今回は『第5話 越える者』で儚い犠牲になった、あの子の視点からお送りします。
それではどうぞ。
夢を持って良いのは強い人間だけ。
アタシがそう思うようになったのは、中学1年生の頃だった。
昔は写真を撮るのが好きだった。
小学生の頃、動物園や遊園地に行くたび、両親に写真を撮って貰っていた。
時には自分が両親の写真を撮る事もあった。
それが、アタシが写真を撮る事を好きになる切っ掛けとなった。
いろんな景色を、いろんな人の表情を、綺麗な写真に収めたい。
そんなアタシが、カメラマンを目指すようになったのは自然の流れだろうか。
それから中学生になった後。
どの部活に入るか悩んでいた時、たまたま目に入ったのが写真部の部室だった。
その時点で、アタシは迷いなく写真部に入る事を決めていた。
他の部員達と一緒に写真を撮るのは楽しかった。
入部したばかりでまだカメラに詳しくない同級生に、カメラの手入れの仕方、綺麗な写真を撮る方法など、色々伝授するのも楽しかった。
アタシの撮った写真が綺麗だと、他の部員や顧問の先生からも称賛された。
この頃は本当に楽しかった。
そう、この頃は本当に……
『ッ……何よ、これ……!?』
ある日。
これまでアタシが撮ってきた写真を載せたアルバムが、滅茶苦茶にされた状態でゴミ箱に捨てられていた。
ビリビリに破かれ、落書きをされ、それはもう悲惨な状態だった。
一体、誰がこんな酷い事をやったのか。
その犯人はすぐにわかった。
『アンタさぁ、周りから随分チヤホヤされてるわよね』
『後輩の癖に調子乗ってんじゃないわよ』
『!? ま、待って、やめ―――』
アタシが撮った写真を妬んだ、一部の先輩部員達の仕業だった。
加えて、アタシが大切にしていたカメラも、彼女達の手で容赦なく壊されてしまった。
それはもう、目も当てられないほどグシャグシャに。
あの時の光景は、今でもアタシの脳裏に残り続けている。
その一件が原因で、私はこれまでのように写真を撮る事ができなくなってしまった。
あの先輩部員達は先に卒業して以降、一度も顔を合わせてはいないが、彼女達に刻み付けられたトラウマは、今も私の心に消える事なく残っていた。
また、あの時みたいに滅茶苦茶にされるのではないか。
私の大切な思い出が、何もかも蹂躙されてしまうのではないか。
そんな不安と恐怖に押し潰されそうになり、結局アタシは写真部を退部した。
カメラを手入れする為の道具も全て処分した。
カメラを壊された以上、持っていたって何の意味もないからだ。
そして高校生になってから、アタシはグレにグレていった。
不良ともよくつるむようになり、一緒になって後輩を虐めるようになった。
後輩の男子は暴力で痛めつけ、ストレス発散用のサンドバッグにした。
後輩の女子はパシリとして扱き使い、時には他の不良達に
これで良い。
下手に良い子ちゃんぶったところで、どうせ悪い人間に蹂躙されるだけだ。
ならばいっその事、自分もその悪い人間になってしまえば良い。
そうすれば自分は蹂躙されないで済む。
だから私は、不良グループのリーダーに媚びに媚びへつらった。
幸い、不良グループのリーダーから見て、アタシは割と好みの部類だったらしい。
おまけにアタシはスタイルも良い方だったから、すぐに気に入って貰えた。
アタシがリーダーに少し体を売ってあげると、それだけで翌日からアタシは他の不良達からも、不良仲間の1人として見なされるようになった。
リーダーはそっちの行為も凄く上手かったから、気持ちの良い思いもできて一石二鳥だった。
これでもう、アタシを虐める者はいない。
もう誰にも、アタシの楽しい日常を踏み躙る者はいない。
そのはずなのに。
それでも、私の心は満たされずにいた。
楽しいはずなのに、何かが足りない。
理由はわからないが、そんな気がしてならなかった。
そんな時だった。
キィィィィィン……キィィィィィン……
『? なに、この音……』
『ギシャア!!』
『え……きゃあっ!?』
本当に突然だった。
校舎の窓ガラスから、青い体色の蜘蛛みたいな人型の化け物が飛び出して来た。
何が何だかわからないまま、アタシはその蜘蛛の化け物に襲われそうになったのだ。
この化け物は一体何だと言うのか。
何で自分が襲われなければならないのか。
またしても、自分の人生は簡単に踏み躙られる事になってしまうのか。
嫌だ、死にたくない。
アタシの楽しい人生を、簡単には終わらせたくない。
そんなアタシの願いが通じたのか否か。
