ルインは、椿との探索以降一人で探索に励んでいた。ベルに誘われてはいるが到達階層が合わず、足手纏いになると思い、その都度辞退していた。
装備もギルドの支給を大切に扱いながら、二層を中心に資金調達に励んでいた。探索が終えると、ヘファイストスファミリアの主神室に向かうのが日課になりつつあった。
きっかけは、装備の整備について椿に相談をしに行った時に起こった。他愛無い話をしている時にベルのヘスティアナイフの話題があがる。なし崩しにヘスティアの借金を聞いてしまったのだ。
「ヘスティアの借金返済の手助けをしたい?」
急いでヘファイストスに確認しにいくと、その額二億ヴァリス。提案は断られるが、ルインは諦めなかった。
「ヘスティア様に拾ってもらった恩、弱く死にかけた僕の為に悲しみを与えたのに、許していただいた恩を返せていません」
頑なに意志を曲げない様子を見て、そっくりな主神と姿が被り、思わず微笑んでしまう。仕方なく、ヘスティアに内緒にすること。完済してもルインがいる間はバイトを続けさせることを条件に了承した。
それ以来、必要な費用を除いた金額を必ず渡しに行くのが、ルインの楽しみにもなっていた。
ある日ルインが、ダンジョンに向かっていると、偶然にもベルと出会う。せっかくだからとベルの要望もあり、二階層まで一緒に潜ることになった。ベルと契約していると言うサポーターの少女と合流した。
ルインは、ベルの戦いぶりを見て驚きが隠せなかった。勿論、到達階層の違いからベルの強さは理解していた。しかし、複数体の戦闘でルインが一体を倒し切る前にベルは残りを倒し終えていた。ベルが努力しているのを知っている為、自分の努力不足に思わず悔しくなる。ある程度してからベルと別れ、一人で探索するが、集中できていないと感じ、早めに切り上げることにした。日課をこなした後、ホームに帰らずにある場所へ寄ることにした。
タケミカヅチファミリア。極東出身者からなる探索系ファミリアで、主神タケミカヅチは武神としても有名である。ヘスティアと交友のある神でもあった。
「すみません!タケミカヅチ様はいらっしゃいますか?」
出てきた女性団員に、所属と面会を希望する旨を伝えて案内される。
「ヘスティアの子か。聞いてた背格好からルインと言ったか。今日は何用か?」
「はい。タケミカヅチ様を名だたる武神とお見受けしましてお頼み申し上げます。僕に剣を教えてください」
ヘスティアから聞いた、奥義土下座を行う。
「ふむ、ヘスティアは知っているのか?」
「いえ、ヘスティア様にお伝えしていません。ですが、今の僕ではヘスティア様をお守りできません。お守りする為ならなんでもする所存です」
タケミカヅチの問いに、ルインは一つ一つ真剣に答える。その様子をタケミカヅチは、一切目を離さず、見つめる。
「よし、では、俺が教えるにたるか。まずは、実力を見させてもらおう」
タケミカヅチは木刀を一つ、ルインに投げ渡し、構える。ルインは受け取ると構え、打ち込む。タケミカヅチは簡単に受けながらルインの動きに注視していた。
おそらく今まで両刃の剣を使っていたから、木刀は初めてと見る。しかし、扱い方はかなり上手い。剣術の腕は基礎は出来ているようだが……。
タケミカヅチは突然木刀を納める。ルインも同じく続き、言葉を待つ。
「わかった。剣の指導を認める。明日からここに来てくれ」
タケミカヅチに深々とお礼をし、ホームへと戻って行った。
その日からルインの一日は忙しくなった。朝早くからダンジョンに潜り、ヘファイストスファミリアに顔を出しては、稽古に向かう。たまたま、ミアハに出会い、ポーションを貰ったことから、青の薬舗の手伝いが加わる日もある。
そんな日常をこなしていく内にヘスティアが爆発した。
「みんな、聞いてくれよ!ルイン君が全く家にいてくれないんだ!会うのも寝る前のステータス更新の時ぐらいで、ボクは寂しいよ」
とある酒場に、ヘスティアは神友達を集め、愚痴を吐き出す。突然叫ばれたことに驚きながら、ヘファイストス、タケミカヅチ、ミアハはヘスティアから目線を逸らす。
「なんで、そこで目線を逸らすんだい!」
「ルインはよくファミリアに来てくれるのよ、それで私はよく会ってるから」
「ルインには剣の稽古をつけてやってな。ほぼ毎日」
「なに、たまに薬舗の手伝いをしてくれてな。ヘスティアよ、良い子を持ったな」
ヘスティアは、衝撃を受ける。まさか、悩みの原因が、相談相手だったとは。
「なんで、ボクよりルイン君に会ってるんだ!?ルイン君はボクのだ!いくら神友とはいえ渡さないからな!」
「ヘスティア。ルインは、今ファミリアの為に頑張っているんだ。そこは主神らしくドンと構えてやれ」
「そうよ、大体あなたがグータラしてるから、しっかり者のあの子が無理をしてるんじゃないの?」
「ヘスティアよ、そなたの子が何をしているのかわかっただけでも、心配は減るだろう?」
ルインの頑張りの理由を知る二人は、濁しながらヘスティアに伝える。ミアハの提案に渋々ながら納得を見せる。
「それで、これを聞かせる為にわざわざ私達を呼んだの?こう見えて結構忙しいのよ」
「実は、ルイン君のことでもう一つあるんだ。この前、ルイン君にスキルが発現したんだ」
「あら、おめでとう。でも、いくら神友でも子どものステータスの話をするのはよくないわ」
「勿論、わかっているよ。だけど、そのスキルの意味が全く分からなくて。ルイン君には悪いけど君達の意見が聞きたいんだ」
ヘスティアはそう言うと、一枚の紙を取り出す。それは、アビリティ欄を消したルインのステータスだった。
【竈神献身】
・主神より愛を受け、それに報いる程、経験値がチャージされる。
・裏切られることにより経験値が増幅し開放される。
・主神への敬愛がある限り続く。
「スキル名だけ見たら、ただの惚気にしか見えないけど、よくわからないわね。ステータスを更新はしてるんでしょう?何か違いはないの?」
「うん。これが発現してから、何度更新しても一つも上がらなくなった。寧ろ、最近だと減ってきてるんだ」
その発言に、全員が目を見開く。今まで経験値に補正されるスキルは確認されていない。それなのに、神々のファルナに干渉するスキルがあるとは、確認した後だとしても信じられない。
「しかし、昨日の稽古ではステータスの低下は感じなかったぞ」
「ボクも下がり始めてからそれとなく聞いたけど、ルイン君は気付いていないみたいだったよ」
「そうか、俺がわかる範囲で何かあったら報告しよう」
現状の把握するにも情報が少なすぎる。稽古を通してルインの能力を知ることが出来るタケミカヅチに任せるしかなかった。タケミカヅチもそれとなく理由を付けて、一人で探索をさせないように眷族を同行させると宣言し、結論の出ないまま、神々の飲み会は解散することになった。
本来ならヘスティアもレアスキルを相談することはないですが、デメリットの可能性を感じたら、先達の中で善性の高い神友への相談は躊躇しないはず。