真剣で護衛に恋しなさい!
第4話「決闘」
川神学園のグラウンドにはすでに多くの生徒たちが集まっていた。
何故なら『決闘』が行われる際には校内放送が流されて、全校生徒に知らされるのだ(希望により観戦者なしにもできる)。
こうすることにより、互いの競争心を高めることにも繋げている。
今日も例にもれず、学年やクラスを問わずに集まっていた。
「朝飯用の弁当いかがっすかぁ!?」
「オニギリ、サンドイッチ、お茶あるよ!!」
だから商魂たくましい者たちは、こうして突発的な決闘でも対応が早い。
「誰にことわって商売してるのかなー?」
百代が商売をしている連中に絡んでいた。
「姉さん!」
昔、舎弟契約を交わした大和は百代を『姉さん』と呼び、百代は大和を『弟』と呼んでいる。
「ふふふふふ、シャバ代を収めてもらおうか」
「まぁまぁ、姉さん。うちの転校生がすごいのがいるよ」
大和は一子と正対している宗吾を見た。
「わかってる。アイツは隠しているけど今朝の殺気は凄まじかった。離れた校舎にいた私でも感じたほどだからな」
百代は上機嫌だった。
それは
「姉さんが『強い』っていうほどの実力なんだ。そんなの久しぶりじゃない?」
「ああ! 揚羽さん以上は間違いない。これは面白いやつが来てくれたな。退屈を紛らわせそうだ」
百代が大和と話しているところに、黒髪の長髪で刀を持ったスタイル抜群の大和撫子ぜんとした1年生―――――黛由紀江がやって来た。
「おはようございます。大和さん、モモ先輩」
「おっ、由紀江も来てたんだ。用事はもう終わり?」
「はい。救急車に運ばれた祖母はただ転んだだけだそうです。近所の方が大げさにしただけだよ、と本人から聞き一安心です。もう実家に戻っていますが、大事をとって安静にしているそうです」
「そっか、よかったよ。由紀江の悲しい顔は見たくないからね」
「あ、ありがとうございます! あと、大和さんに食べてもらうお弁当を作りましたので、お昼休みに一緒に食べましょう」
「こんな時にも作ってくれたんだ。由紀江の作る弁当はうまいからすごく楽しみだよ」
「そ、そんなまだまだですよ大和さん!」
「いや、プロもびっくりの味だと俺は思うね。それに勉強もスポーツもできて、気もきく最高の彼女だよ」
「い、いやいやいやいや!? そんなことはありませんよ大和さん!!」
「・・・・いちゃつくのもいいかげんにしてくれ。始まるぞ」
クリスが言った。
「これより川神学園伝統、決闘の儀を執り行う! 両者、前に出て名乗りを上げよ!!」
「2年F組、川神一子!!」
「同じく2年F組、相良宗吾」
「ワシの立会いの下、決闘を許可する。勝負がつくまでは何があっても止めぬ。が、勝負がついたにも関わらずに攻撃しようとしたら、ワシが介入させてもらう、良いな?」
「承知したわ!」
「了解」
「両者の意思は確認した。―――――いざ尋常に、はじめいいいいっ!!!!!」
鉄心の裂帛の気合いとともに吐き出された声は大地を揺るがし、歓声のテンションを一気に引き上げた。
「ワン子、いっけえええっ!!」
「負けんなよ!!」
「相良ちゃーーーん、気をつけるんですよーー!!」
「大和撫子の力を見せてやれ!!」
「期待しているぞーー!! 新入り!!!」
「やれーーー!!」
「頑張れーーー!!」
「先手必勝ーーーっ!!」
周りの声援に後押しされるように、一子は構えた薙刀を横なぎに鋭く振るった。
「・・・・・」
一子とは対照的に、宗吾は全高30㎝のレプリカ・コンバットナイフを構えたまま動かない。
迫る薙刀。
宗吾は冷静に軌道を読むと、回避した。
「やるわね! でも、まだまだ行くわ!!」
腕部、腹部、脚部、頭部と、怒涛の連続攻撃。
観客たちは防戦一方の宗吾より、一方的に攻撃している一子が優勢のように見えていた。
「おっ、これはワン子が勝てるのかな?」
『武道四天王』の新たな候補に上がるほどであり、風間ファミリーで百代に次ぐ実力者である由紀江に大和は聞いた。
「いえ・・・・ワン子さんの攻撃はすべて見切られています。このままでは勝てません」
実力者の意見は違った。
「そうなの?」
「はい。以前とは違い攻撃は多彩的です。しかし、相手が悪いです。―――――攻撃が止んだ瞬間、勝負は決します」
それは正しい見解だった。
攻撃が当たらないことに焦った一子は、間合いを空けて仕切り直そうとした。
けれど、宗吾がその隙を逃すはずもない。
離れた間合いを瞬時に詰め、零距離とする。
薙刀では決して攻撃できない距離。
「しまっ―――――」
ミスった、と一子は思った。
そう思った時にはすでに遅い。
次の瞬間には天と地が逆転していた。
まともに受け身を取れなかった背中には痛みが走り、首にはコンバットナイフの刃が押し付けられていた。
「それまで!! 勝者、相良宗吾!!!」
「・・・・速い。見えなかった」
弓術を修め、弓術の上位五名の称号である『天下五弓』を持つ一人である京は『目』がいい。
たとえ身体がついていかなくても動体視力には自信があった。
かりに武術を修めている人間の動きでも見切ることができる。
「京が見切れないのも無理はない。さっきの動きでよくわかった。あいつは『超えている』からな」
例外があるとすれば、遥か高みにある強さを超えた者―――――『壁を越えし者』と呼称される存在だ。
それは百代であり、鉄心であり、由紀江である。
京が見切れなかったということは、宗吾はそのレベルにあるという証明である。
「・・・・モモ先輩。クリスでも勝てない?」
「ああ。それどころか一発も当てられないだろうな」
百代ははっきりと断言した。
「それに、あいつは全力をだしていない」
「ワン子がなめられたってことかよ?」
岳人がわずかに怒りを込めて聞いた。
「違うな。それは間違った考えだよ」
「父様!!」
クリスは突然現れた父―――――フランク=フリードリヒに、喜びの声を上げた。
「げっ! なんであんたがいるんだよ!?」
「所用があってね。ついでにクリスと会っていこうかと考えてきたんだが。まさかな・・・・」
珍しく歯切れの悪いフランクを不思議に思った大和は尋ねた。
「どうしたんですか? 何か気になることでも?」
「いや、縁とは不思議なものだと思ってね」
「・・・・?」
大和はフランクの言葉の真意が理解できなかった。
「フリードリヒ『中佐』!?」
『彼』とはほんのわずかな付き合いしかないが、その声は大和には予想外のものであった。
そもそも表情が変わったのはこれが初めてではないだろうか。
『彼』―――――相良宗吾が、無愛想な表情以外―――――驚愕―――――を浮かべたのは。
そして、大和は宗吾の言葉に違和感を覚えた。