アタシの耳には、あの化け物の唸り声だけでなく、別の声も聞こえてきた。
『はいどうも~、こ~んに~ちは~! 皆に幸せを運ぶ天使、アリスちゃんで~す♪』
窓ガラスに映り込んだ謎の少女。
その少女―――アリスとの邂逅が、アタシの人生をまた大きく変える事となった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あっははははは!! ほらほらどうしたのぉ!? アンタの力はそんなもん!?」
それからというもの。
アタシは今、最高に楽しいゲームをしていた。
と言っても普通のゲームではない。
女子高生が“仮面ライダー”という仮面の戦士に変身し、ミラーワールドという鏡の世界で、ライダー同士が本物の殺し合いを行うゲームだ。
最後の1人になるまで勝ち残れば、自分が叶えたい願いを叶えられるという。
アタシにとっては実に都合の良い話だった。
ライダー同士の戦いは、アタシの中に溜まっていたストレスを発散できる。
アタシは積極的にライダー狩りを楽しんだ。
相手をいたぶればいたぶるほど、アタシの心は歓喜に満ち溢れていく。
これほど楽しいゲームは他に存在しないだろう。
それなのにだ。
それなのに、アタシの心が満たされる事はなかった。
何が足りないのだろう。
カードデッキと一緒に渡されたメモリアカード。
これには英語で『
克服。
これが何を示しているのか、イマイチよくわからない。
何をどう克服すれば良いのか。
もっとライダーを倒し続ければ良いのだろうか。
心が満たされない理由がわからないまま、アタシはひたすらライダーを狩り続けた。
ライダーを倒し続ければ、もしかしたら何か変わるかもしれないと、そう思ったからだ。
でも、ライダー同士の戦いをしている内に気付いた事がある。
ライダー同士の戦いも、決して楽しい事ばかりではないという事に。
「ねぇ、どうしたのよ? もっと全力で戦いなさいよ。これじゃ張り合いがないわ」
「ッ……やめて下さい……!! 私は、ライダー同士で戦う気はないんです……!!」
「はぁ? ふざけてんのアンタ?」
中にはライダー同士の殺し合いを好まず、モンスター狩りにだけ専念している奴もいた。
アリスによると、ライダーになってからもなお、そういった思考でいる輩がちょくちょくいるらしい。
アタシからすれば、そんな奴はただただ不快な存在でしかない。
アタシは気に入らなかった。
今、アタシの目の前で日和っているコイツを、全力で叩き潰してやろうと思った。
「ライダーは殺し合うもんでしょう? アンタもそれをわかっててライダーになったんじゃないの?」
「ち、違う!! アタシはあのアリスって子に騙されて……」
「関係ないわよそんな事。ライダーになった以上は戦うしかない……そういう宿命なのよ!!」
「きゃあぁっ!?」
これだけ言ってもなお、目の前のコイツはアタシと戦おうとしない。
気に入らない。
本当に気に入らない。
コイツはこの手でぶっ殺してやらないと苛立ちが収まらない。
「あぁもう腹立つ……アンタはここで殺してあげる!!」
≪STRIKE VENT≫
「や、やめて下さ……あぐぅ!?」
アタシは両腕に装備した鉤爪で、目の前の馬鹿を何度も斬りつけて痛めつけた。
何度も。
何度も。
何度も。
何度も。
相手が何か言いたげにしているが知った事じゃない。
気付けば、相手は既に満身創痍になっていた。
「はぁっ!!」
「ぐ……あぁぁぁぁぁぁっ!?」
何度も斬りつけてやった後、気付けば相手は変身が解けて生身の姿に戻り、地面を転がっていた。
その際、彼女の首元にかかっていた物が、アタシの目に入り込んだ。
それは……
「! カメラ……?」
それも、形状からして一眼レフカメラだろうか。
アタシは一目見ただけで、それがきちんと手入れされている物だとわかった。
何となくアタシが拾って奪い取った時、目の前で倒れていた女が、焦った表情で手を伸ばしてきた。
「ッ……返、して……それは……パパと、ママに貰った、大切な……!!」
「……ふぅん、こんなのが大切なんだぁ。ねぇ、これ返して欲しい?」
「か、返して、お願い……アタシは、そのカメラで、いっぱい、写真を撮りたいの……だから……だから……ッ!!」
「何? アンタ写真家にでもなりたいの?」
「ッ……そうよ……だから、お願い……!!」
「そっか、そんなに返して欲しいんだぁ。そんな風に言われちゃったらアタシ……」
ますます壊したくなっちゃうじゃない。
グシャアッ!!
