できている者もいる。
この時、松生高校の名前を聞いた鐵宮が不快そうに眉を顰めていたのは、樹の記憶に新しかった。
『普段からモンスター狩りをしたり、他のライダーに対しても積極的に喧嘩売ってるみたい。戦い方も大体わかってるし、今回のターゲットとしては最適なんじゃないかなって』
『……まぁ良いだろう。それならば明日、こちらから出向いてやるとしようじゃないか』
樹が提供した情報は、鐵宮にとっても実に有益な物だった。
アルケニーの不意打ちを駆使した戦闘スタイル。
アイスパイダーの物体を凍らせる能力。
フリーズベントがもたらす効果。
それら全てを事前に聞かされていたからこそ、吼帝は常に余裕の態度を示していたのである。
「最初から、アタシを罠に嵌める為に……!?」
「そういう事。ていうか、会長さんも堂々とし過ぎ。いくらアンタでも、契約モンスターがやられたら一気に面倒な事になるんだから、余計な手間かけさせないで」
「私に何かあれば、君がフォローしてくれるのだろう? しかし、確かに君の言う通りでもあるな。今回ばかりは私も反省しよう」
(本当に反省してるんだか)
まるで反省の意志が感じられない吼帝の態度に、甲賀は若干苛立ちつつもそれを抑え、改めてアルケニーの方へと振り返る。
「じゃ、そういう事だから。ここで大人しくやられてくれない? パパッと終わらせたいしさ」
巨大手裏剣の刃先を向けて来る甲賀。
それを見たアルケニーは、この状況に焦っていた。
目の前にはライダーが2人いる。
状況は圧倒的にこちらが不利。
このまま戦えば、負けるのは自分。
負ければ、自分はここで死ぬ事になる。
(このアタシが、ここで負ける……?)
「ッ……ふざけんじゃないわよ!!」
「! おっと……!」
アルケニーは立ち上がり、甲賀に向かって両腕の鉤爪を振り下ろす。
甲賀はそれを巨大手裏剣で受け流し、アルケニーと互いの武器で打ち合い始める。
ちなみに吼帝はと言うと、気付けば離れた位置に移動して観戦していた。
「黙って聞いていれば調子に乗りやがって!! アタシがこんな所で、死ぬ訳がないんだ!! アタシが最後まで勝ち残るんだぁっ!!!」
「ッ……!!」
アルケニーの振るった一撃が、甲賀の巨大手裏剣を弾き飛ばした。
そのままアルケニーは甲賀目掛けて、鉤爪を力強く振り下ろす。
「死ねぇ!!!」
しかし、それでも甲賀も慌てずにいた。
≪TRICK VENT≫
「「ふっ……!!」」
「!? 何……がっ!?」
鉤爪が甲賀の頭部に当たる直前。
甲賀は召喚機である忍者刀にカードを装填し、分身を生み出して2人に分裂する。
アルケニーは驚く間もなく2人の甲賀の攻撃を受け、それを皮切りに甲賀は更に分身を生み出していき、合計で6人に増殖する。
「分身を生み出す能力か、まさしく忍者だな……む?」
戦いを呑気に眺めていた吼帝はと言うと、甲賀の戦闘スタイルを冷静に分析していた。
そんな時、彼はある事に気付き、仮面の下で小さく笑みを浮かべる。
「……なるほど。それが君の戦い方か」
「ッ……このぉ!!」
「くっ!?」
一方、甲賀の分身達に囲まれたアルケニーも、ただやられてばかりではなかった。
分身の振り下ろして来た忍者刀を受け止めた後、その腹部を蹴りつけてから鉤爪で強烈な一撃を加え、まず1人目の分身が消滅する。
その近くではアイスパイダーも分身達を相手取っており、口から吐く糸を分身の胴体に巻きつけ、引き寄せたところを鉤爪で斬りつけ消滅させる。
それを見た別の分身も忍者刀で斬りかかろうとしたが、アイスパイダーはそれを右腕の鉤爪で受け止め、左腕の鉤爪で分身を攻撃し消滅させてみせた。
そしてアルケニーの方も、両腕の鉤爪で×字に斬りつけた分身を消滅させ、気付けば分身達は消滅して甲賀は1人だけになってしまっていた。
「これは、ちょっと想定外かも……!!」
「はぁ、はぁ……残念だったわね、これでもそれなりには戦える方なのよ」
「え、さっき実力が伴ってないとか言われてたのに?」
「喧しいっ!!!」
≪FINAL VENT≫
『シャアッ!!』
「!? ぐあぁっ!!」
甲賀の挑発に苛立ったアルケニーは、左足に付いている蜘蛛のような形の召喚機にカードを装填。
するとアイスパイダーが跳躍して一気に甲賀との距離を詰め、甲賀のボディを鉤爪で何度も斬りつけ始めた。
「が、あぐ、ごぁ……ッ!?」
アイスパイダーの能力で、斬りつけられた甲賀のボディがどんどん凍りついていく。
そしてアイスパイダーが攻撃をやめた後、そこには完全に凍りつき、氷の彫刻と化してしまった甲賀の姿があった。
そこにアルケニーが近付いて行き、凍って動かない甲賀の前に立つ。
「これで……終わりよ!!!」
バリィィィィィンッ!!
