リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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第6話

「クローバー先輩が怪我したって聞いた時はどうしたもんかと思ったけど、どうにかなりそうだな」

「寮内選抜を厳しめにしてたからじゃね? ほら、対マレウス先輩の可能性がありえないとはいえないし」

「それな。あーっ、マジキツかった!」

「上級生もキツいっつってたぐらいだかんなー。ま、去年のマジフト大会見たあとから鍛え始めてて良かったわ~」

「去年選手だった先輩でも、今年の選抜キツすぎて落ちてたぐらいだもんなあ。いやあ、去年選ばれたからといって油断はいけんね」

「油断っていうか、俺たちが去年の選抜後から鍛えてただけじゃん。怠慢怠慢」

 

 マジカルシフトは特殊な金属から作られるディスクを、魔法を使用してゴールまで運び、相手側はそれを阻止し奪い合う。アメフトのようなサッカーのようなクディッチのような、ツイステッドワンダーランドで人気の七人制スポーツだ。

 試合中は怪我人が多く出ることから選手の交代は自由で、また制限もない。一度ベンチに下がったとしても、何度も試合に戻ることが許されているのだ。ちなみに、一チームにつき五十三名まで選手登録ができるが、一試合に出場できるのはそのうちの四十五名となっている。ということで、我がハーツラビュル寮では残り八名を補欠枠と呼んでいたりする。

 今回、トレイはレギュラー枠だったのだけれど、残念ながら怪我のせいもあって補欠枠と入れ替えになった。まあ、補欠とはいっても寮内選抜をくぐり抜けた寮生たちだから実力的な問題はない。マジフト部の一年生がレギュラー枠を勝ち取ったと聞いた時は驚いたけれど、どうやらプロ時代のバルガス先生に憧れていたようでね。エレメンタリースクール時代からマジフトをやっていたというのだから、生粋のマジフト馬鹿だと思ったよ。もちろん、褒め言葉だ。

 ボク(わたし)はハーツラビュル寮チームのキャプテンを務めている。必ずしも寮長がキャプテンでなくても良いんだけどね。寮長相手に指示を出すのはなんともいえないという人もいるもので、基本的に各寮のキャプテンは寮長となっている。イグニハイド寮の寮長であるイデア先輩は、滅茶苦茶嫌がっているんだけどね……。飛行術は苦手だけれど、ディフェンスとしてなかなかの実力を持つ人だから、逃げられないってことを自覚して欲しいとクラスメイトのイグニハイド寮生がいっていた。

 

「それにしても、監督生ちゃんが動いてるんだって?」

「学園長が彼女に事態の収拾を頼んだからね」

「おいおい、正気か?」

「生徒として受け入れられたというのにも関わらず、まともに勉強をしない。魔法を使用する授業で、グリムに対して魔法の使用を禁止するとも取れる発言。支給したマドルを必要以上に使うなどなど。そういうこともあって、生活費が欲しいならば雑用をこなせ、ということさ。オンボロ寮の改修を学園長に頼んだのは、間違いだったかもしれないね……」

「嗚呼、オンボロ寮が人が住めるぐらいマシになったのってリドルが学園長に頼んだからだっけ」

「ローズハートも優しいよなあ。あんなに自分のこと嫌ってる子の生活を考えてやってるんだぜ?」

「優しさの塊じゃん。ま、それを監督生は理解していないっていうか知るつもりもないんだろうけどな」

「イレギュラーとはいえ、学園内での生活を許されているんだ。それなのに廃墟でまともな生活をしろというのは、無理があるだろう? 必要なお金に関しては、監督生が女性ということもあり先生方が経費で落とすことを許してくれたんだ。あと教科書は新品ではないにしても、卒業生が寄付した物を渡されているし、ノートやペンなどは生活費などとは別で支給されているよ」

