リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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第2章 赤の寮長とサバナクロー寮
第4話


 マジフト大会が近づくある日のことだった。

 

「なあ、知ってるか? マジフト大会の有力選手候補が、また怪我したんだってよ」

「へえ? 確か、うちの寮でも怪我してる奴がいたよな」

「気づいたら階段から足を踏み外してたってやつだろ?」

「今度の奴は、確かポムフィオーレの生徒とかいってたぜ。植物園で毒草を摘んでいる際に、そのうちの一つを口に入れたんだとか」

「は? ポムフィオーレの奴がそんなヘマするか?」

ボク(わたし)もその話を聞いたけれど、彼は元々、毒草の効能を知るために一度は自らを実験台にするのだそうだよ。けれど、今回口にした毒草はすでに食したことのあるモノだといっているそうだ」

「へぇ? なら、おかしいな」

「あの毒草は、吐き気や腹痛、下痢に痙攣を起こす。今回は近くにいた生徒の処置もあって吐き気と腹痛のみだけで済んだようだが、あの近くには最悪死んでもおかしくない毒草も生えている。これが人為的に起こされたものであれば、犯人は彼を殺していてもおかしくなかったよ」

「確かに」

「階段から足を踏み外した奴も、気づいたら体が動いていたとかいってたが。アイツの反射神経がよくなければ、最悪打ち所が悪くて病院送りだっただろうな」

「チッ。人為的なら面倒な事件を起こしやがるぜ」

 

 ナイトレイブンカレッジでは、近々マジカルシフト大会が行われる。マジカルシフトとは通称マジフトと呼ばれており、ボールの代わりにディスクを使用しるサッカーのようなアメフトのような、クディッチのような魔法の使用が許可されているスポーツだ。

 今回は寮対抗戦だが、ロイヤルソードアカデミーとの学園別対抗戦もあり、そちらはもう約百年は負け続けている。こちらが男子校、あちらが共学ということもあり技術ではなくモチベーションの維持が一番大切といわれているのだが、その話は置いておこう。

 とりあえず、この世界でメジャーなスポーツ競技であるマジフトの試合はなかなか人気が高くてね。うちのマジフト大会もメディアが入り、全世界へ放送されるんだ。観客席にはプロチームのエージェントもいるようで、学生のうちから有力選手候補として仮契約を結ぶものもいるほどだ。

 特に強いのはマジフト部の部員が多いサバナクロー寮なのだけれど、去年も一昨年もディアソムニア寮のマレウス・ドラコニアによる蹂躙で一点も入れることなく初戦敗退してしまっていてね。毎年のように卒業後プロ入りする選手がいたというのに。サバナクローの去年と一昨年の卒業生から、プロ入りした人は残念ながらいないんだ。社会人チームに入ったという人や、進学先のマジフト部に入ったという人はいるのだけれど。

 まあ、そういうことでサバナクロー寮はディアソムニア寮というかマレウス・ドラコニアに対するあたりが強いうえ、敵視しているといっても良い。今年も荒れるだろうなあ。巻き込まれる他寮のことも考えて欲しいが、実力主義の獣人が集まるサバナクローにはいっても聞いてはくれないだろうね。

 

「今日の寮長会議の議題ってマジフト大会か?」

「嗚呼、そうだよ。まあ、出店とマレウス先輩の扱いについてじゃないかな」

「出店はオクタヴィネルの管理下だから、特に気にしなくても良いだろ。出店に出る奴らは、もう必要な申請書類出したみたいだし」

「え~? ドラコニア先輩、試合出禁になっちゃう感じ?」

「殿堂入りしちゃうとか?」

「ありえる~~~」

「でも、それしたらサバナクローっつかキングスカラー先輩、キレんじゃね?」

「それな」

「レオナ先輩か……。あの人も立場的になかなか難しい人だが、二年連続であのような結果では、いわれなくても良い言葉を反対勢力から余計に投げつけられていそうだな」

「第二王子だしな。一般市民な俺らにゃ理解できんが、小さいころから比べられっぱなしってのは嫌だわなぁ」

「地頭は良いのに出席日数で留年してるあたり、卒業して国に戻ったら面倒なんだろうなって思う」

「僕ならむしろ、さっさと卒業してトンズラしてやるね。自分を認めてくれる人のいる場所にいって、功績つんでやるよ」

「ひゅ~! 強気ィ!」

 

