ヘスティアファミリアで頑張ります!   作:プラス九

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25.豊饒の女主人

 

「おっと、大丈夫かい?体調が悪そうだけど」

 

「いえ、昨日飲み過ぎたみたいで、ちょっと頭が痛くて」

 

「なるほど。神友の子をこのまま放っていくことなんて出来ない。近くに良い店があるんだ。そこに行こう!なに、支払いは俺が持つから気にしなくて良いよ」

 

 ルインは断りを入れるが、ヘルメスは気にしない様子でルインを連れて歩いていく。途中からルインは諦めて付いていくことにした。

 

「あの、ここは?」

 

「ここは、豊饒の女主人という店さ。値段は少し高めだけどそれ以上の味なのは、保証するよ。それに美人揃いでね。おっと、アーニャちゃん!二人だけど空いているかい?」

 

「ニャ!?ニャンだ、ヘルメス様か。空いている席に適当に座れニャ」

 

 アーニャに言われるがまま、ヘルメスは適当な席を選び、ルインもそれに続く。ヘルメスが紅茶を二つ頼みアーニャは下がっていった。

 

「今回は君に謝りたくてね。無理に誘って申し訳なかった」

 

「えっと、何かありました?」

 

「そういえば覚えていないそうだね。君が十四階層で彷徨っている時に救出隊に加わっていたんだけど、ちょっとした手違いで俺は知らされていなかったんだ。もし、知っていたら早く助けられたのにってね」

 

「いえ、結果的に無事だったので」

 

「いや、それでは俺の気がすまない!何か俺に出来ることがあれば言ってくれ」

 

 ルインは、その申し出に丁寧に断りを入れるが、ヘルメスはそれでもと、しつこく提案してくる。そこに、アーニャが紅茶を持ってきて時に注意を受けて一度落ち着くことになった。

 

「いやあ、すまないね。少し熱くなっていたみたいだ」

 

 わざとらしく振る舞うヘルメスに、ルインは警戒心が薄くなることはなかった。初めて会ったはずなのに信じてはいけないと、初めての感覚に戸惑いながらも、頭の痛みで冷静さをなんとか保つ。

 

「そうだ。一つ情報を与えよう。……君のレベルアップがヘスティアに与える影響のことさ」

 

「どういうことですか?」

 

「やっと、反応してくれたね。簡単なことだよ。ベル君のレベルアップ期間も目立っていたのに、君がすぐに抜いてしまった。だけどね、他派閥からしたら続け様に短期間でレベルアップしている者がいることが、どれだけ異常かわかるかい?」

 

「それは、僕達の努力やヘスティア様へ報いる為に結果的にそうなっただけで」

 

「話しているところが違うよ。他のものからしたらどう見えるかが、大切なんだ。一部ではヘスティアのズルが噂されていてね。今後、どういう風に陰で言われるなんて簡単に想像できる」

 

 ルインは、激しく痛む頭を押さえ変わらず笑顔のままのヘルメスを睨む。無意識のうちに手が剣に伸びるが、飛んできたお盆を避けて少し冷静になる。ルインは、投げられた方向を見て一人のエルフが目に入った。

 

「ここは、酒場です。暴れるなら外に出るべきだ。ミア母さんが気付く前に出ることを勧める」

 

 警告する様に言い放つ姿を見て、ルインは目を見開く。別の店員達も同じく警戒しているが、ルインには見えてはいなかった。

 初めてみたはずなのに酷く既視感を覚える。エルメスと出会った時にも感じた違和感に頭の痛みが強くなる。思わず頭を押さえ態勢が崩れる。

 

「ミャー!?リュー、やりすぎニャ!」

 

「いえ、今のは避けていたはずです」

 

 一人アーニャはその様子に慌てるが、リューは警戒心を解かない。痛みの為か、悲痛の声を上げているルインの様子を伺う。

 

「……ああ、そういうことか。なぜこの店を選んだのかわかりました」

 

 突然、ルインは何事もなかったように立ち上がる。

 

「ヘルメス様も情報ありがとうございました。……店員さんもご迷惑お掛けしました」

 

 ルインは軽く頭を下げて店を出て行く。あまりの変わりようにリューはヘルメスの方へ目を向ける。それを見て、ヘルメスは観念したように笑みを浮かべる。

 

「リューちゃんは、ベル君救出の時に、もう一人探して欲しかった人物がいたことは知っているかい?」

 

「何を言って?冒険者依頼はクラネルさんの救出ではないのですか?」

 

「いや、知らないならそれでいいんだ」

 

 ヘルメスはそれだけを言い残し、代金をリューに渡して出ていった。

 

「ミャー?ヘルメス様はニャニが言いたかったんだニャ?」

 

「ほんと。騒ぐだけ騒いですぐいなくなるのは、相変わらずめんどくさい神様だよね」

 

「あんニャ、完璧なお尻はミャーも初めて見たニャ。リュー誰ニャ!あの完璧な少年は?」

 

 騒ぎたてる同僚に呆れながらも、リューは仕事に戻ることにする。三人の後ろにミアが拳を振り上げているのを見たからではないが……。

 何か引っかかるが、情報が足りていない為、今考えても解決出来そうになかった。

 

 ルインは頭の痛みがなくなり、改めてオラリオの散歩を始めた。そういえば、あの店はベルの行きつけの店と同じ名前だったと思い出す。

 記憶の霞が少し晴れたことへの恐怖を振り払うためにも、今は歩くことしか出来なかった。進めていく足が、普段より重く感じる。思い出したのは一瞬の場面。その光景は鮮明ではないが、目を逸らすことができない。

 

「おい、痛いな。どこ見て歩いていやがる」

 

 誰かにぶつかったみたいだが、ルインはそれにすら気付かず足を進める。

 

「おい無視するたあ、いい度胸だな。面貸せや」

 

 冒険者の男はルインの襟元を掴むと路地裏の方に放り投げる。受け身も取れず転がるルインに、男は遠慮なく蹴りを加える。防御もしないルインに、男は別の鬱憤も一緒に晴らすように気が済むまで蹴り続ける。ある程度して気が晴れたのか髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。

 

「誰かと思えばレコードホルダーじゃねえか!やっぱり噂通り大したことないじゃねぇか。おい、金目のモノを置いていったら見逃してやるぜ?」

 

 男の言葉に、今まで反応のなかったルインが僅かに反応する。

 

「……う……わさ……?」

 

「テメェがなんて呼ばれているのかも知らねぇのか。おいおい、俺を笑い殺す気か?」

 

 男は馬鹿にするように笑い、言葉を続ける。

 

「金魚の糞だよ!上手く上級冒険者に取り入ったみたいだが、結局一人じゃあ何も出来ねぇみたいだ。お前の主神も情けないよな。他派閥にすがるようなマヌケな神みたいだし……な?」

 

 無意識だった。ルインの意識が戻った時には、血溜まりに倒れている男の姿が目に映った。剣に血がついていることから、ルイン自身がやったことだと理解する。

 死が付き纏うダンジョンではなく、街中で人を斬ってしまったことが信じられず、逃げるように痛む体を引きずりながらその場を後にした。

 

 ホームに戻ると、まだ誰も戻っていなかった為、シーツで体を隠すように丸まり痛みから逃げる為に眠ることにした。




ベルと違いレベルアップの経緯はギルドに都合が良いので大々的に発表されています。

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