17番の事を語る前に、一人紹介しておかねばならない男がいる。彼の名はT、ちなみに出席番号は26番だった。彼とも二年生になってから出会った。Tはこれ以上ない程に惚れやすい性質の男だった。私がその性質を知ったのは、二年生の十月の事だった。それはあまりにも偶然の事で、クラスメイトの一人が突然、「そういえば私さこの間、Tに告られてさ」と言い出したのが始まりだったのだ。その後、私はその人からTがどんな風にアプローチを仕掛けてきたのか、どういった告白の仕方だったのかなどを聞いた。そしてTは、一年生の頃からクラスの女子に告白して回っているという話を知った。Tは、クラスの女子の中で告白していない人の方が少なくなるほどアタックをしたのだという。それは二年生になろうが、進路決定を控えた三年生になっても変わらなかった。どうやらTは、少し優しくされたりまともに取り扱ってもらえるとすぐに恋慕してしまうのだ。周りからしてみれば「そんな事で」と言う様な出来事でも、Tにしてみれば「あの子は俺に優しくしてくれた。ちょっと押したらイケるかも」と言ったものだったのだろう。Tは、私よりお金は持っていた。だから、気になる人が出来ると飲み物や購買のパンなどを奢りまくるのだ。Tがどういう男なのかと言う事情を知っているのは私だけではなかった同じクラスの人間は9割強が知っていただろう。だが、Tはそれに気づかなかった。いや、気づかせてもらえなかったのである。クラスメイト達は、優しい人が多かったため、誰も表面上には決して出さなかったのだ。三年生の9月、私は自分が17番に恋慕していることに気づいてしまったのである。
私はそれまで、Tとは仲良くはしていたものの、陰ではTの事を冷酷かつ痛烈に批判していた。それはTの事を嫌っていたからではない。私よりもTを嫌う女子達との会話を盛り上げるため、Tのアプローチのせいで彼女との仲に不安を感じていた彼氏、過去Tにアプローチ及び告白され、周りに日々仲間が増えていく事に怒りを感じる者など様々な人達との交流があり、私は言わばカウンセラーの様な立場だった。私は冗談で【T、被害者の会】と呼んでいたが、今思えば我ながらよく的を射ていたと感慨しているくらいだ。三年生の一学期の期末考査後の席替えで、私と17番は席が隣同士になった。久しぶりではあったが、17番と席が近いことに違和感を覚えることは無かった。思えば、私と17番は二年生の頃から、何かと席が近いことが多かった。席替えから二ヶ月が経った頃、Tが私のいや、17番の席にやたら来るようになった。私や他のクラスメイトがいてもお構いなし。むしろお前らが遠慮しろ、気を遣えと言わんばかりの勢いだった。ちょうど私が自分の気持ちに気づき始めている時だった。私がそんなTに嫌悪感を抱いたのは言うまでもないだろう。夏目漱石の【こころ】を読んだことがあるだろうか。私とTの関係は、作中に出てくる私とKの様な関係に近いと言えるだろう。ただし、Tの話す内容はいつもいつも幼稚でつまらない。それはTとは関わりがあまり無いクラスメイトにも言われていたことだ。Tは、自分の為になるような努力は絶対にしない男だった。反対に私は、様々な事に興味を持ち、沢山の知識を付け、活用できることが日々の楽しみだと感じる変わり者だった。私はTが自分と同腹なのだろうと早い段階で感付いていた。向こうが何か感づいていたかどうかは分からないが、恐らくTにはバレていなかっただろう。私と仲の良い友人達でも私の心情の変化に気づいていたのは一人だけだった。私は、17番とは仲の良いクラスメイトとして過ごせれば、それで良いとこの関係が崩れて廃れてしまうのであれば、「この思いを伝える事は無い」と思っていたのだ。そんな所で、友人に気づかれてしまった。私は自分でも無自覚に無意識に心の奥底で鍵をかけて眠らせてしまおうとしていたのだ。そんな事は何の解決にもならないのに。始まら無ければ、終わら無いのに。