リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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第10話

「ポムフィオーレに勝ったと思ったら、次がディアソムニアってどういうことだ」

「それについては、すまないと思っているよ」

「リドルのくじ運を恨むことになるとは……」

「いやでも、サバナクローとあたるのも嫌では?」

「むしろ、サバナクローとあたった方が借りを返せたじゃん」

「それだわ」

「くっそ~~~~~、トレイ先輩の仇が~~~~~」

 

 寮対抗マジカルシフト大会一回戦終了後、ハーツラビュル寮選抜選手陣は控え室にて思い思いに過ごしていた。

 一回戦の相手はポムフィオーレ寮。美しいことにこだわる彼らは、メイク直しのためにタイムアウトを取るもので、こちら側としてはモチベーションの維持が大変だったよ。まあ、三年生は慣れていたし、二年生は去年の試合を見ていたこともあるので対応はできていた。問題は一年生だったんだが、この試合に勝ったらバーベキューでもしようかと提案したらやる気を出していたので問題はなかったようだ。うん、殺る気と食い気。さすがは成長期だね。

 

「しかし、ポムフィオーレに勝てて良かったな」

「アイツら、美しいことにこだわり持っててキラキラシャラシャラ、効果音やらエフェクトついて見えるけど、実際ゴリラだもんなあ」

「それな」

「軽率に白手袋投げてくるけど、もしや脳筋では? っていう疑惑が凄い」

「まあ、美しいと感じるものは個人で違うからな~」

「美しさを維持するためには筋肉が必要」

「ちなみにリドルは、何を美しいと感じる?」

ボク(わたし)かい……? そうだね。極東の国の”カタナ”という武器だね。見て良し、飾って良し、使って良し。見た目だけではなく、その在り方まで美しいと感じているよ。深く語ってしまっては時間がかかるからね。ただ、カタナを美しいと思っているということだけ知っていてもらえれば良いかな

 

 刀は(さにわ)にとって、身近なモノである。

 近くにあるのは当たり前のことだった。

 身近に置いてあることは当たり前だった。

 側に寄りそうことは当たり前だった。

 付喪神の宿っていない、ただの鋼の塊だとしても。

 刀という存在はボク(わたし)にとって、未練ともいうような存在なのだ。だからこそ、極東の国の文献を読んでいる際に刀の項目を見つけた時は、思わず涙がこぼれてしまい、お母様に驚かれてしまったよ。ふふっ、懐かしいな。

 まあ、近年戦争や小競り合いがほとんど起きることのないこの世では、武器と聞けば忌避すべきモノといっても良いかもしれないのだけれどね。嗚呼、美術品になっているモノもあるから、全てが全てというわけではないか。

 

「ふぅん? カタナ、ね」

「嗚呼、たまにリドルが読んでいる謎言語の本に載っているやつか」

「武器ねえ。あんま身近なもんじゃねえけど、鑑賞用に持ってる人はいないでもないからな」

「どこで手に入れたんだ?」

「サマーホリデーの時に、薔薇の王国に極東の品を扱う古物商の人がたまたま来ていてね。色々と見ていたら刀を見つけたんだ。なかなかの値段がしたけれど、良い買い物をしたと思っているよ」

「はぁ~ん?」

「お高い買い物をしたと。まあ、リドルは基本的に散財しないからある程度の貯金があったんだろうな~。羨ましい」

「今月すでに金欠のオレが通る」

「通るな、通るな」

「刀は長さによって名称が異なってね。その中でボク(わたし)が選んだのは短刀と呼ばれる種類のものなんだ」

「タントー」

「そう、短刀」

 

 それは刀身の長さ一尺以下の刀の総称だ。

 (さにわ)が初めて鍛刀したのは乱藤四郎といって、まるで少女のような姿をした可愛い男の娘の短刀だった。高校を卒業したばかりで、付け焼き刃の戦術や覚悟しかなかった(さにわ)を初期刀の歌仙兼定と共に、最期の時まで支えてくれた、大切な守り刀。

