リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々 作:都月飴
サバナクロー寮長の場合
ハーツラビュルの寮長が、入学し立ての一年生にその座を奪われたという情報は異常なほど早く学園中に出回った。ハーツラビュルにマジカメ中毒だのいわれている奴がいるから、情報源はソイツだろう。
「一年が寮長ねえ。随分と自身があるようだが、この学園のことを何も知らないお坊ちゃんが、曲者揃いの寮生をまとめ上げられるのかどうか。ハッ」
いけ好かねえハーツラビュルの寮長が一年生に負けたことも。
一年生が決闘を申し込み、寮長の座を得たことも。
この学園のことを何も知らねえ、よちよち歩きのガキがトップに立つことになったハーツラビュルのことも。
何もかもがおかしかった。狂ってるという意味でも、滑稽という意味でも。ただまあ、あの男と寮長として会うことがなくなったということは、少しありがたいな。アレは上に立つような気概などない。貴族の傍系だからか、学力に申し分はなく、魔法の実力もあった。しかしけれど、人望はなかった。
当主となるべく、親の操り人形として生き続けてきた奴が、周囲におだてられ暴君となるだなんて、よくある話だ。それ故に弱き者から搾取し、目上の者にはへりくだるばかり。王族や、自身の家柄よりも上の奴には目をつけられたくなかったのだろう。そういう親の教育を受けて育てば、家を存続させるために嫌でも頭を下げるだろうさ。その目が、どれだけ嫌悪に満ちあふれていようとな。
だから余計、弱い立場の奴ら。一般人や孤児、スラム出身の奴らには当たりが強かった。しかしそれが表沙汰にならなかったことは、この学園の気質と、奴とそれに追従する奴らがうまいこと隠してみせたからだ。
まあ結局、リドル・ローズハートというハーツラビュルの英雄によって、寮長の座を奪われ、今までの所業を全て白日の下にさらされた。その連絡を受けた当主は怒り心頭といわんばかりに、学園に乗り込み、そのまま奴を連れ帰ったと聞いた時は笑ったな。自主退学ということで手続きされたとクロウリーはいっていたはずだ。
「レオナ先輩、ペアを組んでいただいてもよろしいですか?」
「あぁ? リドルか。まあ、良いんじゃねえか?」
「ありがとうございます」
リドルは、変な奴だった。
初めて会ったのは、ハーツラビュルで決闘が行われた日の翌日に行われた臨時の寮長会議だ。周りは上級生ばかりだというのにも関わらず、アイツは特に緊張した様子を見せることなく挨拶をした。違う寮ではあるが、年下で、身長も低く小柄で細身のリドルを他の寮長たちは気に入ったようだ。
だからといって子供扱いするわけでもなく、学園生活や勉強、その他困ったことがあれば相談ぐらいは乗ってあげようという、その程度のものであった。その程度ならば、誰しも入学し立ての一年生相手にやっていることだったからだ。まあ、サバナクローじゃ実力主義なもので。そんなお優しいものじゃ済まなかったけどな。
「右三、左四。リコペルシカムの絞り汁を五滴入れ、右半、左二」
「コイツも追加しろ」
「ハマドライアドの葉、ですか?」
「嗚呼。コイツを一枚入れると、植物系素材がよく馴染む」
「なるほど、分かりました。そして、カトブレパスの角の粉末を二杯入れ、左三、右一。あとは一分放置で、終わりですか」
「それで良い。じゃあ、俺は行くぞ」
「はい。ありがとうございます」
成績優秀、品性方向、眉目秀麗、文武両道。リドルを差す言葉でよく聞くのは、その辺りか。聞いた話によれば、エレメンタリースクールのころから今に至るまで成績は主席を貫いているようだ。寮長になってからは週末にハーツラビュルで勉強会を開いているようで、ハーツラビュル全体の成績が向上しているとトレインが喜んでいた気がする。
顔立ちは整っているだろう。一般人にしては、という意味で。しかし本人は、自分の顔立ちは普通だと、信じられないほど綺麗で美しく、まるで神が創ったといっても良いほどの造形を持つ”ヒト”を見たことがあるのだといっているそうだ。そんな奴がどこにいるのかは知らねぇが、それ故に、眉目秀麗といわれようが、それが自分を差す言葉とは思いもしなかったらしい。
運動に関しては、陸において獣人に、水中において人魚に劣るものの、人間としては優れているとバルガスも褒めていた。リドル本人は、運動が苦手な部類だとはいっていたが、それでも成績は学年トップ。マジフト部の後輩よりも巧く箒に乗るとは、なかなか喰えない奴だ。
「レオナさんって、よく合同授業でリドルくんとペアを組むことが多いッスけど。仲が良いんスか?」
「ハァ? あの秀才様と仲が良いだなんて、お前の目は節穴か。ラギー」
「いやぁ~。だって、威嚇するでもなく脅すでもなく、淡々と課題進めてたまーにアドバイスあげたりしてるじゃないッスか。一年の中じゃあ、結構噂ッスよ?」
「めんどくせぇ……。アイツとの関わりは寮長だってこと以外にゃ、何もねえよ」
それに、アイツへのアドバイスなんざ滅多にやらねえことだ。本人が教科書や参考書に載っていない部分まで、知っていることのほうが多いからな。
今回の魔力を有した生物に対する防虫薬も、ほとんどはリドルが作ったようなものだ。俺がやったのはクルーウェルに目をつけられない程度に手を貸し、思いつきでハマドライアドの葉を入れるよう伝えただけだった。
魔法薬の製作方法は暗記したのか、授業の間、一度も教科書に目をやっていない。口に出しているのは、単に暗記した内容をなぞっているだけだろう。
「ただ、俺に都合が良いから組んでるだけだ。それに、俺からペアになろうと誘ったことは一度もない」
「あ~、そういえば。いつも誘うのはリドルくんのほうッスもんね。リドルくんもリドルくんで、レオナさんとペアになることで何か都合が良いんスかねぇ」
「魔法薬作りは物によって危険度が異なるが、基本的には単純作業だ。切って刻んで砕いて潰して絞って、混ぜる。そういうのは効率良く済ませたいんだとよ。グダグダやって失敗だの、時間内に作れないという事態になるのは面倒なんだと。それに、余程の物じゃない限り、アイツは一人で作れるからな」
「なぁるほど。リドルくんにしても、レオナさんと組むのは都合が良いってことッスね」
リドルが寮長になってから、ハーツラビュルは変わった。あの意味の分からねぇハートの女王の法律を守る奴は増え、寮生の成績は上昇。素行の悪い奴らも随分と大人しくなった。上が変わるだけでここまで変わるたぁ、アイツにそれだけの素質があるということだろう。
嗚呼……、めんどくせぇ。アイツが王になるような奴だったら、相手にすることもなかっただろうに。