「アイドルに興味ありませんか?」
「へ?」
黒いスーツに身を包み、こちらを見つめる二つの目。目つきの悪いそれは167cmある私よりも目線が高く、何と言うか、シンプルに怖い。
そしてその手には名刺……勧誘にしては人選を間違えているような気がしますが……
「興味ありませんか?」
鋭い目つきの中に光るその瞳は期待しているような感情が読み取れる。なんで読み取れたかと言うとなんとなく父と同じ匂いがするから。
「……」
「……」
き、気まずい。まるで昨日経験した父との対談のようだ。どちらも自分から話すことはなく目と目が合い気まずい空気を醸し出す。同じ信号で待っていた同級生達も私達の様子を見て不審に思ったのか不審者を見る目つきでこの人を見ている。このままだと確実にめんどくさい事になると予感した私は……
「結構です」
そう一言言い残し青信号となった横断歩道を渡る。
「あの、話だけでも…‥‥」
後ろから私を引き留める声を無視して先を急ぐ。
何故アイドルを目指している私がこの誘いを断ったかだって? だって、私の今の実力じゃ力不足だと理解しているから。本物の風鳴翼ならこれぐらいできる。やっていけると確固たる理想を理解している私は自分自身が力不足だと理解している。だってこの世界でのアイドルと言うのはシンフォギアの世界での風鳴翼と同じぐらいの実力、もしくはマリア初登場時ほどの人々を引き付ける魅力がなければトップアイドルどころかアイドル活動すらできないと自身で考えているしそれに似たような事を昨日電話越しにじぃじぃから教わっていたからだ。
「いいか翼」
「何ですか爺様」
「こら、じぃじぃと呼びなさい」
「すいません、じぃじぃ」
「うむ、それで八紘から聞いたがアイドルを目指すと」
「はい」
「うぅ、わしの翼ちゃんがとうとう夢を持つようになったか……成長じゃな」
その後どうでもいい話を織り交ぜながら内容を話すじぃじぃ。話長い、要約して言って。
「う、うむ。それでアイドルになりたいなら実力が必要じゃ。具体的に言うとワシを倒せるほどの実力、そして風鳴財閥を一人で率いることができるほどのカリスマが必要じゃ」
「なるほど」
「そして何より胸を10㎝ほど大きく」
何やらじぃじぃが可笑しな事を言い始めたので咳払いで中止させる。既に御年90歳、とうとうボケが始まりましたか……とりあえず。
「後日父の天羽々斬を持ってそちらへ伺うので首を洗ってお待ちくださいませエロじぃじぃ」
「ちょ!、冗d」
あの時は受話器を元に戻して通話を終了させた……そうでした、今日の放課後はじぃじぃの首を取りに行く予定でしたね、忘れていました。私に対して胸の話をした事を後悔させながら介錯して早急に黄泉の国へと送らないと。
「♪♪♪」
どんな風に首を刎ねるかを考えながら新曲のフレーズを鼻歌で歌い、帰り道を急いだのだった。
※※※
私がその人を見かけたのは偶然でした。
「♪♪♪」
今日も一度断られたスカウトを再度するためにスカウト対象が通う学校周辺を張り込んでいた時でした、その人を目にしたのは。
「おい、あの人って……」
「あぁ、〇〇高校で有名な片羽の姫だろ? 今日も綺麗だなぁ」
彼女は学生でありながら人々を魅了し惹きつけていて、以前に見たトップアイドルの様な雰囲気を醸し出していた。
この人だ、最後の4人目の候補が見つかった。
それから私は今回張っていた候補の子と同じ方法でスカウトを行いました……が、失敗。逃げられてしまいました。何故失敗したのでしょうか? 今回は前回の失敗を生かしてできるだけ怖い顔をしないようにしているはずなんですが……
「ちょっと」
「?……は、すいません」
いけません、今回はあの人ではなくこの人をスカウトする目的で訪れていたのでした。声のする方向へと向き直ります。
「あんた、もう来ない方が良いよ」
「…話だけでも聞いてもらいたいのですが……」
これは今回もダメそうですかね?
