叔母の暗躍   作:時雨 雪

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前編を沢山の方が読んでくださってとても嬉しいです。ありがとうございます。
後編も楽しんでいただければ幸いです。


後編

「ではシールズさんよろしくね」

 リーナが真夜の前に立つのはもう5度目だが、未だに慣れるものではなかった。

「はい」

 怖がらないように注意をしながらリーナは笑顔で答えた。

「理奈様、こちらへお願いします」

 リーナは運転手に呼ばれ、輸送車に乗った。

 

 

 それは四葉家の敷地を出てすぐの事だった。

 前方からあやしいトラックが近づいてくる。そのトラックの助手席からグレネードが飛んできた。

 移動魔法をかけてグレネードが車に当たらないように別の方向に飛ばした。

 リーナが車から飛び降りながら叫ぶ。

「家に戻ってください!」

 運転手がハンドルを切り始めたときにはリーナはパレードを発動させていた。

 降りてきた敵の数は12人。

 後ろを振り返って車が安全に引き返していることを確認して、意識を戦闘に集中する。

 幻影と反対方向に走りながら武装一体型CADを取り出し、手始めに近いところにいた敵3人の足のつけねに向けて1発ずつ発射した。

 二人は魔法で弾丸の軌道を変えようとしたが、干渉力が足りずに失敗した。一方で最後の一人は自己加速魔法を用いて弾丸をかわし、ナイフを振りかぶりながらリーナの幻影に迫っていった。

(速い。けれど、魔法の腕はイマイチね)

 リーナは敵の力量を評価しながらさらに引き金を引いた。

 敵もただ眺めていたわけではないが、魔法技能の劣ったサイキックにとってリーナのパレードを突破するのは至難の業だった。

 

 

 本家の屋敷に到着してリーナは真っ先に謝罪しに向かった。

「申し訳ございません、御当主様」

 真夜は本心を読ませない笑顔で答えた。

「いいのよ、シールズさん。深雪さんと達也さんの遺伝子なのだから狙われて当然よ。こうして貴女と物が無事に帰ってきてくれて嬉しく思うわ」

 真夜の口調から悪い感情は読み取れないが、リーナは背筋を伸ばした。

「恐縮です」

「ではシールズさん。また来週もお願いします」

 真夜が次の日程を示す。

「はい」

 リーナは緊張からただうなずくことしかできなかった。

 

 巳焼島にいる達也と深雪のもとにも本家から輸送の失敗が伝えられた。

「達也様、先ほど葉山さんから連絡がありました。リーナが乗った輸送車が襲撃されたため、本日の輸送は断念、明日また輸送するとのことです」

「そうか、リーナは無事なのか」

 達也が心配そうな顔をしていたが、深雪は笑顔のままだった。

「はい、久々の実戦でスッキリしたと言っていました」

「リーナらしいな」

 達也も笑いそうになる。

「次の輸送は一週間後だそうです。」

 

輸送二日目

 

「奥様、襲われるとわかっていて理奈様一人でよろしいのでしょうか」

「あら葉山さん、受精卵が消されることを心配しているの?」

 葉山もリーナの能力を疑ってはいないが、一人に課すには荷が重すぎると思っているのだ。

 ここで真夜が真実を明かす。

「別にいいのよ。あれは調整もしてないただの受精卵だから」

「調べさせたけど分からなかったの、深雪さんができた理由。やっぱり奇跡だったのかしらね」

 そう呟く真夜は残念そうに見えない。

 そのまま心ここにあらずといった感じで続ける。

「達也さんと深雪さんは結婚したけど、達也さんのことだから深雪さんに手を出してないでしょうし、深雪さんも自分から迫れないでしょうしね」

 はたして真夜は姪の女としての幸せを祈っているのか。

「だけどきっかけがあれば深雪さんも吹っ切れるでしょ」

 少し小悪魔的な笑みを浮かべる。

「だからこれはかわいい甥と姪へのお節介よ」

 

 

 

 運転手が昨日とは異なる車の前で声をかける。

「シールズ様、本日もよろしくお願いします」

「ええ。でも、今回も前と同じ車でいいの?」

 襲撃が確実なのに装備が更新されていないことをリーナは不審に思った。

「今回の車はレリックを用いて隠密性を高めております」

運転手は淡々と事実を告げ、運転席に乗り込む。

 

