仮面ライダーツルギ・外伝 ~甲賀、見参~   作:ロンギヌス

6 / 7
6話目が書き上がったので更新です。

今回は樹ちゃんの働き者な一面をご覧あれ。

それではどうぞ。



第6話 働く者

ライダー狩りを終えてから翌日。

 

初めてライダーを自らの手で殺めた事は、樹の心に少なくない影響を与えた。

 

かと言って、彼女の普段の生活が大きく変わったのかと言われると、別にそういう訳ではない。

 

朝早くに目覚め、朝食を食べ、顔を洗って歯を磨き、制服に着替え、忘れ物がないかカバンの中身を確認し、そして登校する。

 

ここまでの一連の流れは、普段の日常と全く変わりのないものだった。

 

「そういえば樹。文化祭での出し物はもう決まってるのかしら?」

 

「うん。うちのクラスはカキ氷で決まった」

 

「ほぉ、カキ氷か……そういえばしばらく食べてなかったな。メロン味のシロップかけると美味いんだよなぁ」

 

「ここ数年、夏祭りとかに行く回数も減っちゃったものねぇ。お母さんはやっぱりイチゴ味が一番ね」

 

「良かったね2人共、うちのクラスに来たらどっちも頼めるよ。でもカキ氷ならブルーハワイ一択でしょ」

 

「……見事に意見が割れたな。カキ氷はメロン味こそが至高だろう?」

 

「あら、何を言ってるのかしらあなた。イチゴ味が良いに決まってるじゃない」

 

「ブルーハワイだってば。いくら父さんと母さんが相手でも、それは絶対譲らないから」

 

朝食を食べながら、樹は普段通りのテンションで両親と会話を行っていた。

 

会話の内容については、カキ氷のシロップはどの味が一番美味しいかという非常にしょうもない物だったが、そんな会話すらも樹にとっては楽しいものだった。

 

こんな楽しい日常が、これからも続いていって欲しい。

 

そんな気持ちを抱いているからこそ……樹は両親に対し、何も話さないでいた。

 

自分がライダーになった事も。

 

自分がライダー同士の戦いに参加している事も。

 

自分が既に、ライダーを1人手にかけてしまっている事も。

 

両親に隠し事をしている事、そして両親の知らないところで人の道を踏み外してしまった事に、樹は罪の意識を感じていた。

 

(知ったらきっと、2人は悲しむよね)

 

だからこそ、今後も両親には話す事はないだろう。

 

2人には、変わらず笑顔でいて欲しいから。

 

自分の願いが叶ったその時は、飛びっきりの笑顔で迎えて欲しいから。

 

そう思っているからこそ……樹は両親と話している今もなお、ライダーバトルの事を頭から決して離さずにいた。

 

(そう……願いの為だもんね)

 

白米を口にしながら、樹は箸を持っている右手にさりげなく視線を下ろす。

 

事故で後遺症が残ってしまった自身の右腕。

 

その後遺症を直し、またピアノを弾けるようになりたい。

 

それが樹の切なる願いだった。

 

そんな彼女の願いは……思わぬ形で、叶うチャンスが増えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アタシへの報酬?』

 

『あぁ。その事で、君に話しておこうと思ってね』

 

それは先日、ライダー狩りを終えた直後の事。

 

ミラーワールドから帰還した樹は正式に、鐵宮の配下として迎えられる事が決定した。

 

その際、鐵宮が樹に対して告げた報酬の内容は、彼女にとって決して無視のできない物だった。

 

『情報通な君の事だ。私の家が政治家一家である事はもう知っているのだろう?』

 

そんなのは既に分かり切った話である。

 

急にそんな話を持ち出してきて、一体何だと言うのか。

 

鐵宮の意図が読めない樹だったが、次に鐵宮が語る内容を聞いて、その表情に変化が起こる事となる。

 

『いずれ国のトップに立つ者として、私はその身を大事にしなければならない。故に鐵宮家には、どんな怪我や病気でも治せるよう、この国において最高の腕を持つ名医が手配されるようになっているのだよ……ここまで言えば、君もわかるのではないかな?』

 

『……ッ!?』

 

そこまで聞けば、その報酬の内容を察するのは容易だった。

 

樹への報酬。

 

それはズバリ、彼女の右腕の治療。

 

