ヘスティアは、ルインの病室を出るとタケミカヅチファミリアへと向かった。あそこまで、他派閥のルインを想って動いてくれていたので、改めてルインの無事と感謝を述べるために。
ヘスティアはルインの発見までの経緯と今の容態を伝える。桜花も命も、最後まで静かに聞いていたが、話が終えると膝をつき頭を下げる。
「ヘスティア様、今回の件の始まりは全て俺の判断によるものです。ですから、全ての罰はどうか俺に……」
「桜花君、その話はもう済んだじゃないか。ボクは君達を恨みも憎みもしない。だから、ルイン君が目を覚ましたら今まで通り接して欲しいんだ」
「ですが、見殺しにした俺にそんな資格は」
「それは違うよ。ルイン君は君達を守りたかったんだ。そんな君に拒絶なんてされる方が辛いじゃないか」
「……わかりました。こんな俺でも、ルインが許してくれるなら、その時は喜んで」
「うん、それでいいよ。じゃあ、目を覚ましたら連絡するから」
ヘスティアは、その後も神友達にルインの無事を伝えに向かった。青の薬舗では、深く安堵するミアハと、少し涙ぐむナァーザが喜んでくれた。ヘファイストスのところに到着すると何やら慌しい様子だ。不思議に思いながらヘファイストスの部屋に入ると、疲れた様子のヘファイストスが座って出迎えてくれる。
「どうしたんだい?何かトラブルでも?そうだ、ヘファイストス!ルイン君も無事に見つかったんだ!まだ、目は覚ましてないけど、心配してくれてありがとう」
「ええ、それは本当に良かったわ。ただ、そのことで椿がかなり怒ってしまって」
「椿君が?」
「そうよ、ロキファミリアが知ったタイミングで、椿も十八階層にいたのに教えてもらえなかったみたい。それも、知ったのは発見のタイミング。だから、ホームに帰還して遠征の契約が済んだから、ロキファミリアに討ち入りに行くって聞かなくて」
ヘスティアは、その姿を想像して苦笑いを浮かべる。ルインを一番初めに気に入ってくれたのは椿だ。おそらく、知れば一人でもゴライアスに挑み、救出に向かってくれたことは容易に考えられる。フィン達は、それを防ぐために知らせなかったのだろう。
ヘスティアは、椿の説得を買って出ることにし、ヘファイストスはそれに応じた。
結論から言えば、説得には成功した。かなり渋々であったが。その後、ヘスティアが思わずルインのレベルアップを喋ってしまい、それに反応した椿が、祝いの為に剣を打つと宣言して、工房にこもりに向かう。
オラリオの大手ギルド同士の抗争を防ぐことができ、その場にいた者は全員安堵していた。
その日の夜、ルインの事情を知る五人の神がとある酒場の個室に集まっていた。
「ほんで?自分とこの子のステータスをようこんだけに話したな。まぁ、勝手に見たウチが言えたことやないけど」
「そうだよ!まだボクは勝手に見たことを許していないんだから!」
「はあ、ロキも見たんでしょ?あのスキルを見たら、新米主神のヘスティアだとしょうがないじゃない」
「まあ、そこは置いといて。ウチの子達が見たことを伝えるわ」
根本的に反りが合わないロキとヘスティアは、挨拶の様に罵り合う。呆れた様子でヘファイストスがなだめてから本題が始まった。
フィン達が発見した時の様子や、Lv.6と対等に戦い、勝利してしまったこと。そして、十三階層で聞いた誰かによる妨害について。話終えても、誰も声を出さずに考えこむ。おそらく、スキルのトリガーを引いてしまったことは想像つくが、何が原因かが思い当たらない。ヘスティアも何かヒントがないか必死に思い出していく。
「あっ!」
思わず声を上げるが、ヘスティアの顔色は青ざめていく。
「なんや?思い出したんか?」
「じ、実は十四階層に着いた時にモンスターがかなり少なかったんだ。その時にヘルメスの子が誰かがモンスターを相手しているからって言っていて……」
「まんまそれやろ。何で直ぐに思い出さんのや!」
「あの時は、Lv.4が二人もいたから、おかしなことがあったら気付いていたはずなんだ!」
「その話を聞いて思い出したわ。ヘスティア、貴方の出した冒険者依頼の内容を覚えている?」
「それは、もちろんさ!ベル君の、……ベ……ル君の」
「俺からもいいか?同行していた俺の子達も、ヘルメスの連れた冒険者達に違和感を持っていた。目的がまるで違うように感じていたと言っていたな」
「そんな……」
「ちゅうことは、ルインがドチビ達を見つけて助けを求めたが、気付いて貰えずに……。いや違う。上級冒険者がいたんや。気付いて貰えたのに素通りされたんや。最悪やな」
「ち、違う!ボクは……」
「ドチビを責めとるわけやない。……ヘルメスのやつええ度胸しとるやないか」
ヘスティアは、ようやく気付いてしまった。トリガーを引かせたのが自分だということに。目の前にルインがいるかのように、謝罪し続ける。ミアハやヘファイストスが必死に宥めるが、それでも謝り続けていた。
「それで、どうする?」
目を閉じて、何かを考えていたタケミカヅチは重々しく口を開いた。
「正直なところ、証拠もなく動くことはできひん。十中八九ヘルメスが何かをしたのは確定やけど、目的がさっぱりや」
「なら、泣き寝入りしろと言うのか!」
「そんな訳あるか!ウチの子まで巻き込まれて黙るはずないやろ。確証を手に入れて、納得できる目的ですらなかったらウチが潰したるわ」
タケミカヅチの怒声に対し、ロキも重々しく言葉を返す。
「ふむ、ヘルメスへの対応は一先ず見送りなるか。ルインのスキル効果については進展はあるか?」
これ以上、進展しようがない為、ミアハは話題を変えることを提案する。
「それについても、ウチから言わせてもらうわ。実際に見てへんから赤い光みたいなんはわからんけど、アビリティダウンは他者にも有効みたいや」
「他者にもって、どういうことよ?」
「フィンのアビリティが軒並み半分くらいになっとった。まだ、入院しとるからわからんけど、本人が言うには、下がった感覚はないそうや。ベートに関してはレベルアップしたからようわからん」
今までルインとよく稽古をしていたタケミカヅチも、以前ガレスが戦闘した際には現れなかった状況に目を丸くする。
「せやから、ルインのレベルアップは、単機で中層を数日間生き延びたことと、Lv.6冒険者の撃破。それに加えてLv.6の経験値の吸収して、スキル効果で増加したことが原因やと思う。ドチビには悪いけど、生き延びたこと以外誰も信じへんで」
「そうね、一番の問題はギルドに報告するか、しないか。まあ、これに関してはルインが目覚めてから決めてもいいけど」
最終判断はルインが目覚めないと付けられなく、結論は一先ず置いておくことにし、その日は解散となった。
ヘスティアはホームに戻ると、まだ起きているベルに気づいた。ベルはルインの様子が気になっていたようで、普段は寝ている時間になっても起きて待ち続けていた。
ヘスティアは、憶測のほとんどを隠し、十四階層でロキファミリアが保護してくれたことのみ伝える。話を聞いて顔色をかなり悪くするベルだが、命に別状は無いことを聞いて一安心する。
だけど、ルインが一人頑張っていた時に十八階層を楽しんでいたことを悔やむ。ヘスティアに早く休むように急かされ、ベルは眠りにつくことになった。
椿とロキファミリアの関係が悪くなりそうですが、きっとルインがなんとかしてくれるはず!