ヘスティアファミリアで頑張ります!   作:プラス九

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19.孤軍奮闘

 ルインは階層の崩壊に巻き込まれる時にベルの姿を見た。おそらく桜花達の救援に応えてくれたのだろう。しかし、感謝を思うほどの時間もルインには残されてはいなかった。桜花達の残してくれたバックパックを必死に掴み、落下の衝撃に備える。一呼吸を置いた後、体は浮遊感に襲われる。正常に頭が働く様になったのは、転落による痛みを受けた時だった。

 無意識に受け身をとることは出来たが、痛みに耐えつつ周りを見渡す。ベル達の姿は見えず、代わりに落としてしまったと思われるいくつかの装備と、下に続く大穴だった。先程の衝撃で空いたのか、元からあったのかはわからないが、おそらくベル達はこれに落ちているとなんとなく理解できた。

 ルインは考える。ベル達を追って下に降りるか、このまま上を目指すか。ルインは、なるべく冷静に考え、ベル達が落ちた確証がなかったことと、より危険な下層に挑むリスクを考え、単身で上を目指すことにした。

 

 モンスターがいないうちに、バックパックの確認と落ちている装備を集める。桜花達が残してくれたポーションや予備の武器はそれなりにある。落ちていたのはベルの小型盾やリリのボウガン、あとは大剣や大太刀などルインでは扱いきれないものが多く、それらの回収は諦める。

 自分の武器を温存するため、予備の武器を装備し、上を目指すため足を進めた。

 

 待ち受けていたのは地獄だった。ミィシャとの勉強でモンスターの予習はしっかりできていたが、ソロで潜る予定もなかったのでマップを全く覚えていない。そこに上層では出会ったことのない大量のモンスターの戦闘が続いていく。ヘルハウンドを集中的に倒し、隙を見て離脱する。少なくない傷を負いながらも、ポーションを節約しながら回復を行う。

 桜花達の救援を淡く期待してしまうが、窮地にあったところより下の階層だ。少なくても一つは上に上がらなければ難しいだろう。ヘルハウンドは極力倒し、隙を見て離脱を繰り返し上層への階段を探していく。

 

 あれから、どれくらいが経ったのだろうか。数分しか経っていないのか、数時間経っているのか。極限状態を続けているルインには判断ができなかった。感じるのは極度の疲労と睡魔だが、一瞬でも目を閉じれば全てが終わる。血を流し過ぎたせいか、フラフラとするため、増血剤を飲み気休めの休憩を終える。

 ビキリと、まるで待っていたかの様にダンジョンの壁より新たなモンスターが生まれる。すぐに短剣類を投げ牽制しつつ、斬り込んでいく。ヘルハウンドの火炎の気配を感じボウガンを放つが、間に合わず炎に飲まれる。

 サラマンダーウールのお陰で無事に済むが、体が硬直してしまいアルミラージの手斧が左肩に振るわれる。すんでのところで後ろに下がることは出来たが、サラマンダーウールは切り裂かれ肩に浅く傷を負う。痛みに耐えながらアルミラージを斬り倒す。そのまま、ヘルハウンドまで走り火炎を吐かれる前になんとか倒すことができ、隙を見て離脱する。ポーションを半分傷口にかけ、残りを飲む。

 

 微かに声が聞こえた気がした。幻聴かもしれないが、ルインはその微かな希望にすがるしかなかった。現れるモンスターに無理を承知で斬り込み、声の方向へ進んでいく。目の前に新たにモンスターが現れ、必死に応戦する。

 目の前のモンスターを斬り伏せた時に、駆けていくパーティが目に入った。

 

「助けてください!」

 

 極度の疲労からか、ルインの声は掠れモンスター達の咆哮に掻き消される。少しでも気付いてもらえるよう、音が目立つように剣を振るっていく。

 そのおかげか、先頭を走るフードを被った冒険者と目が合った。しかし、目線を逸らされそのまま進んでいく。後ろに桜花達も走り、サラマンダーウールに包まれているが、ヘスティアの姿も見つけてしまった。そしてその隣の男が笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

『見捨てられた?』

 

 ルインは、頭の中で呟いてしまった言葉を否定する。危険な階層だから、見落としてしまった筈だ。一度安全階層へ向かい、すぐに体制を整えて来てくれる。そう信じて、あと少しだけと耐えることにした。

 

 ルインは、ベルの無事を願うことにした。Lv.1の自分でも生きているのだからきっと生きている筈だ。それを助けて治療が終えたら迎えに来てくれるからと。少し背中が熱く感じた。

 

『ヘスティア様は、ベルを助けたんだ。選んだんだ。当然だろ?才能があるのを選ぶのが、ファミリアの主神の仕事なんだから』

 

「違う!ヘスティア様は優しい神だ。そんな区別なんてしない」

 

 諦めるように唆す声を、必死に否定する。変わらずに襲ってくるモンスターに懸命に対応することで紛らすことしか出来なかった。背中が熱く感じた。

 

 どのくらいの時間が経ったのか。ポーションや増血剤、予備の武装も無くなってしまった。立てているのが、自分でも不思議に思える程、ルインの限界は近かった。

 

『よく考えるんだ、ベルと僕の違いはあるかな?』

 

「違いは……才能や種族ぐらいだよ」

 

 もう何度目だろう。ルインは、囁かれるこえに耳を貸すようになっていた。こんなにも一人っきりになったことは今まで経験したことがなかった。こんなにも一人っきりが辛いなんて知りたくなかった。それとも、あまりに疲れていたからだろうか。

 

『本当にそうかな?君の手に有るのはなんだい?ベルの手にあるものはなんだい?』

 

「そ、それは、関係ない。あれはヘファイストス様との約束で……、僕には怪我の治療をしてくれた!」

 

『怪我の代金は、ヘファイストス様が払ってくれたんだよ。僕の宝物と引き換えに』

 

「ヘスティア様は僕を見つけてくれた。笑顔をくれた。居場所をくれた」

 

『全部、ベルももらっているよ。僕は他に何をもらったかな?』

 

「それは……」

 

『そう、特別なものは何ももらってないんだ。でもそれは、当たり前じゃないか。だって、僕は』

 

「僕は……」

 

 気付いてすらもらえないのだから。

 

 ルインの背中の熱は全身を包む。炉で焼かれたような痛みが全身を襲う。きっと、これが期待に答えられない罰と思いながら、ルインの意識は少しずつ閉じていった。




リリのような経験豊富な人がいないため、上を目指すことを選択、戦闘の多さで進むことも困難。
ポーション類はベル達より豊富と言う状況でも、かなりハードモードですね。
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