「珍しいな、フィン。そんな怪我するとかいつぶりや?」
少し眠っていただろうかと、ロキの声を聞き、フィンは目を開ける。初めに今回の遠征のことについて報告して、後日書類で渡すことを伝える。
「そんで、そんなこと言う為にウチのこと呼んだんちゃうやろ?何があった?」
「ああ、ルインのことについてだ。何者かの思惑に彼が巻き込まれていると思う。僕も上手いこと使われていたみたいでね」
「ルインもここに運ばれてたんやったな。それが関係しとるってことやな」
フィンは、十八階層でヘスティアから聞いた話やその時の対応、十四階層のことを話す。
「これについては、前回のような貸し借りなんて言わない。僕はルインや神ヘスティアへ償わなければならない」
「フィンにしては珍しいな。お前の野望の為に、私情は捨てたんと違うか?」
「その通りだよ。だけど、ルインはそれを知ってまで友人でいてくれたんだ。彼を巻き込むような輩に怒りを持つのは当たり前だろう?」
「せやったら、なんも言わんわ。で、そんなこと言うためだけやないんやろ。はっきり本題をいいや」
「すまない。最近どうも周りくどくなってしまってね。ルインのステータスを見て欲しい。勿論、僕やファミリアの皆には伝えなくていい」
「それはあかん。いくらウチかてルールは破られん」
「それを理解して頼んでいるんだ。神ヘスティアに頼んでもロキには伝えないだろう。だけど、ロキには知ってもらっていないとダメなんだ。じゃないと、何かあった時にまた僕は遅れてしまう」
「……わかったわ。ドチビんとこにドデカい借りを作ったるわ!」
ロキは、何があっても折れない様子のフィンを見て、その覚悟を察する。本来、地上でのタブーを破ってまで懇願するフィンの姿は創立直後でも見たことがなかった。ロキもその覚悟に腹を括り、ルインの病室へと足を進めた。
ロキは静かに眠るルインを横向きになるように優しく動かし、服をめくり、背中を見る。ロックされていないステータスを見て顔を歪めるが、内容を読み解いていく。
「なっ!」
思わず声を上げてしまったが、服を戻し苦しくない体勢に戻し、ロキは病室を後にした。
翌日、ベル達はようやく地上に戻ることができた。ヘスティアは、ベル達に先に戻るように伝える。ヘルメス達はいつのまにか居なくなっており、助っ人のリューも一言だけ告げ帰っていった。ヘスティアとタケミカヅチファミリアの面々は緊張した顔でルインの帰還の有無を確認する為、ギルドに向かって行った。
「ドチビやないか。いくら貧乏でも行っちゃあかんとこぐらい分かっとると思とったわ」
「その声はロキかい?今は君に構う暇はないんだ!邪魔しないでくれるかい」
「ああん?……いや、今のはうちが悪かった。ルインは無事や。安心しいや」
「それは、本当かい?」
突然、いつもの調子で絡んできたロキに普段と違う対応でヘスティアはそのまま進んでいく。しかし、ルインの無事を聞きロキへと詰め寄った。
「ああ、ほんまや。……それについて話がある。ちょい顔貸しや」
ヘスティアにだけ聞こえるようにロキが伝え、ヘスティアはタケミカヅチファミリアへ先に戻るように頼んだ。ルインに会いたいと懇願されるが、ロキにより命に別状はないが目を覚ましていないことを告げられ、悲しそうな顔で無理矢理ホームへと帰還させられる。その姿を見送った後、ヘスティアはロキに連れられディアンケヒトファミリアへと向かっていった。
ロキは、ヘスティアを空部屋へ連れて行き、ルインに会いたがるヘスティアを無視して話を始めた。
「なあ、ヘスティア。お前、眷族を依怙贔屓しとらんやろな?」
「何を言うんだい!ボクがそんなことするわけないだろ!それよりもルイン君はどこにいるんだ!」
「ちゃんと答えてくれたら会わしたるわ。……先に謝らんとあかんな。ルインのステータスを見してもらった。それについては、ホンマにすまん。だけどや、ステータスオール0ってなんの冗談や?お前の眷族の片方はレコードホルダーや。ホンマに区別しとらんと言えるんか?」
「ステータスを見ただって!?それはルール違反だろ!」
「せやから謝っとるんや!ヘスティア、話を逸らすな。ホンマに区別してないんやろな?」
ヘスティアは、ルインのことを大切に思っていると断言できる。しかし、ステータスを見られてしまうとそう思われても仕方ないと感じていた。それを見られてしまえば、何を言っても言い訳にも取られないことも理解していた。あまりにも悔しくて声も出せずに目に涙を浮かべて俯くしか出来なかった。
「……すまんな。試させて貰うたわ。こっちはスキルまで見とるから、大体は把握しとる」
その姿を見て、ロキもバツが悪そうに謝罪する。元々、ロキ自身もヘスティアの善性については理解している。万が一でもその可能性は無いことも。
