リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々 作:都月飴
第11話
「いやあ、今年も盛況のようだな。アズールの契約」
「ウチの一年には情報流してるから契約してる奴いねーけど、他の寮はどうなることやら」
「去年で味を占めたっぽい奴らもいるようだね」
「だからといって、普段からの予習復習を怠るのはどうかと思うよ。いや、契約をしたとしても継続しているならば、少しは目を瞑るのだけれどね」
「いくらあのノートが優れた虎の巻であろうと、結局は普段の勉強に対する態度が点数に出るからなあ。一夜漬けでアズールが望む順位を取るのは難しいだろ」
「アイツ、努力家だからなあ。必死に頑張れば達成できる条件なのに、どうして結果が振るわなかったのか不思議に思うんじゃねえの?」
ハーツラビュル寮の談話室では、週末の勉強会が行われていた。期末テストが間近に迫るこの時期は、普段は個人でやる方が捗ると部屋にいる寮生も談話室に姿を見せている。苦手教科の対策には、個人でやるよりも得意な寮生に聞いた方が効率良く学ぶことができるからね。そして、自分の得意教科を苦手としている寮生に分かりやすく教えることができれば、それはまた自分の糧となる。
ナイトレイブンカレッジは進学校とは表だって名乗っていないが、やはり優秀な魔法士の資質を持つ者が選出される名門だけあって授業進度は早い。闇の鏡によって入学資格を得たとしても、入学後に赤点塗れの生活を送る者は少なくないのだ。
近くの席で頭を抱えるエーデュース、グリム。そしてマジカルシフト大会後から勉強会に参加するようになった監督生に視線を移せば、課題の進みが遅れているようだ。しかしまあ、近くにいる寮生に質問をしたりアドバイスをもらっているようなので見守っておくことにしよう。交流も一種の勉強だからね。
特に監督生は異世界産、日本の知識と常識のもと生活してきたこともあり、普段からテストの点数は振るわない。赤点常連者といえば良いか。プリスクール程度の知識は身につけ、今はエレメンタリースクール程度の知識を身につけている途中だ。基本となるベースは
他の地方や種族特有の知識や常識は、絵本に書かれている程度は教えたが、彼女が興味を持たなければ、意味がない。知っていれば役に立つが、知らなくても困らないといえば困らないからね。嗚呼、そういえばサバナクロー寮の寮生が夕焼けの草原や獣人についての知識や常識を少しずつ教えてくれるのだと、いっていたっけ。
「そういえば、リドル」
「なんだい? ディー」
「アズールって今年は何を企んでるんだ?」
「企み?」
「そう。この前、モストロ・ラウンジに招待されてたみたいだから、何か聞いてるのかと思ってさ」
「あ、ソレ気になってた」
「僕も」
「う~ん」
これは、いっても良いことなのか。
まあ、別にいったところで問題にもならないだろう。契約書に記載されていない部分であれば。
「モストロ・ラウンジは、定期的に期間限定で各寮とのコラボメニューを出しているだろう? 次のコラボメニューについて、話し合いをしてきただけさ」
「おっ、なるほど」
「アレ、面白いよな~。ローズハートの提案だっけ?」
「協賛のイグニ」
「隔月で、各寮モチーフの料理とデザート、ドリンクをそれぞれ一品ずつ提供。ドリンクには耐水コースターつき! 寮セットだと値段がお得なのも良いよな~」
「しかも毎回コースターの柄が変わるから、期間中日参して全種類集めたわ」
「今年はまだやってないよな。アズールがマジフト大会の運営委員だったのもあって」
「代わりに去年人気だったドリンクを恒常メニューに入れてくれたんだよな。俺、アレ好き。サバナの黄昏フラペチーノ」
「アレか~! 柑橘類たっぷりで、すっきり飲みやすいよな。オレはポム監修アサイーボウルシリーズが好き。アレでアサイー好きになった」
「健康に良いだとかで、マジカメにもよく出てくるよね。僕はオクタヴィネルのココナッツプリンが好き。季節のフルーツと豆乳が使われていてヘルシーなのが良いよね。いくら食べても怒られない!」
「嗚呼、お前……。プリン好き過ぎて親にプリン禁止令出されたんだっけ」
「今は一日一個は食べて良いの!」
彼らは人魚である。だからといって、陸の情報に疎いというわけではない。むしろ、人間の
それでも、まあ。陸の常識とでもいうか。人間や獣人、妖精の流行りには理解できない部分があるようでね。最初のうちはアズールも、同じ部活に所属しているイデア先輩に色々と質問していたが、イデア先輩が早々に音を上げてしまったんだ。
『拙者に陽キャ好みの話題は門外漢ゆえにこれ以上質問されてもアズール氏が望むような答えは脳味噌こねくり回しても出てくるわけがないので専門家を召喚しますぞしますからなオルト今すぐリドル氏連れてきて!!!!!』
『はぁ~い!』
