2102年3月、達也と深雪が魔法大学を卒業し、正式に結婚した。
達也と結婚したことで深雪は天にも昇る気持ちだったが、一方でそれを少しも良く思わない人々もいた。
四葉の分家の中でも、6年前に深雪の次期当主指名を妨害した分家の当主達は密かに会議を開いていた。
議題は達也と深雪が子を設けることについて。分家の当主達は、今までは結婚していなかったから子供が生まれることは無いと考えていたが、結婚してしまえば妊娠するのも秒読みだろうと思っている。
なかでも優秀な魔法師は若いうちから出産を求められるし、深雪はまだ当主では無いから産む時間的余裕もあるし、むしろ今が適している。だからこそ喫緊の課題としてこのことが話し合われているのである。
重い雰囲気の中、黒羽貢は呟いた。
「何としてでも子を作らせるわけにはいかない」
分家の当主達は、四葉家の魔法師として最も優れた精神干渉系魔法の使い手である深雪と、世界最強の戦闘魔法師であり四葉家の罪の結晶である達也の間に生まれるであろう子は、達也を上回る力を持ってしまうのではないかと恐れているのである。
「ですが、どうしましょうか。さすがに本人を襲うわけにはいきますまい」
他の分家の当主が不快感を露にしながら言う。
そのとき柴田家の当主が口を開いた。
「深夜様が妊娠したときは体外受精だった。だから今回も同じだろう。そこがねらい目だ。受精卵が深雪に戻されるまでに消せばいい。そう多くは採取できないはずだからな」
「たしかにそれが最善だ」
「そうするしかあるまい」
賛同の言葉が続き、詳細は後日話し合うことになって会議は終わりになった。
一方、四葉真夜は分家の当主達がそういった会議を開催していることを知っていたが止めなかった。真夜は軽い軽い戦闘が起こることによってリーナの実力を自分たちの目で確認したかったのだ。また、障害があった方が盛り上がるとも思ったのだ。
真夜は深雪が達也と結婚した暁には達也との子供を欲しがるだろうと予想していた。そこで深雪の想いを利用する形で、四葉家をより強くする魔法師を生み出そうと考えているのである。
そのための準備は惜しみなくしてきた。まずは深雪だけが完全調整体となった原因を調製施設を統括している紅林に調べさせた。また、九島家がなぜ失敗したのかも調査させた。
そうして準備してきたことを活かす時が来たのだと研究者としても、12歳で生まれた「四葉真夜」としても、叔母としてのお節介の心もワクワクしていたのである。
◇ ◇ ◇
達也と深雪が住んでいる巳焼島の自宅に深雪が一人でいたときだった。
ヴィジホンに着信があった。
「ご無沙汰しております、叔母様」
真夜からの電話だった。少しだけ背筋が伸びる。
『こんにちは、深雪さん』
微かに微笑みをうかべながら続ける。
『結婚もしたし、今が深雪さんにとっていい時期かと思ったのだけど』
「いい時期とおっしゃいますと……」
深雪が何の事かわからず問い返す。
『こども。深雪さん、大学を卒業したし結婚もしたでしょ。でもまだ当主になったわけではない。だからいい時期かなって。』
勢いそのままに真夜は核心に迫る質問をする。
『達也さんとのこどもほしいでしょ?』
真夜は自分の魂胆などおくびにも出さずに笑顔のままだった。
「……」
一方で深雪は何も言わず赤くなってしまった。
それに構わず真夜は続ける。
『では深雪さん、明後日の火曜日にリーナさんを連れて屋敷にいらっしゃい』
深雪は何とか正気に戻り返事を返す。
「わかりました、そのように伝えます。」
『ではおやすみなさい、深雪さん』
「おやすみなさい、叔母様」
通話を終えた深雪はお腹に手を当てながら呆然とするのであった。
深雪が真夜と通話した夜、いつものように達也と深雪の部屋でリーナも含めて3人で食事をしているときに深雪が達也に話しかけた。