アルケニーが回し蹴りを繰り出し、甲賀のボディに炸裂する。
氷の砕け散る音が豪快に鳴り響き、アルケニーの周囲には、砕け散った甲賀の欠片が散らばった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ふむ、見事だ」
甲賀を殺害し、息をついているアルケニーに、吼帝が拍手を送る。
「なかなかやるじゃないか、黛寿葉君」
「……残念だったわね。アンタのお仲間さん、たった今ここで死んじゃったわ。これで残るはアンタだけね」
甲賀を殺害した事で、いくらか余裕が戻って来たのだろう。
強気になったアルケニーは、吼帝に対して鉤爪の先端を向けたが、それでも吼帝は冷静な態度だった。
それどころか……
「ク、ククク……クハハハハハ……!」
拍手をやめた吼帝は、その場で静かに笑い始めた。
「何よ、何が可笑しい訳」
「ハハハ……いやぁ、すまない。ここまでくると逆に笑えてしまうものでね」
「はぁ? 何言ってんのアンタ」
「だってそうだろう?」
「死んでもいない彼女を、既に殺したつもりでいるのだから」
≪FINAL VENT≫
その時だった。
誰も鳴らしていないはずの電子音が、その場に響き渡って来たのは。
『ゲコォ!!』
『ギ、ギシャアッ!?』
「!? なっ……」
どこからか長く伸びて来たステルスニーカーの舌が、アイスパイダーの右足に巻きつき、引っ張る事でアイスパイダーをその場に転倒させた。
ステルスニーカーの不意を突いた攻撃に驚くアルケニーだったが、そんな彼女の視界に、更に驚くべき光景が映り込んだ。
「はっ!!」
どこからか跳躍して来たのは、アルケニーが殺したはずの甲賀だった。
彼女はその手に巨大手裏剣を構えたまま跳躍し、空中で複数の分身を出現させる。
「な、馬鹿な……!?」
何故彼女が生きている。
自分が確かに凍らせて蹴り砕いたはずなのに。
そんな彼女の疑問が晴れるよりも先に、甲賀は動き始めていた。
甲賀とその分身達が見据えているのは、地面に倒れているアイスパイダー。
そして今、それらの手で投げられようとしている巨大手裏剣。
それらを見て、アルケニーはようやく察した。
最初から、これが甲賀の狙いだったのだと。
「ま、待って……やめてぇ!!!」
「「「「「はぁっ!!!」」」」」
『ギ、ガ、グギッ……ギシャアァァァァァァァッ!!?』
アルケニーの叫びも空しく。
甲賀と分身達は一斉に巨大手裏剣を投擲し、標的であるアイスパイダーに次々と炸裂させていく。
立ち上がろうとする最中だった為に、その攻撃を1つも避けられなかったアイスパイダーは断末魔を上げ、その場で大爆発を起こしてしまった。
そして爆炎の中から浮かび上がる光の球を、ステルスニーカーが舌で引き寄せて捕食し、ステルスニーカーは瞬時にその場から姿を消す。
「あ、あぁっ……そんな……」
アルケニーは絶望した。
自身の契約モンスターが倒された。
その意味がわからないほど、彼女とて馬鹿ではなかった。
「!? あ、うぐぅ……ッ!!」
アルケニーが突如、その場に膝を突く。
すると彼女の全身の鎧が、エメラルドグリーンから薄い灰色へと変化。
左足の召喚機は、何の特徴もない普通の形状となり、彼女がベルトに装填していたカードデッキは、中央にあった蜘蛛のエンブレムが消失する。
