心理学部のサイコパス   作:心理学部のサイコパス

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バイタリティサイコパス

どうもサイコです。

某大学のサイコパスしかいない心理学ゼミに通っております。

 

今日は朝早くからゼミ室に来て、この前取った予備調査の結果を考察しようと考えています。

 

「おはよーございまーす……って誰もいないか。」

 

警備員の方がくる時間に一緒に入れてもらったので誰もいないことは確かなのですが、ゼミ室に入る時はどうしても挨拶してしまいます。少し恥ずかしいですけれど、治す気はありません。

 

別に誰にも迷惑かけてませんし、それに──

 

「ああああああああぁぁぁ!!死ねゴミクズがァ!!」

 

「に゛ゃっ!?」

 

こういうことが珍しくないので。

 

ゼミ室の隣にある仮眠室から怒号が聞こえてきました。びっくりしすぎて「なっ!?」と「ぎゃあ!」の間みたいな声が漏れました。

 

「クソっ、クソっ!!なんで消えねぇんだよウジムシがァ!!」

 

「あー、びっくりした。さてと、考察しよ。」

 

触らぬ神に祟りなし。焦って変な声が出たけれどもどうせやつは仮眠室から出てこない。

 

そう考えて静かに考察を始めます。

しかし、やつには私の変な声が聞こえていたようです。

 

「サイコ!今声が聞こえたぞ!来てるな!自分の研究が昨日、老師に却下されたんだがな、見れば見るほど問題だらけなんだ。一晩考えても全く改善しない。手伝ってくれ。」

 

仮眠室のドアを乱暴に蹴り開けて中から飛び出してきたのはウチのゼミきっての体力バカ、バイタリティサイコパスことバイコです。

 

このバカはよくゼミの仮眠室で実験デザインを考えています。

大学は泊まり込みなど禁止されており、警備員さんも見回りをしてから施錠をするのですが、バイコは優れた隠密能力と体力でゼミ室に泊まり込んで3徹したことがあります。

 

まぁ、4徹前にぶっ倒れてお師匠の手で病院に担ぎ込まれたのですが。

 

「うるさいよバイコ。この前お師匠に説教されて老師にもお灸を据えられたのになんでまだ泊まり込んでる?」

 

「なぁに、2徹まではセーフだ。3徹したら怒られたからちゃんと考えてっぞ?それよりも実験デザインだ。見ろこいつらを!」

 

 

─────────────────────

研究計画

目的:就職活動時の服装が印象に与える影響の調査

方法:質問紙法を用いて行う

   刺激には性別・スーツの種類・スーツの色味・

   シャツの色・シャツの種類・ネクタイの色

   合計6要因を用いる

   実験は参加者間計画で行う。

─────────────────────

 

 

「……へぇ。」

 

「だろう?」

 

「いや、何も言ってないけど?」

 

「サイコ、お前の言わんとするところは分かるぞ。自分の研究計画が素晴らしいんだろう?感嘆のため息が自分には聞こえた。」

 

耳鼻科行ってこい。

 

そう言いかけて飲み込んだ私を誰か褒めてください。

え?言いたいことを言うことと言わなければならないことを言うことの違いを知るのが大人への第一歩?

手厳しいですね。

 

「とりあえず、バイコが問題にしてる所が分からん。説明して。」

 

「計画が素晴らしすぎてか?」

 

「呆れてるんだよバカ。とっとと主訴を話せ。」

 

ポジコのやつと比べればちゃんと心理学の研究の形はしてるけど、ポジコとは別方向の問題がありすぎてどこから手をつけたらいいか分かりません。

 

なので、とりあえず本人が問題視しているところ、臨床心理のカウンセリングで言うところの主訴から解説していきます。

 

「呆れる点がどこにある?……まぁいい。とりあえず、だ。自分が問題視しているところは剰余変数だ。」

 

「なるほどそこからか。」

 

心理学の世界─というか科学の世界と言っても良いかもしれませんが─では、何かしら調べたいことに影響するであろう要因の中で、調べたいものを独立変数として実験デザインに組み込みます。

そして、その独立変数によって変化するであろうもののことを従属変数といいます。

 

実験デザインを説明する時に秀逸なデザインである、西日本と東日本でのパンの売れ行きを例に説明しましょう。パン野憂之くんは秀逸です。

【地域によってパンの厚みの売れ行きが変わる】と言うことを調べたいとします。前のネガコに説明した時と同じですね。これを調べる時に影響しているであろうもの、すなわち【地域】は独立変数なわけです。

 

では従属変数は?