「達也様、次の火曜日にリーナと一緒に本家に来るように叔母様から話がありました」
深雪が少しだけ赤くなったように達也は感じたが、大事ではないと考え無視して返事をした。
「そうか、リーナもついているなら遠くでも安心だな。何の用かわからないけど行っておいで」
「ミユキの護衛は任せてね」
「頼む」
達也がリーナに声をかけてこの話題は終わった。その後は世間話を中心に時間が進んだ。
翌日、仕事に煮詰まった達也が家でくつろいでいると着信があった。
『おはよう、達也さん』
「おはようございます、叔母上」
真夜からの突然の連絡にも動じずに答える。
『先ほど荷物が届いたと思うのだけど、深雪さんから聞いているかしら』
「確かに荷物は届きましたが、深雪からは何も聞いていません」
達也がそう答えると、真夜は少しだけ口角を上げて続けた。
『そう、深雪さんは恥ずかしかったのかしらね。もういい時期なのだけれど』
「時期とおっしゃいますと」
達也は全く心当たりがなかった。
『結婚もしたんだし、こどもを作るのにいい時期なのではと深雪さんに言ったのよ。だから深雪さんの卵子を採取するために明日屋敷に来てもらうの。達也さんは火曜日の朝に自分で精子を採取して、今朝の荷物の中の容器に入れて深雪さんに持たせてくださいね』
「了解しました」
簡素な返事をしながら達也は昨夜の深雪の様子を思い出していた。
翌朝、達也はいつもより早く起きて採取をし、それを容器に詰める。
その後シャワーを浴びて、いつも通りの鍛錬をして朝食を食べた。
食後すぐに本家に向かう準備を整えた深雪に出発の挨拶をする。
「行っておいで、深雪。リーナも荷物と護衛を頼むぞ」
「任せてタツヤ」
リーナは達也に向けて親指を立てる。
「それでは行ってきます、達也様」
そういって深雪とリーナは本家に向けて出発した。
深雪は本家に2週間泊まる予定だった。
その間、達也は眼を話すつもりは無かったが、一度も会わないのは心配だったのだろう。何度か本家に行って深雪に会っていた。
だから今日深雪が巳焼島の家に帰ってきても、それは4日振りの対面なのだが深雪は明らかに機嫌がよさそうだ。リーナはいつになく呆れた顔をしている。
達也と深雪がいつも通りの日常を過ごしている中、分家の当主達はまた集まっていた。
諜報能力に優れた黒羽家の当主である黒羽貢が口を開く。
「先日作成された受精卵が巳焼島に移送されることが決定した。狙うなら移送中が最適だと思う。」
「たしかに。さすがに四葉の敷地内で事を起こすわけにはいくまい」
襲う日は早々に決まり議題は襲撃犯を選定することに移った。
「では、輸送の当日に襲うとして誰を送りましょう」
「私たちが直接手を下してはまずい」
さすがに当主達も直接手を出さないだけの理性は残していた。
「では、前回と同じくサイキックでいいのでは」
「そうですな。あとは大陸の面白そうな者がいたので引っ張ってみます」
「ではサイキックは黒羽殿が、大陸の者は静殿がということで」
そういって行動を決めた当主達は解散していった。
◇ ◇ ◇
それからさらに2か月が経過した。
部屋で雑談をしていた深雪とリーナのもとに電話があった。カメラを確認して深雪が応対する。
『こんにちは、深雪さん、シールズさん』
「ご無沙汰しております、叔母様」
「こんにちは、御当主様」
いつも通りの挨拶を交わした後、真夜は本心を読ませない微笑みを見せながら続けた。
『シールズさん。準備ができたので運ぶのをお願いします。』
「了解しました」
『では深雪さん、巳焼島の施設で最後の施術を行うので心の準備をしておいてください』
「はい、叔母様」
少し硬い声で深雪が答える。
『では深雪さん、さようなら。シールズさん、明日待っているわね』
「さようなら、叔母様(御当主様)」
そう言って二人とも頭を下げる。少しして通話が切れた。
近いうち後編を上げられるように頑張ります。