潰し合え、最後の一人まで。

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盛大に続かない


平凡

俺は平凡で取るに足りない。

成績も普通で、運動も特段得意と言うわけでもない。

そんな俺にとって唯一誇れることと言えば、それは.....。

 

「おはよう、始。」

 

「...おはよう、蓮」

 

この男、蝶番蓮と幼馴染で友人関係であるということだ。

彼は中性的な見た目で女子から可愛いと受けが良いルックスでありながら、運動も勉強も何でもこなすヤバい男だ。

そしてそんな彼は俺とは違って、何人もの少女達からアプローチを受けており、ファンクラブまであるのだ。

まるで主人公のようだと思わせられ、この世には生まれ持った格差なるものが存在することを俺は確信させられた。

そんな彼に宿題やらなにやらお世話になっているのだが。

 

「どうかしたの?難しい顔しているけど。」

 

すると急に彼が俺の顔を覗き込む。

男とは思えないほど整った目鼻立ち。

その目に射貫かれて咄嗟に視線を外した。

おいおい、男相手だぞ。

 

「な、なんでもない。大した事じゃないから。」

 

そう言うと彼は心配そうにこちらを見つめてきた。

 

「そ、そう?でも何かあったら言ってね。僕、何か力になるかra....。」

 

「せーんぱいっ!何つまんねぇ顔してるんすかぁ?」

 

蓮に意識を向けていると背後から誰かにぶつかられる。

後ろを振り返ると赤毛の少女が快活な笑顔を浮かべている。

自分達の一年下の学年。

陸上部に所属している高峰麻音。

ボーイッシュでありながら、つかみどころのない不思議な魅力を持つ美少女。

しかしそうであるにも拘らず、人懐っこくてパーソナルエリアという概念がないのか、こんな俺にもこんなスキンシップをしてくる。

しかし、別に俺は声を上ずらせることも、特に気にすることもなく答える。

 

「あ、いやなんでもない。おはよう高峰さん。」

 

「おはようっす!あっ、蓮パイセンもおはようございまーす!」

 

「あ、おはよう。麻音。」

 

麻音は俺と蓮の間に入ると、蓮の腕に腕を絡めて肩を寄せる。

すると今度は後ろから一人の少女が歩み寄ってくる。

 

「おはよう。蓮、麻音。そして小鳥遊君。」

 

「あっ、飾利先輩。お、おはようございます。」

 

「飾利ぱいせん、ちっーす!」

 

「う、うっす。」

 

濡れ羽色の綺麗な黒髪に、切れ長の目。

どことなく気品さすら感じさせる佇まいの少女、祁答院飾利。

どうやらどこぞの名家の生まれらしい。

麻音と同じくファンクラブなるものが存在するほど人気が高い深窓の令嬢。

 

そんな彼女は俺たちに挨拶をすると、蓮の左隣に並ぶ。

そして思い思いに蓮に話を振っていく。

蓮は左右から話を振られて少し大変そうだ。

対して俺は話に入っていく事も出来ずに少し孤立気味になる。

 

そう、蓮はこの二人だけでなく、学校でも人気の高い女子たちに好かれている。

さながらハーレム主人公のように。

二人だって悪い子ではない。

高峰は同じ部活の後輩で、よくタイム短縮の相談に乗るし、祁答院先輩の同じ委員会でよくしてもらっている。

ただ...蓮のことになると少し周りが見えなくなるらしい。

アレ?俺は....ここには居ないのか?

 

「あっ、そうだ!蓮パイセン借りてもいいっすかぁ?少し話があるんすよ!」

 

「そうね。個人的な話が、ね。」

 

すると二人が急にそんなことを言いだす。

どうやら二人は蓮をどこかへ連れ出そうとしているようだ。

 

「い、いやでも僕は今、始と一緒に登校しているわけだし.....」

 

申し訳なさそうにこちらを見る蓮。

どうやら気を遣わせてしまっているらしい。

 

俺は敢えて明るく努めてこう言った。

 

「何言ってんだよ。ファンクラブがあるような美少女の誘いだぜ?俺なんか置いて行っとけって。てか行かないと許さんからな!こんなうらやま展開、逃すなんか!!」

 

「あ、あはは....始は相変わらずだね。分かったよ....またあとでね。」

 

苦笑いを浮かべる蓮。

そして二人に連れられて特別棟の方向へ足を向ける。

これでいい。

彼女たちはきっと俺が連の友人だからよくしてくれるのだ。

高峰にも祁答院先輩にも休みの日に蓮と何をしているか聞かれる。

蓮が居なければ、俺は彼女たちのような美少女と話しをすることもなかったであろう。

そう考えれば彼の幼馴染だということが、俺にとっての最大のアドバンテージなのだ。

....だから別に嫉妬なんかしていない。

 

「あっ、そうだ!せんぱい、今日もタイムの相談お願いしま~す!」

 

「分かった!」

 

振り向きざまにそう言う高峰に手を振る。

そして三人はそのまま特別棟の中へと入っていった。

....教室に行くか。

 

俺は一人で教室へと入る。

そして一人、窓際の前から4番目の席に座る。

後ろの最後尾には蓮が居るのだが、今はあの二人と何やら話していて居ない。

完全に一人の時間だった。

 

視界の隅でこそこそと女子が話しているのが見えた。

 

「今日、委員長休みらしいよ。」

 

「えぇまたぁ?委員長が1週間来てないよ?」

 

「なんか実は消息不明になっているらしいくて....」

 

委員長、休みなのか。

真面目を絵に書いたような少女、浅香凛。

彼女も彼女で蓮に執心の美少女の一人だったはず。

そんな彼女が無断欠席してから一週間経っていた。

 

(蓮も心配だろうな....)