 楽しい時も、嬉しい時も、寂しい時も、辛い時も。どんな時だって(さにわ)を見捨てず一緒にいてくれて、それで。共に散った彼らの中の一振り。

 だからあの日。古物商の人が見せてくれた刀の中に、乱れ刃の短刀を見つけた時、どうしても手に入れたいと思ってしまったのだ。それは乱藤四郎ではないけれど。ただ、乱れ刃という共通点しかない、短刀であるというだけで。もう、審神者でもなんでもないリドル・ローズハートのボク(わたし)だけれど。

 やはり人生から刀の存在を切り捨てることはできないのだと、そう思った。

 

「ショート・ソードやナイフの類いとでも考えていてくれ」

「へえ。ってことは、持ち運びできるやつじゃん」

「えっ、それ大丈夫なのか?」

「刃物所持の禁止令にあたるんじゃねの、それ。刃渡りいくらか知らねーけどさ」

「嗚呼、それについては国の行政機関に実用品としての登録をしているから問題ないよ。まあ、実用品とはいえ刃物だからね。普段はボク(わたし)以外が触れることのないよう隠しているし、学園長と話し合いを行って緊急時を除いて使用できないように封印魔法をかけているんだ。とはいっても、主な使用目的はお守りなんだけどね」

「持ち込んでるんかーい」

「行政機関と学園長に許可取ってるとか、ガチじゃん」

「ローズハートに刃物持たしたら駄目だって。ただでさえ戦闘能力高いってのに」

「運動がそこまで得意じゃないといいながら、高得点を取っていくのホント何」

「お守り? 武器なのにお守りなのか?」

「極東の国では、邪気や災厄。まあ、悪いモノを退けてくれるお守り。守り刀として長年大切にされている刀が結構あるのだそうだよ。だからボク(わたし)もそれに倣って、お守りとして扱っているよ」

「はぁ~~~。理解できねぇ世界だけど、リドルが幸せそうだから良い買い物したんだなってことしか分からん」

「それ」

「でも観賞用じゃなくて実用品として登録しているあたり、ローズハートだな」

 

 この世界でまた、刀を手にすることができるだなんて考えてもみなかったことだ。

 (さにわ)の刀はもう、あの時に全て失ってしまったけれど。ボク(わたし)の守り刀と出会うことができた。それはきっと、誰にも理解してもらえはしないだろうけれど。

 嗚呼、やはり。刀と共にあれるということは幸せだ。

 

「おっ、イグニハイドがオクタヴィネルに勝ったみたいだぜ!」

「うっわー、どっちもボロボロじゃん」

 

 会場を映すモニターから、イグニハイド寮の勝利を讃える司会の声が聞こえてくる。勝利を得た側である選手たちのほとんどは、喜びなどという感情からはほど遠い表情を浮かべていた。素直に喜んでいる姿を見せているのは、イグニハイド寮生でも珍しく運動部に所属している選手であろう。

 あの寮に所属する生徒の多くはインドア派で、運動部に所属する者はごく僅かだ。その僅かな生徒たちと、比較的運動ができる生徒によって構成されたチームは、なかなか頑張ったといっても良いのではないだろうか。

 

「そらまあ、根っからの引きこもり集団と海洋生物だし」

「イグニハイドの運動部連中、笑顔が輝いてんなー。誰よりもボロボロだけど」

「オクタヴィネルもコート内に海水ゾーン作って頑張ってたけど、やっぱイデア先輩と比べたらまだまだっていうかさ」

「水魔法と転移魔法、召喚魔法に維持魔法で簡易の海を作るのは、人魚が多い分なかなか良い作戦だったとは思うんだがなあ。相手が悪かったわ」

「アーシェングロットがいれば、もうちっと耐久できたんじゃね?」

「アイツがマジフト大会に出ると思うか?」

「思わんな」

「使用された魔法を即座に分析、解析して術式弄ってくるとかもうヤダとか思ってんだろうな~」

「イデア先輩自身が出場していないとはいえ、イグニハイド寮生は目が多い。情報共有のために選手全員がイヤホンをつけているのは、ハーツラビュル寮の戦法と似ているね」

「似てるっつーか、共同開発した色違いの同モデルじゃん」

「その戦法考えたの、ローズハートとシュラウド先輩だろーが」

 