 

 本家を出たリーナ達は特に何もなく順調に進んでいるはずだった。だが、どこまで進んでも怪しい車どころか普通の車とさえすれ違わない。

 リーナも運転手も何かがおかしいと思ったときだった。

 前方の道が途切れていた。

「行き止まり!?なんで?」

 リーナが驚くと同時に自分たちの後ろの道路に人の気配を察知した。

 リーナが車を降りて破壊されないように敵と車の間に立つ。すでにパレードは発動させていた。

 荒事に慣れている運転手といえど、戦闘力はリーナに遠く及ばないので車を降りて後ろに控えている。

 リーナは車の中身を守ることに意識を割きつつも、目の前の敵に集中していた。

 敵が動く。急速に迫ってくる。

(速い!しかもパレードが効いていない!?)

 リーナも迫ってくる敵に対してただ待つのではなく、愛用のダガーを取り出して備えた。

 敵のナイフに対してダガーをぶつける。結果、当たり負けたリーナのダガーが宙を舞う。

 獲物を手放してしまったことで、体制を立て直すために大きく後ろへ飛ぶ。

 敵が追撃のために距離を詰めてくる。また、ダガーを取り出し、迎撃する。

 今度も同じ結果。同じように後ろに距離をとる。だがリーナに焦りはなかった。

 再度敵が接近してきたとき、腰から2本のダガーを抜き取って宙に投げて叫ぶ。

「ダンシング・ブレイズ!」

 ダガーが敵に向かっていく。リーナの手元から放たれた2本のダガーは敵の魔法で撃ち落とされた。

 だが、本命はその2本ではなかった。それまでの戦闘で地面に落ちていたダガーが敵の視界の外から迫る。

 しかし、そのダガーも当たることは無かった。

(照準を微妙に外された?)

 ダンシング・ブレイズが外れたとみるや、次の魔法を行使する。

「ムスペルスヘイム!」

 リーナは魔法が少し照準を外されている感覚があった。そこで点を攻撃するのではなく、広範囲に魔法を放つことで正確に照準できなくても敵を倒せると考えたのだ。

 高エネルギーのプラズマが敵を襲うはずだった。しかし、リーナが見えていたのは燃え盛る車だった。

 それまで車を背にして戦っていたはずだったが、実際には車を正面に見据えて戦っていたのだった。

「奇門遁甲」

 敵が種明かしをする。だがリーナの意識には届かなかった。

 自分で荷物を燃やしてしまった。だが目の前の敵に集中する。

(相手に遠距離攻撃は当たらない。でも接近しているときは確かにそこにいた)

 今後のためにも、必ずこの敵を倒すことをリーナは決めた。

 だが、実現しなかった。

 敵の姿が揺らめく。次の瞬間、そこに相手はいなかった。

 

 

午後に向けて心の準備をしていた深雪のもとに真夜から着信があった。

『こんにちは、深雪さん』

「こんにちは、叔母様」

 真夜はいつも通り本心からではない笑みを浮かべている。

『さっそくだけど、今回も輸送に失敗してしまいました。しかも受精卵を消されてしまいました。よって施術は期限未定で延期します』

「かしこまりました」

深雪に驚きの色はない。

『どうも今回の件、分家の皆さんが一枚噛んでいるらしいわね』

「分家の皆さんですか、なぜでしょう」

 妨害勢力として分家が出てきて驚いたが、それを顔には出さない。

『どうも達也のこどもを恐れているらしいのよ。世界を破壊する力を持った人のこどもがどの様な力を持ってしまうのか』

「そんなっ……」

 深雪の中に分家への怒りが沸き上がる。

『ですが深雪さん、必ず達也さんのこどもを産ませてあげるから安心して』

「はい、叔母様」

 そう答える深雪の顔は暗かった。

『では深雪さん、すぐではないけど、また準備ができたら連絡するわね』

「はい、叔母様」

そう言って頭を下げて少し経つと通話が切れた。

 

 

 お風呂に入ったりといった寝る準備を整えて部屋で少し考え事をしているときだった。

「達也様、よろしいでしょうか」

「どうぞ」

 深雪がどことなく暗い表情で部屋に入ってきた。

 深雪が何も言わないから、達也も合わせて黙っていた。

 