右腕を治すチャンスが巡って来た事に、思わず息を呑んだ樹は、左手で自身の右腕の裾を掴む力が強まっていた。

 

にこやかな笑みを浮かべている鐵宮の視線もまた、彼女の右腕をまっすぐ正確に捉えていた。

 

『私の悲願が達成されたその時は、君の腕を治して貰えるよう、こちらから取り計らってあげようじゃないか。どうだね? 君とっては願ってもない話だろう?』

 

『ッ……どういうつもり?』

 

いくら何でも話が美味過ぎる。

 

彼が自分にそこまでしてくれるメリットが一体どこにあるのか。

 

自分を都合良く利用する為に、適当な事を言っているのではないか。

 

樹からそんな疑いの目を向けられる事は想定済みだったのか、鐵宮は終始笑みを崩す事なく語ってみせた。

 

『それ相応の働きを見せた者には、それ相応の報酬を与える事で、その者の心を掴む。人心掌握など、支配者ならば持っていて当たり前のスキルなのだよ。ただ暴君なだけの愚者になど、誰も付いて行こうとは思わない。君もそうだろう?』

 

『……それはまぁ、確かに』

 

鐵宮の言う事はもっともではある。

 

どれだけ冷徹で、どれだけ傲慢であっても、そこは政治家一家の息子。

 

表の顔も、真の顔も、トップに立つだけのカリスマをきちんと持ち合わせている事は確かなようだった。

 

しかし、それを理解したところで今の樹には、気を緩めていられる余裕など全くなかった。

 

それ相応の働きを見せた者には、それ相応の報酬を与える……言い換えれば、それ相応の働きができない者に、くれてやる報酬は何もないという事。

 

もし鐵宮から「使えない手駒」と見なされてしまえば、その時はいとも簡単に切り捨てられてしまう事だろう。

 

特に自分なんかでは、反逆したところで勝ち目はないだろう。

 

ヘリオスを一方的に屠った吼帝の強さを知る樹にとって、それだけは絶対に避けなければならない事態だった。

 

『……わかった。報酬はそれでお願い』

 

『ふむ、契約成立だな。よろしく頼むよ、黒峰君』

 

だからこそ、樹はその報酬でOKを出す事にした。

 

鐵宮の考えがどうであれ、この状況は彼女にとって大チャンスだった。

 

上手くやれば、鐵宮の願いを達成させつつ自身の願いも叶えられる。

 

仮に嘘だと発覚しても、その時はその時で鐵宮を出し抜く術を考えるだけ。

 

状況がどのような方向に転がっても良いように、樹は人生で一番と言って良いほど、様々な思考を張り巡らせ続けていく事となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――ま、ひとまず今は授業だね)

 

そうして今に至る訳である。

 

どれだけライダーバトルの事を考えたところで、樹はあくまで高校生。

 

学生の本分が勉強である以上、授業にはきちんと出席しなければならないのが現実である。

 

しかし勉強をそつなくこなせる樹にとって、授業はとても退屈な時間だった。

 

古典の授業中、教師がペラペラと語りながら黒板に白いチョークを走らせ、生徒達は黒板に書かれている事を必死にノートに書き留めていく。

 

その一方で、樹は周囲とは全く違う事をしていた。

 

教師に見えないよう教科書で上手く隠れながら、小さなメモ帳にいくつもの文章を書き記し、そこにこの学園に通っている生徒の顔写真を貼り付ける。

 

そしてそのページをメモ帳から切り取り、別に取り出したファイルのページにまたペタッと貼り付けていく。

 

そう、彼女が現在作成しているのは、これまで発見したライダーの情報を纏めたファイルだった。

 

そのライダーの見た目の特徴。

 

そのライダーが使うカードや、契約しているモンスター。

 

そしてそのライダーに変身している、もしくは変身している可能性が高いと思われる生徒の素性など。

 

それらの情報をできる限り集めて来るよう、鐵宮に依頼された樹は、自分にとって退屈で、かつ教師が指名をして来ない授業の時間帯を利用し、入手したライダーの情報をファイルに纏める作業を行っているのである。

 

と言っても、たった1人で何でもかんでも情報を集められるほど、樹も流石に万能ではない。

 

この作業については、実は副会長の佐竹も共同して行っていた。

 

ライダーの使う能力などについては樹が。

 

ライダーの変身者の素性などについては佐竹が。

 

