相良宗吾の数少なく、信頼のおける友人の中に同世代の日本人男子がいる。
その男は相良宗吾が、己の名前が『相良宗吾』であると両親から知らされて間もない時期に偶然知り合った。
彼は頭脳明晰・運動神経抜群・容姿端麗・冷静沈着であり、昔から『神童』と呼ばれていた。
その彼が有名進学校ではなく、川神学園に入学して来たことは川神学園7不思議の一つに挙げられている。
そんな彼と宗吾は分野こそ違えど、優れた者としての共鳴するところがあったのだろう・・・・二人は友人、親友と呼ばれる間柄になるのにそう時間はかからなかった。
3年S組所属。
入学以来常に学年ナンバー1の成績を残し、川神学園歴代最高の傑物にして変人と称される川神学園生徒会長である。
真剣で彼に恋しなさい!
第8話「川神学園生徒会共」
その空間は、教室や体育館等の複数の生徒たちが同時に使うことを想定された場所を除けば一番広い。
室内の調度品は高価であるがどれもこれもが趣味良く、整然と並べられてまったく嫌味さがない。
設置してあるエアコンは学園で一番の高性能。
この空間の主が座る革製の高級チェアーは、陽光が射し込む窓を背にしていた。
ここは―――――川神学園生徒会室。
「では会長閣下。例の案件についてご報告いたします」
「頼む」
髪はオールバックで、面長の顔立ち。
真鍮フレームのメガネの奥で、細い両眼が知的な光りを放つ。
宗吾とは異なる種類の、静かなる威厳を漂わせている生徒会長『林水敦信』。
『安全保障問題担当生徒会長補佐』相良宗吾が、自らの持つ報告書と同じ物を生徒会長専用椅子に座る敦信に渡した。
「主催者の捕縛・尋問の結果・・・・彼らの活動内容を掌握いたしました。A-5からご覧ください」
「ふむ・・・・」
敦信は書類に目を通す。
彼が読み終えたであろう頃を見計らい、宗吾は発言した。
「会長閣下の推測はほとんど正解でした。『魍魎の宴』と呼ばれる活動の主催者は自らを『童帝』と呼び、参加者たちの趣向を満たすために活動を行っていました。これが押収品です」
宗吾が執務机の上に、ビニール袋の中に入れられた押収品を置いた。
ビニールの中は、川神学園や周辺学校の・・・・タイプは違えど『美少女』と呼ばれる女子高生たちの写った写真。
ネガやDVDが入っていた。
さらには缶、上履き、リコーダー、鉛筆等があった。
「ネガやDVDの中身を確認したところ、成人規制にかかるような内容ではありませんでした。しかし、大半のものはいわゆる『盗撮』と判断されるものでした。缶等は理由は不明ですが・・・・すべて女学生が使用し後であり廃棄した物でした」
「ふむ・・・・いわゆる『美少女グッツ』というやつだな。理解しかねるが、そういう物を好む生徒もいるということだよ」
「なるほど」
「それで、処置はどのようにしたのかね?」
「対処マニュアルにあった薬物使用、強引な勧誘、悪質な盗撮等の危険項目にかかる行為がなかったためにプランAにて行動致しました。契約書はこちらとなっています」
ブラックは許さないが、生徒の自主性を尊重してグレーまでなら傍観するスタンスの敦信は、自らの許容する内容や行動を規した対処マニュアルを宗吾に渡していた。
生徒会の一員として働く宗吾は、基本的にそれに準じて行動している。
「・・・・ありがとう。さすがの手腕だ。君にはまた借りができたな」
敦信は契約書の中身を確認し終えると、それを棚に置かれた『極秘』と書かれた三重ロックのかかる金庫の中に入れた。
「いえ、会長閣下のプラン通りに行動したまでです」
「いや、今回の件は個人的依頼も入っていた。放課後、礼を兼ねて美味いコーヒーを出す喫茶店で一杯奢ろうかと考えているが・・・・どうかな? 君はコーヒーに目がなかったと記憶しているが」
「ご一緒させていただきます」
二人の会話が終わり、宗吾が自分に与えられた席に座った。
生徒会室は、会長席を中心にUの字に各役員の机が置かれ、会長席の正面にプロジェクターがある。
「お疲れ様です先輩、相良さん」
2年A組所属書記の
しっとりとした黒髪で、古風・容姿端麗・・・・まさに大和撫子を地でいく少女である。
そのキャラクターから『お蓮さん』と呼ばれて慕われている。
「・・・・お疲れ様です」
蓮に続いて入ってきた少女は、宗吾程ではないがやや無愛想な挨拶をした。
その少女はアッシュブロンドをなびかせ、東洋人の蓮とは違う西洋人としての美しさを持ち、モデルばりのスタイル。
灰色の瞳はやや鋭くも、スタイルと相まって彼女の魅力の一つとなっている。
