リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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第3話

「リドル寮長ーーーーー!」

「ローズハート寮長!」

「助けるんだゾ~~~~~!」

 

 騒がしい子たちだ。

 穏やかだったハーツラビュル寮の談話室が、一瞬で賑やかな空間になってしまった。まあ、最近は毎日のことなのだけれどね。

 決闘のあったあの日から数日。たくさん説教(OHANASHI)した二人と一匹に、どうやらボク(わたし)は懐かれたようだ。うん、まあ……悪い気はしないから良いかな。問題児とはいえ、ボク(わたし)が寮長を務めるハーツラビュル寮の可愛い後輩であることには間違いないからね。

 

「五月蝿いぞ、三馬鹿~」

「もうちょっと静かにできねえの?」

「つーか、お前らの場合は自業自得なんだからリドルを巻き込むんじゃないよ」

「毎日毎日、懲りないねえ」

「ほーれほれ、こっちにお座りよ。紅茶を淹れてやろうじゃないか」

「お菓子もあんぞ。今日はバウムクーヘンだ」

「はいはい、君たちも落ち着いて。それで? 今日は何があったんだい、エース、デュース、グリム」

 

 副寮長のディーや、副寮長補佐のダムを筆頭とした二年生たちが、ボク(わたし)たちが囲むテーブルの近くに空いた椅子を三脚寄せる。そこにボク(わたし)から見て、右からエース、グリム、デュースが腰を下ろした。

 これも、ここ数日で見慣れた姿だ。

 

「聞いてくださいよ、リドル寮長!」

「なんだい、エース」

「監督生なんですけど、アイツ、またリドル寮長の悪口いってたんすよ。意地悪だとか、厳しすぎるだとか。ハートの女王の法律だって、卒業したら必要ないんだから覚えなくても良いじゃんとかいってて……。そりゃ、卒業したら必要ないだろうけど、四年間ここで過ごす今の俺らにとっちゃ必要なものだし?」

「ただ、それを説明しても、今度は洗脳されてるんじゃないかというんです。そんな事実はないのに、ローズハート寮長に洗脳を解いてほしいと直談判しに行こうとする始末で……。クルーウェル先生が眠りの魔法を使ってくれなければ、ローズハート寮長のクラスに押しかけていたと思います」

「あと、休みの日に勉強を押しつけるのも最悪とかいってたんだゾ。オレ様は大魔法士になるための勉強をしに行ってるって説明してるのに、聞いちゃくれないんだ。むしろ監督生のほうが、オレ様よりも勉強が必要だと思うんだゾ」

 

 こうやって、連日彼らの愚痴を聞いているのだけれど、監督生は本当にどうしようもない子だね。本当に、何がしたいのだろう。うちの寮生ではないから、ハートの女王の法律に文句があるのは別に良い。ただ、うちの寮生であるエースたちにそれをいうのもねえ。

 ボク(わたし)への悪口をいう暇があったら、この世界の常識やエレメンタリースクールの子でも知っている程度の知識ぐらい身につければ良いのに。平日は勉強や学園長からの雑用をこなしていると聞いているけれど、休日はちゃんと与えられているのだから、トレイン先生が渡したという絵本を読む程度のことぐらいできると思うのだけれど。

 彼らの愚痴の内容は、全て監督生と呼ばれる少女に関するものばかりだ。この世界で初めて仲の良い、友達のような存在になってしまったことが原因だろう。今となっては友達といって良いのか悩むとまでいわれているのだけれどね。それは彼女の自業自得だ。

 あの決闘の日までは、確かに友達だったのだろう。けれど、監督生と彼らの道は、あの日違えた。

 エースとデュースにとってボク(わたし)は所属する寮の寮長であり、道しるべである。二人がハーツラビュル寮の寮生である限り、ボク(わたし)は二人を見捨てることなく導いて行こう。まあ、寮生として相応しくない行動をするならば捨て去ってしまっても良いのだけれどね。それは二人だけではなく、ハーツラビュルの寮生全員にいえることだ。

 トレイはどうなんだって? 彼はボク(わたし)が求める副寮長ではなかった。ただそれだけだ。寮生として相応しくない行動をしたわけではないから、それには当てはまらない。最近は挨拶を交わす程度の関わりしかないけれど、何年も会わないでいたのだから特に問題でもなんでもないね。