2人が分担して情報を集める事で、それらを1つに組み合わせた時、それはより有力な情報として鐵宮に提供されるのである。

 

(これで、また1人作成完了っと)

 

ファイルに纏められたライダーの情報は、既に1人や2人どころではない。

 

これまで遭遇した、もしくは発見したライダーの内、多くのライダーの情報が彼女によってファイル内に纏められつつあった。

 

ヘリオスやアルケニーのような、既にライダーバトルから脱落しているライダーに関しても、項目の上から赤ペンで大きな×字が刻まれている。

 

ここまで真面目に、かつ集中して作業を行っている樹の姿は、普段の彼女を知る面々からすれば非常に珍しい光景に見える事だろう。

 

「その真面目さを勉強に活かせないのか?」という突っ込みは、残念ながら彼女に対しては無意味である。

 

(さて……いよいよ今回の本命ね)

 

ここで、樹はまた新たなライダーの情報を書き記し始めた。

 

それはこのライダーバトルにおいて、鐵宮と同じイレギュラーとされている存在。

 

それは現時点で2人しか確認されていない、男子生徒が変身した仮面ライダーの内のもう1人。

 

(……御剣燐(みつるぎりん)

 

クラスは1年A組、部活は新聞部。

 

特になんて事ない、普通の特徴しかないと思われるその少年。

 

彼こそが、少し前のグリムとの戦闘中に目撃したライダー“ツルギ”の正体なのではないかと樹は推測していた……というかほぼ確信していた。

 

何故そのような考えに至ったのか。

 

それは、ある女子生徒の存在が鍵となった。

 

咲洲美玲(さきしまみれい)

 

この聖山高校における有名人の1人で、その冷たく近寄りがたい雰囲気から“氷の女”などと呼ばれている。

 

そして、彼女もまた仮面ライダーである。

 

樹はこの日の登校中、燐と美玲が2人一緒になったところを目撃。

 

その2人が通学路を外れてどこかに向かって行くのを不審に思った樹は、もしやと思い2人の後をこっそり尾ける事にした。

 

そして向かった先にあったドラッグストアの駐車場にて、樹は2人の会話をこっそり盗み聞きしたのである。

 

『僕のどこが馬鹿なんですか!』

 

『決まってるでしょう! あの時、消滅しかかっていたのにモンスターの群れに突っ込んで行って……急にミラーワールドから締め出されなかったら今頃、あなたここにいないのよ! 分かる!?』

 

(……へぇ)

 

人のいない場所で、2人だけで話している。

 

モンスター、ミラーワールドと言った単語に、燐は聞き慣れた様子を示していた。

 

そして美玲が告げた「モンスターの群れに突っ込んで行って」という発言。

 

それだけで、樹は簡単に答えを導き出す事ができた。

 

燐こそがツルギの正体なのだと。

 

結局、その時はそれ以外に有力な情報は得られなかったが、男子が変身するライダーの素性を特定できたというだけでも、彼女にとっては充分な収穫だった。

 

彼のより詳しい素性については、佐竹に全部丸投げしてしまえば良いだろう。

 

そう考えながら、樹は1年A組の女子生徒から譲り受けた燐の写真を、顔の部分だけ切り取ってからファイルのページに貼り付けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――あぁ、いたいた」

 

なお、樹の仕事はファイル作成だけでは終わらない。

 

鐵宮から言い渡された仕事は他にもある。

 

その仕事をこなすには、ある人物に出会う必要があった。

 

その人物と会うには、昼休憩の時間帯がベストタイミングだった。

 

何人かの生徒が立ちながら談笑している廊下を歩きながら、目的の人物を発見した樹は、慌てた様子でどこかに向かおうとしているその人物に、後ろから声をかける。

 

「影守さん」

 

「! あなたは……」

 

振り向いたその人物―――影守美也は樹の姿を見て驚く様子を見せた後、すぐに敵意の混ざった目を樹に向けた。

 

少し前、自分はライダーとして彼女と敵対した身である。

 

その敵対した相手が、再び目の前に現れたのだ。

 

敵意を向けられるのは無理もないだろうと樹は思っていた。

 

「少し、時間取れるかな」

 

「……何か、用?」

 

「そんな怖い顔しないでよ。別に今日は戦おうと思って来た訳じゃない」

 

