リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々 作:都月飴
ボクとママが、楽しそうにイチゴのタルトを作っている。
ボクはボクで、ボクではないけれど。
あんなにも怖くて、怒ってばかりだったママが幸せそうな顔をしているから。
ボクはボクじゃないけれど、とても幸せなんだ。
『ねえ、
うん。見ていたよ。
『ねえ、
うん。とても美味しかった!
トレイとチェーニャと一緒に食べたイチゴのタルトとは違うけど。
前にボクとママが作ったイチゴのタルトより、もっと美味しくなっていたよ!
『それは良かった! ケーキ作りはあまり得意ではないのだけれど、
初めて作ったイチゴのタルトは、生地が崩れやすかったよね。
その次に作ったのは、ママが砂糖と塩を間違えて、しょっぱいイチゴのタルトになっていたっけ。
『そうそう。捨てるのはもったいないと思ったけれど、お母様が「こんなものを食べたら高血圧になってしまうわ! せっかく作ったけれど、これは廃棄しましょうね」なんていっていたよねぇ』
うん、覚えているよ。
ママ、今にも泣きそうな顔をしていたよね。
『ふふっ。一生懸命、泣かないようにしていたけれど、今にも涙がこぼれ落ちてしまうんじゃないかと思ったよ』
口直しのココア、温かくて美味しかったなぁ。
あと、チョコレートをかけたイチゴ!
ボク、初めて食べたよ。
嗚呼、初めてといえばイチゴ大福も好きだな。
『スコーンに混ぜるために買っていたチョコチップを湯煎で溶かして、それにイチゴをディップしただけなんだけれどね。気に入ってくれて良かったよ。お母様もお気に召していたようだし。そういえば、イチゴ大福を初めて食べた日は
うっ……。だ、だってあんなに美味しいイチゴの食べ方があるだなんて知らなかったんだ!
夜更かししたのは、ボクがイチゴ以外の大福や珍しいお菓子の話をするから!
そ、そんなに笑わなくたって良いじゃないか!
『ふっ、ふふっ。次にお菓子を作る時は、イチゴ大福を作るよ。それにオレンジや桃、チョコレートにキウイ、クリームチーズ。たくさん作ろうか』
本当かい!? やった!
ママも許してくれるだろうか?
『忘れたのかい? お母様が甘いものが好きだということを。お菓子を作る日だけは、カロリーのことなんて気にせず、なんだって一緒に作ってくれるじゃないか』
ふふっ、そうだね。確かにそうだった。
カロリーや健康を気にせず作られた甘いお菓子を食べるママは、とても可愛らしいものね。
『そうだよ。なんたって
ボクのママでもあるだろう?
『ふふっ、そうね。そうだった』
私が出ているよ、ボク。
『ふ、ふふっ。どうせ
本当、ボクの切り替えの速さには驚いてしまうよ。
喋り方だって、ボクと私じゃ違うじゃないか。
ボクとして話す時はボクと一緒なのに、私として話す時はボクと全く違う。
『そりゃまあ、普段は
ケイトやカリム。それに監督生に近い喋り方をするよね、私は。
だけど、ボクと同じ喋り方をする時が多い。
これって、ストレスになったりはしないのかい?
『うーん。特にストレスと感じたことはないかな。向こうでも使い分けて話してたし。まあ、慣れってやつだよ。慣れ』
慣れ、か。
確かに、以前、私に見せてもらった向こうの暮らしは興味深いものだったよ。
なんたって、世界が全く違うのだから。
魔法がない。けれど、霊力によってまるで魔法ともいえる事象を起こし、人々や神、妖怪などというゴーストとは全く違う形態の生き物が生活を共にしている。
なかなかボクには理解できない常識の世界ではあったけれど、そんな場所で生きていた私がボクとして生きていけることは素直に凄いと思うよ。
『おや、褒められた。嬉しいね。まあ、魔法とはなんぞと思ったし、いまだに慣れない常識は多いけれど、私はもうボクとして生きて行くと決めたからねぇ。
追い出すわけがないだろう。
だってボクは、私がボクとして生きてくれなかったら、ずっと前に死んでしまっていたのだから。
だから、そう。
ボクになってくれて、ボクとして生きてくれて、ママを幸せにしてくれて、ボクを受け入れてくれて。ありがとう。
『どういたしまして! こちらこそありがとうだよ。だって、私は向こうじゃすでに死んでしまっているからね。まさか死後に異世界で生きることになるとは思いもしなかったけれど。幼い
私……。
ずっと、ボクと一緒にいてね。
一緒に幸せになろう。ママをもっと、幸せにしよう?
そして、最期は年を取って、おじいちゃんになって、穏やかに、眠るように、共に冥府へ行こうじゃないか。
『はっ、あははっ! そうだねぇ。もっともっと幸せになって、たくさん生きて生き抜いて、おじいちゃんになってから死にたいねぇ!』
うん、最期まで。一緒に生きよう。
『 』。