リリを無事に救出できて安心していたヘスティア達の前に、ヘルメスが現れた時に、タケミカヅチファミリアは思わず警戒態勢を取ってしまう。その様子を当たり前のようにヘルメスは不適な笑みを浮かべながら近付いてくる。
「やあ、ヘスティア。言った通り助っ人候補を連れてきたよ」
ヘルメスから紹介されたのは見覚えのあるエルフの冒険者だった。
「どの口が言うか!ルイン殿を見捨てるような輩に背中など預けられません!」
ヘスティアが反応するよりも早く命が声を荒げた。そのおかげで、ヘスティアは冷静さを取り戻すこともでき、ヘルメスの動向を見ることにした。
「それについては申し訳なく思っているんだ。ただ、受け取った冒険者依頼と内容が違ったからね」
「いいんだ、命君。それでヘルメス、そのエルフ君は信用していいのかい?」
ヘスティアは、ルインのために怒ってくれている命に感謝しながら、ヘルメスを見据える。普段見せない真剣な姿に、ヘルメスも応える。
「ああ、信用できる。俺のことは疑ってくれて構わない。たが、この子に関しては君達の疑いに一切関わっていない。情報を司る、神ヘルメスの名に誓う」
普段の演技じみた様子のない真剣なヘルメスを、ヘスティアは見つめる。ヘスティア自身、グータラで取り柄の無い神だと自覚はある。だけど、人を、神を見る目だけは誰にも負けないと、みんなに言ってもらえた。
きっとそれが自分の長所だと、神友達の言葉を信じて、ヘルメスの言葉を認めた。
「エルフ君、ボクは君のことを許すと誓うよ。だから、ボク達に、ベル君とルイン君に力を貸してくれないかい?」
視線をリューに移したヘスティアは、慈愛の目を向けてお願いをした。リューはその姿に思わずたじろいでしまう。憎まれると思っていた。抑えきれない感情のまま、罵詈雑言を浴びせられるつもりで来ていた。
しかし、現実は許され、助けて欲しいと願われた。思いもよらない言葉に一瞬固まってしまうが、すぐに膝をつきヘスティアに頭を下げる。リューは、僅かに自身が捨てた正義を背中に刻んでくれた神の姿を、ヘスティアと被らせてしまい、溢れそうになる涙を必死で抑える。
その様子を見て、不満を隠せないでいた命達も押し黙る。そして、ルインを置いて逃げた自分達を棚に上げていたことを恥ずかしく思う。
「よし!そうと決まれば、後はベル君とルイン君を待つだけさ!作戦は君に任せたよ、サポーター君!」
先程とは違い、いつも通りのヘスティアに思わず笑いが起きるが、その場にいた者は根拠の無い勝利への自信を持つことができた。
装備を整えたルインは、ホームに到着した。瓦礫となった教会でヘスティアを含む面々が見える。ヘスティアから、リリの他にヴェルフと命の改宗を聞かされ、二人に深く感謝する。
ベルの合流はまだだが、先に戦争遊戯のルールなどを聞くことにした。主だった作戦はリリが考えてくれているらしく、それについてはベル合流後にするつもりだ。
命に関してはどのような能力を持っているかは把握できているが、それ以外は不明である。ルインは個々の戦力の確認を行うことにした。ヴェルフとリリとの情報交換を行い、作戦の精度を高めてもらう。話終えると、ルインは助っ人のエルフのもとへ歩き出した。
「ルイン君、君に秘密にしていたのはボクが臆病だったからなんだ。エルフ君を責めないでやってくれないかな」
リューの側に立っていたヘスティアは、ルインから庇うように先に声を掛けた。ヘスティアとしてはルインがどこまで思い出しているかも知りえていないが、初めに怒りを受けるのは自分自身でなければいけないと、先程までは考えていた。
その姿を見たルインの少し寂しそうな表情を見ることで、また間違えてしまったことに気付く。
「ヘスティア様、僕は何も思い出していませんよ。だから、そんな辛そうな顔はやめてください」
優しく笑うルインの言葉が、嘘だということは、ヘスティアにも理解できた。ルインもそれは理解しているはず。それなら、きっとヘスティアが庇うようにしたリューを気遣って嘘を吐かせたのだろう。ヘスティアは、自分の失敗を悔やむが平静を装う。ルインに気遣わせたことを無碍にできなかった。
「初めまして。今回は協力して頂いてありがとうございます」
ルインの言葉に、リューも一瞬悲しげな表情を浮かべるが、すぐに改める。自己満足での謝罪ではなく、今しなければならないことを優先しなければならない。店での一件すら無かったことにされたとしても。
ハラハラしながらルイン達の様子を見ていたリリ達は、遠目ながらも問題になっていないことに安堵していた。気付けばヘルメスの姿もなく、戦争遊戯に挑む自陣の戦力が決定されたので、来たるべきその日に最善を尽くすしか無かった。
少ししてから特訓を終えたベルと合流することが出来た。ベルも改めて顔合わせを行い、ルインと共にステータス更新を行う。それぞれの準備を確認して戦争遊戯の舞台へと移動を開始した。
リリの作戦上、大将戦はベルに任せることになり、それ以外の面々は先に向かう馬車に乗り込んだ。ベルは一人後発に乗っていたが、同乗していた人から応援を受ける。だが、その殆どはルインに向けていたものであり、少し肩身の狭い気持ちになっていた。
先行隊のルイン達は揺れる馬車の中で、改めて細かな打ち合わせを行なっていた。リリの魔法による錯乱を主軸とした作戦であるが、ベルを敵大将であるヒュアキントスに無傷で向かわせなければならない。
リューに魔剣を持たせて進入経路確保と多数の敵を対応してもらうことにする。命も魔法による足止めを、ルインとヴェルフでベルの護衛を行うことで作戦の説明が終える。リリにかかる負担が多いが、任せるしか無い。後は天命に任せて、それぞれが最善を尽くすだけだった。
ヘスティアとアストレアの神格はかなり近いものと思っています。ただ、ヘスティアの未熟さは拭いきれませんが……。