ヘスティアファミリアで頑張ります!   作:プラス九

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14.日課

 翌日、ルインはいつも通りの時間に目が覚めた。手早く身支度を済ませて、日課である掃除や洗濯を始める。日頃からやっているおかげか、手間も掛からず終えると、次に朝食の準備を始める。後は、二人が起きてからすれば大丈夫なところまで出来上がると、洗い物に取り掛かる。すると、ベルがコソコソと部屋から出てきた。

 

「あれ?ベル、今日は早いんだね」

 

「ル、ルイン!?ルインこそ今日は早いんだね?」

 

「僕はいつも通りだよ。何か用事でもあるの?」

 

 ベルは、そういえば家事の類いは全部ルインに頼っていたようなと、しどろもどろになりながら考えていた。何か良い言い訳はと、必死に頭を働かせるが、ルインを騙せる妙案が浮かばない。

 

「ヘスティア様には内緒にしてあげるから、聞かせてよ。それでもダメなら無理には聞かないけど」

 

「それじゃあ、神様には秘密にしてよ。実は……」

 

 今日は誤魔化せたとしても、明日以降もどうせ同じことになる。変に嘘をついて心配させるぐらいならと、ベルは出掛ける理由を話し始めた。

 理由は簡単なことだった。ベルの憧れのアイズ・ヴァレンシュタインに稽古をつけてもらう約束をしたとのことだった。

 

 確かにそれは、ヘスティアには伝えられない。

 

 ルインは納得して、ベルにぞっこんのヘスティアが知ってしまった姿を想像して苦笑いを浮かべる。

 

「少しだけ待ってて」

 

 ルインは一言だけ伝えて、調理場へと向かって行った。用意していた朝食を手早くパンに挟んでいき、サンドウィッチを準備した。ベル一人では多い量にしたので、アイズと朝食をとる手伝いぐらいは出来ると思いながら。

 朝食用の弁当を受け取ったベルからお礼を受け、嬉しそうに出掛ける後ろ姿を眺める。

 

 ヘスティアが起きるまでかなり余裕があったため、青の薬舗へ向かい簡単な手伝いをする。帰りに近所の手伝いをしながら帰宅する。

 到着した時に、丁度ヘスティアも目覚め、朝食を始める。朝食を終えて洗い物を済ませて、ヘスティアにバイトの時間を確認させる。そこまでしてから、ルインはダンジョンへと向かって行った。もし、この場にヘファイストスが居たなら、確実にヘスティアに説教が待っていただろう。しかし、ルインが入団してから毎日なので、何も疑問にも思っていないのだが。

 

 ルインのダンジョン攻略は極めて安全に行なっている。先日五階層まで行くことは出来たが、三階層を主に活動して、余裕が有れば四階層へ足を向けていた。

 担当アドバイザーのミィシャと相談しながら探索範囲を決め、五階層までは許可は出ているが、モンスターに複数囲まれると戦闘が安定しないため、余裕のあるところで抑えている。魔石やドロップアイテムでバックパックが一杯になり、探索を終える。ギルドで換金を行い、ミィシャへ報告する。

 そこから、夕飯用の食材を買いに行き、夕食を作っていく。夕飯時に稽古に行っているため時間がある内に済ませてしまうのだ。ヘスティアがバイトから帰宅したのを確認すると、明日の朝食分の食材を除いた余りを持ってタケミカヅチファミリアへと足を運んだ。

 

「いつもすまないな」

 

 タケミカヅチは、ルインから食材を受け取りながら礼を述べる。初めは稽古の月謝にと、ヴァリスを持って来ていた。同じく貧乏ファミリアから受け取れないと断ったら、お裾分けという名目で食材を持って来た為、タケミカヅチが折れて受け取るようになった。

 ヘスティアからの相談の件もあるが、タケミカヅチ自身、ルインのことを気に入っていた。聞けば、ヘスティアに会わなければタケミカヅチファミリアに来ていたかもしれないと話していた。その時に、そういった未来を想像してしまったからだろうか。

 また、バイト先の売上がヘスティアの方が優れ、それで店長から叱られることを愚痴っていた時に。

 

「同じ客層を狙わずに、タケミカヅチ様なら奥様方を狙うべきです。今日の服は素敵だねとか、髪型の違いとか。よく来てくれる方々からいつもとの違いを世間話の中で、さりげなくすれば売上は上がります」

 

 その時のアドバイスに衝撃を受けたタケミカヅチは翌日から試し、今では売上も上がりヘスティアと並びツートップとして褒められるようになった。何故か、同じく翌日から命とルインの稽古の際にルインが一方的にボロボロにされたのが数日続いていたが。

 

「そういえばルインよ。お前の到達階層はどれくらいだ?」

 

 稽古が終わり、体を休める為に雑談をしている時に、タケミカヅチは普段は聞かない質問をする。目的としては、数値上のステータス低下の影響を探る為に。

 

「はい、五階層までは、一度覗く程度ですが行きました。普段は三階層から四階層を中心に探索しています」

 

「なっ、ルイン殿の実力が有ればもっと下の階層でも余裕のはずです」

 

 ルインの言葉にいち早く反応したのは命だった。根幹の流派の違いはあるが、ルインの実力はファミリア一の桜花より上だと誰もが思っている。それなのにソロとはいえ、四階層は浅すぎる。

 

「いえ、複数のモンスターに囲まれるとどうしても危ない状況になるので、五階層までは行けてもそれより下は無理です」

 

「ふむ、ルインの剣術は対人に特化し過ぎているのかもしれんな。俺ではモンスター用の剣術は教えられん。これから暫くは、桜花のパーティーに加わると良い。戦う姿を見るのも稽古の一つだ」

 

「そう言われてしまえば、断れませんね。桜花さん、命さん、いつも断ってばかりでしたけどパーティーに入れてもらって良いですか?」

 

「勿論です。ルイン殿が加われば、百人力!初めは慣れぬかもしれませんが、ルイン殿ならば直様慣れましょう」

 

「こら、命。リーダーは俺だろうが。まあ、俺も賛成な訳だが。ルイン、明日から宜しく頼む」

 

 ルインとしては、ベルに追いついてパーティーに加えて貰うつもりであったが、いつも面倒を見てもらっているタケミカヅチファミリアにここまで言ってもらえて断る理由が見つからなかった。

 

「なに!ファミリアは違えど我らは同門。ヘスティア様には悪いが、気に入ったらいつでも改宗してくれ。いつでも受け入れるからな」

 

 豪快に笑う桜花につられて笑い出すタケミカヅチファミリアの面々。彼と出会えて本当に良かったとルインはヘスティアとタケミカヅチの両神に感謝した。




ファミリアの収入面はベルに依存しているので、雑用面はルインが担当しています。お互いが頼り過ぎていると思っている関係ですね。

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