契約モンスターを失った事で、アルケニーは“ブランク体”と呼ばれる形態へと弱体化してしまったのである。
「そ、そんな……嘘よ……こんな事が……ッ!!」
「よっと」
絶望に打ちひしがれるアルケニーを他所に、甲賀は余裕のある様子で地面に着地し、分身達がその場で消滅する。
胸部装甲の汚れを手で払う甲賀に、吼帝が再び拍手をしながら歩み寄って来た。
「素晴らしいよ黒峰君。実に見事な作戦だった」
「……どうも」
そう、全ては甲賀のシナリオ通りだった。
それは、甲賀がトリックベントで分身達を生み出した後の事。
『分身を生み出す能力か、まさしく忍者だな……む?』
≪CLEAR VENT≫
『……なるほど、それが君の戦い方か』
アルケニーとアイスパイダーが分身達を相手取っている中、本体は既に、離れた場所でクリアーベントを使い透明化していた。
アルケニーが凍らせて蹴り砕いた甲賀は、ただの分身に過ぎない。
その後はアルケニーが完全に油断しているタイミングで必殺技を発動し、アルケニー……ではなく、アイスパイダーの方に狙いを定めたのだ。
契約モンスターを失ったライダーは弱体化する。
その性質をアリスから聞いていた彼女は、アイスパイダーを倒す事で、アルケニーの弱体化に成功したのである。
「卑怯、だなんて言わないよね?」
「言わないさ。これで2つ目のテストもクリアだ」
樹に課せられた2つ目のテスト。
それは樹の、甲賀としての実力を見せる事。
それも無事に合格判定となり、甲賀は内心ホッとしていた。
何せスペックの低い甲賀にとっては、このテストが一番難易度が高かったのだから。
「さて、では最後のテストと行こうか」
「今度は何をさせる気?」
「今までで一番簡単だ。しかしある意味で、一番できなければならない事でもある」
吼帝はそう言うと、今も絶望のあまり膝を突いているアルケニーに近付いて行く。
それに気付いたアルケニーは「ひっ」と小さな悲鳴を上げて逃げ出そうとしたが、その前に吼帝が右足で彼女を蹴り倒し、彼女の胸部を力強く踏みつけ逃げられなくさせた。
「ぐえ、ぷっ……!?」
「最後のテストだ、黒峰君……この女にトドメを刺せ」
「……ッ!!」
トドメを刺せ。
つまり、甲賀の手でアルケニーを殺せ、という事だった。
「トドメの刺し方は君に任せよう。直接君の手で殺しても良いし、何なら彼女のメモリアカードを破いてしまっても良い。どうだ、一番簡単だろう?」
「ッ……」
仮面ライダーは願いの為に殺し合う。
その戦いに参加した以上、
だからこそ吼帝は試そうとしているのだ。
甲賀に、
「ライダーになったからには、その覚悟はできているはずだ。まさか、できない訳ではあるまい?」
「……わかった」
甲賀は忍者刀を抜き取り、それを見た吼帝はアルケニーの胸部から足を退ける。
アルケニーは甲賀が近付いて来るのを見て、再び怯えた様子で後ずさりしようとしたが、その前に甲賀の忍者刀の刃先がアルケニーの眼前へと向けられる。
「ひぃ!? ま、待って、お願い、殺さないで!! 私が悪かったから……ね、ねぇ、お願い待って!?」
先程までの強気な態度が消え失せ、ただ死の恐怖に怯えながら命乞いをするアルケニー。
そんな情けない姿を見ていた時、甲賀は忍者刀を構えていた自身の右手が、僅かに震えている事に気付いた。
(ッ……アタシは……)
何故、自分の手は震えている?
殺す事を、本能的に躊躇っているからか?
