「ドクター、スターゲイジーパイは…………美味しくはないね」
「マジで食わなくてよかったのに」
コイツマジで食べてしまった。いや、そんな言い方すると作ってくれた人に失礼だとは思うんだけどさ、でもやっぱ「……本当に食べてしまったのか?」とか言いたくもなる。見た目が料理舐めてると思うぞ、流石に。
ちなみにモスティマは食べてる最中は多分顔色は殆ど変えずに食べてた…………俺? 麻婆豆腐で案の定胃を刺激してヤバい感じになってましたね。でも食べるよ、飯は飯だ。
味は確かなんだが、無理がたたって中々難航はしてしまった。今も背中を擦られている。
「ドクターこそ、医者なのに無理をするものじゃないよ。君がお手本にならないと、周りもついてこれない」
「人は時には代償を超えた利益を求めるものだろ…………?」
「難しく言ってるけど、胃の調子が悪い時に麻婆豆腐食べただけでしょ」
仰るとおりでございます。でも麻婆豆腐食べたかったんだもん。
ぷるぷる震えた手でなんとかかんとか食器を持っていく。モスティマは代理を提案してくれたが、俺はあくまで俺に出来ることは俺がやる。自立を目指すことが自立への第一歩だ、実際俺はロドスにもオペレーターにもおんぶにだっこだから此処はきっちりしたい。
「えらいえらい」
「頭を撫でるな、一部の一般オペレーターの殺意の視線が凄いんだわ。ほら今もペンライトのモールス信号で”おまえをころす”って出されてる」
「…………ふーん。嫌がるなら辞めておくよ」
慣れてないと気づかない程度の気の落ち込み方をするの辞めてくれ。笑顔がちょっぴり淋しげとかそういうのに俺は極端に弱いんだ、オロオロするだろうが!
分かっている、どうにもならないと。
が、気になるだろ俺だって男の子だぞ! いや成人してるけど! でも女が泣いてると俺も胸がキュッとなるだろ人間だからな!
しかし俺から申し出ようものなら、モールス信号を送ってきた若き青年は今すぐフォークを俺のバイザーの隙間に打ち込んで失明を狙ってくる気がしてならない。嫌だよ、なんとかしたいですよね。
「そんな事より、飯食いに行くんだっけ? それなら今週の土が空いてる、そこでどうだ?」
よし機嫌が戻った! 上手く話せたな!
「結構近い日付だね。炎国には着いてたっけ?」
「俺の記憶が正しければ着いてる」
「そんなきっちり覚えてるの?」
ちょっと感心した風な様子を見せたが、というかそりゃあ覚えてる。ドクターって言っても俺はロドスでは結構な位の存在なのは間違いじゃない。
つまり覚えてないと人権がない、ケルシーにはつっけんどんに怒られるしアーミヤには言いづらそうと見せかけてきっちり怒られる。まあ居候みたいな感覚だから、仕事はしようと思ってるし、勿論覚えてるんだけどさ。
「覚えてないとクビを切られる。それでどうだ」
「うん、じゃあその日付にしよう」
モスティマはこく、と一度だけ頷いてみせた。
俺は何というか、その承諾にすがりつくような気分になった。全くもって要らない世話と知っての邪推だが、俺に関心を向けている時のモスティマは、まだ比較的情緒らしきものを見せていると感じ取れる。
それが好意か、好奇心か、お遊びなのかは知らない。というかどれでも関係はない。
誰だって、幸せな方が基本は良い。モスティマでも、そうじゃなくても、言うまでもなく俺だって。気兼ねなく気持ちを見せれる相手も居ないのは、あんまりにも酷な罰だ。
「しかしロドスってのは凄いところだ。こんな優秀で美人なガイドを無料で引き連れられるんだから、いやはや…………」
「…………それはロドスというか」
「というか?」
「何でも無い」
は? 滅茶苦茶気になるのだが…………。すぐそういうことしてドクターで遊ぶの辞めて欲しい。
ぼやぼや言いながら執務室にちゃっちゃと戻ってしまおう、と足を滑らせていると。ふと、上着の裾を引かれて軽くつんのめる。いやそんな強い力では引かれてなかったんだけど、この身体超非力でして。
何だ何だと俺が振り向くと、モスティマも釣られて振り向いた。映るのは赤と黒を貴重としたクールなファッションのヴァルポ。
フロストリーフだ。
「おーフロストリーフ。どした?」
「ちょっと話があってな、仕事終わりにでもと思ったが…………偶々タイミングが良かった」
あ、嫌な予感する。フロストリーフの真顔から俺は凄くヤバい気配を今感じ取った。
モスティマはニコニコしてるけど俺のバイザーの奥は僅かな冷や汗で滲んでた。こう言うとキモオタっぽくて気持ち悪いが、実際そこまで顔は悪くないから安心して欲しい。