結局その後私に対して警察が呼び止め、スカウト対象の子にその窮地を救ってもらいました。喫茶店へと避難して落ち着くと、何故自分がアイドルのスカウト対象に選ばれたのかと尋ねられたので、正直に笑顔と返答したのですが適当に答えたと捉えられたらしく、その場を立ち去ろうとしてしまいます。しまった、一緒に働いている千川さんから散々私の無口と口下手に対する注意を受けていたのにやらかしてしまった。その後何とか私の話を聞いてもらい一時的に引き留める事には成功したのですが……結局帰ってしまいました。今回は資料はお渡しできませんでしたが名刺だけでも受け取ってもらえたので今回の成果はまずまずですね。
ゆっくりですが着実にスカウトへと近づいている事を実感しながらあの時見つけた4人目の事を思い出します。今回シンデレラプロジェクトの為に集められるメンバーは4人。そのうち2人は私が考えているあの2人。そして1人はオーディションで決定する予定なのですが……その4人目が見つかったので良かった。後は諦めずにスカウトするだけです。思わず拳を握りしめて目的を明確に意識するのでした。
その後は最初のスカウト対象、渋谷凛さんに関しては島村卯月さんの協力もあり無事成功したのですが……彼女に関しては一筋縄ではいきませんでした。
「あの、話だけでも……」
「結構です」
ある時は私が話しかけた直後に断りの言葉を残し近くの建物の塀へと軽々と飛び乗って走り去り。
「名刺だけでも……」
「結構です」
またある時は突如として取り出した黒色のマントの様な物で身を包みこむとまるでマジックの様に姿を消したり。
「あ……が!?」
「……影縫い」
そしてある時は小石を私の影へと放り投げると突如として体の自由が利かなくなるという不思議現象に見舞われて、それに戸惑っているうちに逃げられたりと断られ続けていました。
そのよう事が何度も続き正直私でも諦めていたところでしたが……
「はぁ……分かりました」
「それでは!」
「話ぐらいなら聞くので付きまとうのを止めてください……でないとじぃじぃが何するかわからないので」
20回を超えたあたりで相手側が諦めてくれたらしく話を聞いてもらえる事になりました。後は何とか渋谷さんの様に上手くいくと良いのですけど……
私の不安を他所に過去渋谷さんと訪れたカフェへと入るのでした。
※※※
し、しつこい。
あの目つき最悪スカウトマンのスカウトから逃れる事計20回。最初はあまりのしつこさに警察へと通報しようと考えましたが、毎度の様に見るその瞳には本気で私をアイドルにしたいという思いが籠っていました。なので通報は止めていたんですけど……どこからか聞きつけたじぃじぃが個人的に排除しようとしていたのでそれを阻止するために話だけでも聞いてみる事にしました。それにここまでされると逆に何故そこまでするのか、彼が私に何を見出し、そして選んだのかが気になったというのも理由ですね。
下校中に偶に立ち寄るカフェへと足を運び一緒の席へと座る。そして渡されるのは毎度の如く差し出される名刺。
「346プロダクション……」
確かじぃじぃが支援しているプロダクションの一つにそんな名前の事務所があったはず。かなりの規模を誇り、沢山の歌手や俳優を抱え、TV、映画などの映像コンテンツ制作企画も手がけているかなりの大手だと記憶している。そのアイドル部門のプロデューサーからの直々のスカウト。光栄なことだと思うけど何故私なんだろうか……
「なぜ」
「‥‥」
「なぜ私なのですか?」
私は率直に理由を聞く。父に似ているタイプならば変に遠回りに聞くと言葉足らずで変な誤解が生まれる。だからこうやって率直に聞くのが一番手っ取り早く、そして確実に意思疎通ができる、そう判断した。プロデューサーは目を一瞬見開くと一言。
「笑顔です」
「笑顔……ですか……」
もっと具体的な理由があると思っていましたが……笑顔、笑顔ですか……
「っふ」
「?」
「ふふふ」
静かな雰囲気の店に響く私の笑い声。少しして落ち着くと私は考え始める。
笑顔、笑顔ですか。まだ見せた事はないはずですが、笑顔がスカウト理由、と。
「そんなにおかしい……でしょうか」
「いえ、まさかそんな理由だとは思っていなくて」
それに加えその目は嘘を言っているように見えない。だから、この人は本気でまだ見たことのないはずの笑顔が理由でスカウトしたのですか。面白過ぎますよ。
「分かりました」
「!」
この人は私と同じだ。
「そのスカウト受けましょう」
私と同じく明確にイメージ出来ている理想への線路を、がむしゃらに終着点を目指して走っているんだ。ならそのレールに私も合流しよう。多分だけどこの人も目指す先は私と同じ。だったら同じ目標を持つ者同士協力をした方が良いに決まっている。父もよく言っていた、私と同じ目標を持つ同士に出会ったのならできるだけ協力しろと。なら私の目指す完璧な、皆に愛されて魅了し続けていた風鳴翼になる為に協力しよう。丁度昨日じぃじぃに勝ったから力不足って事はないと思う。カリスマ性はあるかは分からないけれど。
「風鳴翼16歳、よろしくお願いします、プロデューサー」
やれるだけやってみたいと思う。
こうして顔が(怖くスカウトするために努力した結果さらに)怖い(印象を持たれそうだった)不器用な
これで揃ったシンデレラプロジェクトの
次回、【4人のシンデレラの出会い】
次回もお楽しみに
補足
翼本人は自分の言っている事を理解してません、矛盾が生じても歪んだ価値観を持つ彼女は気付きもしません。なので一度拒んだ些細にノルのです。