翌日、ルインはヘスティアとリリを連れてゴブニュファミリアに訪れていた。リフォームの希望もまとまり、早くホームを使えるようにするためになるべく早く着工して欲しいので、その交渉と費用の値切りが目標だ。ヘファイストスのところと比べると決して大きくはないファミリアだが、腕に関してはオラリオでも一、二を争う。ただ、職人気質の団員が多いので気に入らない仕事は大金を払おうが平気で断る。そのため、ファミリア一の顔の広さを誇るルインを連れて、リリもヘスティアも、万全の状態で挑むことにした。
「なんなんですか?これは」
リリとヘスティアは、受付に話しかけてから呆気に取られていた。始まりは、受付に声を掛けた時にルインを見た団員が、工房にいる全員を呼び寄せたことだった。その声を聞いた職人達が、仕事を止めてルインに集まり始める。その中には主神のゴブニュも含まれており、ヘスティアの挨拶も無視してルインへと向かっていた。
聞こえてくる話題のほとんどが、【鍛治師殺し】の評判や、それを踏まえた戦争遊戯での立ち振る舞いについてだった。
「くそっ、先に出会えていたなら、こっちが唾つけていたのに。椿の野郎め」
ある程度時間が経つにつれ、恨み節が強くなっていくが、まだまだ終わりそうな気配は感じられない。
「リリ達は、仕事の依頼に来たんです!雑談は後にしてください!」
置いてけぼりを受けていたリリは大声で訴えかける。それによって、ゴブニュファミリアの団員達も我に返り、各々の仕事に渋々戻っていく。
ようやく、受付担当の団員に対応してもらうことができ、リリもヘスティアも安心する。ルインの影響もあって依頼はすぐに受理され着工も今日から始めてくれることになり、予想以上の早さに驚いてしまう。しかし、リリにとってはここからが正念場になる。
「……それで予算はどれぐらいになりますか?」
「あん?それならこれぐらいだな」
団員に渡された予算書にすぐに目を移す。そこには、相場通りの金額が書かれており、何も問題ない。だが、そこから一ヴァリスでも安くするのが、リリの仕事だ。相手に不快感を持たれて依頼自体取り消されないように、丁寧に言葉を選んでいく。
「あれ?ここに書いてある材料の問屋さんってジョージさんのところですか?」
「【剣聖】はジョージを知ってるのか?」
「はい。ご近所付き合い程度ですが、この前もお裾分けで色々もらっていて。ジョージさんの見つけた材料ならより安心できますね!」
「なら、お前がジョージが言っていたガキんちょか!……この中に、他に知り合いはいないか?」
「この中なら……」
予算書に載ってている材料に関わっている問屋が書かれている紙をルインは受け取る。そこから、顔見知りの名前を挙げていく。
「よりにもよって、偏屈な連中と顔見知りか!待ってろ、それなら予算額を減らすことができる」
リリが予算書と睨めっこしていると、新たに作られた予算書を渡される。そこには、リリの希望していた額よりも下がっている金額が書かれていたため、頬が引きつる。力が抜けた声で、その金額で依頼して無事に受理された。
そのまま、連れ去られたルインを助けることもなく、無駄に疲れたリリとヘスティアは、ゴブニュファミリアを後にした。
ルインは、職人達が気が済むまで話に付き合い、解放されたのは昼食の時間を大分過ぎてからだった。屋台で簡単に済ませてから、地下室に戻るために歩いていた。
「おや?君はもしかしてヘスティアのところの【剣聖】かい?」
歩いていたところに、後ろから声をかけられる。ルインは振り返ると、見知らぬ金髪の男神が立っていた。
「ああ、すまない。私はディオニュソス。ただの酔っ払いだよ」
丁寧に柔らかな笑顔で語りかける姿に、ルインも安心する。見知らぬ神に対して、警戒心を持つようにしていたが、原因はヘルメスだけだったので改めることにする。
「はじめまして、ディオニュソス様。少し前にトラブルがあって警戒してしまいました」
「いや、気にしないでくれ。急に声を掛けたのは私なのだから」
ルインの警戒にも、不快に思っている様子もないディオニュソスに、一先ず安心する。そこからは世間話程度の会話が行われるが、ヘスティアの同郷の神と聞いてルインは驚く。
「……こんな話を君にすることは本意ではないんだが……。今、ヘスティアに対する評判はあまり良くない」
ある程度、お互いの人となりがわかった時に、今までとは打って変わって真剣な表情でディオニュソスはルインに語る。
「ヘスティアとは、正直に言うと神友ではない。だけど、天界の時に世話になってね。その時の借りを返せていないんだ。だから、彼女への侮辱は聞きたくなくてね」
悲しそうに語るディオニュソスに、ルインも自分自身が原因とされている問題に思い当たる。
「実は、それを晴らすことができる可能性があってね。もし、時間があるなら聞くだけでもどうかな?ただ、断る時は他言無用で頼むよ」
ルインは、少し考える。勝手な行動でヘスティアに心配をかけてしまう可能性が頭によぎっていたからだ。それに、初対面の神を信じていいのかも迷う理由でもあった。
しかし、ディオニュソスからロキファミリアも関わっていると聞かされて、話だけでも聞くことに決めた。
ディオニュソスの話から闇派閥との水面下での争いを聞くことになった。それに加えて新種のモンスターや怪人の存在。今まで知らなかった存在にルインは慌てるが、ディオニュソスは落ち着くまで待ってくれていた。
現在、ロキファミリアによってアジトを捜索している。今なら、それに加わることができ、闇派閥の討伐に加わればヘスティアの汚名も晴らすことができる。ルインは、信頼しているロキファミリアが動いていることで、疑問すら持たなかった。ディオニュソスの提案を受け入れた。
今は、闇派閥の拠点を探しているとのことで、分かり次第連絡するとだけ伝えられてルインはディオニュソスと別れた。
ルインは帰り道、ヘスティアに伝えるべきか考えていた。話すことで、より心配をかけてしまうことは当たり前だから、話さない時と比べる。結論として、話さない方が心配が少ないように思えた。ディオニュソスもヘスティアに秘密にする理由として、善神でありすぎると言っていた。無理に心配をさせるわけにはいけない。ルインは自身の決定に納得して、ホームに戻るため進んでいった。
【疾風】の再来?オラリオへの救いか。住民に愛されている新聞が一面で取り上げられていた。【疾風】と言えば五年前に起こった闇派閥との争いに終止符をつけてくれた冒険者の二名だ。ギルドからの通達により、犯罪者のように扱われているが、オラリオの住民の多くは感謝している。しかし、無実の被害者の遺族も存在しているため口にすることは出来ないが。
念願の平和が戻ったオラリオに、訪れた問題は素行の悪い冒険者の存在が目立つようになったことだった。最悪の時期を作ったのも、それを打ち破ったのも冒険者であったため、その力の強大さに誰も非難することは出来なくなっていた。
ガネーシャファミリアも頑張ってくれてはいるが、完璧ではない。住民の不満は静かに溜まっていた。しかし、最近になり評判の悪い冒険者を狙う通り魔が現れた。被害にあっていた者は当然だが、弱者を守ってくれる行いに誰もが感謝をしていた。
ガネーシャファミリアの調査にも誰も協力しようとせず、【疾風】の再来を喜んでいた。
原作のリューの評価は冒険者目線が強いと思っています。市民目線だと暗黒期を終わらせてくれたことへの感謝を持つ者も多いと思います。行ったことの良し悪しは無視してですが。