甲賀にはわからなかった。
「そ、そうだ!! ねぇ、アタシ達、手を組んでみない!? アタシ達3人が手を組めば、案外上手くやっていけるんじゃないかしら!!」
「……アタシを殺そうとしたじゃん。今更何言ってんの」
「あ、あんなの、ちょっとした
「……は?」
「お、お願い、アタシにも叶えたい願いがあるの!! こんな所でまだ死にたくないの!! その為ならアンタ達の命令も何だって聞いてあげる!! だから……!!」
「……じゃあさ」
甲賀は忍者刀を下ろし、アルケニーに告げた。
「変身解いてよ」
「へ……?」
「アタシ達の言う事、何でも聞いてくれるんでしょ? まさか聞けない訳じゃ……」
「わ、わかった、わかったわ!! 今変身解くから!!」
アルケニーは慌てて自身のカードデッキをベルトから抜き取り、その変身を解除する。
変身を解いたアルケニーは、松生高校の制服に身を包んだ茶髪の少女“
それを見た甲賀は黛の前でしゃがみ込み、彼女の肩に左手をポンと置いた。
「……大丈夫、心配はいらない」
「! 何……?」
一体何を考えているのか。
まさか、この期に及んで助けるつもりか。
吼帝が仮面の下で眉を顰める中、甲賀の言葉を聞いた黛は嬉しそうな表情を浮かべた。
「た、助けてくれるのね!? 嬉しい、ありが―――」
ザシュウッ!!!
「―――と?」
何かを斬りつける音。
その音がどこから出た物なのか、黛は一瞬、理解が追い付かなかった。
そして今、何故か首元に痛みを感じる理由もわからなかった。
「大丈夫、心配はいらない」
しかし、それもすぐに理解させられる事となった。
何故なら今、黛の首元からは……
「
「が、ごぼぉ……ッ……!?」
「アンタの手を借りなくても、アタシはアタシの願いを叶えてみせる」
数秒遅れて、ようやく首を斬られた事に気付いた黛。
何で?
どうして?
言う通りにしたのに?
そんな絶望の表情を浮かべたまま、彼女はドサリと倒れ伏した。
僅かにビクン、ビクンと痙攣している黛を見下ろしながら、甲賀は忍者刀に付着した返り血を振り払い、腰の鞘へと納める。
そんな彼女の耳に、大きな拍手が聞こえて来た。
「素晴らしい、素晴らしいじゃないか黒峰君」
先程までとは打って変わり、満足気な様子で甲賀を讃える吼帝。
彼は当初、甲賀がアルケニーにトドメを刺せなかった場合の事も考慮はしていた。
しかし甲賀は、自分の想定以上の結果を見せつけてくれた。
これには吼帝も、拍手を送る以外の選択肢はなかった。
「おめでとう。これで君は全てのテストに合格した。正式に、私の配下として迎え入れようじゃないか」
吼帝から合格と見なされ、晴れて彼の傘下となる事が決定した、甲賀こと黒峰樹。
彼女は今、違う事を考えていた。
(……あの時の震え)
忍者刀をアルケニーに向けた時の、彼女の右手の震え。
その震えの原因を、彼女は今、改めて理解していた。
あれは、人を殺す事を躊躇うような、人としての良心から来る物ではない。
遊び半分でライダーバトルに参加しているとわかった、黛に対する怒りから来る震えだったのだ。
『あ、あんなの、ちょっとした
その台詞を聞いた時。
樹の脳裏には、両親の笑っている顔が浮かび上がっていた。
その瞬間、彼女の中で何かのスイッチが切り替わった。
そして気付いた頃には、彼女は黛をその手にかけてしまっていた。
(……あぁ、そっか)
にも関わらず、彼女の心は不気味なほどに冷静だった。
そこで樹は、初めて気付かされたのだ。
願いの為なら、自分の中のスイッチを一瞬で切り替える事ができてしまう、そんな己の異常性に。
(アタシも、狂ってたんだなぁ)
返り血で赤く染まった己の姿を見ながら、樹はこの日、その事実を強く思い知らされる事となったのだった……
To be continued……
願いを叶える事に、両親を喜ばせる事に深い執念を抱き続けていた樹ちゃん。結果として今回、遂に越えてはならない一線を越えてしまいました。