「!! あ、あぁっ……」
カメラが踏み潰される音。
それを見せつけられた女が絶望する顔。
この瞬間だけ、アタシは最高に気分が良くなったような気がした。
「写真家になりたい? アンタも馬鹿よねぇ。アンタみたいな弱い奴が夢を持ったところで、もっと強い奴に踏み躙られて終わるだけよ。夢を叶えたいなら、もっと強い奴になって蹂躙し返すしかない。そうでしょう?」
そう、この世は弱肉強食。
ただ夢を持ったって、悪意を持った強い人間に踏み躙られる。
そうならないようにするには、より強くなって、相手を蹂躙する側に回れば良い。
そんな簡単な話なのに、それを理解していない奴がこの世には多過ぎる。
今、目の前で絶望しているこの馬鹿もそうだ。
そうすれば楽なのに、何でそれをやろうとしないのか。
アタシには全く理解できなかった。
「……ねぇ、ちょっとアンタ聞いてるの?」
「あ、ぁ……パパ……ママ……ごめん、なさい……」
コイツ、アタシの話をまるで聞いちゃいない。
それどころか、バラバラに破壊されたカメラに手を伸ばしながら、自分の両親にひたすら謝り続けているだけ。
目の前で夢を破壊され、絶望しているからなんだろうが……これはこれで気に入らない。
「はぁ……もう良いよ。アンタはここで死んで」
≪FINAL VENT≫
『ギシャアァッ!!』
「!? ひっ、嫌、助け―――」
怯えた様子で助けを求めてきたこの女を、アタシの契約モンスターであるアイスパイダーが無理やり起こし上げ、その鉤爪で女を容赦なく斬りつける。
生身で喰らったから、斬られた箇所から血が噴き出ているが、それもアイスパイダーの能力によって一瞬で凍り付いていく。
アイスパイダーが何度も斬りつけた後、女は絶望した表情のまま、物言わぬ氷の彫刻と化していた。
「じゃ、さようなら。来世ではもっと賢く生きなよ」
そう言ってから、アタシはそいつを粉々に蹴り砕いてやった。
これでまた1人、ライダーを倒した。
これで少しは満たされるだろうと思っていた。
でも……本当に少しだけだった。
それからしばらく時間が経過すると、また心に穴が空いたような感覚に陥り始めた。
一体何故だろう。
原因がわからない。
何にせよ、少しでも満たされたい気持ちに駆られていたのは事実だった。
「あぁっ凄い……気持ち良い……ッ」
翌日。
放課後になってから、アタシは学校の体育倉庫まで移動していた。
もちろん、アタシ1人ではない。
アタシがつるんでいる不良グループも一緒であり、今日もまた1人、不良グループのターゲットにされていた後輩女子が無理やりここまで連れて来られていた。
体育倉庫の中で後輩女子が不良達によって
「おいおい、今日はヤケに激しいな。そんなに相手して欲しかったのか?」
「えぇ……何だかアタシ、凄くあなたとヤりたい気分だったの……」
アタシは今、制服の上着を脱ぎ、シャツのボタンを全開にした状態で、リーダーと正面から向き合うようにして優しく抱いて貰っている。
もちろん下着は上も下も着けていない。
そうした方が、彼も喜んでアタシを抱いてくれるからだ。
「他の奴等を誘う事だってできただろ。そんなに俺が良かったのか」
「当然よ。アタシの相手はあなたしか考えられない」
「そりゃ嬉しいねぇ。まぁ、お前は結構可愛いからなぁ。アイツ等にくれてやるには勿体ねぇ」
「そうよ。アイツ等だって、今も1年の女子を相手してるんだから。アイツ等にはあぁいうので充分でしょ?」
「はは、違いねぇ」
アタシ達がこうして話している間も、体育倉庫の僅かに開いている窓からは、色々な声が聞こえてくる。
不良仲間達の楽しんでいる声や、気持ち良さそうにしている声。
不良仲間達に可愛がって貰っている、後輩女子の
それらの声は、アタシ達がヒートアップする為のBGMとして凄く効果的だった。