簡単ですね。パンの売れ行きです。どの厚みが何枚売れたか、というのが従属変数に当たります。

 

しかしながらしかして、パンの売れ行きに影響を与えるのは独立変数の【地域】だけでしょうか?

 

違いますね。

例を挙げて説明しましょう。

 

例えば西日本と東日本のパンの厚みの売れ行きを調べるのに東京と大阪を代表に選んだとしましょう。

 

時は進んでいざ調査の日。

その日、東京ではちょうどフレンチトーストを崇める日でした。厚みのあるパンを卵と砂糖を溶かしたものに漬けてフライパンで焼き上げる。

東京都民全員でフレンチトーストを崇め奉り、3食全てにフレンチトースト、フレンチトーストを大人は一人10枚、子供は一人3枚食べるのが決まりで守れなかった人には厳しい罰が与えられる。

そんなイカれt……失礼、最高にクール(クレイジー)な日があったとしましょう。

 

同日大阪。

大阪ではちょうどサンドウィッチを崇める日でした。

サンドウィッチ伯爵が考案した、薄くスライスした食パンに具材を挟み、手を汚さずに軽食を取れるという当時は画期的と言われた食事形態。

大阪府民全員が3食全てにサンドウィッチを食べ、おやつにはフルーツサンド。見ていい番組はサンドウィッチマンが出ている番組だけという規則があり、守れなかった人には厳しい罰が与えられる。

そんな頭のおかs……失礼、悪い意味でぶっ飛んだ日があったとしましょう。

 

調査が終わり、集計し、結果が出ました。

結果は、東日本では厚みのあるパンほど多く売れ、西日本では厚みのないパンほど多く売れていました。

 

さてここで問題です。この調査は正しいものであると言えるでしょうか?

そうですね、言えません。たまたまそんな変な日に調査を行っただけで実際のところは違いそうなものですよね。

 

このように、独立変数以外で従属変数に影響を与えうる変数のことを剰余変数と言います。研究者はできる限りこの変数を無くして調査を行います。

 

できる限り、と言う理由としては、完全に剰余変数を無くしてしまうことは不可能だからです。

心理学で完全に剰余変数を無くしてしまおうとすると、調査前に実験参加者全員が同じものを食べ、同じものを見て、同じことを思い、同じことを考えている必要があります。

 

そんなことはできません。できたとしても倫理的にどうでしょうか?

薬品(アドレナリン)注射も(倫理委員会によって)できないこんな学問じゃ〜♪POISO……なんでもないです。

 

「で?いま想定してる剰余変数は?」

 

「スーツとシャツの色だ。ブランドによって微妙に色が違うからな。用意してもらったとしてそれが全部おなじブランドって保証はない。それから人物の顔だ。顔によって印象もかなり変わってくるだろう。加えてネクタイの柄も関係する。そもそも女子はネクタイつけるのか?リボンは?サイコ、そこんとこどうなんだ?」

 

ふむ、思ってたより少ないな。

 

私としてはもっと多くの剰余変数が思いついたので、正直バイコの問題にしてる剰余変数が、それだけ?と思うものばかりで少し困惑しています。

バイコは体力バカなだけで頭は悪くないので。

 

しかし、その剰余変数を教えるようなことはしません。もしかしたら彼なりに対策し終えた変数かもしれませんし、何より無駄なので。

 

「女性はネクタイとかリボンつけないのがオーソドックスなはず。スーツはこっちが同じブランドのを用意して、モデルに来てもらうとかして統制するしかないんじゃない?顔は提示刺激にもよるでしょ。全身像なら黒塗りもありじゃないかとは思うけど、バストアップなら顔を黒塗りしたら変になるし。」

 

「なるほど……全く思いつかなかった……」

 