「ヘスティア、今からルインのステータス更新してみてくれんか?ウチの予想通りやと……。いや、頼めるか?」
ロキにルインの病室に案内され、ヘスティアは、ロキに言われるがままステータス更新の準備を始める。いや、本当は嫌だった。自分以外の神がいるところでしたくなく、更新するならルインが起きてからが良かった。何よりもルインに寄り添い無事を祝いたかった。
だけど、あの呪いに近いスキルについて少しでも分かるならと、自分の感情を抑えることにした。
本来では改宗以外ではあり得ない、二人の神がいるステータス更新が行われた。
「レ、Lv.2になってる」
「よその子の背中を覗くまねなんて二度としたくないから、早う紙に写してや」
「わかったよ」
ヘスティアは急いでルインのステータスを紙に写す。ひったくるようにロキは紙を受け取り内容を確認する。
Lv.2
ルイン・マックルー
力 I 0
耐久 I 0
器用 I 0
俊敏 I 0
魔力 I 0
剣士 I
魔法
スキル
【竈神献身】
【竜騰虎闘】
・対人戦において有利性を持つ。
・対人戦以外での戦闘へ弱補正。
ロキは、渡されたステータスを見て息を飲む。新たに生まれたスキルが問題だった。モンスターとの戦闘の弱体化なんて、冒険者としてデメリットでしか無い。そもそも、対人戦特化のスキルが発生する理由なんて……。と、考えているとロキファミリアとの経験が理由になっていると気付く。
「これは、ウチのとこのせいでもあるか」
すぐに更新をしたことから、発展アビリティは一つだけだと思う。ロキは、自分のファミリアの影響を受けてしまったルインを見つめ決心する。
「ヘスティア、ウチの予想を伝えるわ。ルインに関しては、悪いけどウチも身内として扱わせてもらうわ」
「……何も企んで無いみたいだね。ルイン君は譲らないけど、ロキが協力してくれるなら心強いよ」
「おう、大船に乗ったつもりでいいや。そんで、一つ目のスキルやけど、経験値がどのタイミングでチャージされるかが一番の肝や」
「それは初めからじゃないのかい?」
「その初めがいつを指すかが、重要なんや。ウチの予想だと、更新してルインに影響を与えた後、スキルが奪っているから数値に影響されないと考えとる」
「だけど、ルイン君のステータスはスキルを覚えた後は、下がっていったんだよ!」
「そこや!下がってからルインや周りは気付いていたんか?」
「それは、確認したけどルイン君もタケもわからなかったみたいだよ」
「なら、ステータス更新は行われているけど、数値化する前に吸収するから見かけ上、下がってしまうことも予想できる。レベルアップの時にできる隠しステータスに近いものやと思うわ」
「なら、ルイン君はしっかり成長出来てたんだね!?」
「フィン達から聞いた話やとそっちの方が納得できるわ。ウチらが子どもに与える恩恵が、そんな柔なものがあるわけないやろ」
ヘスティアは、ファミリアの先達であり、神界時代の策略家の様子を思い出しスキルの解明が少しかもしれないが進んだことに安堵した。
ヘスティアが、ルインの看病に専念することを確認してロキは部屋を出る。ヘスティアには、ルイン発見の経緯を話さず、楽観的な予想だけ伝えた。地上の子ども達の可能性は神々の予想を遥かに超えることもあることは伝えられなかった。少し悔しげに、ロキはホームへと戻るしか出来なかった。
そこはオラリオを見渡せる外壁の上だった。
「ヘルメス様よろしかったんですか?」
「急にどうしたんだい?俺はベル君の可能性を見れて満足しているんだ」
「私達が通った後、他の冒険者を十四階層へ通さないようにファミリアを動かしたことは聞いていなかったので」
「ああ、そのことか。保険のつもりだったんだ。英雄譚には、仲間の死により奮い立つ英雄の物語なんてよくある話じゃあないか!まあ、その前に、ベル君の可能性を見れたから、すっかり忘れていたけど。彼も助かったんだから問題ないよ」
「リオンには何て言うつもりですか?彼女が一番嫌う行為だと思いますが」
「リューちゃんに?俺達が受けた冒険者依頼はベル君の捜索だよ。何も嘘は言ってないじゃないか」
「……わかりました。何かあった時は全てヘルメス様にお願いします」
「おいおい、不吉なこと言わないでくれよ」
わざとらしく笑うヘルメスに、アスフィは深く溜息を吐く。厄介なことにならないように願うしかなかった。
ステータスを覗き見る行為については、絶対しないロキも、見れるなら見るロキもどちらも想像出来そうでしたので……。
フィンについては冒険者になってからは利害関係無しの友人を作っていなさそうと思い、その位置に収まろうとしているルインへの対応が過剰になっている節もあります。