翌日、ルインは目を覚ました。知らない部屋で寝ていたようで、状況が読めない。最後の記憶を思い返そうとすると、頭がズキリと痛む。どうしたものかと、考えていると部屋の扉が開く。朝一でルインの様子を見に来たヘスティアが姿を見せた。
ヘスティアは起き上がって不思議そうにしているルインを見て、涙ぐみながら飛びついた。
「ルインぐ〜ん!良がっだよ、目を覚ましてぐれて」
「へ、ヘスティア様!?すみません。何があったかあまり覚えてなくて……。また、ご迷惑をかけたみたいですね」
ルインは、心配するヘスティアの様子を見て寂しげな様子を見せる。
「迷惑なんてかけてないよ!って、記憶がないのかい!?ボクが誰だかわかるかいっ!?」
ルインの言葉に、ヘスティアはかなり慌ててしまい、ルインの両肩を掴み激しく揺さぶる。ルインも目を回してしまい、されるがままとなっていた。
「ヘスティア様、何度も申していますが、病室では静かにしてください!」
あまりの騒ぎようからアミッドが部屋に入り、ルインが目を覚ましていることに気付いた。とりあえず、安静にさせる為にヘスティアを引き離し、ルインを落ち着かせる。
ヘスティアが記憶喪失と騒ぐ為、確認の質問をいくつかしていくが、事故直後までの記憶には何も問題なかった。
ヘスティアに再度注意をして、アミッドは退出していく。
ルインの記憶があやふやになっている為、ヘスティアは本当のことを伝えるべきか迷っていた。しかし、自分が与えてしまった悲しみを、自分から伝えることは出来ず、ベルに話した内容をルインに伝えるしかなかった。
「……そうでしたか。また、フィンさん達に迷惑をかけてしまったんですね」
「そんなことあるもんか!フィン君は君の友達なんだよ。助けられて喜んでたぐらいさ!っと、それよりも、ルイン君!レベルアップしたよ!」
「本当ですか!?」
「本当さ!ベル君の記録をすぐに更新してしまうんだ。流石はボクの眷族だよ!ふふん、鼻が高いね」
これ以上、救出のことを話すと嫌な予感がして、別の話題に切り替える。ヘスティアは二つのスキルを消して写した紙をルインに渡してルインの気を逸らした。
用紙に目を向けるルインは、魔法やスキルが発現しなかったことに少し落ち込むが、それよりもベルに近づけたことが嬉しかった。ヘスティアから、報告時期を遅らせることを提案されるが、ルインは首を横に振った。
「団員二人のファミリアの二人とも最短でレベルアップしたので、ヘスティア様の株を上げることができます。そうしたら団員も増えるかも!」
嬉しそうに話すルインを見て、ヘスティアは黙るしか出来なかった。その後、アミッドによって診断が行われ、午後には退院の許可を貰えた。
無事に退院出来たルインはヘスティアを連れてギルドに顔を出した。ロキファミリアの遠征処理に追われているミィシャに声をかけると、カウンター越しに抱きつかれ退院を祝ってくれた。
その直後、レベルアップを聞かされ思わず気絶しそうになるミィシャを慌てて支えるルインを見て、ヘスティアはようやく日常が戻って来たことを感じることが出来ていた。
「それでは、レベルアップまでの経緯を確認します」
個室に案内され、仕事モードのミィシャから確認が行われる。
・初日にダンジョン一層にて瀕死の重症を負う。
・二日目に上級冒険者と共に七階層に到達。
・その後は、ギルド推奨の探索をアドバイザーと共に確認しながら行う。
・他派閥のパーティに入り、探索。
・中層初挑戦の日に崩落に巻き込まれて数日間単独で遭難。
・遠征からの帰還途中のロキファミリアに救助される。
「以上で、間違いありませんか?」