『なんて?』
そこで召喚された専門家というのが、
イデア先輩の紹介で初めて顔を合わせたアズールは、元々が人魚なだけあってとても綺麗な顔立ちをしていると思った。所作もそつがなく、これは陸に上がる前に身につけたのだろう。アズールの実家はリストランテを経営しており、その評価は高いと聞く。スマートフォンで検索してみれば、珊瑚の海の北方では特に人気のようだ。
『初めまして。
『初めまして、リドルさん。僕はアズール・アーシェングロットと申します。お噂はかねがね伺っております』
『へえ。噂になるようなことは、していないはずなのだけれど』
『おや、自覚がないようで』
入学時から彼の噂はよく耳にしていた。
成績は学年でもトップレベル。特に錬金術を得意としており、高難易度の魔法薬作りをそつなくこなしているようだ。テスト後の席次は
さて、話を元に戻すとしよう。
アズールは幼少期より、飲食店経営についての知識は叩き込まれていた。だからこそ、学生の身でありながらモストロ・ラウンジを支配人として経営し続けられている。更にオクタヴィネル寮の寮長を務めているのだから、二足どころか三足のわらじ。
打てば響くといえば良いのか。アズールの質問に自分なりに意見を返せば、巧いこと商売に繋げていくのだから大したものだよ。ただまあ、博多に比べれば
「それで、いつ開催するかって決まってんの?」
「期末テスト明け一週間以内といっていたかな。すぐにウィンターホリデーに入るから、開催期間は短めに設定するそうだよ」
「マジか~。でも楽しみだな!」
「つーことは、オクタ連中は屍になるのか……。テスト明けにゃ、いざこざが待っているだろうに」
「去年のこともあるし、そこら辺は織り込み済みだろ。アイツらも」
「リドルくーん! ヘルプ!」
「はいはい」
「ダム先輩、実践魔法詰んだー!」
「お願い詰まないで……」
「ディー君や、魔法史のノート見せてくれん?」
「クランベリーシフォンよろ」
「ブレット、解けた!」
「おっ、えーっと……全問正解! 続きも頑張ろうね~」
+++
期末テストが終わり、ハーツラビュル寮生の顔には安堵の色が見える。
去年は幾人かアズールと契約を結び痛い目を見た者もいるが、今年はいないようで安心した。いや、数人はいるのかもしれないが一年生から三年生までほとんどが週末の勉強会に参加していたし、テスト前は自主的に談話室に集まり勉強する姿を見ている。そこまでやってアズールが出した条件を達していないのならば、そこはもう本人の性格というものであろう。
「おや、リドルさん。まだ教室に残っていたんですね」
「嗚呼、ジェイドか。もうテストの結果を確認して来たのかい?」
「ええ。今日はモストロ・ラウンジの開店前に一仕事あるものですから」
「一仕事ねえ。それなら早く行くことをお勧めするよ」
「ふふっ。ねえ、リドルさん。実は最近、アズールが悩みを抱えているようなんです」
「悩み?」
「はい。僕たちにはどうにも相談しにくいようで。ですからどうか、アズールから悩みを聞き出してもらえはしませんか?」
にこやかに笑うジェイドの目は、愉快とばかりに歪んでいた。
「ジェイド」
「はい」
「君はその悩みを知っていながら、
「おや、まさか」
「顔が笑っているよ。生憎と、
「それはそれは。残念ですねぇ、ハーツラビュルの寮長さん」
「残念などと欠片も思ってもいないだろう、オクタヴィネル寮副寮長」
喰えない男だ。愉悦を隠そうともしない姿勢は、清々しいものだね。きっと、アズールの悩みというのは虎の巻に関する契約についてのモノだろう。ハーツラビュル寮生で彼と契約を結んだ者は、他寮に比べて極端に少ないか、もしくはゼロ。誰もいないことを願ってはいるけれど、ギャンブル好きな寮生もいるからね。わざと契約を結び、アズールから提示された条件を達成している者はいるかもしれない。まあ、本当にいるかどうかは分からないのだけれど。
調べることは可能だけれど、契約を結ぶことは自己責任だ。わざわざ、
教室を出れば、廊下は騒がしいものだった。一部の生徒の頭にイソギンチャクが生えている。嗚呼、アレがアズールと契約を結び条件を達成しなかった者たちの末路というやつか。生徒たちの間を通り抜けて、成績優秀者五十名の名前と総合成績が載る席次を見れば一位の横に
しかし珍しいことに、
「よっ、リドル。今回も学年トップじゃん」
「今回もプラス点取ったの?」
「召喚術と占星術でね。喚ぶのと視るのは、比較的得意なんだ」
「そういや、なんか珍しい妖精だったか召喚してたな。アレって還したの?」
「いや、薔薇の迷路が気に入ったようで寮内にいるよ」
「マジ?」
「あっ、ソレなら見たかも。薔薇を一輪、大切そうに抱えてどっかに向かって飛んでた」
「薔薇がとても好きな子のようだ。迷路のどこかに巣を作ったようで、薔薇はその巣材兼食糧なのだといっていたよ」