「徹夜するからだ。夜と朝抜いたでしょ?エネルギー無しでハイパワー出し続けられるほど脳みそくんは優秀じゃないよ。あの子大食いだし。」

 

「しかしだな!スーツを用意する金はどこにある?レンタルにしてもシャツをいくつかとスーツ数着用意するにはかなりかかるぞ?」

 

綺麗に話を締めて次のダメ出しに移ろうとした時、バイコがそう聞いてきました。

人の話を聞かずにぶち込んでくるのはめんどくさいけど解決は簡単な話です。

 

「その心配はいらない。その研究は絶対にやらないから。」

 

「なん……だと……!?」

 

まず、お前の前提条件がおかしいんだよ

 

そう言いかけたけど飲み込んだ私を誰か褒めてください。

 

「まず、バイコの実験計画がひたすらにおかしい。詰め込みすぎだよ。」

 

「……?というと?」

 

「6要因分散分析はない。できないことはないけど間違いなく分析でオワオワリ。交互作用の解釈がエグいことになるよ。」

 

交互作用とは要因が2つ以上ある時に、1つでは影響が起こらないけど、いくつかの要因の組み合わせで影響が起こる時の要因同士の作用のことです。

 

例えば食パンの例で、地域という独立変数の他に時間帯という独立変数を設定したとすると、西日本では厚みのあるパンがよく売れるけど、西日本の朝、という限定的な条件では薄いパンの方が売れる、といった結果になった時には地域の時間帯の交互作用が見られた、となるわけですね。

これが2要因分散分析の交互作用の説明です。

 

ではその要因が6つあったら?

 

ある影響が起こったとして、

それがスーツの種類とスーツの色によるものなのか、

スーツの種類とシャツの色によるものなのか、

スーツの種類とネクタイの色によるものなのか、

はたまたスーツの種類とスーツの色とシャツの色とネクタイの色によるものなのか、

全部の因子が影響しているのか……

 

組み合わせを言っていくとキリがありません。その影響全部を検討するのは無理です。いくら数値で出るといっても読みとけなければ意味が無いですし、解釈の仕方でどうとでも取れる可能性も高くなってきます。

 

そんな実験はやるだけ無駄です。

 

「なるほど……けど、限定的な実験をしても意味が無いだろ!?」

 

「要因を減らせと言っている。あらかじめどのスーツの種類がいい印象を持たれるのか、どのシャツの種類がいい印象を持たれるのか、それを調査して要因を減らしてからやれって言ってるんだよ、私は。」

 

「その手があったか!ならさっそく研究計画を作r」

 

「という実験を行ったのがこちらの研究になります。こちらは男性に限った研究です。女性に限った研究はこちらです。」

 

「クズどもがァァァァァァ!!」

 

「他にもいろいろあるからJーstageで【スーツ 印象形成】とかで検索かけるといいと思う」

 

「ヾノ。ÒдÓ)ノシ ウソダァッ!!」

 

印象の研究はかなりやり尽くされています。私は認知心理学とか社会心理学に興味を持ってるからそのあたり詳しいんだけど、論文をかなり読み漁らないと研究はできない。

 

「やりたい研究がもうやられてる」ってのが一つあるのと、「先行研究を参考にしないと他の人にツッコまれる」ってのが一つ。

 

私含む、大学で2、3年勉強しただけの初心者が自力でやった研究なんてツッコミどころだらけですしね。

 

「そういうこと言わないの。ほら、徹夜したなら寝ないと。またお師匠に怒られるよ?」

 

「くっそ、別の研究計画今から立てるのかよ!老師が「本当にこれをやるの?ちゃんと調べた?」って聞いてきた意味がやっとわかったわ!」

 

「聞いてる?」

 

「あぁ、ちゃんと聞いてる。まずは図書館だな。」

 

「聞いちゃいないよこの人。」

 

研究をするならあふれる好奇心というのは必要なものです。

それが行き過ぎてこのように自分の体を酷使するようでは、いつの間にか身も心も擦り切れてしまいます。

 

それを平気でやっていける体力をつけたこのバカは、間違いなくバイタリティサイコパスと呼ぶにふさわしいのでしょう。

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