「ねぇ、続けましょう? アタシもう我慢できないわ」
「あぁ良いぜ、お前がそこまで言うなら。たっぷり可愛がってやるから覚悟しな」
「嬉しい……ん、あぁっ……!」
その後も、アタシはリーダーといっぱい愛し合った。
足腰が立たなくなるくらい、長い時間をかけて抱いて貰った。
とても気持ち良かった。
これほど、自分が可愛い顔に生まれた事をラッキーに思った事はない。
凄く幸せな気分になれた。
それなのに……どれだけ淫らな行為に及んでも、アタシの心に空いた穴が埋まる事はなかった。
アタシはそれが、何故だか余計に腹立たしかった。
その苛立ちをぶつける為だけに、アタシはその後もいろんなライダー達と戦い続けた。
「ふぅん、こんな所にもライダーがいたのね。悪いけど、アンタもここで倒させて貰うわ。アタシの願いを叶える為にもね」
「……」
「……ねぇ、何か言いなさいよ。喋ってるこっちが馬鹿みたいじゃない」
「……」
「だんまり決め込むつもり? はぁ、じゃあ良いわ……嫌でも悲鳴を聞かせて貰うから!!」
ライダーは徹底的に倒していくつもりだった。
しかし、それでも毎回上手くいく訳ではなく、時には倒そうと思った相手に逃げられる事もあった。
それに苛立ったアタシは、後日また不良グループのリーダーに抱いて貰った。
いっぱい気持ち良くして貰ったのに、アタシの中で苛立ちは日に日に募っていく一方だった。
今一度、メモリアカードの中身を確認する。
何度カードを見直してもわからない。
何故だ?
何故アタシの心は満たされない?
何が足りない?
何をどう克服すれば良い?
どうすればアタシは自分の心の穴を埋める事ができる?
どれだけ考えても、答えらしい答えは一向に出る事はなかった。
答えが出ないまま、アタシはその後もライダー同士の戦いに没頭し続けた。
(いたいた、また1人)
それから、またある日の事。
アタシが縄張りとしている交差点に、また1人、見た事のないライダーが侵入してきた。
アタシの縄張りに侵入してきたのなら、誰だろうと例外なくアタシの獲物だ。
アイツを倒せば、ちょっとは満たされた気分になれるかもしれない。
(あんなボーッと突っ立っちゃって、可愛い事するじゃない♪)
交差点のど真ん中で1人棒立ちするなど、襲って下さいと言っているようなものだ。
優しい人間なら襲うのを躊躇するかもしれないが、アタシは違う。
獲物が隙だらけなら、遠慮なく喰らいついてやるだけだ。
今日もまた、アタシの狩りが始まる。
「うふふ……隙ありぃ!!」
まずはその背中に一撃入れて、驚かせてやるとしよう。
そう思ったアタシは、アイツが背を向けた瞬間に素早く接近し、右腕の鉤爪を振り下ろした。
「これまたどうも~♪ 皆の素敵で美しい女神、アリスちゃんで~す♪」
「ここまでどうでしたか~? 彼女、黛琴葉さんこと仮面ライダーアルケニーのちょっとした小話、皆様楽しんで頂けたでしょうか~?」
「ちなみにこの後、彼女が一体どうなるか……まぁ、もう皆さん分かり切ってますよねぇ~♪」
「ほんと、あの子も相当なお馬鹿さんですよねぇ~。メモリアカードに書かれている事こそが、そのライダーが本当に叶えたい願いなのに。その言葉の意味にも気付けないようじゃ、心が満たされる日なんて来る訳がない」
「まぁ、別に良いですけどねぇ。あの子も自分から望んでライダーになった訳ですし? あの子の結末がどんな形になろうとも、それは彼女の自己責任ですから」
「おっと! つまらないお話はこの辺にして、今回はこの辺でお別れの時間です」
「それじゃあ皆さん、素敵なライダーバトルをこれからもぜひ楽しんでいって下さいねぇ~♪」
「ふふ、あはは、あはははははははははははははは!」
END……