 嗚呼、そうだ。話は戻るのだけれど、道を違えた時点で彼らは監督生との関わりを切るべきだったんだよ。でも、それはなかなか難しいことだね。だって、同じクラスだし。まあ、監督生が他の生徒との関わりが薄かった、というより関係を築けていなかったのも原因だろう。

 だから、監督生は彼らとの関係をつなぎとめようと必死なのだ。

 教室でも、食堂でも近くの席に座り、教室を移動する際も基本側を離れないのだとか。授業でペアを作る時も、エースかデュースとしか組まないらしい。グリムは監督生と二人で一人の生徒だから、必然的に監督生のいるペアに入る。

 別に彼らも監督生が苦手になってしまっただけで、嫌いではないから一緒に行動することは仕方ないと思っているらしい。監督生が魔力を持たないことから、庇護するべきと考えているのもあるのだろうけれど。さすがは女性に優しい世界だ。過去を守るため、前戦で指揮官として審神者を務めていた(ぼく)からすれば、なんと平和な世界だろう。まあ、それも終わったことだ。

 嗚呼、でも。それを逆手にとっているのだろうね、監督生は。

 魔力がなく、魔法が使えないということはこの学園においてバッドステータスでしかない。この学園の入学を認められたものは、性格がアレでも優秀な魔法士になる可能性を持っている者ばかり。魔力量が一般人と同じだろうが、低かろうが、身分がなんであろうが、最終的に卒業さえできれば進学先にも就職先にも困らないのだ。スラム出身だろうが奴隷だろうが、ナイトレイブンカレッジを卒業した者の進む先に身分は関係ないのだとか。それでも馬鹿にしてくる者はいなくならないのだけれど、人ってそういうものだろう?

 他の魔法士養成学校に比べて授業ペースが速いというのもあるだろうね。ロイヤルソードアカデミーは、授業内容や専門教科に違いはあるらしいけれど、たいだい同じ速さで授業を進めているとチェーニャがいっていた。

 授業時間が一限につき九十分というのもあるだろう。大学と一緒だね。座学は基礎から詰めていく部分も多いからクラス単位での授業が多いけれど、実技の混じる教科は上級生と合同で行うことも少なくない。

 そうやって同級生や同寮のみならず、他寮の生徒とも人間関係を築き上げていくのだけれど、それはこの世界の常識と基本的な知識があり、そして魔力があり魔法を扱うことができることが前提だ。ここは魔法士養成学校だからね。

 しかし監督生はそうではない。だから彼女は、できるだけエースやデュースと一緒に行動しようとする。グリムと二人で一人の生徒とされていることから、グリムはどうにも彼女と共に行動しなければならないのだが、魔法の使用に関してはまだまだ力任せなところが多い。

 そこでグリムよりも魔法を使い慣れている二人と一緒にいれば、どうか。二人とも、まだまだ未熟ではあるけれど、ここの生徒に選ばれただけあるからね。簡単な呪文なら使うことはできる。つまり彼女は、無意識に彼らをいいかたは悪いが肉壁と見ているのさ。

 まあ、実際どうかは監督生本人しか分からないのだけど。

 

「っていうか、そろそろ接触禁止令出しても良いんじゃねえの」

「それもそうなのだけれどね。そうすると、監督生に手を出そうとする馬鹿が今以上に増えるだろう?」

「あー、今ンとこエーデュースとグリムがいるから防げてる事件もあるかンな」

「えっ、アイツ。そんなやばいんですか?」

「やばいっつーか、なんつーか。男子校に咲く一輪の花ってやつ~?」

「年頃のオトコノコたちの中に、たった一人のオンナノコだぜ? 学園長があの子に防衛の魔法具持たせてんのは、無粋なことからあの子を守るため。そして、正規入学した俺ら生徒を守るため。ま、クレーマー対策ってやつだな」

「どこにもモンペはいるもんだ。あと、なんにでも文句つけたい輩」

「寮長会議でも監督生の話題は出たけれど、積極的に関わらないよう自寮の寮生たちに伝達することが決定していてね。ただし、魔法による危険性を感じた時は耐性もこれといった防衛手段もない監督生を守れ、とのことだ」

 

 学園内で死者が出るだなんて、たとえ誰であろうと寝覚めが悪いだろう?

