リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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オクタヴィネル寮長の場合

 リドル・ローズハートの存在は、同級生の中でも特に目立っていた。

 何せ、入学から一週間でハーツラビュル寮の寮長という座を得たのだ。前寮長に決闘を申し込み、数分と、いや。数秒とかからず、勝利したというのだから、なかなか興味深いユニーク魔法を持っているようだ。

 聞いた話によれば、彼のユニーク魔法は相手の魔力を封じることができるのだとか。なんて、羨ましい。その力があれば、契約違反者からの取り立てが、また一つ楽になるというのに。

 

「ねえ、リドルさん。魔法薬学の小テストが帰ってきたと思いますが、どうでした?」

「アズール。凡ミスもなく満点だったけれど……。どう、とは?」

「嗚呼、いえ。実は問い七の答えに納得がいかなくって。教科書や参考書、実習でクルーウェル先生が気をつけるよういっていた部分でしたので、何故、それとは違う答えになっているのか。もう、気になってしまって」

「アシアティクムを使用した軟膏についての問題だね」

「はい」

「あの植物は昔から魔法薬作りに使用されているが、有毒成分が含まれているということはクルーウェル先生が説明していただろう? アズールなら、それ以前から知っていたかもしれないが」

「ええ、その程度は基礎知識でしょう。魔法薬の本には、よく出てきますし」

 

 アシアティクムは約二十一種類のアルカロイド成分を含む、薬草でありながら毒草である。毒性の強さから、近年では一般的な処方薬に使われることはなくなったものの、民間療法を含めその他ではまだまだ使用頻度が高いとされている植物だ。

 今回の問題は、アシアティクムと、それ以外に提示された素材を組み合わせてできる軟膏の成分について説明せよというものであった。これはアシアティクムを使用する授業で、クルーウェル先生が口酸っぱく気をつけるよういっていたため、完璧に覚え、間違いなく正答を書いたと思っていたのだが……。何が間違っていたのか。

 

「アレはひっかけ問題なんだよ」

「ひっかけ!? んんっ、失礼。アレがひっかけ問題とはどういうことです? 提示された素材は、どれも授業の中で出てきた物ではないですか」

「そこじゃなくて。文章中にアシアティクムの葉をマクロゴール結晶及び以下に提示した素材から作られた軟膏の成分について述べよ、と書いているだろう」

「ええ、確かに」

「問題は、完成した軟膏の使用用途。そして葉にどのような処理をほどこしたか。という点さ」

「……嗚呼、なるほど。そういうことですか。流石はクルーウェル先生。授業の中で作ったアシアティクムを含む軟膏は、最初から乾燥した状態の葉を使用していたので、うっかりしていました。葉の処理方法も記述するべき問題でしたか」

「そういうことだね。あとは、乾燥した葉を使用した場合と、乾燥していない葉を使用した場合で、それ以外の素材が同一であろうと軟膏の薬効や使用用途も変化するから、今回の問題は厄介だったね。こういうひっかけ問題は、今後増えてくると思うから気をつけるようにとトレイがいっていたよ」

「ハーツラビュルの副寮長の方ですね。ふむ……。二度とひっかからないよう、気をつけるとしましょう」

 

 後日ジェイドに聞いた話では、問い七を正答したのは彼の他にポムフィオーレ寮生やサイエンス部、魔法薬学が得意な生徒などであった。もちろん、魔法薬学が得意なジェイドも正答しており、盛大に馬鹿にされたが、総合得点では勝っていたので聞かないことにした。ついでにフロイドの代理としてシフトを増やしてやったので、感謝されても良いぐらいだろう。

 この程度の問題にひっかかっていては、あの(・・)ノートは作れない。先生方の性格から考察しなければならない部分もあるでしょう。嗚呼、嗚呼。忙しい。

 僕のノートと、彼の勉強会。どちらが優れているのでしょうね?

 

「嗚呼、楽しみだ」

 

 その後、無事にオクタヴィネルの寮長となり、モストロ・ラウンジの経営を始めた。副寮長にはジェイド、フロイドは僕たち二人の補佐となっている。

 学生、寮長、支配人と、なんの役職も持たないころに比べれば忙しくなったが、その程度で成績を落とすわけにはいかない。入学から一週間で寮長となった彼だって、常に主席で居続けることができるのだから。僕が、できないだなんて、あるはずがないのだ。

 モストロ・ラウンジの開店当初は、店員として業務にあたる寮生たちの育成に時間がかかり眠れない日もあったが、ジェイドとフロイドが率先して教育を施してくれたため、ある程度の余裕はあった。けれどやはり、未だ慣れぬ人間の体に意識が引っ張られることもあり、特に苦手な飛行術で箒から落ちかけることや、逆に暴走し高く飛び過ぎたりすることもあり、疲れが徐々に溜まる。

 

「リドルさんは、学業と寮長としての業務。どのようにして両立させているのですか?」

「うん? 特に気にしたことはないのだけれど……。それよりも、モストロ・ラウンジの経営までやっているアズールの役に立つような情報は持っていないと思うよ」

「そう、でしょうか」

「そうそう。ボク(わたし)はできることをやっているだけだから。両立しようと思って、やっているわけではないよ。ちゃんと考えて行動している君とは違って、ね」

「そう、ですか……」

 

 その日も、箒がいうことを聞かなかった。勢いよく空高く飛び上がる箒、その勢いに負けて箒から手を離してしまい中になげ出される僕。嗚呼、ここで死んでしまうのだろうかと思った。

 結局、近くを飛んでいた彼に助けられることとなったのだけれど、彼はどうして、ここまでできるのだろう。自分だけではなく、寮生たちのため。なんの見返りもなく、対価を要求するでもなく。ただ、そう。バルガス先生にいわれて木陰で休むよういわれ、芝生に寝転がっている時。口から疑問がこぼれた。助けてもらったことに対する、対価の要求を聞く間もなく。

 しかし彼は、曖昧な答えしか返してはくれなかった。アナタは本当に、なんなのでしょうね。

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