「私服とかは麓の街でそろえたんだっけ?」

「監督生が男性だったなら、下着以外の服は卒業生が寄付した物から与えることもできたといっていたんだけどね。女性ならばそういうものは忌避する場合が多いだろう? それに、女性は服以外にポムフィオーレ寮生とまではいかないが日用品として必要な物が多いからね。既婚者である先生方に頼み、奥様方の協力を得てそろえてもらったんだよ。奥様方が不要なものも寄付ということで、いくつかいただいているのだけれど……」

「あの子にゃちょっと大人っぽすぎるものが多いんじゃないか?」

「あー、良くも悪くもイマドキの子だからね」

 

 でもまあ、好意として頂いた物だから仕方なく身につけている時はあると学園長がいっていた。根は悪い子ではないのだろう。自分の正義というものに思考が凝り固まっているのはなんともいえないのだが……。

 ボク(わたし)と彼女の掲げる正義は違う。けれど、どちらか一方が間違っているというわけではない。皆が皆、同じ正義を信じているわけではないのだから。一卵性の双子であっても、それぞれの嗜好も考えも進む先も、全てが全て同じというわけではない。だから、(ぼく)と彼女が同じ日本人だとしても、全くの赤の他人であり別人なのだから同一の考えを持っていることはありえないのだ。

 でも、そうだね。彼女はボク(わたし)を嫌っているようだけれど、ボク(わたし)は別に彼女を見捨てようと思ったことはない。生活面においては、さすがにあの廃墟で生活させるのはどうかと学園長に相談したけどね。学習面においては、グリムに週末の勉強会に参加を許しているぐらいだ。彼女が臨むなら、参加させていたし基礎の基礎から知識を叩き込んでいたさ。最近では漫画で学べる本や、動画で学べるようにもなってきているから、平成令和あたりの子ならそっちのほうが覚えやすいだろう。

 まあ、一度は勉強会に誘うようエースにいってみたのだけれどね。忙しいしボク(わたし)に勉強を教わるのは嫌だといっていたらしい。あと、ハートの女王の法律を押しつけられそう、だったかな? ハーツラビュル寮の寮生でもない人に、我が寮独自のルールをどうして強制的に守らせなければいけないのか教えてほしいくらいだよ、全く。そんなことに労力を割く時間が惜しい。

 

「さて、他寮への対策を練らないとね」

「ハハッ。まさかリドルが偵察魔法を使うとは思わなかったぜ」

「どこも偵察魔法への対処はしてるはずなのにね? アレ、どうやったんだい?」

「ふふっ、企業秘密というやつさ」

 

 まあ、脇差程度の偵察値を付与した式神を、魔力ではなく霊力を込めて作っただけなのだけれどね。上手くいって良かったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リードルくん、ちょっと時間あるかな?」

「ケイトか。怪我はもう良いのかい?」

「えっ、大丈夫だけど……。なんでオレが怪我したなんて知ってるの?」

「エーデュースたちと、次に狙われるだろう有力選手の調査にいったんだろう? それと、レオナ先輩から苦情が来ていてね」

「うっわ、全部バレてるじゃん。まあ、リドルくんなら分かっちゃうのも仕方ないかぁ……。うん、エーデュースとグリちゃん、監督生ちゃんと一緒に調査してきたよ。今のところ、一番怪しいのはサバナクローかなって思ってるところ。でも、マジフトでオレたち皆こてんぱんにされちゃってさあ。サバナクローの一年生のジャック・ハウルくんって子に助けてもらって、どうにか寮に帰ってきたところ。まさか、レオナくんから連絡が来てるとは思わなかったなぁ……」

「ふふっ。君は選手に選ばれるほどマジフトに慣れているけれど、エーデュースはまだまだお遊び程度の実力だし、グリムはそもそもやったことがないからね。おかげで練習場が的外れな魔法でボロボロになったって、レオナ先輩から直接連絡が来たんだ」

「うっわ~、やっちゃった」

「まあ、お詫びの品は後日贈ることにしたから気にしなくても良いよ。麓の街で人気の自家製ソーセージアソートパック、よろしくね?」

「それって売り切れ必須商品じゃん! はぁ……、了解っと」

 

