リドルになった元審神者とHL寮モブたちの平穏な日々   作:都月飴

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第7話

「なあ、アレ」

「んー? ケイト先輩とエーデュースにグリムじゃん」

「監督生ちゃんもいるな。ってことは、朝っぱらから聞き込み中ってやつ?」

「ケイト、まだ疲れがちゃんと取れていなかったと思うんだけど」

「あー、もしかして昨日、寮長室に来てた?」

「うん。一年生たちの全面サポートに回っていたようでね。ブロットもいつもより溜まっていたから、ぐったりしてたよ」

「うわぁ……」

 

 大食堂にて朝食を食べていると、視線の先にはスカラビア寮のジャミル・バイパーに話しかけるケイト、エーデュース、グリム、監督生の姿が見えた。

 それにしても、グリムの口の利き方はもう少し矯正しなくてはいけないね。モンスターだからといって、この学園の一年生として立場が認められているのだから。一年生相手ならまあ、まだ良いだろう。しかしジャミルは二年生。ボク(わたし)と同じ学年だ。

 嗚呼、それよりも簡単な敬語から始めたほうが良いのかな?

 

「うっっっっわ、ジャミルの迷惑そーな顔! ウケる」

「そういやカリムって、入学式でケツに火つけられたんだっけ?」

「食事時にケツっていうなよ。おケツっていえ」

「いや、そういう問題じゃないだろ。いくらカリムが大富豪の息子だからといってさ」

「”お”をつければ、なんでも良いと思っていないかい?」

「バレたか~」

 

 ここからだと会話が聞き取りにくいね。式神を飛ばしておこう。

 近くに置いてあるナプキンに簡易術式を書き込み、息を吹きかける。するとソレは立ち上がり、煙のように消えていった。

 

「ん? 偵察か?」

「偵察というよりは盗聴だよ。あとでケイトから話があるだろうけれど、向こうの会話が気になってね」

「ふぅん?」

「ジャミルなあ。アイツが怪我するってそうとうだよな」

「ミスター平均点とかいう、器用すぎることできる奴だしな」

「それは今、関係ないと思うぞ」

 

 ジャミルの座る席の下についた式神から聞こえる会話は、なかなか面白いものだった。

 今回の事件は、ラギーのユニーク魔法によって怪我人が出ている。相手の動きを制御し、ラギーと同じ行動を取らせることにより、体の自由を一時的に奪われた相手は怪我をする。毒草を故意に口に入れたり、階段から踏み外したり、熱した魔法薬が入った鍋の中に手を突っ込んだり、包丁で手を傷つけるなどして。

 どれもこれも、一歩間違えば不自由な体での生活を強いられるか、命を落としていた。まあ、それはさておき。

 相手の動きを制御するという点で、体の動きに違和感を持ちユニーク魔法が使用されたとジャミルは気づいたのか。ジャミルのユニーク魔法もラギーのモノと似たような性質なのだろうか。体か、精神か。どちらにしろ、相手の動きを制御するものなのなのかもしれないね。

 それにしても、体の動きを一瞬でも奪われるというのは厄介だ。この前、ボク(わたし)が階段から落ちかけたのもラギーの仕業だろうが、ボク(わたし)は何も感じなかった。

 うーん、霊的なモノに対する感知はできるのだけれど、魔法だと形態が違うから難しいな。特にユニーク魔法は同系統のユニーク魔法を持っていなければ、違和感すら感じないとは……。とりあえず、結界の枚数を増やしておこうか。備えあれば憂いなしってね。

 

「カリムがジャミルに襲われてんだけど、なんか変なことでもいったのか?」

「うーん、カリムくん。善意で隠し事でも口にしちゃう子だからね~。ジャミルくんが不利になりそうなことでも口走ったんじゃない?」

「やりそう。っていうか、よくやってるもんな」

「カリム、全てを焼き尽くす灼熱の太陽タイプだからな~。善意で地雷を踏んでくる陽キャすげぇわ」

「よく世話できるよな、ジャミル。っていうか、あの(・・)カリムの世話できんのに、ミスター平均点とか嘘だろ。俺が考えた最強の平凡マンになろうとしてるって感じ」

「ウケる」

「でも、アイツら主従じゃん。主より力があるって隠さないと、周りから何かいわれたりするんじゃねの。謀反しようと思ってるんじゃねえのとか」

「あ~~~、偉い方々の考えは分からんな。でも、自分の地位を脅かされたくないから、疑心暗鬼になっちゃう人もいたり?」

「王族とか貴族はそういうもんだろ」

「はいはい、君たち。それ以上はジャミルに聞こえてしまうよ。早く朝食を食べよう」

「はーい」

「りょ~」

 

 どうやら、ラギーが犯人であることに彼らは気づいたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラギーが駆ける。校内、廊下、中庭を。その後ろを、ケイトたちが追いかけていた。監督生は少し遅れ気味だが、それは男女の差というものだろう。まあ、そもそもラギーが獣人だということもあるのだろうが。

 よく見れば、ケイトのものだろう赤い魔法石のついたマジカルペンがラギーの手の中にある。奪われたのか。確かラギーはスラムの出身だといっていたからね。生きるために身につけた技術というものは、なかなか厄介なものだ。特に、マジカルペンがない状態で魔法を使うことに危機感を持つ者からすれば。

 

「シシシッ! こんなんスラムの裏道に比べたら余裕ッスよ。つかさぁ、もしここでオレを捕まえたって、アンタらオレが犯人っていい切れなくないッスか?」

「なんだと?」

「だって、オレが怪我させたって証拠、ないッスよね。誰かオレが魔法使ってるとこ見たんスか? そんで、それ写真に撮ったりしたんスか? してないッスよねぇ?」

「うぐっ……。そ、それは」

 