「へえ、巣材に食糧ね。マ、俺たちに被害がないなら共存相手としては問題ないかな」
「ローズハートが入学してから、我が寮内に引っ越してくる妖精や精霊の多いこと。魔獣も紛れ込んでるよな」
「フラミンゴとハリネズミ、あと薔薇に被害が出ているわけでもないから見守る姿勢~」
「それな。悪戯好きな奴もいるけど、怪我人を出したりはしてないからセーフってことで」
召喚術と占星術は得意な方だ。審神者だった杵柄ともいう。
「あっ、寮長たちじゃん」
「おっ、三馬鹿と監督生ちゃんじゃん。成績確認してきたんだ」
「その様子だと、なかなか良い点数を取れたのかな?」
「名前は載らなかったッスけどね~。赤点はゼロ、全教科平均点以上ってところでーす」
「僕も今回は全教科、平均点かそれ以上でした。魔法薬学はちょっと危なかったですけど」
「あ~。魔法薬学の平均点、全学年九十点以上だったんだっけ」
「はい。クルーウェル先生もそういってました。なんだか、おかしいくらいに平均点が上がっているって」
「オレ様たち、頑張って勉強して総合成績も結構良いはずなのに成績優秀者の中に名前が入ってなかったんだゾ」
「そうそう、ソレ! 三十人ぐらい、総合成績満点の奴がいたんスよ。おかしいでしょ」
エーデュース、グリム、監督生の総合成績を教えてもらうと、エースとデュースは五十位以内に入っていても良い点数だ。その後、集まってきたハーツラビュル寮の一年生たちからも話を聞いたところ、五十位以内に入っている者はいたが中間よりも席次の順位が下がったと愚痴をこぼしていた。
「クラスのオクタヴィネル寮生は何もいってなかたけれど、前回一位だったスカラビア寮生が呆然としてました」
「アイツ、今回は凡ミスで一問だけ間違ったみたいなんですけど、それで三十位以下になるのはおかしいって。特に今回は期末テストだから試験範囲も広いし、中間に比べたら厄介な問題も結構あったのに……」
「中間の時は名前が載ってなかった奴も、満点叩き出してるもんな」
「僕も今回、結構良いとこ行ったと思ったのに四十位代だよ? 十位以内は堅いとも思ってたのに、ふざけてる」
「つーか、アレ何? 不正?」
「テスト中はカンニング防止の監視魔法がかかっているのにか?」
「NRC生なら、それをくぐり抜けようとする勇者はいるでしょ」
「イトコの兄ちゃん、それやろうとしてホリデー期間中帰省できないほど課題与えられた上に先生のパシリにされたっつってた」
「キッツ……」
「頭は良いのに馬鹿って奴か」
一年生たちが談論を始めるが、ここは廊下。人通りも多く、邪魔になってしまうだろう。各々部活などもあるだろうし、話は寮でも続けられる。
「君たち。意見をいい合うことは良いことだが、続きは寮に帰ってからすると良い。ここは人通りも多く邪魔になってしまうからね。それに部活がある者もいるだろう」
「あっ、ヤッベ。ミーティングあるんだった!」
「外部コーチが来るから、いつもより早く集合しろって連絡来てたの忘れてた!」
「オレ、特に何もねーわ」
「んじゃ、寮に帰って間違い直ししようぜ~」
「かんとくせー、オンボロ寮行って良い?」
「うん、良いけど。部活は?」
「バスケ部は休み。今日は体育館の整備があるんだってさ。デュースは?」
「今日はコーチもいないし、自主練をしようかと思っていたんだが。エースがオンボロ寮に行くなら、一緒にお邪魔しても良いか? 監督生」
「もちろん。昨日、お取り寄せをお願いしていた極東のお菓子が届いたの。一緒に食べよう?」
「一つ味見したけど、とーっても美味かったんだゾ!」
「へえ、楽しみにしてるわ」
「それなら、僕たちが紅茶を淹れよう」
「うん!」
慌てて部活に向かう者、寮へ向かう者など様々だ。数分と立たずに、僕とディー、ダム、そしてブレット以外のハーツラビュル寮生とオンボロ寮生は姿を消した。
さてはて、モストロ・ラウンジは今頃大乱闘でも始まっているころかな。去年はアズールが学園長と交渉し、カフェの経営権をもぎ取っているが……。今年は何を狙っていることやら。
「……少し、学園長に用事ができた」
「ん? 嗚呼、アズールの件か」
「今回の騒動に対して、学園長がどういう行動を起こすのか気になってしまってね」
「あ~、学園長だもんなあ。なんか、やらかさなきゃ良いんだけど」
「リドル、一人で大丈夫?」
「嗚呼。それほど時間はかからないだろうし、先に寮へ戻っていてくれ。談話室でテストの間違い直しをする一年生もいるようだからね」
「りょーかい。先生役ってわけね」
「でも、実践魔法はリドルの方が詳しいんだから早めに戻ってきてよ?」
「お菓子と紅茶も準備して待ってるね」
「うん、よろしく」
ストック切れのため、今後はのんびり更新となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。