 寮長室。つまりボク(わたし)にやってきたのは、風呂上がりの格好をしたケイトだった。

 どうやら、トレイの見舞いに来たエーデュースとグリム、監督生と共に犯人捜しの旅をしていたようだ。学園長が監督生に任せた、今回の『マジカルシフト大会に出場する有力選手(候補込み)から怪我人が多く出ている』事態の収拾を手伝って欲しいと願われたため、共に聞き込みを行いにいっていたというほうが正しいかな?

 そこでポムフィオーレ寮やオクタヴィネル寮、サバナクロー寮から、次に狙われるだろう選手を予想し確認してきたという。まあ、その中で出てきた名前は、各寮でも特に有名ドコロなので逆に狙われないのではないかと思うのだけれどね。嗚呼、サバナクロー寮の子は置いといて。

 スカラビア寮、イグニハイド寮、ディアソムニア寮の情報がないのは、サバナクロー寮で急遽マジフトをすることになったからだろう。体力も集中力、保有魔力も奪われるスポーツだからね。特にサポートに回ることになったケイトはいつもより疲れているようだ。胸元のマジカルペンを見れば、魔法石にブロットの染みが広がっている。一日眠れば問題はないだろうが、ケイトは溜め込むタイプだからね。

 今日来たのも、報告のためだけじゃなくて落ち着ける場所に行きたかったからだろう。こうやってケイトがボク(わたし)の部屋にやってくることは、少なくない。

 

「ケイト、ソファに座ると良い」

「えっ? 今日の報告は終わったけど……」

「良いから座るんだ。疲れているんだろう? ボク(わたし)がお茶を入れよう。嗚呼、そこのお菓子は好きに食べると良い。甘いものは置いていないから、君でも食べられるだろう」

「ちょ、えっ、あのリドルくん!?」

「嗚呼、ドライヤーもついでに持ってこようか」

 

 立ち上がって備え付けのキッチンへ向かう。後ろからはケイトの引き留めるような声が聞こえるが、無視無視。

 今日は休みだったけれど、最近はほとんどマジフト大会に向けての練習で放課後は潰れていた。それなのに、せっかくの休日に校内を走り回り、サバナクロー寮とのマジフトで後輩たちのサポートを全てこなして帰って来るだなんて、馬鹿といっても良い。

 ケイトは要領が良いけれど、精神的な面は不器用そうだからね。体も心も、ゆっくり休む時間をしっかり摂ってもらいたいものだ。どちらか一方をないがしろにして、堕ちるモノの姿をたくさん目にしてきたから……。どうか、ボク(わたし)が守り、支えられるうちは休ませてあげたいんだ。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとう、リドルくん。これは、東方から取り寄せたっていうお茶?」

「そうだよ。紅茶やハーブティーとはまた違っていてね。すっきりとしていて飲みやすいんだ」

「ふぅん。……あっ、ホントだ。ちょっと苦いけど、結構飲みやすいね」

「疲れた体を休めるのには良いと聞いているよ。嗚呼、あまり飲み過ぎてはカフェインの摂りすぎで眠れなくなってしまうから、気をつけるんだよ」

「うん、ありがとう。リドルくん」

 

 へにゃりと、いつもとは違う笑みをケイトは浮かべた。

 嗚呼、これはそうとう疲れているようだ。さて、髪を乾かさないとね。

 

「ちょ、髪を乾かすって冗談じゃなかったの!?」

「冗談でドライヤーを持ってくるわけがないだろう。ほら、前を向いて。お茶を飲んでお菓子を食べていると良い。ボク(わたし)は勝手に髪を乾かしているから、気にしなくて良いよ」

「気になると思うなぁ!?」

「はいはい」

 

 その日の夜。スカラビア寮の二年生、ジャミル・バイパーが怪我を負ったという情報を手に入れた。

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