 耳元に手をやれば、ハンズフリーのイヤホンがある。

 デザインや性能をハーツラビュル寮生が考え、イグニハイド寮生というよりもイデア先輩監修で制作されたモノでね。使用者、または存在を知っている者にしか視認できないよう隠蔽魔法がかけられているため、他の寮生はボク(わたし)たちがコレをつけていることに気づいてもいないだろう。

 伝統を重んじる我らハーツラビュル寮と、革新的なイグニハイド寮。陽キャパリピ集団と陰キャ引きこもり集団などと比較する言葉を聞いたこともあるね。水と油のように相容れない寮同士が何故、共同でイヤホンを開発したかは……。まあ、ボク(わたし)が知っている技術にイデア先輩が興味を持ったからとしかいえないね。

 創作意欲が刺激されたといっては、(さにわ)が向こうで使っていた端末や機器を短期間の内に幾つも作るのだから……。本当、怖い人だ。

 ちなみにこのイヤホン、使用者が意図して外そうとしない限り、どんなに激しく動いても外れないよう(まじな)いがかけられている。元々は本丸にいる審神者と戦場にいる刀剣男士間をつなぐためにと導入したんだけれどねえ。ブラックな案件でたびたびお世話になるとは思いもしなかったよ。嗚呼、何度担がれて逃げ回ったことか。

 

「さーて、会場の整備が終わったらオレらの番か」

「ディアソムニア相手とか、無理ゲー」

「マ、一点でも取れば向こうの無失点記録に傷をつけるんだからさぁ」

「やるしかないよね~」

「一点は最低限だよ。そうだね、二点以上取れたらバーベキューで注文する肉の種類を増やそうか」

「マジで!?」

「っしゃあ!!! やッたるぞォ!!!」

 

 うんうん。殺る気があることは、良いことだ。

 負け戦だからといって手を抜くことはしたくないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その結果が、ディアソムニア寮の無失点記録に傷をつけたばかりか、三点も獲得するだなんて。人間の割合が多いはずなんですがねえ、ハーツラビュル寮の生徒は」

「向こうは妖精族がほとんどで、魔力の質も量もボク(わたし)たちとは比べものにならない。生まれ育った環境もあるのでしょうが、妖精族以外の種族を見下す傾向にありますからね。それが油断を誘ったのでしょう」

 

 マジカルシフト大会は、無事に終了した。

 決勝戦のカードはディアソムニア寮対サバナクロー寮。レオナ先輩のオーバーブロット事件や、余興として行われたオンボロ寮と愉快な仲間たち対サバナクロー寮の試合。そしてスカラビア寮とイグニハイド寮との試合もあり、最終的にサバナクロー寮の選手全員が負傷者として保健室に運び込まれることになるとは、レオナ先輩も思わなかっただろう。

 

「いやぁ、しかし! ハーツラビュル寮に続いて、サバナクロー寮もなかなかの善戦でしたねえ。この三年間、ディアソムニア寮との試合で無得点続きだった、あのサバナクロー寮が!」

「それ、レオナ先輩の前ではいわないほうが良いですよ。お気に入りのマントを砂にされたくはないでしょう?」

「おや、駄目ですか。難しいですねえ、年頃のオトコノコって」

 

 第四試合で、我らハーツラビュル寮はディアソムニア寮に敗北した。まあ、先程学園長がいった通り、三点は獲得できたのだけれどねえ。

 大会前の出来事、ほとんどの負担をハーツラビュル寮生が背負ったことで疲労に負けてしまったんだ。いくら魔法薬を飲み、魔力や体力を回復させていようと精神的な負担は解消できるものではないからね。

 巻き込まれた人々の保護、治療、誘導。イグニハイド寮と連携しての情報収集、伝達。そして、レオナ先輩によるオーバーブロットの対処。

 特にケイトには負担をかけてしまったと思っているよ。マレウス先輩を除いたディアソムニア寮の代表選手たちに成り代わるため、ユニーク魔法を使用。その後にレオナ先輩との戦闘が続けば、さすがのケイトもキャパオーバーというものだ。ポムフィオーレ寮との試合後半には集中力が切れかけていた。それでも試合終了間際に一点を追加したのは、三年生の意地もあるのだろうけれど、昂ぶってしまったんだろうねえ。戦帰りの刀剣男士たちを思い出してしまったよ。

