日が完全に落ちた頃、翔陽と潔子は二人で校門前で並んでいた。
「さっきはありがとうね。おかげで落ち着いた」
「いえ、先輩が元気になったなら良かったです。それじゃ俺はこれで」
急がなければ翔陽の帰り道は危なくなる。この学校の行き帰りには、山を一つ越えなければいけない。
チャリに跨り、漕ぎ始めようとした時
「あ、ちょっと待って」
潔子から制止の声がかかった。
「どうしたんですか?」
「自己紹介まだだったから。私は3年B組の清水 潔子。君の名前は?」
「1年A組、日向 翔陽です。それじゃ清水先輩、気をつけて帰ってくださいね」
「うん、日向君も」
翔陽はライトをつけて、自転車を走らせた。その後ろ姿を、潔子は見えなくなるまで見ていた。
「1年A組・・・か」
次の日の昼休み
「おーい翔陽!飯食おうぜ!」
「おう、いいよ」
「今日はこの後練習はしないのか?」
「体育館使えないしな。今日はゆっくりしてるよ。それより廊下が騒がしいけど、喧嘩でもあったのか?」
「さぁ?またサッカー部と野球が言い争ってるんじゃ無いか?」
この学校のサッカー部と野球部は昔から仲が悪く、何か事ある事に問題を起こしているのだ。
翔陽達1年も、最近はそれにも慣れてきたので、気にせず昼食の準備をしている。
しかし、この騒ぎの原因はサッカー部と野球部に揉め事では無く、全く違う原因にあった。
その正体は清水 潔子。本人は気付いてないが、この学校ではかなり有名人だ。
一年生の間ではまだ知られてはいないが、かなりの美人がいると言う事で注目の的になっている。
「(久々にこの階に来たけど、何か注目されてる?それよりも1年A組は・・・あ、あった)ねえ、ごめん。ちょっといいかな?」
「え・・・・?あっ、はっはい!な、なんですか!?」
「このクラスに日向君っている?」
「え?ひ、日向ですか?いますけど・・・、あ、おーい日向!お前にお客さんだぞー」
「なぁ翔陽、昨日聞いてきた陸上部の清水先輩は見に行ったのか?」
「ん?あぁ、見に行ったよ。なんで?」
「どうだった?綺麗だったか?可愛かったか?」
「綺麗だし可愛かったよ。それにかっこよかった」
「まじか!それってもう最強じゃねえか!俺にも紹介しくれよ!」
「なんでそうなるんだよ。大体俺と先輩はなにも
「おーい日向!お前にお客さんだぞー」
日向は呼ばれた方に振り向く。すると、潔子が日向に向かって手を振っていた。
「おい翔陽、『清水先輩とは何も』の先はなんだ?何も無いと言いたかったのか?それにしては随分と仲がいい様に見えるが?」
「悪い、今日は一緒に食べれないわ」
「この裏切り者がああああ!」
クラスメイトは泣きながら教室を飛び出していった。
商用はクラスメイトが飛び出していった後、潔子の元に向かう。
「昨日ぶりですね、先輩。こんにちは」
「うん、こんにちは。いきなりごめんね?もしかして邪魔だったかな?」
「いえ、アイツの事は気にしないでください。それよりどうしたんですか?」
「もし良かったら、一緒にご飯を食べようと思って。他に約束が無いならだけど」
その一言に周りが一斉にザワついた。これだけの美人がいきなり翔陽を昼食に誘っているのだ。
しかも潔子は3年で、翔陽は1年。一体どんな接点があるのか、周りは気になって仕方なかった。
「全然大丈夫ですよ。一緒に食べましょう」
「うん、それじゃ中庭で食べようか。ここじゃ何故か目立っちゃってるみたいだし」
「何故かって、まさか分かってないんですか?」
「ん?日向君は分かるの?」
「えぇ、まぁ・・・。」
潔子がポカンとした顔でこっちを見ている。どうやら本当に分かっていないようだ。
これは教えた方が良いものか。とりあえずはここを離れた方が良さそうだな。
「まずが中庭に行きましょうか。少し待っててください」
翔陽は、出しかけていた弁当をしまい潔子と一緒に教室を出た。
中庭に向かうまでの間、周りからの視線は凄かった。男女問わずに注目されている。
特に男からの死線がやばい。本当に殺されそうな勢いだ。
今日の天気は快晴。中庭にあるベンチに座ると、涼しい風が優しき頬を撫でる。
外で昼食を食べるにはもってこいの天気だ。
「それじゃ、食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
二人は弁当の蓋を開けて食べ始める。二人は昨日会ったばかり。勿論会話なんてあるはずも無く、ただただ弁当を食べているだけ。
「(なんで俺の事を誘ったんだろう。何か話した方が良いよな。でも何の話をしたら良いんだ・・・)」
翔陽は焦っていた。女子と弁当を食べるのは翔陽にとっては初めての経験だ。それじゃ無くとも女子と関わる事なんて殆ど無かった。
そんな翔陽が先輩の、ましてやかなりの美人の先輩と一緒に昼食など、何を話して良いのか全く分からない。
「昨日は、ありがとう」
「え?あ、いえ。俺は何もして無いです」
「そんな事ない。どんなに練習してもタイムは伸びなくて、自分には無理なんだって思ってた。才能がないんだって」
話している内容は、今まで潔子が悩んでいた事だった。いくら練習しても成長できずに、周りに置いてかれている。
ここが限界なんだと、自分で知ってしまったからこその絶望だった。しかし潔子の顔はどこか晴れたような顔をしていた。
「でもそれでも良いなだなって思えた。私は楽しくて走っていた。確かに上手くなれないのは少し悲しい。でも、それ以上に楽しめなくなるのはもっと悲しい。それを日向君が教えてくれた。諦めない事はかっこ悪い事じゃないって言ってくれたから。だから」
『ありがとう』
日向に向けたれたその笑顔は、まるで天使のような笑顔だった。
「ん?日向君?どうしたの?」
「あ、いえ。なんでもないです・・・」
あまりにも綺麗な笑顔に見惚れてしまった。ずっと見ていたと思ってしまう程に。
だが自分が潔子を凝視している事に気づき、急いで顔を逸らし、再び弁当を食べる。
「そっか」
「・・・」
そこからの会話は無かった。昨日と同じように、二人が並んで座っているだけの時間。
しかしその時間は、二人にとってどこか心地よいものに感じたのは間違いないだろう。
「翔陽てめええええあの清水先輩と何があったんだあああああ!!!美人な先輩は俺に紹介しろって言ってんだろおおおお!!!!」
「うるさいし知らねえよ!てか揺らすな離せ!!!」
「そこ!翔陽!モブうるさい!!!授業中だぞ!」
「モブってひどくねえ!?」
「あ、潔子おかえり〜。なんか良いことあったの?」
「ただいま。うん、あったと言えばあったかな」
「えぇ〜!なになに!?気になる教えて!」
「う〜ん・・・ダメ」