それを聞いて、美也の表情から少しだけ敵意が薄れたのを感じ取った樹は、用件をさっさと伝える事にした。

 

「あなた達が追ってる赤いライダーなら倒されたわよ」

 

「え……」

 

「私、見たのよ。赤いライダーが紫のライダーに倒されるところを。メモリアを破られて、何処かに消えてしまったわ」

 

樹が告げた内容に、美也が目を見開いた。

 

どうやら、ヘリオスが既に脱落している事を美也達はまだ知らなかったようだ。

 

「何でその事を私に……ううん、何で私達が追ってるって……」

 

「戦いは情報戦ってね。私、これでも色々知ってるんだ~。あなた達が知らないライダーとかも含めてね」

 

実際、美也達よりも樹の方が多くのライダーの情報を握っている。

 

これに関しては、嘘をつく理由は樹にはない。

 

「それで、何であなたに教えたかだけど……もういないライダーの事なんて気にしても徒労じゃない。倒された敵より、まだいる敵の事について考えたらっていう親切心」

 

そう口にする樹だが、もちろん単なる親切心だけではない。

 

情報を知っているのと知らないのとでは全く違う。

 

情報を知っている者は、知らない者をある程度だがコントロールする事ができる。

 

それもまた、ヘリオスの脱落を他のライダー達に伝えるよう、鐵宮が樹に言い渡した理由の1つだった。

 

「へぇ、親切なんだね……けどもしかしたら私達は、次はあなたを狙うかもしれないでしょ」

 

「ぷっ何それ。戦いを止める為に戦うとか言ってたあなたが、私を襲う? 冗談言わないでよ」

 

「ッ……」

 

あれだけ戦いを止めたいだの何だのと言っていた奴が、何をアホな冗談を言っているのか。

 

そもそも、自分が既にライダーを1人殺めている事を彼女は知らないのか。

 

いや、彼女の事だ。

 

どうせ知る訳がないだろう。

 

何せヘリオスが脱落した事すら、たった今初めて知ったようなのだから。

 

樹からすればとんだ笑い話だった。

 

一方の美也は図星だったのか、言葉に詰まり何も言えない様子だった。

 

「まぁ、負けた奴のことなんて気にせずやらないと。次やられるのは自分かもしれないんだから。お互い気を付けましょう?」

 

樹がクルリと背を向けて歩き去ろうとすると、その後方から廊下を走り去る足音が聞こえて来た。

 

その足音が、今聞いた話を他のライダー達に伝えようと先を急ぐ美也の物である事は、樹からすれば振り返らなくてもわかり切った事。

 

これでまた1つ仕事をこなした樹は、その事を報告するべく次は生徒会室へと足を運ぶ。

 

そしてそれが終われば、恐らくまた他のライダーの情報収集を言い渡される事だろう。

 

(面倒臭いなぁ……)

 

こなさなければならない仕事がいちいち多くて困る。

 

しかし、鐵宮の配下になると決めたのは他でもない自分自身だ。

 

自分からそうしたからには、どれだけ面倒な仕事であっても真面目にこなしていくしかない。

 

(帰り、またハイレコに寄ろうっと……)

 

ストレスを発散するには、やはりCDショップで新しい曲を試聴するのが一番だろう。

 

そう決めた樹はさっさと鐵宮に報告を済ませるべく、歩くスピードを少しずつ上げて生徒会室へと向かって行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから翌日……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒峰君に紹介しておこう。本日より、彼女達も我々の陣営に加わる事となった。仲良くしたまえ」

 

「イエーイ! 放送部の玄汐夏蜜柑でーす♪ 仮面ライダーテュンノスやってまーす、よろしくねー☆」

 

「新島陽菜、仮面ライダーグリズ。よろしく」

 

「……は?」

 

これまで以上にストレスを抱えていく羽目になる事を、樹は嫌でも思い知らされる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued……

 




樹ちゃん働き過ぎじゃない?←

そんな樹ちゃんの前に、夏蜜柑ちゃんという胃痛悪化要因マスコット要員がやって来てくれました。
これで樹ちゃんのストレスが和らぐよ!
やったね樹ちゃん!





それはさておき、もうほとんどツルギ本編にも追いついてきちゃいました。物語的にもこの辺が一区切りになりますかね。
という訳で、次回は番外編的な何かでも載せてみようかな~なんて思っていたり。

それではどうなる?
また次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。