 なんていえば、確かにと頷く寮生たちの姿。グリムは獣であるからよく分かっていないようだけれど、あの雌は守らなければ生きるのが難しいのだといえば、なんとなくではあるが理解したようだ。まあ、獣は雌のほうが強い場合が多いからね。子孫を残すために、雄の命を喰らうことさえあるのだから……。

 嗚呼、そういう意味ではアレも立派な雌だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレ様、ハーツラビュルの寮生になりたいんだゾ」

「あ~、監督生にタダの猫扱いされてるんだっけ」

「そういえば、魔法を使用する授業で、グリムに猫だから無理をしなくても良いとかいっていたな」

「別に無理なんてしてないんだゾ。オレ様はお前たちとは違って足が短いから、魔法薬を混ぜるのも一苦労だけどな。最近はクルーウェルがオレ様専用の踏み台を用意してくれたから前より楽になったんだゾ!」

 

 ほんの数日前から、グリムはよくハーツラビュル寮の寮生になりたいというようになった。

 どうやら監督生から、人の言葉を話すことができる、意思疎通ができる猫ちゃんとして見られているのだとか。人の言葉を話せて、器用に二足歩行までできる炎タイプのニャースが普通の猫だとでも思っているのかな?

 トレイン先生の愛猫であるルチウスが見えてないのかと思ってしまうよ。モンスターであるグリムよりも、ずっと普通の猫だというのに人間の言葉をはっきりと理解しているというからね。さすがはトレイン先生の愛猫だ。アレはもう、某忍術学園のヘムヘム鳴く犬のような存在である。

 

「猫っつーか、狸じゃねえの?」

「狸じゃないんだゾ! グリム様はグリム様だ!」

「へいへい、グリムって種族なわけね~」

「それにしても、監督生って何を考えているんだろうな? グリムが魔法を使うことができるから、魔法の使えない自分も生徒として学園に通えてるっていうのに」

「何も考えていないんじゃないか? まあ、グリムもグリムで監督生がいなきゃ入学もできなかったんだけどさ」

「ふ、ふな゙ぁ……」

「グリム、本当のことをいわれたからといって泣くのは男らしくないぞ」

「うっわ、出た。デュースの男気チャレンジ」

「男気チャレンジってなんだ???」

 

 しかしまあ、エースとデュース、それにグリムもうちの寮に慣れたものだ。最初こそ、なんて問題児たちが来たのかと思っていたけれど、なかなか可愛い後輩だと思うよ。この学園の生徒の大半が問題児なんてことは、置いておくとして。

 末っ子気質で甘え上手。お調子者だが、周りをよく見ているため、なかなか世渡り上手なエース。母親思いな優等生を目指しているようだが、時折ワル語録を見せる純粋で天然なデュース。モンスターでありながら、大魔法士になるため単身学園に乗り込むという度胸の持ち主であるグリム。

 学習態度や学力については学園でも下から数えたほうが早いが、教えたことはスポンジのように吸い込んでいくため、なかなか教え甲斐があると週末の勉強会で先生役を務める上級生たちからお褒めの言葉を頂いている。

 ボク(わたし)は実践魔法を教えているのだけれど、基礎のできていなかったグリムの上達がなかなか早くて面白いんだ。主に日常生活に使える簡単なものから教えていてね、グリム曰く、監督生と共に住んでいるというオンボロ寮の掃除や補修作業に使えるものが多くて助かるのだとか。

 まあ、元が廃墟だからね。

 魔法を使用した掃除や補修作業の仕方を知らないグリムと、魔法の使えない監督生だけではどうしようもない部分は多かっただろう。あそこは普通に魔法が使えたとしても全体を綺麗に直すまで時間がかかる場所だ。外観は良いとして、問題は中。

 学園長とO・HA・NA・SHIして、一般的な水準まで生活環境を整えてもらったらグリムが相当喜んでいたよ。監督生のほうは知らない。学園長は駄々をこねていらっしゃったが、監督生の存在を世間から隠蔽するというならこちらにも手はあるからね。子供だからといって、ボク(わたし)たち生徒をいつまでも庇護対象などと思わないほうが良い。

 まあ、見た目も言動もアレだし、授業中に特別授業と称して現れることもあるのだけれど、この学園を修めている優秀な魔法士だからね。ボク(わたし)たちなど赤子のようなものだろうさ。だから、庇護対象と認識しているのだろうけどねえ……。

 人の心が分からないというのは教育者としてどうなのだろうね?