 沈黙が続く。

 

 先に沈黙を破ったのは深雪だった。

「どうやら分家の方々が輸送を妨害しているようです」

「そうか」

 達也としては四葉に手を出す者は四葉が裏で手を引いていない限りいないと思っていたから、分家が手を引いているのは予想できていた。

「達也様、分家の皆様に妨害されるということは、やはり私たちの結婚は認められても子供を作ることは認められないのでしょうか」

 最初を言うことができればあとは簡単だった。

「私たちの結婚も祝福されるものではないのでしょうか……」

 深雪の想いが堰を切ったようにあふれ出した。

「実は達也様も……私と結婚したくなかったのではないのですか……」

「いや、そんなことはない」

「ですが、ですが、私たちは結婚したのに達也様は何もしてくださらない……」

 もう深雪は止まれない。

「軽いキスはしてくださっても、愛してはくださらない……」

 そして深雪の本心がぶつけられる。

「やはり達也様もこどもを作るべきではないとお考えですか?」

「やっぱり『深雪』は妹ですか?」

 深雪の頬を涙が伝う。

「私は……、深雪は一人の男性として達也様を愛しています。達也様の本心を聞かせてください」

「深雪……」

 達也が深雪を抱きしめる。そして耳元で囁く。

「俺も深雪を愛している。妹としてではなく一人の女性として」

 そう言ってお互いに見つめあう。

 そして、いつものような軽いキス、ではなく深雪の口の中に舌を入れる。

「達也様……」

「深雪、愛しているよ」

 そう言って達也は深雪の服を脱がせていく。

 

◇ ◇ ◇

 

 それから3か月後。

 深雪が達也のこどもを妊娠していることがわかった。

 原因はあの夜だが、それを知っているのは本人達と真夜だけだ。

 

 深雪が妊娠したことがわかった日の夕食の時間、リーナが深雪を祝福する。

「ミユキ、妊娠おめでとう」

「ありがとう、リーナ」

 今日だけで様々な人から祝われたが、何度言われても深雪が感じる喜びは変わらなかった。

「ミユキの子供か~。とっても顔が整った子なんだろうな~」

「リーナほどではないわよ」

 深雪とリーナが互いを褒める。いつもと変わらない光景。

「ミユキはこの先もここで生活するの?」

「ええ、もちろん。達也様にお仕えするのは私の役目だから」

 深雪が当然のこととして答える。

「でも無理しないでね、ミユキ。私も食事の支度とか手伝うから」

「大丈夫よ、リーナ」

「リーナも無理しなくていいんだぞ」

 深雪と達也すぐに返事した。

「ちょっと、なんですぐに止めるのよ。まるで私の料理が美味しくないみたいじゃない」

 リーナが軽く頬を膨らませた。

「そんなことは……ないぞ」

 達也がわざと言葉を詰まらせた。

「もういいわよ、料理はミユキに任せるわ」

 リーナがプイと横を向いて拗ねてしまった。そんな姿をみて達也と深雪が笑う。

 少しして、リーナが思い出したように質問した。

「そう言えば、私は輸送任務に失敗したのにミユキが妊娠したってことは別の受精卵が送られてきたの?」

 リーナが自分が真夜に失望され、護衛役を替えられたのかと不安に思ったのだった。

「ワタシあれ以来護衛を頼まれてないんだけど」

 だが、深雪は顔を赤くしながら下を向いてしまった。達也は無言のままだった。

 それで察したリーナがあたふたする。魔法師が産むこどもは程度の差はあっても遺伝子を調製することが当たり前だったので、非魔法師にとっては普通の方法にすぐに思い至らなくても仕方のないことだった。

「ゴ、ゴメン。そうよね、任務に失敗したら別の人に頼むよね。こうしてお世話になってるから役に立ちたかったけど残念だわ~」

 そのまま気まずい食事の時間が流れていった。

 

                                完

 




原作では達也と深雪が最後の一線を越えないだろうと思ったので、そこを乗り越えた話を書いてみたくて作りました。
18禁にしてそういうシーンを書こうかとも思ったのですが、多くの人に読んでほしくてやめました。
批判でもなんでも残してくださると嬉しいです。できればよろしくお願いします。
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