確認していく内容に、思わず頬をひくつかせるミィシャに、ルインは真面目に頷く。ミィシャ自身もルインの冒険者としての行動は把握していて、内容に間違いないのは知っている。だからこそ、ありえない。他に何かしていないか尋ねても、ルインは思い当たらないとしか言わない。
このまま報告して上司に叱られる自分を幻視しながら、ミィシャは書類をまとめることにした。
ギルドを出たルインはヘスティアと別れ、一人ロキファミリアに訪れていた。門番に恐る恐るお礼を言うために来たと伝え、かなり丁寧な対応で待つように言われる。
ルインは前回とは違い団長室に案内された。ルインより先に午前中に退院したフィンの他に、リヴェリアとベートが集まっていた。ガレスではなくベートが居たことに驚くルインだが、気を取り直しお礼の言葉を述べる。
「いや、君が無事で良かったよ。寧ろ救出をもう少し早く出来ていたのに、遅れてしまった申し訳ない」
「いえ、目覚めた時には病室だったんで。その、あんまり覚えていなくて」
「君がそんなこと心配することはないんだよ。友人として君の無事を祝わせて欲しい」
フィンは落ち着かせるように話し、無事を祝うことで話を逸らすようにした。退院前にアミッドから記憶のないことは確認していて、思い出して再び辛い思いをさせたくなかった。
「それで体の方は特に問題はないのか?」
「体を動かしていないので、詳しくはわかりませんが、おかしなところはないと思います」
フィンとは違い何かを探るような目でリヴェリアは尋ねる。それに、ルインは不思議に思いながら答える。首を傾げながらリヴェリアを見ていると、溜息を吐きながらルインへ言葉をかける。
「いや、すまない。最近、予想外のことが多くてな。何事にも警戒する癖ができたみたいだ。気に障ったのなら謝罪する」
「いえ、そんな。何か気になることがあったのかなと思っただけですので」
まだ、リヴェリアに対してエルフ達と同じような態度を取る姿に、フィンはクスクスと笑ってしまう。それをリヴェリアに睨まれ、何事もなかったかのように咳払いをする。
「おい!死に損ないのガキのくせに感謝する相手を間違ってんじゃねぇよ」
和やかな空気が、ベートの言葉で中断される。
「おい、ベート。ものの言い方というものがあるだろう」
「うっせぇ、ババァ。俺がここにいる理由はこれだろうが。まあいい、おいガキ。言葉なんていらねぇから、今度酒でも奢ってもらおうか。そうだな、明後日お前の金で飲みに行くから、今のうちに金をかき集めて来い」
「は、はいーっ!!」
ベートに頭を掴まれ目線を無理矢理合わされる。開放されるや否や、深々と礼をしてから走り去っていった。
「ベート、彼をあまり苛めないでくれないかな。特に今は退院明けで不安定な時期だから」
「そんなことはどうでもいい。お前達は何も感じなかったのか?」
「それはどういうことかい?」
「いや、何もないならいい。俺の気のせいだ」
ベートは、それ以上は話すつもりもなく部屋を出て行く。フィンはリヴェリアを見るが、彼女にも思い当たらないようだ。
「僕には、いつも通りに見えたんだ。それが本当に嬉しくてね。彼が変わってしまうと思い込んでいたけど……」
「私にもいつも通りにしか見えなかったな。いや、それが異常なのかもしれないな。ベートは、それが言いたかったのか?」
「いや、これ以上、憶測を話すのはやめよう」
フィンは、ルインについての話題を終わらせる。考えなくてはならないのは、ルインの変化についてではなく、周りの動向だからだ。他派閥の一人の為にファミリアとして動かすことはできない。代わりに動いてもらっているロキに、介入の時の見極めを任すしかなかった。
ルインの冒険履歴を見返すとひどいですね。
ガレスとアレンとの戦闘は、迷惑をかけると思いルインが伝えてなく、フィン撃破については、ヘスティアから聞いていないので伝えられない結果ですね。