寝ていたのはどれくらいだろうか。ルインは、自室にある時計に目を向ける。仮眠程度の時間で済んでいたみたいだ。簡単に身支度をし、庭でいつも通り素振りを行うようにした。
風呂場で軽く汗を流して、共用スペースを改めて見て回る。昼頃ということもあり、誰にも出会わなかったが、拠点を移したばかりだから各々が動いているのだろうと予測をたてる。
『ルイン様が動かれると、リリまで駄目になってしまいます!お願いですから、自分のことだけで他は任せてください!』
鬼気迫る様に、思わず即答で首を縦に振ったが、今思い出しても何故そのように言われたのか、ルインには謎のままであったが。
昼食を軽く済ませルインは、イシュタルファミリアについて調べることにした。初めはギルドに向かうつもりでいたが、他ファミリアのことは、流石に教えてもらえないだろうと思い、別の方法を考える。
頼りになる主神はおそらくバイト中だろう。邪魔はしたくないので、ヘファイストスファミリアには向かうのはやめることにする。
なるべく迷惑になりにくそうな人を思い浮かべる。見つかるかはわからないが、1日ぐらい探し回るのも悪くないかもしれないと拠点を後にした。
「見つけた」
ルインは、気配を消しながら屋根を跳び回り目当ての人物を探していた。日が暮れ始めていたので諦めようか考えていた時に路地裏の酒場に入っていくのを見つけることができた。
物音が起きないように着地し、着ているローブのフードを深く被り直す。酒場に入ると、目的の1人カウンターで飲んでいる男の隣に座った。適当に注文し昨日受け取った手紙を男に渡した。
「やはり『剣聖』だったか。これはもういいのか?」
「ええ、もう必要ないので。それに貴方の名前も聞いていないと思って探してしまいました」
「ああ、それは悪かったな。俺はファルガーだ。で、本題はなんだ?」
手紙を受け取りファルガーは丁寧にしまう。先程より鋭い目線をルインに向ける。
「そう身構えないでください。何点かお聞きしたいことがあったので丁度いいかなと思ってたら、たまたま見かけたので」
「わかった。そういうことにしておこう。それで何が聞きたい?」
「実は……」
ルインは、いくつかの質問をし、回答に満足する。
イシュタルファミリアの活動内容及び所在地。ただし、フレイヤファミリアとの関係についてはノーコンメントだったのは問題ない。ルインとしてもあまり興味の無いこともあるが、深く関わるのも良く無いと思ったからだ。
それと、最近街の人からよく聞く『疾風』についても聞いておいた。数年前まであったオラリオの暗黒期の終わりに起こった悲劇の被害者だと。復讐者となり、関係者だけでなく、冤罪の者も含め多くのものが命を落とした。しかし、ルインには疑問が残る。何故、街の人々は喜んでいたのか。
「それは、冤罪被害の関係者はともかく、腹に何も黒いモノがない奴にとっては暗黒期を終わりにしてくれたように感じたのかもな。これは冒険者の俺には想像でしかないけどな」
ルインも、その想像に納得した。その頃を知らないから、苦しさも何もかも想像するしかない。『疾風』の行いは、その主神の願いだったのかはわからないが、再来は街の人々には良くも悪くも影響がある。
聞きたい事を聞けたので、お礼を言い席を立とうとする。
「あと、噂話程度で悪いんだが、イシュタルファミリアがお前のところの団長を狙ってるらしいから気をつけておくことだな」
とても気になる噂だが、どうせ新進気鋭のベルに興味があるだけだと解釈する。あのベルが色街に行く姿が想像できなかったから。去り際に新しい手紙を渡されたが、想定していた事だったので特に驚くことはなかった。
『ファルガー、出かけるならこれを持っておいて。彼に会えたら渡して欲しい』
拠点を出る前にヘルメスに渡された手紙に、ファルガーは理解してなかった。今となっては、ここまで想定していたのかと、冷や汗をかく。
「改めて会話してみると、彼の様子は闇派閥に近い。しかし、ヘスティア様は善神だ。何が起こっている?」
ルインから返された手紙にあったリストは全て塗り潰されていた。黒く乾いたインクは少し紅く見えたのは疲れのせいだろう。飲み慣れた酒が苦く感じるのだから。
イシュタルファミリアでは、色々と混乱が起きていた。殆どは団長のフリュネのせいではあるが。フレイヤファミリアの監視をさせていた街のチンピラ共からの連絡が減っている。厳密に言えば一部から連絡がないと言う方があっている。
「ふん。フレイヤらしいあざといやり方だねぇ。そういえば最近あいつのお気に入りがいると聞いたな。確か、ベル・クラネルといったかね?お前ら、ベル・クラネルを捕まえてこい!折角だからお返ししないとねぇ」
イシュタル提案に団員達は行動に移す。ベルの所属するヘスティアファミリアは多額の借金をしているらしい。公にヘスティアファミリアと対立するのは、好ましくないため、1つの罠を仕掛ける事になった。
イシュタルファミリアのことをタケミカヅチやミアハのところに行くと濁されそうだったので割愛しました。