 トレイや他の三年生からの進言もあり、ディアソムニア寮との試合メンバーから外すことにした。試合に出ても問題ないといって来たけれど、睡眠誘導魔法をかけたら一発だったね。咄嗟に防御することもできないほど、疲れているということだ。その後は決勝前まで控え室で眠っていてもらったよ。

 

「ところで、ローズハートくんもオーバーブロットしたと聞いたのですが?」

「してませんよ」

「おや、即答ですね。ですが、本当に?」

「……本当ですよ。正しくはオーバーブロットではないため、していないという意味ですが」

「ふむ。オーバーブロットもどき、ということでしょうか。意図的に発生させる実験が行われたこともありますが、結局はオーバーブロットを起こす危険行為とされているんですがねえ。とりあえず、続けてください」

 

 嗚呼、その論文は読んだことがある。始まりはまだ、この世界で戦争の多い時期だったか……。命を燃やすオーバーブロットを戦争に利用しようとするだなんて、特攻隊の話を思い出してしまったよ。

 さて、オーバーブロットを起こしていないのに、続きを話せといわれても話せるようなことはない。ならばと、オーバーブロットから意識を離すための話題を出せば良いと思いついた。

 

ボク(わたし)、実は元々リドル・ローズハートではないんですよね」

「はあ……。では君は、いったい誰だというんです?」

 

 ズイッと仮面越しに顔を近づけてくる学園長の圧が凄い。

 

(ぼく)はね、元々は極東の国によく似た文化圏で戦争に参加していた者ですよ。嗚呼、体はリドル・ローズハートなので、精神が。という意味ですが」

「はあ……。君も冗談をいうことがあるんですねえ。しかし、戦争に参加していたとはなんと物騒なことを……え? ちょっと待ってください。そんな不穏な笑みを向けてこないで」

 

 寄せていた顔を離し、呆れながら腕を組む学園長に向けて笑みを浮かべる。

 そうだろう、そうだろうね。この世界で戦争というものは、百年単位で昔の話なのだから。冗談と受け取られても仕方のないことだ。小競り合いや内乱はあるようだが、それもほんの小規模なもの。(ぼく)が見てきたようなものではなく、内容もお優しいモノが多い。

 生きている者たちの中で、戦争を身近に感じたことがあるという者はどれほどいるだろうか。妖精族や人魚のような長命種ならば、いるかもしれないね。けれど、それでも百年単位で起きていないとなれば、意外と百年以上生きていても知らない者は少なくないのではないだろうか。

 

「その戦争には、適性があれば誰もが徴集されたんです。(ぼく)はハイスクールのころに適性があると発覚し、卒業後に研修を受け前線基地へと配備されました。とはいっても、(ぼく)の役目は下っ端とはいえ指揮官であり、やることといえば拠点や部下の管理維持、同業者との情報共有など裏方のようなものでして。戦場に出たことは一度もありません。武器を振るうことすらできません。護身術程度はどうにか身につけましたけどね。元々が戦争などとは関係のない、ごく一般的な家庭で育ったものですから。戦術なんて付け焼き刃なもので、戦慣れした部下たちにはたびたび迷惑をかけてしまいました」

 

 特に初期刀の歌仙と、懐刀の乱。それに喧嘩するほど仲が良いとまで周囲にいわれていた同田貫には、本当に迷惑をかけたと思っているよ。いやもう、同田貫とは毎日のように言い争いをしては(ぼく)がギャン泣きの末に過呼吸で意識を失うこと、よくあったなあ……。

 何度、歌仙に怒られて乱に泣かれたことか。まあ、何度も繰り返せば乱も慣れて呆れた顔をしていたのだけれどね。

 

(ぼく)たちは、国を守るために戦い続けました。そしてある日のことです。不特定多数の味方陣地に、敵が攻め込んできました。(ぼく)もそれに巻き込まれてしまいまして。少しずつ部下たちの気配がなくなっていくことに気づきながらも、この命が果てるまで戦い続けました。部下たちも全員折れたことでしょう」