「ドクターは確か土曜日が空いていただろう? 炎国には面白い楽器店が有ると聞いたから、一緒に行かないか?」
ほら来た。ハーレムあるある。
予定のバッティング。
「あー、その日はだな…………モスティマと、飯食いに行く訳でだな…………」
「…………そうだったか。いや、すまなかった。急な話だからな、そういう事なら」
仕方ないって顔してないよ君。モスティマ以上にわかりやすくしょんぼりしてると思う。
フロストリーフは何やら俺に妙に懐いているらしく、こうやってよく分からない誘いをすることが結構な頻度である。どんな意図があるかって? 明言されてないから俺には何とも。
彼女は少年兵であり、身寄りらしい身寄りも今の所釈然としない。金で動く傭兵であり、組織から流れてきて居着いた、なんて冷たい言い方をしてもそれほど間違っていない。
俺が父なのか、兄なのか、友達なのか、意中の男なのか。こればかりは「謎にモテる」と自称する俺も、安易に決められない。見た目よりセンシティブな問題になるというのが正しいか。
彼女の感情は、多分纏めてはいけない。
「ドクター。別に私はまた今度でいいし、この娘に付き合ってあげたら?」
お前はすぐ気を遣うなモスティマ。美徳では有るが俺は使われると辛い…………。
「いや、お前との約束も――――」
フロストリーフの視線が滅茶苦茶痛かった。ごめん、もしかしてそれは自覚がない? それは尚の事問題だ、俺は放置できなくなってきた。
何処と無く縋るような、でも我儘は言えないな、みたいな。勝手に推し量りすぎるのも何だが、こればっかりはそうだろうと思う。俺は確かに色々察しが悪いが、これは分かる。
流石にこれを放置するのは…………アレすぎる。
このタイミングでモスティマが耳打ちしてくる。
「気にしてるんでしょ? ほんと、偶々気が向いただけだし気にしなくていいよ」
やめろやめろやめろ~~~~~~!!!!!! そうやって遠慮を重ねてお前は潰れるんだぞ分かってんのかおい! いつもみたいな笑顔を見せるな、逆に不安になる!
――――しょうがねえか。
ぷつっと。何か線が切れた感じがした、具体的には俺の休日死亡のお知らせと言っても良い。
世間で言う所のヤケクソとも言う、優柔不断極まりないと笑うが良い。俺の人生は一生このまま終わってやるから見てろよ。
「…………しょうがねえな。午前はフロストリーフと楽器、見て回ろう」
「……いいのか?」
「良いぞ」
ただし。
小さくため息を付いたモスティマが、少し眉をひそめた。
「午後はモスティマだ。休日がぶっ飛ぶから、楽しませてくれよ? 日曜は日曜でなんか色々控えててな…………」
「いや、ドクター。流石に身体が保たないんじゃない?」
「それを無限に言われて此処まで来てるから気にするな、俺は長男だから耐えられる」
勿論長男じゃなくても耐えてみせる。
モスティマが呆気にとられた顔で此方を見ている。半分バカを見る目つきになってきた、そうだよ俺はバカだよ悪いか。
医者がトリアージも出来ずにどうするんだってケルシーにはこっ酷く言われるだろうが、俺はこういう事例に関しては堂々とこう答えることに決めてる。
『
安っぽい理想論? 結構、ロドスアイランドは表面上はそういうもので出来ている。
とはいえ後でめっちゃ体に来るだろうなこれ…………でもしょうがないよな。俺は選べないから選びたくない。
「本気?」
「俺は下手な冗談はあんまり言わない」
「次の日どうなっても知らないよ?」
「構わない」
「…………はぁ」
大きな溜息、が割と嫌そうな顔はしていない。まあ世の中のハーレムはこういうバカさ加減に惚れ込む女が多いらしい。
別にそんな事はどうでも良い。要望を言わない女の要望と、頼り方が下手な少女のちっぽけなお願い。どっちも捨ててはならない、そりゃあそうだろ。
視線だけで俺の言わんとすることが見えたのだろう、モスティマは心底。珍しく完璧に呆れたらしきヘナっとした笑顔を零して、口元を手で隠す。
「君は、本当にバカだね」
「まあお前がクソ美味い飯をガイドできれば採算取れる予定だから! 後フロストリーフもどうせならしっかり吟味してけよ、モスティマの飯とか幾らずれ込んでも死ぬことはない!」
「あ、ああ…………それを本人の前で言うのか。ドクターらしいと言えば、まあそうだが」
モスティマは我慢ならんと言わんばかりに腹を抱えてクスクス、クスクスと笑う。
涙も出ていた。
ぼそっと一言、言われた。
「あーあ。本当にバカだ、バーカ」
Mに目覚めた。
くどい主人公だからアクが強い気はする、でも迷う男が迷わない為に行動するやつ、結構好きなんですよね。