女子としては高身長であり、彼女の母親と並ぶと姉妹とよく間違えられる。
彼女が姉で、母が妹だ。
その間違いを嘆くべきか、若々しい彼女の母を褒めるべきかはわからないが。
彼女はイタリアからの交換留学生であった。
レフィーナ・テスタロッサ。
2年A組に属しており、生徒会会計係である。
そんな彼女には、彼女自身も知らない『秘密』がある。
それを知る日が来るのは神のみぞ知るところであろう。
(・・・・『覚醒』はしないでくれ)
宗吾にできることはそう祈ることと、襲い来る脅威を排除するだけだ。
宗吾は知っている。
覚醒した人間―――――
膨大な
レフィーナは極めて特殊な薬を今でも飲んでいるために(もちろん本人には真相は教えず、嘘の病気を抑えるためと知らされている)、自然覚醒リスクが0.1%以下となっている。
ウィスパード因子は遺伝しないことはすでにわかっていた。
現に宗吾の母親が元とはいえウィスパードであるにも関わらず、宗吾はウィスパード因子を持っていない。
ウィスパード因子は遺伝することはなく、それがウィスパードを知る者たちの共通認識だった。
しかし、その常識をレフィーナと彼女の母―――――テレサ・テスタロッサは打ち破った。
テスタロッサ親子は、ウィスパード因子を持つ世界初と言える例であった。
だが共通認識のおかげで、これまでレフィーナがウィスパード因子保持者と疑われることはなかったのだ。
「どうしたの相良? 私の顔に何かついている?」
「いや、何でもない」
彼の極秘任務。
一つ、レフィーナ・テスタロッサを影から護衛すること。
二つ、彼女を狙う『敵』をいかなる手段を用いても排除すること。
三つ、ウィスパードとして覚醒する可能性がある『命の危機』にさらさないこと。
四つ、ウィスパードと知られないこと。
ミスリル西太平洋戦隊の戦隊長にして、世界唯一の強襲揚陸潜水艦『トゥアハー・デ・ダナン』艦長のテレサ・テスタロッサ准将より直接言い渡された任務だった。
ミスリルとしてもウィスパードの保護は最優先事項ではあるが、何より母として娘の安寧を願う気持ちが強かったのだろう。
本来は宗吾とそのカバーに
転校した二日目に生徒会に入ったのは敦信がいたというのもあるが、何よりレフィーナの身近にいても可笑しくないからだ。
相手にばれてはいけないという条件下の学校内は、学校外よりも護衛がやりにくい。
外ならば素人のレフィーナに、玄人のミスリル兵士たちが護衛に気が付かれるへまなどしない。
学校というある種の閉鎖空間では、『大人』であるということだけで不審がられる。
いかな玄人でも無理があるのだ。
そこで、学園に通う年代の15~17歳・・・・その中でもさらに優秀な者が選抜された。
計5名―――――
宗吾は割と簡単に身分を明かすが、不測事態に備えてPRTの4名は宗吾以外には軍属とは知らなれないように生活している。
学校外では、他のミスリルのエージェントたちが護衛を引き継ぐ。
こうしてレフィーナの護衛は万全の態勢が取られているのだ。
「さて、本日の議題は―――――」
闇。
二人の人物が会話していた。
「・・・・ふう、半端ねえ」
「どうしたんだ? ヨンぱ・・・・じゃねえ、童帝。急に呼び出して」
「相良のやつだよ。安全保障問題担当生徒会長補佐、なんて言う怪しげな役職に就いたと思ったら・・・・就任早々に裏の存在だった『ブルマ愛好会』の存在を突き止め、武闘派揃いの構成員46名をたった一人で制圧。10日で俺たちの聖地に乗り込んできただけじゃなく・・・・この童帝に契約させるなんてな。―――――あの眼はこええ・・・・モモ先輩より眼力あるぞ」
「契約?」
「これだよ」
童帝は契約書を見せた。
活動存続のために以下の要件を満たせ。
一、悪質行為を行わないこと。
二、『美樹原蓮』に関する物品(写真・映像・廃棄物等)の取引を行わないこと。
三、『監視者』を必ず参加させること。
四、契約書を教師に見つからないこと。
上記に反した場合、あらゆる手段を用いて『魍魎の宴』を壊滅させる。
「・・・・まあ、ほとんど今まで通りじゃねえか」
「だな。正直、あの場で叩き潰されるかと思ったけどな」
「けど、お蓮さんは人気あるからな・・・・品は出てくるんじゃねえか?」
「そこはさせねえよ。童帝の名にかけても・・・・俺たちの聖地を守るぜ!! ―――――という訳で、今日も変わらず開催するからな!」
「わかった。俺の方からも十分注意するように言っておくぜ」
会話を終えると、二人は光へとそれぞれ散った。