「それなら貴方はいったい何だというんです。ゴーストとでもいいたいのですか?」

「いいえ。この体は確かにリドル・ローズハートのものです。数年前になりますか。死したあと、魂だけの状態となった(ぼく)は、母親の教育方針により壊れかけた幼いリドル・ローズハートと出会ったんですよ」

 

 そうして、(さにわ)ボク(わたし)となり、リドル(かれ)はひとときの眠りにつくこととなった。最近は、なにかと入学式から騒がしい日々が続いているため起きている日が増えてきているような気がする。

 しゅるりと、足下に茨が広がりだした。それに気づいた学園長は、背後へと飛び退く。そして瞬時に防衛魔法を展開するなんて、さすがはナイトレイブンカレッジの学園長を務めるだけのヒトだ。中身はアレなんだけれどね。

 

(ぼく)は、リドル・ローズハート」

ボク(わたし)も、リドル・ローズハート』

「二人で一人で」

『一人で二人』

「だから、どちらか一方が本物というわけでもなく」

『どちらか一方が偽物というわけではない』

「これまでも」

『これからも』

「最期の瞬間まで」

『リドル・ローズハートであり続けるんだ』

 

 背後から首に回る手は、今日。共にレオナ先輩のオーバーブロットを鎮めるため、限定的に顕現したリドル(かれ)のものだ。

 仮面の奥で煌めく学園長の双眸が、大きく開かれたような気がする。

 驚いたのかな? まあ、驚くかもしれないね。だって、一人の体に複数の魂を保有することは禁術指定モノの問題事なのだから。

 これは複数の人格を持つ、解離性同一性障害のようなものではない。下手をすれば魂がお互いを喰らい合う、ヒトの体を壺に見立てた蠱毒なのだから。しかしけれど、ボク(わたし)たちはそうではない。だからといって理解を得られるとは思わないのだけれどね。

 

「だからこの話は、ここでお仕舞いとしよう」

『貴方は何も聞かなかった。貴方は何も気づかなかった』

 

 ここは学園長の領域である、ナイトレイブンカレッジのハーツラビュル寮。その寮長室であるこの場は、リドル・ローズハートの領域として寮長となったその日の内に作り替えている。

 ナイトレイブンカレッジの各寮は、魔術式によって構成されている亜空間に存在しており、まるで本丸のような存在だと入寮した日に気づいてね。寮長となるまでの一週間。四人部屋にいたころ、ボク(わたし)のスペースのみに結界を張って過ごしていたんだ。

 魔力ではなく、霊力によって構成された領域。学園全体を管理する学園長には、バレてしまうのではないかと思っていたのだけれど……。今の今まで、少しも気づいた様子はなかった。つまり、魔法が主流のこの世界において、霊力は感知することが難しいもの。または、できないものと考えたのだ。

 だから、そう。

 柏手を一拍。

 

「はて? 私、先程まで椅子に座っていませんでしたか?」

「突然、奇声をあげながら飛び上がったんですよ。お疲れなのではないですか?」

「ええっ!? まさか、私がそんなことを? 記憶にないのですが、本当に?」

「ええ。今日はすぐに眠りについたほうが良いのでは?」

「そうできたら良かったんですけどねえ。マジカルシフト大会の入場行進における観客の暴走や、キングスカラーくんのオーバーブロットについての後始末などなど。やらないといけないことが多いんですよねえ。サバナクロー寮のマジフト場も修繕しないといけないですし。嗚呼、もうこんな時間ですか。君こそ、今日は早めに寝ることをオススメしますよ、ローズハートくん。では、失礼します」

 

 ボク(わたし)がオーバーブロットしたのではないか、という疑問。そしてリドル・ローズハートが二つの魂で構成されていることを忘れた学園長は、姿を消した。

 

『相変わらず、騒がしいヒトだね』

「それが学園長のアイデンティティだからね。本当、困ったヒトだ」

『それにしても、(わたし)のこと。話しても良かったのかい?』

「ただの冗談で済ませようとするのではないかと、思っていたからね」

『ふうん? まあ、(わたし)がそれで良いというならば、ボク(わたし)は受け入れるだけさ』

「ふふっ、ありがとう。リドル(ぼく)

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