 エースとデュースは口ごもる。まあ、ラギーのいっていることは正論だからね。

 彼らは、ラギーが犯人であろうという確信を得たのは良いが、怪我人が出た場所にいたわけでもない。ラギーがユニーク魔法を使い怪我人を出したところを見たわけでもないし、写真や動画に撮っていたわけでもない。現行犯であればラギーを捕まえ、学園長の前に突き出すこともできただろう。

 まあ、実際のところ……学園長の元には、ラギーがユニーク魔法を使用して怪我人を出したという証拠写真も動画もあるのだけれどね。もちろん、その中にはボク(わたし)が階段から落ちかけた際のもある。

 ラギーや周囲にいたサバナクロー寮生は気づいていなかったようだが、イデア先輩の協力を得て、該当者(・・・)の周辺にステルス機能などを搭載したドローンを飛ばしていたのだ。一台だけではなく、複数台によってあらゆる角度、距離から撮影され収拾された証拠は、監督生が事態の収拾を達成できなかった際の切り札だと学園長は嗤っていた。

 嗚呼、なんて趣味の悪い。頼れる大人ではあるが、ああならないように気をつけないとね。ま、政府の嫌みったらしい人たちに比べればマトモな人だし、ちゃんと尊敬はしているよ。

 

「卑怯者! ケイト先輩のマジカルペン返してよ!」

「卑怯者? 褒め言葉ッスわ。シシシッ! 次にオレを追い回す時には、証拠そろえてから来てくださいッス。ま、君たちじゃ次も無理だろうけど」

 

 相変わらず、監督生は元気だね。スラムで生き抜いてきたラギーに卑怯者、とは。

 

「んじゃ、今日の追いかけっこはここまで。あ、さっき盗ったマジカルペンはここに置いとくッスよ。ばいばーい♪」

 

 足下にケイトのマジカルペンを置いたラギーは、また駆け出す。校舎内に入った彼の姿を、中庭から動けずにいるケイトたちからはもう見えないだろう。

 廊下の先にある角からラギーが現れ、一度だけ視線が合う。驚いた表情をしていたようだ。しかし、それもすぐにボク(わたし)がいる方向とは反対側へと駆けていってしまったため、小さくなっていくラギーの後ろ姿をただ見つめる。

 ラギーは、何がしたいのだろう。

 レオナ先輩は、何がしたいのだろう。

 何を望み、何に臨もうというのか。当事者ではないボク(わたし)には分からない。けれど、彼らが関係のない人々を巻き込むことすら厭わないのならば……。

 

 

 

 

 

──ポタッ。

 

 

 

 

 

「覚悟は、おありかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日はナイトレイブンカレッジにおいて、寮対抗マジカルシフト大会が開催される。

 寮生たちは昨晩から騒がしく、しかし大会に出場する選手たちは落ち着きを保っていた。

 ボク(わたし)には、やるべきことがある。それは寮生たちも同じだ。

 

「リドル、こっちの準備は終わったぜ」

「エーデュースは監督生の対応にいってもらったから、安全圏から監督生が出ることはないと思うよ」

「あっちにはグリムもいるし。まあ、最悪戦闘に巻き込まれても一時的なしのぎにはなるでしょ」

「選手以外の配置も終わったようだな。シュラウド先輩が算出してくれた安全圏ギリギリから出なければ、入場行進や会場で騒動が起きてもすぐに対応できるだろう」

「他寮の協力者もオッケーだってさ」

「うん、順調そうだね」

 

 途中、ケイトからスマートフォンに連絡が入った。

 今回ケイトは、ユニーク魔法によって生み出した分身をディアソムニア寮の生徒に変化させ、マレウス先輩と共に入場行進に参加するという、特に危険な任務に就いている。

 分身の変化には魔法薬を使用し、できるだけケイトの負担を減らしているが……。今晩は部屋に来るかもしれないね。まあ、ボク(わたし)が発案者なのだから、しっかりともてなそう。

 

「時間だ」

 

 ボク(わたし)は、どれだけの人々を助けることができるだろうか。

 ボク(わたし)たちは、どれだけの犠牲を払わずにいられるであろうか。

 大会を一目見ようとやってきた無辜の民。どのような人であれ、どのような生い立ちであれ、どのような階級であれ。今日この場において、いずれもボク(わたし)には関係のないものであった。

 彼らは守るべき人々である。生かすべき人々である。無謀な策略によって、命を落とすべきではない人々だ。幼き者、老いし者。この場に集う観客は皆、ボク(わたし)が守ると決めた命。

 

「これはボク(わたし)の、ただの自己満足。守りたいと思ったから、守る。ただ、それだけの願い」

 

 泣き喚くだけだったころのようには、戻れない。

 こんな(さにわ)でも、できることがあったから。

 だから、そのために多くの命を奪ってきた。

 それは、誰もが同じだった。

 けれど、止まることなどできなかった。

 そこに、後悔はない。

 

「ナイトレイブンカレッジ寮対抗マジカルシフト大会へご来場の皆様。大変長らくお待たせいたしました。いよいよ選手の入場です!」

 

 さあ、準備は良いかい? リドル(きみ)

 

「まずは去年の優勝寮! 三連覇なるか? 君臨する閃光! ディア~~~~ソムニアアァ~~~~~~~!!!」

 

 どうか、刀剣男士(かれら)の代わりに見守っていておくれ。

 ボク(わたし)の中で眠り続ける、リドル(きみ)

 

「イデア先輩から、対象が動き出したと一報!」

「総員準備!!!!!」

「「「「「はい、寮長!」」」」」

 

 さあ、行かなければ。

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