 

「ねーねー、リドル寮長。グリムを転寮させることってできないんですかー?」

「できないことはないが、グリムをハーツラビュル寮に転寮させる場合、現状では監督生もついてくることになるよ」

「監督生も……」

「ぶなっ! じゃあ、オレ様もハーツラビュルに入れるのか!?」

「どうだろうなあ。今のとこ、寮に空きがないし」

「退学者も留年者も出てないから、グリムを受け入れるとしてもリドルか僕たちと同室になるんじゃないかな?」

「まあ、ボク(わたし)は一人部屋だし、ディーとダムは副寮長室を二人で使っているけれど、グリムぐらいなら受け入れられないことはないからね」

「俺たちの部屋でも良いっすよ。週末とか勉強会に参加して、そのまま俺たちの部屋に泊まってから帰ってるし」

「僕たちと同室の二人も、グリムが泊まりに来ることに慣れていますし」

「そう簡単にいかないのが、グリムと監督生の関係性だといっているだろう。お前たち。グリムも監督生も、お互いがいなければ生徒として受け入れられることなどなかったんだ。だから、転寮の話は寮長だからといって易々と受け入れることはできないんだよ。すまないね」

「ふなぁぁぁ。リドルにいわれちゃあ、仕方ないんだゾ」

「でも、週末の勉強会に参加したら泊まれるし、遊びに来るのだって制限ないからいつでも来いよー!」

「そうそう! 僕たちもグリムと一緒に遊びたいからさぁ」

「ネコチャン」

「もふらせろー!」

「( ゚∀゚)o彡° 猫吸い! 猫吸い!」

「良かったな、グリム」

「次の週末も、また僕たちの部屋に泊まると良い」

「絶対、泊まりに来るんだゾ!」

 

 うん、仲良きことは美しきかな。うちの寮生たちも、大分グリムがいることに慣れてきているし、とても可愛がっている。可愛がりかたはそれぞれだけれど、監督生のようなペット扱いしている者は(多分)いないようだから、グリムもここでは過ごしやすいのかな?

 それにしても、魔法を使用する授業で()だから無理をしなくても良いとはどういうことだ。魔力を持たない監督生だけで課題をこなすことはできないというのに。まあ、彼女は審神者でいうならば短刀を子供扱いし戦場に出さないようなタイプなのだろうからね。

 グリムは正しくは猫ではなく、獣。それも魔力を保有し魔法を操るタイプの魔獣。つまりモンスターだ。ポケットには入らないし、オトモにもならないタイプではあるが、魔力を持たない監督生がこの学園で生きていくためには必要な攻撃手段でもあり、防御手段でもある。自衛するには必要な存在だ。それなのに有効活用しようとせず、都合の良いペット扱いと来たか……。グリムが可哀想だ。

 しかし、だからといって簡単にグリムを引き取ることができない。学園長がそう簡単に許可はしてくれないだろうが、彼女がグリムの監督責任を放棄するならば、すぐにでもグリムをうちの寮生として受け入れるとしよう。その場合はグリム一匹を生徒として認めるか、あるいは聴講生としての受け入れになるかもしれないが、それでもグリムは大魔法士になる夢を諦めることなどないだろう。

 ただ、その場合、監督生の扱いは生徒ではなく元の雑用係に戻ることになる。彼女はそこまで考えることができているだろうか?

 

「さあ、お前たち。課題の終わっていない者は夕食までに終わらせるように。時間のある者は課題を終えていない者のサポートを。提出期限の近い課題がある者はそれを優先させるように。質問にも答えよう。間に合わなかった場合は……、お分かりだね?」

「「「「「はい、寮長!」」」」」

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