翌朝、ベートは自室で目を覚ました。飲み過ぎたせいか酷く頭が痛む。しかし、自室に戻った記憶がなく、最後に覚えているのは無理矢理ルインに酒を飲ませ始めた頃だ。その先はどうしても思い出せないので、一度落ち着く為に食堂で水を飲みに行くことにする。
「あー!酔っ払いのベートだ!年下を無理矢理飲ませたのに、逆に介抱されるなんて……ぷぷっ」
「こらダメじゃない、ティオナ。いくらお詫びだからって飲み代まで全部出させるなんて……ふふっ」
ニヤニヤしながら絡んでくるティオナとティオネの声で頭が痛むが、ベートはそんなからかいは気にならなかった。
「うっせぇ、後半の分は俺が払うつもり……って違う。おい、バカゾネス。俺を運んでいたガキの様子はどうだった!?」
「なに?まだ酔ってんの?」
「うるせぇ!どうだったか聞いてるんだよ!」
「いつもと変わらないわよ。それよりもお礼を言っときなさいよ。体格差のあるのにしっかり担いで連れてきてくれたんだから……ってちょっとまだ話しているでしょ!」
運んできたルインの様子を聞いたベートはティオネの話を途中から聞かずに走り出していた。目当ての部屋の前に着き、ノックもせずに乱暴に扉を開ける。
「おい、フィン!いるか?」
「ああ、ベート。やっと起きたんだね。ちょうど昨日のことを聞きたくて呼ぼうと思っていたんだ」
「お前が酒に弱いことはなんとなく察していたが、今回のことは流石に目に余る。暫くの間、禁酒してもらうつもりだ」
「うるせぇ、ババア。フィン、昨日ルインが来た時に会ったか?」
「いや、僕はその時手が離せなくてね。リヴェリアが対応してくれたんだ」
「ベート、今回の件はルインから粗方聞いている。ルインに罪悪感を持たせない為に提案していたと思っていたが、かなりの額を使わせるとは見過ごすことはできん」
「ガキの様子はどうだった?」
「だから聞いているのか?反省の色が見えるまでは禁酒してもらうぞ」
「だから、ルインの様子はどうだったか聞いてんだよ!」
話を聞かずルインの様子ばかり尋ねてくるベートに説教モードに入っていたリヴェリアも不思議に思い、フィンに目線を送る。それにフィンも同意する仕草を出す。
「普段通りだったと思う。私が直接相手をすると恐縮させすぎるから、直接のやり取りは別の者が行ったが、隣にいておかしな点はなかった」
「クソっ!最悪だ。フィンが弱いから小人族はそういうもんだと思っていた」
「ベート、話が見えない。ルインが酔っていなかったことのなにが問題なんだ」
「ここに来た時よりも酷い目をしていた。あの時のことを思い出しているかもしれねぇ」
「どういうことかな?」
ベートは酒場であったことを説明する。他派閥の冒険者のベルに向けた煽りが偶々聞こえてしまった後の様子を話す。それ以前のルインの様子についてはベートの勘が理由だと、はぐらかされてしまったが、主神を蔑める発言から様子がおかしいのは理解できた。
「確かに怒ったりしていたなら違和感は持たないが、焦っているように見えたか。わかった。このことはロキに伝えておく」
「おい、お前は動かなくていいのか?」
「動かないではなくて、動けないんだ。僕達が動いてしまえば状況は悪化する。彼に直接の被害が無いうちは静観するしか出来ない」
「被害が有ればどうするつもりだ?」
「君達に迷惑はなるべく掛からないようにするから大丈夫だよ」
ベートはフィンの有無も言わせない目にそれ以上、何も言わなかった。元々、策略の類いはフィンの方が上手だ。柄にもなく頼ってしまう自分の弱さを憎みつつ、部屋を出て行った。
その頃、ルインは普段通り朝の準備に勤しんでいた。昨日までと違ったのはベルとヘスティアも積極的に手伝っていたところだが、少し手持ち無沙汰になり寂しく思う。ホームのことは任せて近所の手伝いを終わらせてから朝食を始めた。
ヘスティアは食べながらルインの様子を見ていた。どことなく昨日よりもスッキリとした表情の様に感じられる。夕方知り合いとの予定で出かけていたが、それが良かったのだろうか。昨日は、珍しくベルが喧嘩をして帰ってきたりと、二人の冒険以外での年頃らしい行動を見ることが出来た。懸念材料が多く安心はまだ出来ないが、笑顔で見守るぐらいは許されるだろう。仲良く三人で朝食を続けてた。
その後、ヘスティアはバイトに行くと言い残し出かけて行った。勿論、嘘では無いが、目的は違った。ヘファイストスファミリアに到着すると応接室に案内され、すでに待っていたヘファイストスとロキの近くに座る。
昨日、夕方にヘファイストス相談して、ロキとの面会を取り付けることにしたからだ。元々は、直接ロキを訪れるつもりだったが、ヘファイストスから周りのルインへ状況を聞かされ不自然のないように場を設けることになった。
ヘスティアは、ヘルメスがルインに接触したことを告げる。
「なるほどなぁ。それならウチが伝えたかったことが、一応やけど真実味を帯びてきたわ」
「どういうことかい?」
「ウチもさっき聞かされたばかりやから、半信半疑やったけど……。もしかしたら、ルインはあの時のことを思い出してるかもしれん」
ヘスティアは、想像したくなかった推測に声も出せずに固まってしまう。その様子を見たヘファイストスがロキに続きを話すように促す。
「まあ、ウチもまだ詳しくは理解できてないから、言われたままを伝えるで」
ロキは出掛ける直前にフィンから聞かされたベートからの情報を話し始める。
「そんな、じゃあボクはヒントをしっかり聞いていたのに気付けずに笑っていたってことかい。……今までのことといい、主神失格も甚だしいじゃないか」
「ドチビ。お前がせなかんことは、打算なく、今まで通りにルインに接することや。それ以外ならウチらも手伝えるけど、それは主神にしか出来んからな」
ヘスティアをロキが慰めるという、神々からは想像もできない姿をヘファイストスは眺める。しかし、ヘルメスの狙いも未だ不明だ。親身になる神は多くいるからこそ、自分は一歩引いて眺めていくしかないと改めて感じさせられた。
情報交換は一先ず、終わりになるかなと。
そろそろ太陽神を出さなければ……。