 ボク(わたし)も医者の息子なだけの一般人だからね。レオナ先輩の行動や考えが理解できるわけではないよ。ただ、どうしてふてくされているばかりなのかと思うだけだ。

 知識も実力も、身分の高さだってある。その身に流れる尊き王族の血は、どこにいようと狙われるものだ。第二王子という身分を捨てたところで、血は変わらないのだから。

 しかしけれど、その立場を捨てることで得るものも多いだろう。何せ、彼を慕うサバナクロー寮生は多い。レオナ先輩を追い抜いて卒業していったサバナクロー寮生や、マジフト部の元部員たちも、その多くがレオナ先輩を慕い、尊敬していた。本人は、どうやら理解していないようだけれどね。

 あれだけ愛されているというのに、自分自身は嫌われ者だと思い込んでいるレオナ先輩の闇が深い。授業でたまたまペアを組んだことがあるのだけれど、あそこまで自己肯定感の低い人はなかなかいないよ。あんなテンプレ俺様跡部様CV諏○部みたいな見た目をしておいて、中身大典太とか正気か?

 もてあたはしないから、山姥切(長義)ではないと思う。

 さて、今年のマジフト大会はどうなることやら……。選手として出なくても良いだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、ではこれより十月に行われる寮対抗マジカルシフト大会についての寮長会議を始めます。最初に大会運営委員長であるオクタヴィネル寮のアーシェングロットくんから報告があります」

 

 マジフト大会に関する寮長会議が始まった。

 しかし、毎度のことだがマレウス先輩を招待し忘れるのは意図的なのだろうか? 今日も姿が見えないようだし。

 ボク(わたし)が寮長会議の議長を務める日は、いつも出席しているのだけれど……。レオナ先輩はマレウス先輩を嫌っているようだから、意図的に連絡を入れていないのだろう。他の寮長たちは、無意識に忘れてしまっているのかもしれないね。彼らはレオナ先輩のように、マレウス先輩を嫌っているわけではないから。まあ、畏れてはいるのだろうけれど。

 だが、招待されるのを待つばかりのマレウス先輩もどうかと思うんだが……。保護者だというリリア先輩も、なかなかに自由な人だからな。うん、これについては後日考えるとしよう。

 

「運営委員長のアズール・アーシェングロットです。よろしくお願い致します。ではまず会場となるコロシアム周辺に設置予定の出店についてですが、外部企業枠、内部部活枠共に全て埋まりました」

「おっ! いいねえ。賑やかになりそうじゃないか」

「各国のロイヤルゲストへの招待状は全て送付完了。観客席のチケットの売れ行きも順調です。そして今年も例年同様、多数のテレビ局と新聞社より取材申し込みが来ています」

 

 さすがはアズール、運営側としての手際が良い。学生でありながら商人として活動しているだけあるね。

 彼がオクタヴィネル寮生たちと運営するカフェ、モストロ・ラウンジには何度か足を運んだことはあるけれど、学業もあるというのに支配人としてカフェを切り盛りし、また寮長としての仕事までこなすだなんて、とんだ努力家だよ。

 それに彼、総合成績は学年でもトップクラス。ボク(わたし)とテストの度に一位争いをしているのだから、本当に凄いよね。去年の騒動もあるし……。多分、今年も何かしら動くだろうね。

 去年のことを考えると、寮生たち、特に一年生たちにアズールと軽率に契約を結ばぬよう周知させておかなければ。去年はまだ、それほど被害者はいなかったが今年は更に増えるだろう。アズールも味を占めただろうからね。まあ、被害者とはいっても自業自得なんだけどねえ……。

 口約束などではなく、契約書を用いた歴とした契約。しかも相手側から提示された契約書とくれば、どのような魔法がかかっているかも分からない。そして、契約を結んだ時点の契約書の写しがなければ捏造など、どうとでもなるのだから。

 

