スロカイと指揮官(凡人)のちょっとした妄想話しです。
真紅の絨毯が引かれ、柱や梁にすら装飾がほどこされた絢爛たる廊下の中央に、私はただじっと立っていた。
周囲にはこれから来る者を出迎えようと多くの教廷の信徒たちが跪いている。その中で私の行いはひどく目立つが、相応の地位が有れば多少の非礼も許されるというものだ。
程なくして、廊下の向こうから機械教皇スロカイと侍従達が姿を表す。
先頭を進むのは、金色に輝く冠や靴など、複数の装身具を身につけ、桃色の髪をたなびかせる少女。彼女が廊下を進む毎に、廊下に居並ぶ信徒達は跪いて地上に於ける機械神の代理人に、敬意と祝福を表した。
そして、スロカイが目の前に立つと同時に、私も滑らかな動きで片膝をつき挨拶を述べる。
「教皇陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう存じます」
「そなたもな、凡人。いつ戻ったのだ?」
教皇はそう言って白磁のような手を差し出した。私はその手に接吻し、彼女の問いに答える。
「つい先程戻りました。祝賀の儀に参列出来ず」
その時、黄金の装身具が涼しげな音を奏でる。
「悪いが、余は疲れた。これより自室に戻る。長話は後にせよ」
それだけ言って教皇は横を私の横を通り抜けて行った。彼女の装束から香る聖油の香りと共に、窓の外に吹き荒ぶ晩秋の風が胸の内を駆けた気がする。
「失礼致しました。日を改めます」
去りゆく背中に目は向けず、ただ声だけを掛けた。だがその瞬間、背後から訝しむような声が響く。
「……何を言っているのだ凡人」
教皇の思わぬ言葉に、驚いて振り向いた。
すると、彼女は異色の双眸を細め、不敵な笑みを浮かべていた。
「さっさとついて来い」
「……かしこまりました」
立ち上がり、教皇の後ろについて歩き出した。背中に突き刺す視線は気付かなかったことにしておく。
……………
ようやくマティルダから解放され、室内に入ると、装身具を外したスロカイがソファの上で優雅に寛いでいた。
「遅いぞ凡人! 余を待たせるでない」
威厳たっぷりに言うスロカイだが、その口元は僅かにほころんでいる。
私は謝罪を述べて、彼女の向かいに座ると、部屋の一角に視線を向けた。
スロカイの私室は相変わらず、地位に見合った絢爛豪華な作りである一方、生活感がまるで無く、巨大な宝石箱のような印象を受ける。
だが、今日は様子が異なり、視線を向けた部屋の一角には無数のプレゼントが文字通り山と積まれていた。鉄板で覆われたケーキのような物もプレゼントに含まれるなら、の話だが。
「それで。凡人はどのような凡庸な品を余に贈ろうというのだ」
脚を組み傲慢に述べるスロカイに、懐から取り出した一冊の本を手渡す。すると、受け取った本人は怪訝な様子でその本を見ていた。まず間違いなく、期待していた物ではなかったのだろう。
その本はリボンで可愛らしくラッピングこそされているが、かなり年季を感じさせる代物で、同時にスロカイにとって、とても見知った物だった。
「これは……聖典か? 何故これを余に?」
「裏をご覧下さい」
訝しみながらも、スロカイはラッピングを剥ぎ取り、聖典を裏返した。
そして、固まる。
まるで、スイッチを切った機械のように、見事に全ての動きが止まっていた。
「出来れば手紙の一つでも頂戴するつもりだったのですが。それしか頂けませんでした……スロカイ様?」
身を乗り出すようにして声を掛けるとようやく動き出した。
そして、スロカイは今まで見たどんなものとも違う種類の笑みを浮かべながら、聖典を撫でる。
「良い物を持って来てくれた」
「……お褒め頂き光栄です」
そう答えた時には、スロカイは聖典を置き、いつもの冷笑を浮かべていた。
そして、これまたいつものように傲慢に述べる。
「そなたに褒美をくれてやろう、凡人」
すると、スロカイは自身の隣を示した。
「今日に限り、余に直接触れる事を許してやろう」
「……では、失礼致します」
半ば呆れながらも、彼女の隣に腰掛け、こちらにゆっくりと引き倒す。そして二つにまとめた髪に気をつけながら、私の膝の上にスロカイの頭を乗せた。俗に言う膝枕というやつだ。
すると、膝の上のスロカイが口を開く。
「やはり、そなたの脚はマティやウェスパと比べると、少し硬いな」
「申し訳ありません」
頰を掻きながら謝罪を述べると、スロカイは珍しく取りなした。
「別に悪くはないぞ。彼女らと違って視界に圧迫感が無いしな」
しかし、なんとも答えに困る言葉に、両者口をつぐんだ。
「……まぁ、あとあれだな。そなたは、暖かいな」
「それは、良かった」
そう答えながら、スロカイの頭をゆっくりと優しく撫でる。彼女も嫌がるような素振りはなく、されるがままだ。
そのまま、軽い受け答えをしながら、どれぐらい時間がだっただろう。気づくと、膝の上から落ち着いた寝息が聞こえて来た。
その時、私は彼女に言い忘れた事があったのを思い出した。寝ている彼女を起こさないよう、そっと言う。
「お誕生日おめでとう、スロカイ」