時系列的には、ツルギ本編で言うと『?+1ー15 揺らぐもの』から『?+1ー16 流転する』の間。
そう、樹ちゃんが美也ちゃんに「赤いライダー(ヘリオス)が倒された」という情報を伝えに来た頃には、樹ちゃんは既にライダーを1人殺めてしまっていた訳です。
これから先、彼女はどのような道を辿って行くのか……ツルギ本編も必見です。
ちなみに、↓に黛寿葉/仮面ライダーアルケニーの設定を載せてみました。もし使いたいという方がいたら、(もちろん大ちゃんネオさんにも一応確認を取った上で)ぜひお使い下さいませ。
まぁそもそも、この子を使える場面があるかどうかはわかりませんが(ォィ
黛 寿葉(まゆずみ ことは)/仮面ライダーアルケニー
詳細:松生高校3年生の女子生徒。18歳。得意科目は現代文で、苦手科目は理科。
中学生時代は写真部に所属し、この時は写真を撮る事が好きだった。彼女の撮る写真は綺麗で、周囲からも高い評価を得ており、黛自身も将来はフリーのカメラマンになる事を夢見ていた。
しかし、彼女の写真を妬んだ先輩女子部員に、これまで撮ってきた写真が破かれたり落書きされたりなど滅茶苦茶にされた挙句、「後輩の癖に調子に乗ってんじゃないわよ」と脅された上で、愛用していたカメラを目の前で壊されてしまう。その時のトラウマが原因で、今までのように写真を撮る事ができなくなってしまい、最終的にカメラマンになる夢を捨てる事になった過去を持つ。
樹や美也とはまた異なる形で、他者の悪意によって夢を踏み躙られた人物と言える。
その後、夢を失った事で荒れに荒れた結果、高校に上がる頃にはすっかりグレてしまい、他の不良男子達とつるんで動くようになった。自分が気に入らないと思った後輩男子を不良男子達と共に虐めたり、後輩女子をパシリとして扱ったり、挙句の果てには相手の大切な物を目の前で壊したりなど歪んだ性格になってしまった。仮面ライダーの力を手に入れてからは、その傲慢さが更にエスカレートしている。
他者の悪意を踏み躙られた結果、自分が他者を踏み躙る側に回ってしまった彼女だが、かつての「カメラマンになりたい」という願いに対しても中途半端に未練が残っており、ライダーバトルで勝利した暁には【過去のトラウマを克服する】事を強く願っている。
メモリアカードは【OVERCOME】で、意味は【克服】。
仮面ライダーアルケニー
黛寿葉が変身する仮面ライダー。基本カラーはエメラルドグリーン。
黒いアンダースーツの上に、蜘蛛の顔と手足を思わせるエメラルドグリーンの装甲を纏っている。フェイスシールドのスリッドは蜘蛛の巣の形状。
黛自身の戦闘能力があまり高くない為、標的を襲う際はアイスパイダーと連携して行動する事が多い。
顎召糸(がくしょういと)アイスバイザー
アルケニーの左足に装備されている、蜘蛛の頭部を模した召喚機。ベントイン方法は仮面ライダーベルデのバイオバイザーと全く同じ。
アイスパイダー
オニグモ型ミラーモンスター。基本カラーはターコイズブルー。ソロスパイダーに似た外見をしており、頭部・両肩・脚部に氷のツララを思わせるトゲが生えているのが特徴。
口から吐く糸で獲物を捕食する他、両腕の鉤爪は斬りつけた部分を冷気で凍りつかせる能力を持つ。
・デッキ構成
アドベント
アイスパイダーを召喚する。4000AP。
ストライクベント
アイスパイダーの両腕の鉤爪を模した武器『スパイダークロー』を召喚する。2000AP。
フリーズベント
特殊カードの一種。相手の契約モンスターを凍らせ、動きを封じる。1000AP。
ファイナルベント
アイスパイダーが両腕の鉤爪で敵を何度も斬りつけ、凍りついて動けなくなった敵にアルケニーが近付き、回し蹴りでバラバラに粉砕する『スパイディングフリーズ』を発動する。5000AP。