「今年こそウルトラヴィジョン対応の崩れないベースメイクを完成させなきゃ。運動量が多いから、お直しの回数が増えるのよね」

「はぁ……。メイク直しのためにタイムアウトを取るのは、ポムフィオーレ寮くらいですよ。いつも通りでも十分綺麗なのに、どうしてそこまでメイクに力を入れるのか」

「アンタはもうちょっと、外部の人に見られるということを意識しなさい。それと、普段のメイクと運動時のメイクは全く別モノなの」

「なんで皆、顔出し生放送に対して前向きなん? こちとら想像するだけで吐きそうなんですけど?」

「ゴホン! 皆さん、お静かに」

「あ、悪い悪い」

「各寮出場選手が決定次第、登録書類の提出を。提出期限に一日でも遅れた場合……」

「失格かな?」

「いえ、別途処理手数料をいただきます。特急料金というやつですね」

「なるほど。それならまあ、妥当といったところか」

 

 アズールが運営を担当している時点で、何かしらに金銭がかかることは寮長の誰もが理解しているだろう。嗚呼、マレウス先輩は知らないかもしれないね。まあ、興味があれば調べることぐらいするだろう。

 

「さて、次に対戦表の話ですが……。私から一つ提案があります」

「提案ですか」

「今大会から、ディアソムニア寮寮長……マレウス・ドラコニアくんを殿堂入り選手とし出場を見合わせてもらおうかと思うのです」

 

 嗚呼、やはり。さすがにディアソムニア寮とあたった寮が一点も入れることなく完敗しているとなれば、マレウス先輩の出場を見合わせることを考えるだろうね。ボク(わたし)も去年の試合を見ていたけれど、アレは試合なんてものじゃない。ただの蹂躙だ。

 あの人はまあ、箱入りなところがあるから加減というものを知らないところがあるし……。仕方ないといえばそこまでだけれど、保護者であるリリア先輩がもっとマレウス先輩に自覚を持たせるべきなのではないだろうか。

 

「この大会は単なる娯楽ではありません。新たな才能を持つ魔法士を発掘するために世界中が注目しています。それにも関わらず対戦相手どころかディアソムニア寮の選手も一度も魔法を披露することなく試合が終わる。異常事態といって良い」

「あー、分かる。俺つえー展開も連続すると萎え」

 

 ディアソムニア寮の点数はどの試合も百点を超えていた。その九割はマレウス先輩の手によるものだ。同じチームであるディアソムニア寮生たちなど、せっかく寮代表選手に選ばれたというのにも関わらず棒立ちの人がいたぞ。アレは酷い。

 ケイトからマレウス先輩が出場した試合がマジカメのトレンドに上がっていたと聞いたことはあるけれど、嫌な予感しかしなかったよ。あとで確認したら、チームワークを求める投稿や、相手側の選手が可哀想などといった投稿がいくつもあってね。マレウス先輩が凄いということは分かったが、相手側の実力が分からなすぎて面白い試合ではなかったというものもあった。

 プロリーグチームのエージェントだろうアカウントの投稿も見かけたけれど、実力は見事なものだが選手として受け入れることはないだろうとかなんとか。まあ、あの人が進んでマジフトの選手になるとは思わないけどね。

 ただ、そのおかげでこの二年間。トーナメント一回戦でディアソムニア寮とあたった優勝常連寮であるサバナクロー寮が初戦敗退ときた。その結果が、去年と一昨年のサバナクロー寮卒業生からプロリーグ入りしてないとなれば、学園長も対策を考えることになるだろう。

 ただ、それをレオナ先輩が許すわけがないのだ。たとえ、学園長が生徒たちのためを思って提案したことであっても。

 そしてボク(わたし)もマレウス先輩の殿堂入りに関しては反対だ。(ぼく)がどれだけ、刀剣男士(かれら)の主として相応しい将になるため努力してきたと思っているんだ。どれだけの犠牲のもと、歴史を守ってきたと思っているんだ。どれだけ血反吐を吐きながら最期まで生き続けたと思っているんだ。

 力押しで勝てないならば、頭を使う。レオナ先輩も良いことをいうね。そうさ。それこそが戦いだ。それこそが戦争だ。足掻いて足掻いて死ぬならば、ソレも一興。ディアソムニア寮と対戦する時は、全力を持って相手させてもらおうじゃないか。

 

「だから、応援してね。──歌仙」




用語。

■ラーヌンクルス
ポムフィオーレ寮生が、誤って()口にした毒草。
キンポウゲ。
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