不撓不屈の王とムゲンの話   作:澱粉麺

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プロローグ

 

 

 

ーーいつから、こうなってしまったのだろう。

何が、悪かったのだろう。

何処から戻れなくなってしまったのだろう。

 

少し大きな椅子の上で、懐かしむように思う。

 

 

始まりは、本当に些細な事だった。

 

情けない自分の、弱い自分の、惨めな行動を。過去の行動をやり直したいと思うことがそんなに悪い事だったのかな?

みんな、ちょっとずつ思うような事だった筈なんだもの。そして、私はそれができたかもしれない。

 

だから、言った。

それを、何処かに。みんなに。

 

そうすると、それにちょっとでも賛同する人が幾人もついて来てくれた。テストの前日に戻りたい、なんて子。あれを落としちゃった日に戻りたいって子、あの人に謝りたいって人。

あれよあれよと、軍団が出来上がっちゃった。

 

ムゲン団。誰がつけたのか、小さな寄り合いだった頃に、そんな名前がいつの間にかついてた。なんだか、秘密基地を作っちゃったみたいで、少しむず痒くって照れ臭かった。でもそれより嬉しかった。私の居場所が、少しでも出来たみたいで。

 

今覚えば、この頃が一番楽しかったのかもしれない。

私はきっと、これで満足しておけばよかったんだ。集まってくれた人をがっかりさせるだろうし、怒られたかもしれない。

 

 

でもそれでも、ここで終わっておけば、私も、皆も、こんな悲しい思いをする事は無かったのに。もっと早く、言い出せれば。

 

 

 

ある日、キャンプをしていたんだ。

手持ちの皆で、久しぶりにって。

 

ちょっとませた、エースバーン。

とっても紳士的な、インテレオン。

皆が仲良くしてる姿を見るのが好きな、ゴリランダー。

いたずら好きな、皆のムードメーカー、ヨクバリス。

凛々しくって、かっこいい、ザシアン。

 

そして、あの日、私の友達になってくれたムゲンダイナ。むーちゃんなんて、ちょっと可愛すぎるかな?似合わないかな?なんて思ってたけれど、その呼び方に喜んでくれてるみたいだった。

 

 

カレーを混ぜて、混ぜて。

特製のカレーは、今日も美味しく煮込んで。

 

鍋がひっくりかえるまで、楽しいキャンプになる事を、私は疑いもしてなかったんだ。

 

 

ヨクバリスが、私を後ろから押した。

度を越したいたずらに、怒ろうと振り返った。

 

真っ二つに裂けた、身体だけが目の前にあった。

 

その横に、血まみれの剣を咥えたザシアン。

何の冗談だろう。

 

ああ、そっか。また、いたずらか。

 

ほら、もう驚いたから、起きて。

ゆさゆさと身体を揺する。冷たい。

嫌だなぁ。まるで、本当に死んでるみたい…

 

 

目の前でザシアンが剣を振り上げた。

嘘だ。

 

 

それを防ぐ、水の狙撃。

邪魔だと、狙撃手の元に剣が走る。

インテレオンは、その双眸を裂かれる。

もう、何もその眼に映す事はなくなった。

 

逆上した炎の球。

避けた剣が、伸び切った膝から上を断ち切った。

あのリフティングが見れる事は、もう無い。

 

音色と共に樹木が剣を覆う。

しかし、その身を裂きながら、その包囲を抜ける。

そうして狙うは、奏者の腕。

二度と、完璧な曲は無い。彼の演奏は半分しか聞こえない。

 

 

カレーの匂いが、血の匂いに上書きされた。

 

 

「……けて」

 

 

知っていた。わかっていた。

 

うわごとみたいに、口が動く。

 

あなたは、私のやろうとしてる事を、良く思っていなかった。そうだよね。貴女は、平和を守らなきゃいけない身だもの。時を乱して、エネルギーを暴発させようだなんて、許されないよね。

 

 

「たすけて……ちゃん」

 

 

そんな悲しそうな目をしないで。

そんな辛そうな顔で剣を振らないで。

 

そんな苦しいなら、最初から剣なんて向けないでよ。

 

 

「助けて、むーちゃん」

 

 

 

……

闘いは、ずっと続いた。

 

どっちもボロボロになった所に、ザマゼンタが来た事は覚えている。きっと、お姉さんを守りに来たんだ。

 

 

私は、私たちは、傷だらけになって逃げた。

 

永遠に残らざるを得ない後遺症。

胸に残り続ける傷。

 

インテレオンは、音を感じ、射抜く術を身につけた。

エースバーンは、片方の脚だけで、器用に火炎を操る。

ゴリランダーは、その手を、草花で補って音を鳴らす。

 

 

もう、戻れなくなった。

 

消えない傷が、私たちを苛み続ける。

あのキャンプの篝火が、私達を憎悪に駆り立てている。

 

この傷も、この今も。

最早無いことにするには遠すぎる。

 

 

「総帥!来ました!」

 

 

「…うん。それじゃあ、君も逃げて」

 

 

伝令の声が聞こえる。

足止めなど、ただ犠牲が出るだけ。

 

だから、人払いをしておいた。

今居るのは、あの時の私の手持ちだけ。

 

君もいてくれたらな。

 

そう思いながら、ヨクバリスの尻尾の感覚を思い出す。

憎悪が、再び湧き上がる。

 

 

「…みんな、行こう」

 

 

扉が、切り裂かれて飛ぶ。

あの時の戦いで片方の目が潰れ、古傷を負い、しかし伝説の姿は、凛々しい英雄のままだ。

 

ザシアン。

かつての、私の友達。

 

 

炎が燃え盛る。

樹が猛り狂う。

水が研ぎ澄ます。

 

そして、紫毒の龍が、目を覚ます。

 

 

さあ、始めよう。

そして、終わりにしよう。

 

私達の因縁をここで終わりにしよう。

この、愛憎劇を終わりにしよう。

終わりに、してくれ。

 

 

剣が舞う音が響いた。

闘いが、始まった。

 

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