 

今もどうせ少女二人といちゃいちゃしている幼馴染に思いを馳せつつ、HRが始まるまで寝ることにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ここでいいわね。」

 

飾利がそう言うと彼女達は空き教室に入る。

すると蓮がおもむろに口を開いた。

 

「....邪魔するの、やめてくれるかな。」

 

蓮はそう言って二人を睨む。

するとそんな蓮に麻音は答えた。

 

「なぁに言ってるんすかねぇ?私はただ先輩が男装変態女と一緒に登校するなんて可哀想だなぁと思っただけっすよ?いい加減性別隠して先輩に近づくの、やめてもらっていいっすかね?」

 

麻音はあくまで笑顔でそう返答する。

すると飾利も口を開く。

 

「そうね、幼馴染なんだからそこまでする必要ないじゃない。どれだけ必死なのあなたは?浅ましいわ。」

 

飾利は麻音とは違って冷淡な目で蓮を睨み付ける。

すると蓮は溜息を吐く。

 

「はぁ....面倒くさいなぁ。負け犬は。お前らは幼馴染になれなかった時点で負けているんだから黙って見てろよ。」

 

そう言う蓮の表情には始が居た時のような気の弱そうな様子はどこへやらまるで刃のように鋭い眼光と、目の前の相手を嘲笑するかのように歪んだ笑みが浮かんでいる。

 

「うわぁぁ....猫被り激しくってちょっと引くっす。男装趣味やらなにやら不快指数高めっすね。なんすか?前世ゴキブリだったりするんすか?」

 

「...家のしきたりでね。許嫁の男幼馴染として学生時代から献身的にサポートして、高校を卒業する辺りで娶る。彼も同性の、親友が居るなら嬉しいだろうし。...つまりさ、最初っからアンタらの入る隙間なんかないわけ、分かる?」

 

そう言うと飾利は返答する。

 

「だから今、私達はここに呼んでるんじゃない。」

 

そう言って懐からカードを出す。

タロットカードのような意匠であるものの、表面は金でコーティングされている。

それに呼応するかのように麻音もカードを出した。

 

「勝ち馬には早々に消えてもらうっす。アンタ、目障りだから。」

 

そんな二人を見て重たく口を開く蓮。

 

「....へぇ、二人は組んだんだ。でもいいの?組むってことは裏切られるリスクがあるってことだけど。」

 

「それよりもあなたを潰しておくメリットの方が大きいと思ったのよ。」

 

「一人一人じゃ勝ち目が薄いっすからね。幼馴染って要素しかない女にここまでしなきゃいけないのは悔しいっすけど。」

 

そう言う二人を見て呆れて嘆息する。

 

「いつもいつもこういう手合いは....一人で来た浅香の方がまだ見どころがある。じゃ、さっさと終わらせるから。ちょうど僕も、始の周りでうろちょろされるのうざかったしね。」

 

そう言って彼女もカードを出す。

 

(彼は幼馴染に嫉妬と共に親しみを持っている。だからこそ奴を消して彼を慰めればそれだけで彼の心の中を私が大きく占めるはず。)

 

(今日中に倒して、明日から私が先輩と登校するっす!楽しみっすね!!)

 

(しつこいなぁ....無駄だって何で分からないんだろう。....私と彼はもう結婚したような物だし、入る隙間なんかないのに。....身の程を分からせてやらないとだめだよね。彼の幼馴染として生まれていない時点でコイツら雑魚だもん。負けるはず...ない。)

 

そして各々の思惑渦巻く中、三人は声を合わせる。

 

「隣界起動:『The high priestess』」

 

「隣界起動!:『The Fool』っす!」

 

「隣界、起動:『The Emperor』」

 

その声と共に、空間がねじ曲がり三人は虚空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後

 

「...結局あいつら来なかったけどどうしたんだろ?...ん?」

 

机の中を教科書を鞄に入れていると何かが手に当たる。

それを手に取って見てみると、それはカードのようなものだった。

 

「...なんだこりゃ。タロットカード?」

 

全体が金色にコーティングされており、表面にはNo,16と書かれている。

そして壊れる塔のようなデザインの絵柄が乗っていた。

 

こんなものは覚えがない。

誰かの私物だろうか?

オカルト研究会の人たちの物なのかもしれない。

だが、正直もう帰りたいのも事実だった。

 

「...とりあえず忘れ物ボックスに入れておくか。俺のじゃないし。」

 

そう言って始は職員室へと向かい、忘れ物ボックスにその私物を入れたのだった。

 




アルカナの性質など登場人物の設定に重ねて考えました。
ヤンデレがアルカナイツっていうカードを使って潰し合い、最後に1人残って最初の視点である男と結ばれようとする感じの小説です。
ヤンデレ同士が争う小説が書いてみたかった。

今の所、導入で満足しちゃったので書く予定はないです。
気が向いたら手を付けるくらいでオナシャス!!


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